眠りの森
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14. 差し出された手を取りなよ
ウオトリ―村で待ち合わせと聞いていたのに、ルナは村から離れたリンバービーチで僕を待っていた。
上空から捉える彼女の姿はとても小さい。
霧のような細かい雨が降る中、ルナはじっと遠くを眺め立っている。
海を見ているようにも、その先の地平線を見ているようにも見える。いつにもなく真剣な横顔。
「何でウオトリ―村で待ってないんだ、探しただろ。」
空から舞い降りた僕を見返ると、ルナの表情はパッと明るい笑顔に切り替わった。
「ごめんなさい。リーバル様なら見つけてくれるだろうと思って。」
「それを当てにされて勝手な行動を取られるなんて、たまったもんじゃないよ。」
そう言いはしたものの、悪い気はしなかった。
僕を当てにしているということは、少なからず彼女が僕を信頼していることの表れだろう。
「よりによって雨。普段は美しいビーチも愚図に見える。…全く冴えないねえ。」
雨に濡れた前髪から滴る雫が、彼女の顎先を伝って流れ落ちていく。
今日は空も海も灰色だ。
「お弁当、どこで食べましょうか。」
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
「あら、ルナさん!こないだ来てくれたばっかりなのに、またすぐ会えて嬉しいさね。」
昼食を終えた後、僕らはウオトリ―村にある一軒の家を訪れた。
南風に追われ、雨雲はすっかり姿を消していた。雨に洗われた後の村は清々しいほど爽やかだ。
女性は子どもを呼んでくると言い、家を出て行った。
ルナはこの家に一体何の用があるのか、誰かの母親と思しきこの女性と何の関係があるのか…皆目見当もつかない。
僕は黙って彼女の後ろで、所在無く立っている。
「ルナ!来てくれたの!」
小麦色に焼けた肌の少女がルナに走りより、勢いよく抱きついた。
よろけながらも、ルナは困ったように笑う。照れているのだろう。
「あれ?今日は一人じゃないんだ。」
少女はルナの足にしっかりと腕を回し、抱き着いたまま僕を見上げる。
「うん。今日は大切な人と一緒に来たよ。私の、命の恩人。」
少女は物色するように僕のつま先から頭までを眺めると、つまらなさそうにふぅん、と言った。
やけにルナに懐いている様だが、一体この子どもは誰なんだ。
「良いものあげる。」
ルナは鞄から何やら取り出すと、少女の髪にそっと触れた。
「可愛いでしょ。似合うと思って。」
それはリト族の羽飾りだった。
寒い地域で防寒用に使われるもので、ウオトリ―村などという暖かい地域に全く馴染みのないアクセサリーだったが、不思議と少女によく似合っていた。
「おやまあ、可愛いもの貰って。いつもありがとうね、ルナさん。」
後ろから彼女の母親が話しかけてくる。
「以前リトの村に行ったときに買ったんです。あ、そうだ。これ、お母さんに…。」
ルナはジャラジャラと音を立てて、カバンから小包を取り出す。彼女の鞄には何でも入っている。
「ルナさん、そんな毎回悪いさね!気を使わなくていいわいさ。この子だって、ルナさんが来てくれるだけで嬉しいんだから…。」
いいんですいいんです、と言ってルナは無理やりその小包を母親に押し付ける。
その時やっと、あの小包の中に入っているのがルピーだと分かった。
「私、この子たちのために稼いでますから。もちろん、今とっても幸せそうだから安心してますけど。」
それじゃあ、と言って親子に手を振りルナは去ろうとする。
僕はよくわからないまま、ルナの後姿を追った。
ウオトリ―村のゲートを抜け、僕たちは二人並んで歩く。
村での出来事は何だったんだ、と僕が問いただそうとした途端、ルナはぽつりと話し出した。
「あの子、里子なんです。」
先ほど出会った少女のことを想い浮かべる。ルナからもらったリトの羽飾りをつけた、日に焼けた少女のことを。
母親と思っていた女性は里親であり、少女と血縁関係には無かったということだ。
ここで僕に一つの疑問が浮かぶ。
少女を里子に出したのは誰なのか、ということだ。
ルナは少女に会いにわざわざウオトリ―村までやってきた。ルピーの入った小包を母親に渡して。
と、いうことは…
「あの子、ルナが産んだのか?!」
「ち、違います!一時的に預かっていただけです!」
ルナは、腕を大きく横に振り慌てたように否定する。
違うと分かって少し安堵した自分がいることを、不思議に思った。
気を取り直し、ルナは話を続ける。
「あの子の家は、魔物に襲撃され全焼してしまったんです。かろうじて彼女は助かりましたが、家族も住まいも全て失いました。
行く当てを失った彼女が最終的に辿り着いたのが、サトリ山にある私の家—『眠りの森』だったんです。
『眠りの森』は、行き場を失った子どもを保護する施設です。私が一人で切り盛りしているので、自宅兼施設みたいなものですけどね。
各地方で里親になってくれる人を探したり、成長した子どもに定期的に会いに行ったり、その後の人生が少しでも豊かになるように金銭的援助をしたり…
『眠りの森』を運営していくには、何かとルピーが必要なんです。
それで、魔物専属の狩人を始めることにしました。
仇討ち…って言うと物騒ですけど、魔物を討伐して金銭を稼ぐことは凄く理にかなっていると思ったんです。
以前お話ししましたが、私自身も両親を早くに亡くしています。
自分と同じような悲しい境遇に立つ子どもを助けたいと思ってるんです。そしていつかは、そんな悲しい思いをする子どもがいなくなるように。」
これが、ルナの全て。
ルナは話し終えた後、とても悲しそうな目をしていた。
立ち止まり、自身の拳を胸の前で握っている。
壮絶な彼女の人生 に、僕は打ちのめされそうになる。
ただ、本当に打ちのめされそうになっているのはー
紛れもなく、今まで一人で戦ってきたのルナ自身だ。
「…確かに。君の経歴は僕の予想を遥かに超えるほど複雑で奇怪だった。」
僕は彼女の数歩先を歩き語り掛ける。
だけどね、とルナの方を向き直る。
「教えて貰った以上、君はもう一人じゃない。リトの英傑であるこの僕が手を貸してやらないでもない。どうだい?心強いだろう。
…だから、そんな不安そうな顔をするなよ。景気悪いじゃないか。」
ルナは信じられないものでも見るかのように、驚いて僕を見上げていた。
やれやれ、だ。
この子は一体いつになったら僕を本当の意味で信頼してくれるんだろう。
胸の前で固く握られた彼女の拳を取り、そっと解かせ優しく包んだ。
---to be continued---
ウオトリ―村で待ち合わせと聞いていたのに、ルナは村から離れたリンバービーチで僕を待っていた。
上空から捉える彼女の姿はとても小さい。
霧のような細かい雨が降る中、ルナはじっと遠くを眺め立っている。
海を見ているようにも、その先の地平線を見ているようにも見える。いつにもなく真剣な横顔。
「何でウオトリ―村で待ってないんだ、探しただろ。」
空から舞い降りた僕を見返ると、ルナの表情はパッと明るい笑顔に切り替わった。
「ごめんなさい。リーバル様なら見つけてくれるだろうと思って。」
「それを当てにされて勝手な行動を取られるなんて、たまったもんじゃないよ。」
そう言いはしたものの、悪い気はしなかった。
僕を当てにしているということは、少なからず彼女が僕を信頼していることの表れだろう。
「よりによって雨。普段は美しいビーチも愚図に見える。…全く冴えないねえ。」
雨に濡れた前髪から滴る雫が、彼女の顎先を伝って流れ落ちていく。
今日は空も海も灰色だ。
「お弁当、どこで食べましょうか。」
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
「あら、ルナさん!こないだ来てくれたばっかりなのに、またすぐ会えて嬉しいさね。」
昼食を終えた後、僕らはウオトリ―村にある一軒の家を訪れた。
南風に追われ、雨雲はすっかり姿を消していた。雨に洗われた後の村は清々しいほど爽やかだ。
女性は子どもを呼んでくると言い、家を出て行った。
ルナはこの家に一体何の用があるのか、誰かの母親と思しきこの女性と何の関係があるのか…皆目見当もつかない。
僕は黙って彼女の後ろで、所在無く立っている。
「ルナ!来てくれたの!」
小麦色に焼けた肌の少女がルナに走りより、勢いよく抱きついた。
よろけながらも、ルナは困ったように笑う。照れているのだろう。
「あれ?今日は一人じゃないんだ。」
少女はルナの足にしっかりと腕を回し、抱き着いたまま僕を見上げる。
「うん。今日は大切な人と一緒に来たよ。私の、命の恩人。」
少女は物色するように僕のつま先から頭までを眺めると、つまらなさそうにふぅん、と言った。
やけにルナに懐いている様だが、一体この子どもは誰なんだ。
「良いものあげる。」
ルナは鞄から何やら取り出すと、少女の髪にそっと触れた。
「可愛いでしょ。似合うと思って。」
それはリト族の羽飾りだった。
寒い地域で防寒用に使われるもので、ウオトリ―村などという暖かい地域に全く馴染みのないアクセサリーだったが、不思議と少女によく似合っていた。
「おやまあ、可愛いもの貰って。いつもありがとうね、ルナさん。」
後ろから彼女の母親が話しかけてくる。
「以前リトの村に行ったときに買ったんです。あ、そうだ。これ、お母さんに…。」
ルナはジャラジャラと音を立てて、カバンから小包を取り出す。彼女の鞄には何でも入っている。
「ルナさん、そんな毎回悪いさね!気を使わなくていいわいさ。この子だって、ルナさんが来てくれるだけで嬉しいんだから…。」
いいんですいいんです、と言ってルナは無理やりその小包を母親に押し付ける。
その時やっと、あの小包の中に入っているのがルピーだと分かった。
「私、この子たちのために稼いでますから。もちろん、今とっても幸せそうだから安心してますけど。」
それじゃあ、と言って親子に手を振りルナは去ろうとする。
僕はよくわからないまま、ルナの後姿を追った。
ウオトリ―村のゲートを抜け、僕たちは二人並んで歩く。
村での出来事は何だったんだ、と僕が問いただそうとした途端、ルナはぽつりと話し出した。
「あの子、里子なんです。」
先ほど出会った少女のことを想い浮かべる。ルナからもらったリトの羽飾りをつけた、日に焼けた少女のことを。
母親と思っていた女性は里親であり、少女と血縁関係には無かったということだ。
ここで僕に一つの疑問が浮かぶ。
少女を里子に出したのは誰なのか、ということだ。
ルナは少女に会いにわざわざウオトリ―村までやってきた。ルピーの入った小包を母親に渡して。
と、いうことは…
「あの子、ルナが産んだのか?!」
「ち、違います!一時的に預かっていただけです!」
ルナは、腕を大きく横に振り慌てたように否定する。
違うと分かって少し安堵した自分がいることを、不思議に思った。
気を取り直し、ルナは話を続ける。
「あの子の家は、魔物に襲撃され全焼してしまったんです。かろうじて彼女は助かりましたが、家族も住まいも全て失いました。
行く当てを失った彼女が最終的に辿り着いたのが、サトリ山にある私の家—『眠りの森』だったんです。
『眠りの森』は、行き場を失った子どもを保護する施設です。私が一人で切り盛りしているので、自宅兼施設みたいなものですけどね。
各地方で里親になってくれる人を探したり、成長した子どもに定期的に会いに行ったり、その後の人生が少しでも豊かになるように金銭的援助をしたり…
『眠りの森』を運営していくには、何かとルピーが必要なんです。
それで、魔物専属の狩人を始めることにしました。
仇討ち…って言うと物騒ですけど、魔物を討伐して金銭を稼ぐことは凄く理にかなっていると思ったんです。
以前お話ししましたが、私自身も両親を早くに亡くしています。
自分と同じような悲しい境遇に立つ子どもを助けたいと思ってるんです。そしていつかは、そんな悲しい思いをする子どもがいなくなるように。」
これが、ルナの全て。
ルナは話し終えた後、とても悲しそうな目をしていた。
立ち止まり、自身の拳を胸の前で握っている。
壮絶な彼女の
ただ、本当に打ちのめされそうになっているのはー
紛れもなく、今まで一人で戦ってきたのルナ自身だ。
「…確かに。君の経歴は僕の予想を遥かに超えるほど複雑で奇怪だった。」
僕は彼女の数歩先を歩き語り掛ける。
だけどね、とルナの方を向き直る。
「教えて貰った以上、君はもう一人じゃない。リトの英傑であるこの僕が手を貸してやらないでもない。どうだい?心強いだろう。
…だから、そんな不安そうな顔をするなよ。景気悪いじゃないか。」
ルナは信じられないものでも見るかのように、驚いて僕を見上げていた。
やれやれ、だ。
この子は一体いつになったら僕を本当の意味で信頼してくれるんだろう。
胸の前で固く握られた彼女の拳を取り、そっと解かせ優しく包んだ。
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