眠りの森
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13. 漂流者たち
しとしとと細かい雨が降る午前11時。
リンバービーチの砂浜も、雨を吸い込んで歩くたびにもったりとした足跡を残す。
「よりによって雨。普段は美しいビーチも愚図に見える。…全く冴えないねえ。」
彼の言う通り、晴れていればここはとても美しいビーチなのだ。
透き通る海。日差しが反射して水面も砂浜もキラキラと輝く。
その景色を期待してここへ来たが、今日は悪天候だ。
「お弁当、どこで食べましょうか。」
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
イーガ団に襲撃されていた私を、リーバル様が助けてくれたあの日。
『綺麗事を言うのも大概にしなよ。自分の命を何だと思ってるんだ?』
『覚悟がない奴は武器を持つ資格もない。命を狙われるような仕事なんて、今すぐ辞めたらどうだい。』
彼の言うことは全て正しかった。叱り咎められても、仕方のないことだった。
しかし不謹慎なことに、私はそれを嬉しいと思ってしまった。
本気で彼が私を心配してくれていることが伝わってきて、嬉しかった。
彼は至極真面目に怒ってくれているのに、こんなことを考えてしまうのは最低かもしれないけど。
『君のことを今度こそ包み隠さず教えて貰う。全部ね。』
リーバル様にだったら、私の全てを話してしまってもいい。
そう思ってはみたものの、私の経歴はかなり複雑で特殊だった。
言葉で説明することは至難の業。
私は彼を家に招き入れ、ホットミルクを差し出し、こう提案した。
「3日後に、ウオトリ―村で待ち合わせしましょう。そこで、全部わかると思います。」
「はぁ?今ここで話をしてくれたら良いだろ。まさか、逃げるつもりじゃないだろうね。」
「命の恩人を裏切るようなこと、するわけないじゃないですか。全部説明するのは、とても難しいんです。」
しかし我ながら名案だと思った。
”待ち合わせ”という言葉を自分で使っておきながら、私はわくわくした気持ちを抑えきれなかった。
この後彼と解散しても、三日後にはまた会える。待ち合わせ。また会う約束。なんて素敵なんだろう。
「君と違って僕忙しいんだけど。」
リーバル様は片手で頬杖をつきながら、三日後ねぇと呟いた。
「ま、いいや。君が事情だらけで難解なのは今に始まったことじゃない。何を見せられるのか知らないけど、ともかく3日後に全てわかるってことだ。今度は襲われずに来なよ。」
嬉しくて、はいっ、と大きな声で元気良く返事をすると、彼はその声量に驚いて
「威勢だけはいいよね、ほんと。」
呆れたように静かに笑ってくれた。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
鬱陶しい雨に耐えながら、私たちはリンバービーチを離れ岩陰まで移動した。
「こんな時のために、野宿用の簡易テントを持ってきておいてよかったです。」
地面に敷物を広げ、長細い木の枝と傍に落ちていた石を重しに使って布を張る。
いかにも古風な冒険者、といった風貌のボロい簡易テントだが、雨風を凌ぐには十分だ。
「二人で座るには狭すぎるだろ。雨と君のせいで散々だ。」
そういいつつも、リーバル様は身を屈めテントの中に入り込み、私の隣に腰掛けた。
雨のせいで、彼の羽毛が濡れて濃くなっている。
しっとりとした湿気を纏った私たちは、狭すぎるテントで左右半分ずつお互いの身体をぴったりとくっつけ合い座った。
そうせざるを得ないほどの面積しかないお粗末なテントだった。
「なんだか私達、漂流者みたいですね。海の傍で、雨に打たれながらテントの中にぎゅうぎゅうになって。」
「こんなちょっとした雨程度で漂流者?大袈裟だよ、馬鹿みたいじゃないか。」
この状況がおかしくて面白くて、私は吹き出してしまう。
ふっ、ふふふ…と肩を揺らしながら笑う私を横目に、リーバル様はため息をつく。
「言っとくけど、漂流者ごっこをしに来たんじゃないからな。ルナのことを全部教えて貰う約束だったろう。」
「もちろんです。はいどうぞ、特製弁当。」
そう言って海鮮おにぎりを手渡す。
リーバル様は疑うような目つきで私を見つめると、再びため息をついてそれを受け取った。
「君は吞気でいいねえ。初めて会った時から思ってたけどさ。」
「そうですか、いいですか、私。」
褒められていると思い、えへへと笑いながら返事をする。自分用の肉おにぎりを手に取り大きくかぶりつく。美味しい。
またも冷たい視線を感じるが、何せ距離が近すぎるので顔を向けるのは少し恥ずかしい。私は目線をまっすぐにしたままで食事を続ける。
お互い何か話し出すでもなく、黙々と食事を摂る。
雨に濡れ冷えた身体は、リーバル様に触れている右半身だけやけに熱持つ。
私たちは出会って間もないのに、こうして身体的な距離が近付くことが多いなと気付く。
彼の背中に乗せてもらったり、くっついてお昼ご飯を食べたり。
心の距離は、どうだろうと考える。
私は彼にすっかり気を許している。
彼と一緒にいればいるほど、もう一人ではいたくないと思ってしまう。
リーバル様はどう思っているんだろう。
「これからウオトリ―村に行くんだろ?」
「はい。あっ、もうお弁当食べ終えましたか?ちょっと待ってくださいね、私まだ…。」
リーバル様は私の左肩に片翼を回し、自分の方へと引き寄せた。
抱き寄せられた、と言ってもいいほど近付く距離。彼の胸元が頬に触れそうだ。
突然のことに驚いてリーバル様を見上げると、彼は何でもない風な顔で相変わらず前を向いている。
「随分身体が冷えてる。動き出すのは雨が止んでからにしよう。」
「…は、は…っくしゅ。」
はい、と返事をするタイミングとくしゃみが混ざる。
「ここら辺がいくら暖かい地域だからって、薄着過ぎるんだよ。」
しょうがないな、と言わんばかりに彼は自分の体温を私に移そうとしてくれる。
これは、彼の気遣いの一種だ。
いつもなら嬉しくて安心するはずなのに、どうしてこんなに心臓が騒がしく脈打つのだろう。
雨の匂いとリーバル様の匂い。
本当に私の身体は冷えているんだろうか。自分では、全身がマグマの様に熱くなっているのを感じる。
やがて雨は弱まり、雲の切れ目から明るい日差しが差し込んできた。
---to be continued---
しとしとと細かい雨が降る午前11時。
リンバービーチの砂浜も、雨を吸い込んで歩くたびにもったりとした足跡を残す。
「よりによって雨。普段は美しいビーチも愚図に見える。…全く冴えないねえ。」
彼の言う通り、晴れていればここはとても美しいビーチなのだ。
透き通る海。日差しが反射して水面も砂浜もキラキラと輝く。
その景色を期待してここへ来たが、今日は悪天候だ。
「お弁当、どこで食べましょうか。」
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
イーガ団に襲撃されていた私を、リーバル様が助けてくれたあの日。
『綺麗事を言うのも大概にしなよ。自分の命を何だと思ってるんだ?』
『覚悟がない奴は武器を持つ資格もない。命を狙われるような仕事なんて、今すぐ辞めたらどうだい。』
彼の言うことは全て正しかった。叱り咎められても、仕方のないことだった。
しかし不謹慎なことに、私はそれを嬉しいと思ってしまった。
本気で彼が私を心配してくれていることが伝わってきて、嬉しかった。
彼は至極真面目に怒ってくれているのに、こんなことを考えてしまうのは最低かもしれないけど。
『君のことを今度こそ包み隠さず教えて貰う。全部ね。』
リーバル様にだったら、私の全てを話してしまってもいい。
そう思ってはみたものの、私の経歴はかなり複雑で特殊だった。
言葉で説明することは至難の業。
私は彼を家に招き入れ、ホットミルクを差し出し、こう提案した。
「3日後に、ウオトリ―村で待ち合わせしましょう。そこで、全部わかると思います。」
「はぁ?今ここで話をしてくれたら良いだろ。まさか、逃げるつもりじゃないだろうね。」
「命の恩人を裏切るようなこと、するわけないじゃないですか。全部説明するのは、とても難しいんです。」
しかし我ながら名案だと思った。
”待ち合わせ”という言葉を自分で使っておきながら、私はわくわくした気持ちを抑えきれなかった。
この後彼と解散しても、三日後にはまた会える。待ち合わせ。また会う約束。なんて素敵なんだろう。
「君と違って僕忙しいんだけど。」
リーバル様は片手で頬杖をつきながら、三日後ねぇと呟いた。
「ま、いいや。君が事情だらけで難解なのは今に始まったことじゃない。何を見せられるのか知らないけど、ともかく3日後に全てわかるってことだ。今度は襲われずに来なよ。」
嬉しくて、はいっ、と大きな声で元気良く返事をすると、彼はその声量に驚いて
「威勢だけはいいよね、ほんと。」
呆れたように静かに笑ってくれた。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
鬱陶しい雨に耐えながら、私たちはリンバービーチを離れ岩陰まで移動した。
「こんな時のために、野宿用の簡易テントを持ってきておいてよかったです。」
地面に敷物を広げ、長細い木の枝と傍に落ちていた石を重しに使って布を張る。
いかにも古風な冒険者、といった風貌のボロい簡易テントだが、雨風を凌ぐには十分だ。
「二人で座るには狭すぎるだろ。雨と君のせいで散々だ。」
そういいつつも、リーバル様は身を屈めテントの中に入り込み、私の隣に腰掛けた。
雨のせいで、彼の羽毛が濡れて濃くなっている。
しっとりとした湿気を纏った私たちは、狭すぎるテントで左右半分ずつお互いの身体をぴったりとくっつけ合い座った。
そうせざるを得ないほどの面積しかないお粗末なテントだった。
「なんだか私達、漂流者みたいですね。海の傍で、雨に打たれながらテントの中にぎゅうぎゅうになって。」
「こんなちょっとした雨程度で漂流者?大袈裟だよ、馬鹿みたいじゃないか。」
この状況がおかしくて面白くて、私は吹き出してしまう。
ふっ、ふふふ…と肩を揺らしながら笑う私を横目に、リーバル様はため息をつく。
「言っとくけど、漂流者ごっこをしに来たんじゃないからな。ルナのことを全部教えて貰う約束だったろう。」
「もちろんです。はいどうぞ、特製弁当。」
そう言って海鮮おにぎりを手渡す。
リーバル様は疑うような目つきで私を見つめると、再びため息をついてそれを受け取った。
「君は吞気でいいねえ。初めて会った時から思ってたけどさ。」
「そうですか、いいですか、私。」
褒められていると思い、えへへと笑いながら返事をする。自分用の肉おにぎりを手に取り大きくかぶりつく。美味しい。
またも冷たい視線を感じるが、何せ距離が近すぎるので顔を向けるのは少し恥ずかしい。私は目線をまっすぐにしたままで食事を続ける。
お互い何か話し出すでもなく、黙々と食事を摂る。
雨に濡れ冷えた身体は、リーバル様に触れている右半身だけやけに熱持つ。
私たちは出会って間もないのに、こうして身体的な距離が近付くことが多いなと気付く。
彼の背中に乗せてもらったり、くっついてお昼ご飯を食べたり。
心の距離は、どうだろうと考える。
私は彼にすっかり気を許している。
彼と一緒にいればいるほど、もう一人ではいたくないと思ってしまう。
リーバル様はどう思っているんだろう。
「これからウオトリ―村に行くんだろ?」
「はい。あっ、もうお弁当食べ終えましたか?ちょっと待ってくださいね、私まだ…。」
リーバル様は私の左肩に片翼を回し、自分の方へと引き寄せた。
抱き寄せられた、と言ってもいいほど近付く距離。彼の胸元が頬に触れそうだ。
突然のことに驚いてリーバル様を見上げると、彼は何でもない風な顔で相変わらず前を向いている。
「随分身体が冷えてる。動き出すのは雨が止んでからにしよう。」
「…は、は…っくしゅ。」
はい、と返事をするタイミングとくしゃみが混ざる。
「ここら辺がいくら暖かい地域だからって、薄着過ぎるんだよ。」
しょうがないな、と言わんばかりに彼は自分の体温を私に移そうとしてくれる。
これは、彼の気遣いの一種だ。
いつもなら嬉しくて安心するはずなのに、どうしてこんなに心臓が騒がしく脈打つのだろう。
雨の匂いとリーバル様の匂い。
本当に私の身体は冷えているんだろうか。自分では、全身がマグマの様に熱くなっているのを感じる。
やがて雨は弱まり、雲の切れ目から明るい日差しが差し込んできた。
---to be continued---