眠りの森
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10. 何も知らないで
会合の終わり、僕はウルボザに呼び止められた。
彼女がわざわざ僕に取り立てて用など、見当もつかなかった。
「あんた、御ひい様に狩人の捜索をこれ以上やめるように言ったんだって?」
開口一番、ウルボザはそう言った。
困ったような口ぶりは、僕の姫に対する粗略な態度に対して咎める気持ちの表れだろう。それはいつものことだ。
狩人の捜索、と言うとルナのことに違いない。触れられたくない話題を振られ、心の中で舌打ちをする。
「ああ、言ったさ。例の狩人は探しても見つからなかったからね。噂に踊らされるなんて、時間の無駄だろ?今更蒸し返す必要なんてあるかい。」
僕がルナと出会い、正体を知ったうえで彼女の存在をひた隠しにしていることは誰の知る由もない。
適当な言い訳を残し、この場を早くやり過ごしたかった。
ウルボザは腰に手をあて、僕をじっと見下ろしている。背の高いゲルド族は、前に立ちはだかるだけでも凄みがある。
しかし僕はポーカーフェイスを貫き通す。悟られまいと、表情一つ変えない。
「…ルナ。」
ウルボザがルナの名を口にし、心底驚いた。
何故彼女がルナの名を知っているのか。
…まさか、ウルボザもルナの正体を突き止めたのだろうか?
話の先が読めないままで胸中穏やかでなかったが、冷静を装いウルボザを横目でちらりと伺った。彼女は語りだす。
「ゲルドの街で色々聞いてみたんだよ。魔物専属の狩人—名はルナと言うそうだ。見た目は私達が想像していた大女なんかじゃなく、どこにでもいるようなヴァーイみたいだよ。でもその腕っぷしは噂通りで、キングラジークの討伐後にゲルドの街へ訪れたらしい。」
そんなことは全て知っていた。
名前や顔やその強さだけでなく、見た目相応に少女らしいところや、寂しがり屋なところも知っている…なんて口が裂けても言えないが。
わざわざ僕にルナの話を持ち掛けてきたということは、僕がルナに出会ったことも知っているのではないだろうか。
全て見透かされていたとして、ウルボザの意図が読めなかった。僕は目を細めて彼女をじろりと眺める。いったい何が目的なんだ。
「ふうん。だからその…ルナってヤツを改めて探し出そうって言いたいのかい。」
「いいや。一つ気になることがあってね。」
ウルボザは顎に手を添え、僕から目線を外した。
気になること?
「ルナは、『ゲルドの街に身寄りのない子どもがいたら教えてくれ』って聞き回ったらしいんだ。」
「…身寄りのない子ども?」
「理由はわからないが、妙だと思わないかい?魔物専属の狩人がどうして身寄りのない子どもの情報を聞き集めているのか。」
ウルボザは一呼吸置いて、僕に言った。
「…ねえリーバル。これはあたしの憶測に過ぎないが、あんたはルナのことを知っているんじゃないのかい?ルナと接触することで御ひい様に危害が及ばないよう、捜索を辞めさせた。…違うかい?」
残念ながら、ウルボザの考えは全くの検討外れだった。
姫に対する危害の心配どころか、ルナを庇っての行動だ。
ただ、僕はルナの正体を完全に掴みきれていない。
もしかするとルナは、ウルボザが危惧している通り敵対者なのかもしれない。
僕はこの目で彼女が魔物を切り裂く姿をしっかりと見た。
それに彼女は最初自分の正体を隠していた。何やら"事情"があると言って。
十分すぎるほど怪しい。警戒に値する。
ただ僕は…ルナを背に乗せた時の温もりや、振舞われた暖かな食事、無邪気な笑顔や照れた顔を思い出す度、どうしても彼女を信じたくなる。
ただ一人の少女としてルナを気にかけていた。
直観に過ぎないが、彼女が悪さを企んでいるとは到底思えない。
唯一彼女と出会って言葉を交わした僕がそう思ったんだ。…世界で僕一人くらい、彼女を信じてやってもいいだろう。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
結局僕はしらを切り通した。
幸い、ウルボザはそれ以上勘繰ってきたりしなかった。
僕はルナについて知らないことが多すぎる。
当たり前だ。出会って日が浅いどころか、あれ以来一度も会っていない。
…そもそも、僕はどうしてルナのことをこんなに考えているんだろうか。たった一度しか会ったことのない人間のことを。
誰にも似ていないからだろうか。姫にも、ウルボザにも、ミファーにも。
新種の性質のヤツと出会えたことが新鮮で、からかい甲斐があるから面白がっているだけ…なのかな。
もやもやと答えの出ないことを考えながら当てもなく南へ歩いていると、
遠くからかすかに妖しげな笑い声が聞こえてきた。
「…嫌な風が吹いている。」
上空へ舞い上がり、さらに南へと進む。
その先に、高速で移動する二つの人影を認知した。
深紅のタイツに身を包んだ覆面姿を捉えると、僕はハッとして武器を構えた。
イーガ団だ。誰かが襲われているに違いない。
急がなくてはー
---to be continued---
会合の終わり、僕はウルボザに呼び止められた。
彼女がわざわざ僕に取り立てて用など、見当もつかなかった。
「あんた、御ひい様に狩人の捜索をこれ以上やめるように言ったんだって?」
開口一番、ウルボザはそう言った。
困ったような口ぶりは、僕の姫に対する粗略な態度に対して咎める気持ちの表れだろう。それはいつものことだ。
狩人の捜索、と言うとルナのことに違いない。触れられたくない話題を振られ、心の中で舌打ちをする。
「ああ、言ったさ。例の狩人は探しても見つからなかったからね。噂に踊らされるなんて、時間の無駄だろ?今更蒸し返す必要なんてあるかい。」
僕がルナと出会い、正体を知ったうえで彼女の存在をひた隠しにしていることは誰の知る由もない。
適当な言い訳を残し、この場を早くやり過ごしたかった。
ウルボザは腰に手をあて、僕をじっと見下ろしている。背の高いゲルド族は、前に立ちはだかるだけでも凄みがある。
しかし僕はポーカーフェイスを貫き通す。悟られまいと、表情一つ変えない。
「…ルナ。」
ウルボザがルナの名を口にし、心底驚いた。
何故彼女がルナの名を知っているのか。
…まさか、ウルボザもルナの正体を突き止めたのだろうか?
話の先が読めないままで胸中穏やかでなかったが、冷静を装いウルボザを横目でちらりと伺った。彼女は語りだす。
「ゲルドの街で色々聞いてみたんだよ。魔物専属の狩人—名はルナと言うそうだ。見た目は私達が想像していた大女なんかじゃなく、どこにでもいるようなヴァーイみたいだよ。でもその腕っぷしは噂通りで、キングラジークの討伐後にゲルドの街へ訪れたらしい。」
そんなことは全て知っていた。
名前や顔やその強さだけでなく、見た目相応に少女らしいところや、寂しがり屋なところも知っている…なんて口が裂けても言えないが。
わざわざ僕にルナの話を持ち掛けてきたということは、僕がルナに出会ったことも知っているのではないだろうか。
全て見透かされていたとして、ウルボザの意図が読めなかった。僕は目を細めて彼女をじろりと眺める。いったい何が目的なんだ。
「ふうん。だからその…ルナってヤツを改めて探し出そうって言いたいのかい。」
「いいや。一つ気になることがあってね。」
ウルボザは顎に手を添え、僕から目線を外した。
気になること?
「ルナは、『ゲルドの街に身寄りのない子どもがいたら教えてくれ』って聞き回ったらしいんだ。」
「…身寄りのない子ども?」
「理由はわからないが、妙だと思わないかい?魔物専属の狩人がどうして身寄りのない子どもの情報を聞き集めているのか。」
ウルボザは一呼吸置いて、僕に言った。
「…ねえリーバル。これはあたしの憶測に過ぎないが、あんたはルナのことを知っているんじゃないのかい?ルナと接触することで御ひい様に危害が及ばないよう、捜索を辞めさせた。…違うかい?」
残念ながら、ウルボザの考えは全くの検討外れだった。
姫に対する危害の心配どころか、ルナを庇っての行動だ。
ただ、僕はルナの正体を完全に掴みきれていない。
もしかするとルナは、ウルボザが危惧している通り敵対者なのかもしれない。
僕はこの目で彼女が魔物を切り裂く姿をしっかりと見た。
それに彼女は最初自分の正体を隠していた。何やら"事情"があると言って。
十分すぎるほど怪しい。警戒に値する。
ただ僕は…ルナを背に乗せた時の温もりや、振舞われた暖かな食事、無邪気な笑顔や照れた顔を思い出す度、どうしても彼女を信じたくなる。
ただ一人の少女としてルナを気にかけていた。
直観に過ぎないが、彼女が悪さを企んでいるとは到底思えない。
唯一彼女と出会って言葉を交わした僕がそう思ったんだ。…世界で僕一人くらい、彼女を信じてやってもいいだろう。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
結局僕はしらを切り通した。
幸い、ウルボザはそれ以上勘繰ってきたりしなかった。
僕はルナについて知らないことが多すぎる。
当たり前だ。出会って日が浅いどころか、あれ以来一度も会っていない。
…そもそも、僕はどうしてルナのことをこんなに考えているんだろうか。たった一度しか会ったことのない人間のことを。
誰にも似ていないからだろうか。姫にも、ウルボザにも、ミファーにも。
新種の性質のヤツと出会えたことが新鮮で、からかい甲斐があるから面白がっているだけ…なのかな。
もやもやと答えの出ないことを考えながら当てもなく南へ歩いていると、
遠くからかすかに妖しげな笑い声が聞こえてきた。
「…嫌な風が吹いている。」
上空へ舞い上がり、さらに南へと進む。
その先に、高速で移動する二つの人影を認知した。
深紅のタイツに身を包んだ覆面姿を捉えると、僕はハッとして武器を構えた。
イーガ団だ。誰かが襲われているに違いない。
急がなくてはー
---to be continued---