眠りの森
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16. 再び、スカウト
「貴方の活動を―眠りの森を、援助させていただけませんか。」
真剣な眼差し。ゼルダ姫の瞳の中には、困惑している私の姿が映る。
「魔の手によって家族を失ってしまった子どもたちを救うことは、本来であれば国が対処すべき深刻な問題です。…しかし、厄災ガノン復活の兆しを見せて以来、私たちはそちらにばかり気を取られ、民が現在抱えている重苦のあれこれに気付くことが出来なくなっていました。」
彼女は膝上で悔しそうに拳を強く握りしめた。
一人でとてつもない大きいものを抱えこみ、それでも燃え尽きることのない炎のような信念を感じさせる彼女の表情は、年齢に相反するほど大人びている。
しかし、実際のところ彼女はまだ17にも満たない少女だ。
境遇を想うと、胸が締め付けられた。
「ルナがハイラルの孤児を保護し、新たな家族を探していると聞いたとき、素晴らしく感動しました。しかし、それと同時にとても申し訳のない気持ちになりました。もっと早く我々が気付くべき問題を、貴方はたった一人で…。」
「いいんです、いいんです!自分が好きにしてる仕事ですから。」
私は首も手も横に振り、彼女の言葉を否定した。
「ひっそりと活動したかったんです。
眠りの森のことを公 にしたら、子どもたちが好奇の目で見られたり、根も葉もない噂を立てられたりするんじゃないかと思って。
…今は何故か、私の魔物討伐の成果だけが独り歩きしちゃってますけどね。"魔物専属の狩人"なんて異名まで付けられて。」
ゼルダ姫は、尚も申し訳なさそうに私の話を聞いている。
「ルナの偉業を讃え、国を挙げて眠りの森の運営を援助したい…そう思っていたのですが、迷惑でしょうか。」
「迷惑なんて、とんでもないです。とても嬉しいですけど、やっぱり子どもたちに何かあってはいけませんから。ご遠慮させていただきます。」
ゼルダ姫は眉を八の字にさせ、考え込むように顎に手を添えている。
彼女の提案をすんなりと飲んであげれば済む話なのだろうけど、私にも私の事情がある。
しかし、私はゼルダ姫を悲しませたいわけでも困らせたいわけでもなかった。
御付きの兵士が彼女の傍へ寄り、耳打ちをする。
そろそろ帰る時間なのだろうか。
「…リンク、貴方からそれを伝えてください。」
リンクと呼ばれた兵士は私の方へ向き直り、じっとこちらを見つめた。
相変わらず固く結ばれた口に、読み取れない表情。
一体何を伝えられるのだろうか。私は思わず固唾をのんだ。
「武術の指導をしてくれないか。」
「…指導?」
「週に一度で構わない。忙しいようなら月に一度でも。ハイラル兵に指導をしてほしい。」
淡々と話すリンクの提案の意図が掴めず、私はゼルダ姫に視線で助けを求めた。
「…本当は、支援金をお送りしたかったのです。しかし、貴方が眠りの森を公 にはしたくないとおっしゃいますから…。非常勤講師として雇わせていただければ、給与としてお金を受け取っていただけますよね。」
ゼルダ姫の言葉にリンクは頷き、二人の視線は私に集中する。
悪い話ではない。子どもたちや日々の生活のことを考えると、定期的にお金が手に入ることは非常にありがたいことだった。
「非常勤…なら…出来ないこともない、ですかね。」
ゼルダ姫の顔がパアッと明るくなる。
「本当ですか?嬉しいです。」
リンクとゼルダ姫は顔を見合わせ、嬉しそうにしている。
私の選択が自分自身にとって良い結果となるかどうか、正直不安なところではあったが、彼女が喜んでいる姿を見ると、返事をして良かったと思う。
「さっそく城へ戻り、皆にルナのことをを紹介しましょう。リンク、ルナ用の馬を―」
「あのっ、私、今日はダメです。ここでリーバル様を待っているので…。」
ゼルダ姫の言葉を制止し、私はそう言った。
ゼルダ姫とリンクは気まずそうに顔を見合わせている。
「…ルナ。リーバルは、今日ここへは来ません。伝達がうまくいっていなかったのでしょうか。」
私はショックに軽い眩暈がした。
待ち合わせ場所を指定し、私とゼルダ姫と巡り合わせるために、リーバル様は嘘をついたというのだろうか。
『明日、待ち合わせをしようよ。場所は、そうだな…サーディン公園に来れるかい?』
そうだ、リーバル様は最初から、誰と誰が待ち合わせるだなんて言っていない。
彼は悪くない。
嘘なんかついていない。
私の勘違いだったんだ…。
「会いたかった、です。」
ポツリと漏れ出した私の一言に、彼らは同情の眼差しを向ける。
もし、彼が私に嘘をついていたとして。
私を助けてくれた今までの全ては、リーバル様の好意ではなく、英傑としての任務に過ぎなかったとして。
今日、ただ、彼に会いたかった。
私が悲しんでいたり、助けてほしい時には、颯爽と上空から現れふわりと舞い降りてくれる彼を想う。
しかし空を見上げても、雲一つない青空が果てしなく高く続いているだけだった。
---to be continued---
「貴方の活動を―眠りの森を、援助させていただけませんか。」
真剣な眼差し。ゼルダ姫の瞳の中には、困惑している私の姿が映る。
「魔の手によって家族を失ってしまった子どもたちを救うことは、本来であれば国が対処すべき深刻な問題です。…しかし、厄災ガノン復活の兆しを見せて以来、私たちはそちらにばかり気を取られ、民が現在抱えている重苦のあれこれに気付くことが出来なくなっていました。」
彼女は膝上で悔しそうに拳を強く握りしめた。
一人でとてつもない大きいものを抱えこみ、それでも燃え尽きることのない炎のような信念を感じさせる彼女の表情は、年齢に相反するほど大人びている。
しかし、実際のところ彼女はまだ17にも満たない少女だ。
境遇を想うと、胸が締め付けられた。
「ルナがハイラルの孤児を保護し、新たな家族を探していると聞いたとき、素晴らしく感動しました。しかし、それと同時にとても申し訳のない気持ちになりました。もっと早く我々が気付くべき問題を、貴方はたった一人で…。」
「いいんです、いいんです!自分が好きにしてる仕事ですから。」
私は首も手も横に振り、彼女の言葉を否定した。
「ひっそりと活動したかったんです。
眠りの森のことを
…今は何故か、私の魔物討伐の成果だけが独り歩きしちゃってますけどね。"魔物専属の狩人"なんて異名まで付けられて。」
ゼルダ姫は、尚も申し訳なさそうに私の話を聞いている。
「ルナの偉業を讃え、国を挙げて眠りの森の運営を援助したい…そう思っていたのですが、迷惑でしょうか。」
「迷惑なんて、とんでもないです。とても嬉しいですけど、やっぱり子どもたちに何かあってはいけませんから。ご遠慮させていただきます。」
ゼルダ姫は眉を八の字にさせ、考え込むように顎に手を添えている。
彼女の提案をすんなりと飲んであげれば済む話なのだろうけど、私にも私の事情がある。
しかし、私はゼルダ姫を悲しませたいわけでも困らせたいわけでもなかった。
御付きの兵士が彼女の傍へ寄り、耳打ちをする。
そろそろ帰る時間なのだろうか。
「…リンク、貴方からそれを伝えてください。」
リンクと呼ばれた兵士は私の方へ向き直り、じっとこちらを見つめた。
相変わらず固く結ばれた口に、読み取れない表情。
一体何を伝えられるのだろうか。私は思わず固唾をのんだ。
「武術の指導をしてくれないか。」
「…指導?」
「週に一度で構わない。忙しいようなら月に一度でも。ハイラル兵に指導をしてほしい。」
淡々と話すリンクの提案の意図が掴めず、私はゼルダ姫に視線で助けを求めた。
「…本当は、支援金をお送りしたかったのです。しかし、貴方が眠りの森を
ゼルダ姫の言葉にリンクは頷き、二人の視線は私に集中する。
悪い話ではない。子どもたちや日々の生活のことを考えると、定期的にお金が手に入ることは非常にありがたいことだった。
「非常勤…なら…出来ないこともない、ですかね。」
ゼルダ姫の顔がパアッと明るくなる。
「本当ですか?嬉しいです。」
リンクとゼルダ姫は顔を見合わせ、嬉しそうにしている。
私の選択が自分自身にとって良い結果となるかどうか、正直不安なところではあったが、彼女が喜んでいる姿を見ると、返事をして良かったと思う。
「さっそく城へ戻り、皆にルナのことをを紹介しましょう。リンク、ルナ用の馬を―」
「あのっ、私、今日はダメです。ここでリーバル様を待っているので…。」
ゼルダ姫の言葉を制止し、私はそう言った。
ゼルダ姫とリンクは気まずそうに顔を見合わせている。
「…ルナ。リーバルは、今日ここへは来ません。伝達がうまくいっていなかったのでしょうか。」
私はショックに軽い眩暈がした。
待ち合わせ場所を指定し、私とゼルダ姫と巡り合わせるために、リーバル様は嘘をついたというのだろうか。
『明日、待ち合わせをしようよ。場所は、そうだな…サーディン公園に来れるかい?』
そうだ、リーバル様は最初から、誰と誰が待ち合わせるだなんて言っていない。
彼は悪くない。
嘘なんかついていない。
私の勘違いだったんだ…。
「会いたかった、です。」
ポツリと漏れ出した私の一言に、彼らは同情の眼差しを向ける。
もし、彼が私に嘘をついていたとして。
私を助けてくれた今までの全ては、リーバル様の好意ではなく、英傑としての任務に過ぎなかったとして。
今日、ただ、彼に会いたかった。
私が悲しんでいたり、助けてほしい時には、颯爽と上空から現れふわりと舞い降りてくれる彼を想う。
しかし空を見上げても、雲一つない青空が果てしなく高く続いているだけだった。
---to be continued---