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眠りの森

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あなたのお名前

15. サーディン公園 噴水前で





地響きと共に倒れこむ魔物を背に、剣を鞘に納める。

ヒノックスの肝と爪と牙。今日の収穫だ。



「なんだいその剣。」



頭上からリーバル様の声がする。空を仰ぎ、私は笑顔を向けた。



「普通の剣ですよ。」



「…もっと他の武器を使えば?」



弓なら僕が教えてやってもいいけどね、とリーバル様は続けた。
私が剣を使うことをあまり面白く思っていない様だ。何故だかはわからない。剣が嫌な理由が、あるのだろうか。



「そうだ。これ、君にやるよ。」



彼は私の頭に紙の束をポンと載せる。
受け取ったそれは、住所と名前の書かれたリストだった。



「馬宿の近くに用があったからね。ついでさ。」



リーバル様は馬宿で里親を希望する人達のリストを集めてくれたのだった。
ありがとうございます、と私は深々と頭を下げ礼を言った。


"ついで"なんて言っているが、ウオトリ―村で私の正体を明かしたあの日からリーバル様は私の仕事を積極的に手伝ってくれている。


里親や孤児の情報を各地方から収集したり、手に入った魔物素材を分けてくれたり。

リトの英傑である彼は、決して時間に余裕があるわけではない。
王国から課せられた責務や日々の訓練がある中で、このように私のために時間を割いて協力してくれている。



「今日も持ってきてますよ、特製弁当。食べますよね。」



「もちろん、それくらいの見返りがないとね。」



見返りなんて大層なものではないのに、と私は彼の優しさに胸がキュッとなる。


リーバル様はなんて優しいんだろう。彼の慈悲深さには頭が上がらない。
私には、ささやかなご飯を捧げることと、大きな感謝を伝えることくらいしか出来ない。





私たちは木陰に腰を下ろした。今日はデザートにナッツケーキも用意している。ワクワクした気持ちで鞄から食べ物たちを取り出す。


柔らかな風に吹かれ、髪がなびく。
今日はお天気もいい。なんて平和なんだろう。



ルナ。」



不意に名前を呼ばれ、私は嬉しくなる。
彼が特別何か意識しているはずもないが、リーバル様が呼んでくれる自分の名前は甘美に聞こえる。まるで全く違った美しい単語の様に。きっとリーバル様の声が綺麗だからだろう。
大きな声ではい、と返事をした。



「明日、待ち合わせをしようよ。場所は、そうだな…サーディン公園に来れるかい?」



私は嬉しさが全身から滲み出て、自分の周りに花でも咲き誇るのではないかと思うほど喜んだ。
手を高く上げ、リーバル様の素敵な提案に賛同した。



「はいっ!楽しみです!絶対行きます!」



私たちが会う時は、基本的に待ち合わせなどしない。

私が凡そのスケジュールをリーバル様に伝えているのだ。
例えば、「明後日セレス平原のヒノックスを討伐しに行くんです。」と伝えると、今日の様にどこからともなくふわっと上空から現れ会いに来てくれる。


だから、わざわざどこかで会う約束をするというのは私たちにとってはイレギュラーなことであった。
何か特別なことが裏付けられているような気がする。

待ち合わせ。リーバル様にまた会えるという約束。
ウオトリ―村で待ち合わせした時のことを思い出す。あの時は私から提案したが、今度はリーバル様の方から誘ってくれるなんて。



「尻尾を振るハイラル犬みたいな喜び方だな。」



リーバル様は、そう言って苦笑した。

どこか寂し気に見えたのは気のせいだろうか。





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サーディン公園へやってきたときには、誰もいなかった。

待ち合わせが嬉しくて予告されていた時間よりも早く着いてしまったのだった。
前髪を触りながら、私はリーバル様の顔を想いだす。


出会った当初から、リーバル様の思いやりに救われてばかりだ。
それは私が長い間失っていた、誰かとの触れ合いや家族から与えられる愛情と似たものだった。


彼と身体や心が触れ合う度、春の雪解けの様に自分の心が温められてゆくのを感じた。


この気持ちは、もしかしたらー…



ルナ。」



私の名を呼ぶその声は、聞き馴染みのない初めて聞く声だった。

ハッと振り向いたその先に居たのは



「初めまして。お会い出来て、嬉しいです。」



凛とした佇まいの、美しい少女。
会ったことはないけれど、私は彼女を知っている。



「ゼルダ姫…。」



女神のような笑みを投げかけ、彼女は私へと近寄る。
少し後ろでは、御付きの兵士が白馬の傍で私達の様子を伺っている。


「ごめんなさい、いきなり呼び出してしまって。貴方のお話はリーバルから伺っています。ぜひ、会ってほしいと。」



リーバル様が?


理解が追い付かず、私は返事が出来ないままでいた。
私は今、リーバル様と待ち合わせをしていて…。



「良ければ、こちらへ。」



ゼルダ姫は噴水の段差へ腰かけ、私に呼びかけた。
会釈をし、彼女の隣へちょこんと座る。

ハイラル王国の姫巫女とこんな距離で隣り合うことになるなんて、思いも寄らなかった。



「可愛らしい方だったので、とても驚きました。一人で強靭な魔物を討伐されているとお伺いしてましたから。」



可愛らしいと言われ、自分の頬がほんのりと熱くなるのを感じる。
恐れ多いやら、照れくさいやらで、私はもごもごと「そんなことないです」と言った。

そんな私の様子を見て、ゼルダ姫はくすりと微笑んだ。



「リーバルは、貴方の話をする時にこう言ってたんです。『ルナは凄いヤツだから、会って落ち込むことになるかもしれないよ。』って。」



彼女は目を伏せ、視線を逸らした。
寂し気なその目元の追う先に居たのは、御付きの兵士だった。
真一文字に結ばれた口。真剣な目元と佇まいだけで、確かな実力を感じられる。



「リーバルの言う通り、貴方の才や人柄に触れたら、私は自分の至らなさに落ち込んでしまうかもしれません。…それでもお会いしたかったんです。」



私の才?人柄?
リーバル様はゼルダ姫に何を吹聴したのだろうか。

訳も分からず困惑していると、ゼルダ姫はそっと私の膝上に手をかけた。



ルナ、貴方の活動を―眠りの森を、援助させていただけませんか。」



「…援助?」



リーバル様は今、どこにいるんだろう。

彼に聞きたいことが沢山あるのに、待ち合わせ時刻はとっくに過ぎていた。





---to be continued---
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