眠りの森
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12. 覚悟
「起きろ。君の家に着いたぞ。」
サトリ山にあるルナの家へ到着し、僕の背で眠っていた彼女を起こした。
よくあんな地上からはるか離れた場所で安心しきって眠れるものだと、半ば呆れながらも感心してしまう。
「ん…眠ってしまいました、すみません。」
「ちゃんと立てるだろうね?」
大丈夫です、とルナは言い、ゆっくりと地に足をつけ降り立った。
見たところ、怪我は大したことなさそうだ。僕の背の上で少し眠ったことで、自分の足で立てるまで体力を回復できたなら、ひとまず安心だろう。
「また、助けられちゃいました。二度目ですね。」
「二度目?君を助けたのはこれが初めてだろ?」
ルナは首を横に振った。
「いいえ。以前リーバル様は『誰かに襲われでもしたら危ない』と言って、私を家まで送り届けてくださいました。あの時、あなたの言うことを聞いていなければ私は今日と同じ目に合っていたと思うんです。
今まで、『戦闘慣れしている私なら万一のことがあっても大丈夫だろう』と思っていました。…でも、違いました。」
初めて出会った日の夜のことだ。野宿をすると言ったルナを、僕は止め説得し、家まで送り届けた。
ルナがいくら強いからと言って、女性が一人野宿をするなんて危険だ。一人の男として、見過ごすわけにいかなかった。
しかし、彼女は自身の強さに慢心していた。
ルナは話し続ける。
「イーガ団に襲われた時、震えて武器を取ることが出来なかったんです。
一歩でも間違えて、殺めてしまったらと思うと、怖くて。
変な話ですよね。残虐な仕事をしているくせに、相手が人になった途端足がすくんでしまうなんて。」
「…相手は君を殺しにかかってきているんだ。反撃したって罪に問われるようなことはない。」
「恨みもない人を斬りつけることは出来ません。」
僕は次の言葉を紡ごうとしたが、何も言えなかった。
怒りと悲しみの入り混じったような、今まで感じたことのない感情が胸の中を渦巻く。
とてもイライラして、とても寂しかった。
「綺麗事を言うのも大概にしなよ。自分の命を何だと思ってるんだ?今回は僕がいたからいいものの、もしこれで死んでいたら君は救いようのない馬鹿だ。
恨みもない人を斬りつけることは出来ない?ハッ、聞いて呆れるね。覚悟がない奴は武器を持つ資格もない。命を狙われるような仕事なんて、今すぐ辞めたらどうだい。」
感情任せに思ったことをそのまま口に出してしまう。
武器を持つということ、戦うということは、それなりの覚悟がいる。
リトの戦士として、戦場に立つ者として、甘えたようなことを言っているルナが許せなかった。
「…返す言葉も、ありません。」
ルナは、しっかりと僕の目を見て言った。
「綺麗事です、全部。恨みもない、なんて。
…本当は、人を殺してしまったら、私はもう人間に戻れなくなると思ってるんです。私の家族を殺した魔物と同じになってしまうのが、怖いんです。
恨みがあるから魔物を殺しているんです。仇があるから、討つんです。」
日が傾き、山の中はすっかり暗くなった。
草木の揺れる音が、やけに響いて聞こえた。
僕とルナは互いを見つめ合ってしばらく立ちすくんでいたが、
相手の目をいくら見つめたところで、その心の奥底までは覗き込むことが出来なかった。
「…ま、僕の知ったことじゃない。知り合いが野垂れ死んだなんて知らせ、気分が悪いから聞ききたくもないからね。せいぜい気を付けてくれよ。」
僕は背を向けそのまま飛び去ろうとしたが、即座に動くことが出来なかった。
足に錘 を付けられたような気分だった。
ルナはこのまま一人で眠り、起き、明日を迎える。
魔物の巣窟に挑み、素材を集め、換金する。
…何のために?彼女は家族の仇討だと言う。
そんなの僕の知ったことじゃない、そう言い放ったものの、心のどこかで胸が痛んだ。
まるで、彼女を一人にしてしまうことは僕に責任があるかのような。
「私、誰かに怒られたのって久しぶりです。」
ルナは言った。
「誰かに心配されるのも、誰かに本気で怒られるのも。まるで両親が生きていた頃みたいです。
この間もそう。誰かと食卓を共にするのも、とても久しぶりでした。
私のことを気遣ってくださる方は、今この世でリーバル様しかいないんです。…だから、ずっと会いたかった。」
濁りのない眼で、ルナは僕の目をしっかりと捉える。
彼女の言葉で、僕もこの空白の期間のことを思い返す。気付けばルナのことばかり考えてしまっていた、あの時間と日々を。
僕は彼女のことを心配していたんだろう、ずっと。
一人で戦う彼女に、安心してほしかったのかもしれない。
「…何か飲み物を一杯貰おう。」
「え?」
「今回の返礼さ。君のことを今度こそ包み隠さず教えて貰う。全部ね。」
ルナはキョトンとした顔でいたが、すぐに笑顔を広げ、家のドアを開けた。
「…世界で僕一人くらい、ルナを信じてやってもいいだろう。」
「今、何か言いましたか?」
「いいや、別に。」
ホットミルクでいいですか?とルナはキッチンへ向かいながら聞いてくる。
何でもいい、と返答した。
彼女の全てを知れば、彼女に対する気持ちも全て明らかになるだろうか。
---to be continued---
「起きろ。君の家に着いたぞ。」
サトリ山にあるルナの家へ到着し、僕の背で眠っていた彼女を起こした。
よくあんな地上からはるか離れた場所で安心しきって眠れるものだと、半ば呆れながらも感心してしまう。
「ん…眠ってしまいました、すみません。」
「ちゃんと立てるだろうね?」
大丈夫です、とルナは言い、ゆっくりと地に足をつけ降り立った。
見たところ、怪我は大したことなさそうだ。僕の背の上で少し眠ったことで、自分の足で立てるまで体力を回復できたなら、ひとまず安心だろう。
「また、助けられちゃいました。二度目ですね。」
「二度目?君を助けたのはこれが初めてだろ?」
ルナは首を横に振った。
「いいえ。以前リーバル様は『誰かに襲われでもしたら危ない』と言って、私を家まで送り届けてくださいました。あの時、あなたの言うことを聞いていなければ私は今日と同じ目に合っていたと思うんです。
今まで、『戦闘慣れしている私なら万一のことがあっても大丈夫だろう』と思っていました。…でも、違いました。」
初めて出会った日の夜のことだ。野宿をすると言ったルナを、僕は止め説得し、家まで送り届けた。
ルナがいくら強いからと言って、女性が一人野宿をするなんて危険だ。一人の男として、見過ごすわけにいかなかった。
しかし、彼女は自身の強さに慢心していた。
ルナは話し続ける。
「イーガ団に襲われた時、震えて武器を取ることが出来なかったんです。
一歩でも間違えて、殺めてしまったらと思うと、怖くて。
変な話ですよね。残虐な仕事をしているくせに、相手が人になった途端足がすくんでしまうなんて。」
「…相手は君を殺しにかかってきているんだ。反撃したって罪に問われるようなことはない。」
「恨みもない人を斬りつけることは出来ません。」
僕は次の言葉を紡ごうとしたが、何も言えなかった。
怒りと悲しみの入り混じったような、今まで感じたことのない感情が胸の中を渦巻く。
とてもイライラして、とても寂しかった。
「綺麗事を言うのも大概にしなよ。自分の命を何だと思ってるんだ?今回は僕がいたからいいものの、もしこれで死んでいたら君は救いようのない馬鹿だ。
恨みもない人を斬りつけることは出来ない?ハッ、聞いて呆れるね。覚悟がない奴は武器を持つ資格もない。命を狙われるような仕事なんて、今すぐ辞めたらどうだい。」
感情任せに思ったことをそのまま口に出してしまう。
武器を持つということ、戦うということは、それなりの覚悟がいる。
リトの戦士として、戦場に立つ者として、甘えたようなことを言っているルナが許せなかった。
「…返す言葉も、ありません。」
ルナは、しっかりと僕の目を見て言った。
「綺麗事です、全部。恨みもない、なんて。
…本当は、人を殺してしまったら、私はもう人間に戻れなくなると思ってるんです。私の家族を殺した魔物と同じになってしまうのが、怖いんです。
恨みがあるから魔物を殺しているんです。仇があるから、討つんです。」
日が傾き、山の中はすっかり暗くなった。
草木の揺れる音が、やけに響いて聞こえた。
僕とルナは互いを見つめ合ってしばらく立ちすくんでいたが、
相手の目をいくら見つめたところで、その心の奥底までは覗き込むことが出来なかった。
「…ま、僕の知ったことじゃない。知り合いが野垂れ死んだなんて知らせ、気分が悪いから聞ききたくもないからね。せいぜい気を付けてくれよ。」
僕は背を向けそのまま飛び去ろうとしたが、即座に動くことが出来なかった。
足に
ルナはこのまま一人で眠り、起き、明日を迎える。
魔物の巣窟に挑み、素材を集め、換金する。
…何のために?彼女は家族の仇討だと言う。
そんなの僕の知ったことじゃない、そう言い放ったものの、心のどこかで胸が痛んだ。
まるで、彼女を一人にしてしまうことは僕に責任があるかのような。
「私、誰かに怒られたのって久しぶりです。」
ルナは言った。
「誰かに心配されるのも、誰かに本気で怒られるのも。まるで両親が生きていた頃みたいです。
この間もそう。誰かと食卓を共にするのも、とても久しぶりでした。
私のことを気遣ってくださる方は、今この世でリーバル様しかいないんです。…だから、ずっと会いたかった。」
濁りのない眼で、ルナは僕の目をしっかりと捉える。
彼女の言葉で、僕もこの空白の期間のことを思い返す。気付けばルナのことばかり考えてしまっていた、あの時間と日々を。
僕は彼女のことを心配していたんだろう、ずっと。
一人で戦う彼女に、安心してほしかったのかもしれない。
「…何か飲み物を一杯貰おう。」
「え?」
「今回の返礼さ。君のことを今度こそ包み隠さず教えて貰う。全部ね。」
ルナはキョトンとした顔でいたが、すぐに笑顔を広げ、家のドアを開けた。
「…世界で僕一人くらい、ルナを信じてやってもいいだろう。」
「今、何か言いましたか?」
「いいや、別に。」
ホットミルクでいいですか?とルナはキッチンへ向かいながら聞いてくる。
何でもいい、と返答した。
彼女の全てを知れば、彼女に対する気持ちも全て明らかになるだろうか。
---to be continued---