眠りの森
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11. 天国からの使者
風斬り刀は振り落とした瞬間、突風と共に真空の刀が立ち現われ飛距離と攻撃力が増す。
その独特の刀を使いこなすのは簡単ではない。魔物が力任せに使う武器とは訳が違う。
急降下攻撃に加え、遁術 のようなものまで駆使する戦闘態勢は、次の動きの予測が非常に難しい。
攻撃を避けるだけでも一苦労だ。私は必死で逃げ惑った。
「フハハ、逃げてばかりではないか。其方の力はその程度か。」
彼は瞬間移動を使ってどこまでも追い続けてきた。撒こうにも、辺りは平原で適切な場所が見当たらない。
しかし、いつまでもこうして逃げているわけにはいかない。
前髪から滴る汗が視界を邪魔する。体力と集中力も限界が見えていた。
致命傷にならない程度に、攻撃し返さないと。
頭でわかっていても、私の手は剣を握ることすら出来なかった。
もし一歩間違えでもして殺してしまったらー
そんな不安に気を取られてしまい、足がもつれ派手に地面へと転がり滑った。
一瞬の隙を逃すはずもなく、敵は猛スピードで私へと突進してくる。
ここで死ぬことになるのなら、またリーバル様に会いに行けば良かった。
私はぎゅ、と目を瞑った。今まさに、その風斬り刀に身体が切り裂かれる瞬間—
―数秒ほど経ったが、痛みも、血しぶきの音も、何もない。
私は恐る恐る、固く瞑った目を開いた。
目の前には、風斬り刀とツルギバナナが残されているだけで、他には何もない。
自分の身に何か変化はないか両手を確認するが、目立った傷も見当たらない。
一体何が起きたのだろう。
状況に理解が追い付いていない私は、足元に転がる一本の矢を見つけ、ハッと頭上を見上げた。
「人違いかな。君が僕に助けられるほど、か弱いとはね。」
オオワシの弓を手に、空中から私を見下ろすリーバル様がそこにはいた。
「リーバル様。」
彼はふわりと私の前へ着地すると、手を差し伸べた。
「やれやれ。僕が来なかったらどうなっていたことやら。感謝しなよね。」
夕日に照らされ、彼の青藍の羽が暖かみを帯びている。
その姿はまるで、天国から私を迎えに来た使者のよう。
もしかして、私はすでに死んでいるのだろうか?
自分の死を覚悟した瞬間でさえ、リーバル様のことを考えていた。
これは私の願望が生み出した、死後に見ている夢なのかもしれない。
…なんて考えあぐねて、差し伸べられた手をなかなか取らない私をリーバル様は怪訝そうに見つめている。
そしてハッと気付いたように
「…派手に転んだせいで、うまく立ち上がれないのか?」
と言って、私の足元に目を移す。擦りむいた箇所が出血していたが、大した怪我ではなかった。
「いえ、そんなことは…」
そう言って立ち上がろうとするが、力が入らない。
痛みのせいではなかった。きっと長く走り続けていた疲労のせいだろう。心拍数もまだ高い。私は極限まで体力を削られていた。
リーバル様は私の様子からすぐには立てないと察すると、無言で肩を差し出して私を担ぐように起き上がらせ、自分の背に負ぶった。
「言っとくけど、僕は毎回気安く背を貸すわけじゃないからね。これは怪我人の搬送、いいね?」
「は、はい!」
彼は少し怒気を含んだような口調でそう言うと、地面を蹴り上げ飛び立った。
冷たい風が傷口に染みて少し痛んだが、全く気にならなかった。
痛みを感じるということは、まだ生きているということだった。
そして、リーバル様と再会できたこと。私を助けてくれたこと。また彼の背に乗せてもらっていること。全てが夢でなく本当のことで、それがたまらなく嬉しかった。
柔らかくて暖かくて優しいその背を、私はすでに一度知っている。
どこか懐かしいと感じるのは、もうずっと会えないと思っていたからだろうか。
あの時のように、そっと頬を彼の背に摺り寄せる。
空高い場所で、私は泣きつかれた子どものように眠りに落ちた。
---to be continued---
風斬り刀は振り落とした瞬間、突風と共に真空の刀が立ち現われ飛距離と攻撃力が増す。
その独特の刀を使いこなすのは簡単ではない。魔物が力任せに使う武器とは訳が違う。
急降下攻撃に加え、
攻撃を避けるだけでも一苦労だ。私は必死で逃げ惑った。
「フハハ、逃げてばかりではないか。其方の力はその程度か。」
彼は瞬間移動を使ってどこまでも追い続けてきた。撒こうにも、辺りは平原で適切な場所が見当たらない。
しかし、いつまでもこうして逃げているわけにはいかない。
前髪から滴る汗が視界を邪魔する。体力と集中力も限界が見えていた。
致命傷にならない程度に、攻撃し返さないと。
頭でわかっていても、私の手は剣を握ることすら出来なかった。
もし一歩間違えでもして殺してしまったらー
そんな不安に気を取られてしまい、足がもつれ派手に地面へと転がり滑った。
一瞬の隙を逃すはずもなく、敵は猛スピードで私へと突進してくる。
ここで死ぬことになるのなら、またリーバル様に会いに行けば良かった。
私はぎゅ、と目を瞑った。今まさに、その風斬り刀に身体が切り裂かれる瞬間—
―数秒ほど経ったが、痛みも、血しぶきの音も、何もない。
私は恐る恐る、固く瞑った目を開いた。
目の前には、風斬り刀とツルギバナナが残されているだけで、他には何もない。
自分の身に何か変化はないか両手を確認するが、目立った傷も見当たらない。
一体何が起きたのだろう。
状況に理解が追い付いていない私は、足元に転がる一本の矢を見つけ、ハッと頭上を見上げた。
「人違いかな。君が僕に助けられるほど、か弱いとはね。」
オオワシの弓を手に、空中から私を見下ろすリーバル様がそこにはいた。
「リーバル様。」
彼はふわりと私の前へ着地すると、手を差し伸べた。
「やれやれ。僕が来なかったらどうなっていたことやら。感謝しなよね。」
夕日に照らされ、彼の青藍の羽が暖かみを帯びている。
その姿はまるで、天国から私を迎えに来た使者のよう。
もしかして、私はすでに死んでいるのだろうか?
自分の死を覚悟した瞬間でさえ、リーバル様のことを考えていた。
これは私の願望が生み出した、死後に見ている夢なのかもしれない。
…なんて考えあぐねて、差し伸べられた手をなかなか取らない私をリーバル様は怪訝そうに見つめている。
そしてハッと気付いたように
「…派手に転んだせいで、うまく立ち上がれないのか?」
と言って、私の足元に目を移す。擦りむいた箇所が出血していたが、大した怪我ではなかった。
「いえ、そんなことは…」
そう言って立ち上がろうとするが、力が入らない。
痛みのせいではなかった。きっと長く走り続けていた疲労のせいだろう。心拍数もまだ高い。私は極限まで体力を削られていた。
リーバル様は私の様子からすぐには立てないと察すると、無言で肩を差し出して私を担ぐように起き上がらせ、自分の背に負ぶった。
「言っとくけど、僕は毎回気安く背を貸すわけじゃないからね。これは怪我人の搬送、いいね?」
「は、はい!」
彼は少し怒気を含んだような口調でそう言うと、地面を蹴り上げ飛び立った。
冷たい風が傷口に染みて少し痛んだが、全く気にならなかった。
痛みを感じるということは、まだ生きているということだった。
そして、リーバル様と再会できたこと。私を助けてくれたこと。また彼の背に乗せてもらっていること。全てが夢でなく本当のことで、それがたまらなく嬉しかった。
柔らかくて暖かくて優しいその背を、私はすでに一度知っている。
どこか懐かしいと感じるのは、もうずっと会えないと思っていたからだろうか。
あの時のように、そっと頬を彼の背に摺り寄せる。
空高い場所で、私は泣きつかれた子どものように眠りに落ちた。
---to be continued---