短篇
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遠く繋がらない二人
なんとか言う国の、なんとか言う姫。
名はルナと言ったっけ。
その王家は長年子に恵まれず、やっと授かった愛娘がルナだった。
彼女を国の後継者にするべく、目も当てられないほど優しく、そして厳しく育てて来た。
朝から晩まで勉学や武術に励む毎日…王家の人間も楽じゃないね。
初めて会った日のことは、今でも覚えてるよ。
「リト族一の戦士殿、我が姫君に弓術を直伝して頂きたい。」
逞しい髭をこさえた大男の横に立つルナは、やけに小さく見えた。
「僕の技術を盗もうと思えば、相当大変な訓練になる。悪いけど、こんな華奢なお嬢さんじゃ到底ついていけないよ。」
もちろん、最初は断ったよ。
王に言われるがまま弓術を練習しに来て、弱音でも吐かれたら溜まったもんじゃないしね。
他人に優しくお稽古するほど、お人好しじゃないんだ。
…だけどルナは、僕の眼をまっすぐ見据えて
「過酷な訓練であろうと、耐えて見せます。リーバル様の弓捌き、是非とも直々御享受願いたい。」
と、言ったのだった。
僕もこれには少し驚いたね。
小さな少女の癖に、予想以上に肝が据わっていて、力強い眼差しをしていたんだから。
…こうなったら断る理由もないよね。
それから僕とルナは、数週間にわたる訓練をしていった。
最初はヘタクソで、何度助言を言い渡しても的に矢が当たる事はなかった。
普通の人なら挫けてしまう程の厳しい指導はしたよ。
だけどルナは、へこたれることなく、毎日ひたむきに練習に励んだ。
「君も頑張るね。普通なら、こんな長続きしないよ。」
「努力するのは当然です。私はいずれ国の長となる身。父上や民の期待に応えねばなりません。」
僕が話しかけても、ルナは顔色一つ変えず淡々とそう応えるだけだった。
堅苦しくて、面白みは一切ないが、努力家は嫌いじゃない。
ただちょっと、無理をしているような気もするけどね。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
その日は朝から吹雪が酷かったんだ。
いつもなら、僕がルナの部屋までわざわざ出向いて弓の訓練へ誘うんだけど…
今日はこんな天候だ。
僕はともかく、お姫様が体調を崩してもいけないと思い、訓練は休止しようと思っていた。
…そういえば、最近はルナに付きっ切りだったから、一人で弓の練習を出来ていなかったな。
久しぶりに一人のびのび練習をしようと、僕は飛行訓練場へ向かう。
「ん?」
飛行訓練場に近付くと、見慣れない人影がそこにある。
吹雪に視界を阻まれながらも、目を凝らして見つめる先には―
「ルナ!?」
それは紛れも無く、しっかりとした防寒着に身を包み、的に向かって弓を引くルナだった。
「何やってるんだよ、こんなところで。」
僕が話しかけると、ルナは平然として
「自主練習です。」
と言った。
寒さのせいで、少しばかり鼻の頭が赤くなっている。
「…呆れた。僕は君の体調を考慮して、今日の練習を休みにしたつもりだったのに。」
「心配して下さって、ありがとうございます。でも、私の弓術はまだまだ下手ですから、少しでも練習したくて。」
的の方に目をやると、中央付近に何本も矢が突き刺さっている。
この天候に関わらず、あれだけ矢を打ち付けられるのなら…
上達しているのは確かだけど、満足いかないのだろうか。
「何が君をそんなに動かしているんだ。」
「国の長になるという、ただその用意された未来だけが私をここまで動かすのだと思います。…それを辛いと、思う事はありません。」
言い終えると、ルナは再び的のほうに向き直り、弓を引いた。
ここまで来ると、彼女の言葉を信じざるを得ない。
小さな身体で精一杯頑張って、
目の前を見据えているようで、
随分遠い未来を捉えていて―
近いようで、遠い。
そう感じた。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
ルナがリトの村に居られるのは今日で最後だ。
明日、王家の人間がお迎えに上がるそう。
「君といられるのも今日で最後だね。」
「リーバル様、私の弓術は上達したでしょうか?」
「ああ。最初とは比べようも無いくらい上手くなってるよ。長い時間かけて僕が教えてやったんだから、当然の事だけどね。」
実際、ルナの弓の技術は驚くほど上達していた。
打てば百発百中、とまでは言わないが、高確率で狙った場所に当たるようにはなっている。
「僕と会えるのはこれで最後だけど、君の事だ。いつも通り練習するんだろ?」
「いいえ。今日はとても練習をする気にはなれません。」
予想外の答えに、僕は驚く。
ルナが練習を拒んだのは、初めてのことだった。
「じゃあ、今日くらいは好きにしたらいいよ。リトの村の観光でもしたらどうだい?」
「リーバル様と、一緒にいたいです。」
僕は、ルナらしからぬ言動に更に驚かされた。
この数週間、一緒にいても「国の為」だとか、そういう真面目な言葉しか放たなかった彼女が、僕と一緒にいたい、というのだから。
「僕と?別に構わないけど。」
「リーバル様が素晴らしいと思う場所へ、今すぐに連れて行ってください。」
今日のルナのなりふり構わぬ態度は、我儘な少女の様で、彼女の外見と中身が初めて一致して見えた。
それにしても、僕が素晴らしいと思う場所、と言われても、すぐには思いつかない。
こういうのは考えるよりも、
飛び回りながら考えるほうが楽である。
僕はルナを背に負い、空へと羽ばたく。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
湖、砂漠、熱帯雨林、森林…
僕が綺麗だと思う景色が見られる所へは、一通り連れて行ったつもりだ。
ルナは、相変わらずいつもの硬い表情のまま、黙って景色を眺めるだけであった。
僕と一緒にいて、ルナは楽しいんだろうか。
ルナの横顔を見る。
…これで、最後か。
そう思った矢先、彼女が
「私、王国に戻ったら、結婚するんです。」
突拍子も無くそう言った。
結婚
こんな小さな少女でも、ハイラルでは十分結婚できる齢だ。
王家の娘であれば、ますます珍しい話ではないだろう。
「結婚?もう相手が決まってるんだ。」
「他国の王子です。国家間の交友の為、半ば強制的ではありますが、これも仕方の無い事です。」
最後まで、彼女は彼女だ。
家族の事、国民の事、国の事
そればかり考えている。
「君は全く自分自身のことを考えてないだろ。」
「…はい。だから、今日だけは、私の好きなように、しようと思って。」
ルナは僕の瞳をまっすぐ見つめ、うんと優しく、それでいて子供っぽく、無邪気な笑顔を向けた。
「初めて、恋を知りました。貴方の事が大好きです。」
何も考えられなくなった僕は、
気付いたらルナの手を引き、自分の胸に引き寄せ抱きしめていた。
「…どうして、今、そんなこと言うんだよ。」
「ごめんなさい。」
何もかもがどうしようも無いことは、お互いよくわかっていた。
あんなに長く一緒にいたのに、本当に僕らが繋がれたのは
結局、最後のこの時間だけだった。
考えてみれば、しっかりしているように見えてもまだまだ小さな少女であることに変わりは無い。
周りは誰も、それをわかってやろうとしなかったんだろう。
「…ルナは偉いよ、誰よりも、偉い。」
彼女の頭を優しく撫でてやる。
このまま君を連れて逃避行できたら、どんなに良いだろうね。
そんな事考えながら、
二人、ずっと
抱き合う時間は永遠に。
---Fin---
なんとか言う国の、なんとか言う姫。
名はルナと言ったっけ。
その王家は長年子に恵まれず、やっと授かった愛娘がルナだった。
彼女を国の後継者にするべく、目も当てられないほど優しく、そして厳しく育てて来た。
朝から晩まで勉学や武術に励む毎日…王家の人間も楽じゃないね。
初めて会った日のことは、今でも覚えてるよ。
「リト族一の戦士殿、我が姫君に弓術を直伝して頂きたい。」
逞しい髭をこさえた大男の横に立つルナは、やけに小さく見えた。
「僕の技術を盗もうと思えば、相当大変な訓練になる。悪いけど、こんな華奢なお嬢さんじゃ到底ついていけないよ。」
もちろん、最初は断ったよ。
王に言われるがまま弓術を練習しに来て、弱音でも吐かれたら溜まったもんじゃないしね。
他人に優しくお稽古するほど、お人好しじゃないんだ。
…だけどルナは、僕の眼をまっすぐ見据えて
「過酷な訓練であろうと、耐えて見せます。リーバル様の弓捌き、是非とも直々御享受願いたい。」
と、言ったのだった。
僕もこれには少し驚いたね。
小さな少女の癖に、予想以上に肝が据わっていて、力強い眼差しをしていたんだから。
…こうなったら断る理由もないよね。
それから僕とルナは、数週間にわたる訓練をしていった。
最初はヘタクソで、何度助言を言い渡しても的に矢が当たる事はなかった。
普通の人なら挫けてしまう程の厳しい指導はしたよ。
だけどルナは、へこたれることなく、毎日ひたむきに練習に励んだ。
「君も頑張るね。普通なら、こんな長続きしないよ。」
「努力するのは当然です。私はいずれ国の長となる身。父上や民の期待に応えねばなりません。」
僕が話しかけても、ルナは顔色一つ変えず淡々とそう応えるだけだった。
堅苦しくて、面白みは一切ないが、努力家は嫌いじゃない。
ただちょっと、無理をしているような気もするけどね。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
その日は朝から吹雪が酷かったんだ。
いつもなら、僕がルナの部屋までわざわざ出向いて弓の訓練へ誘うんだけど…
今日はこんな天候だ。
僕はともかく、お姫様が体調を崩してもいけないと思い、訓練は休止しようと思っていた。
…そういえば、最近はルナに付きっ切りだったから、一人で弓の練習を出来ていなかったな。
久しぶりに一人のびのび練習をしようと、僕は飛行訓練場へ向かう。
「ん?」
飛行訓練場に近付くと、見慣れない人影がそこにある。
吹雪に視界を阻まれながらも、目を凝らして見つめる先には―
「ルナ!?」
それは紛れも無く、しっかりとした防寒着に身を包み、的に向かって弓を引くルナだった。
「何やってるんだよ、こんなところで。」
僕が話しかけると、ルナは平然として
「自主練習です。」
と言った。
寒さのせいで、少しばかり鼻の頭が赤くなっている。
「…呆れた。僕は君の体調を考慮して、今日の練習を休みにしたつもりだったのに。」
「心配して下さって、ありがとうございます。でも、私の弓術はまだまだ下手ですから、少しでも練習したくて。」
的の方に目をやると、中央付近に何本も矢が突き刺さっている。
この天候に関わらず、あれだけ矢を打ち付けられるのなら…
上達しているのは確かだけど、満足いかないのだろうか。
「何が君をそんなに動かしているんだ。」
「国の長になるという、ただその用意された未来だけが私をここまで動かすのだと思います。…それを辛いと、思う事はありません。」
言い終えると、ルナは再び的のほうに向き直り、弓を引いた。
ここまで来ると、彼女の言葉を信じざるを得ない。
小さな身体で精一杯頑張って、
目の前を見据えているようで、
随分遠い未来を捉えていて―
近いようで、遠い。
そう感じた。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
ルナがリトの村に居られるのは今日で最後だ。
明日、王家の人間がお迎えに上がるそう。
「君といられるのも今日で最後だね。」
「リーバル様、私の弓術は上達したでしょうか?」
「ああ。最初とは比べようも無いくらい上手くなってるよ。長い時間かけて僕が教えてやったんだから、当然の事だけどね。」
実際、ルナの弓の技術は驚くほど上達していた。
打てば百発百中、とまでは言わないが、高確率で狙った場所に当たるようにはなっている。
「僕と会えるのはこれで最後だけど、君の事だ。いつも通り練習するんだろ?」
「いいえ。今日はとても練習をする気にはなれません。」
予想外の答えに、僕は驚く。
ルナが練習を拒んだのは、初めてのことだった。
「じゃあ、今日くらいは好きにしたらいいよ。リトの村の観光でもしたらどうだい?」
「リーバル様と、一緒にいたいです。」
僕は、ルナらしからぬ言動に更に驚かされた。
この数週間、一緒にいても「国の為」だとか、そういう真面目な言葉しか放たなかった彼女が、僕と一緒にいたい、というのだから。
「僕と?別に構わないけど。」
「リーバル様が素晴らしいと思う場所へ、今すぐに連れて行ってください。」
今日のルナのなりふり構わぬ態度は、我儘な少女の様で、彼女の外見と中身が初めて一致して見えた。
それにしても、僕が素晴らしいと思う場所、と言われても、すぐには思いつかない。
こういうのは考えるよりも、
飛び回りながら考えるほうが楽である。
僕はルナを背に負い、空へと羽ばたく。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
湖、砂漠、熱帯雨林、森林…
僕が綺麗だと思う景色が見られる所へは、一通り連れて行ったつもりだ。
ルナは、相変わらずいつもの硬い表情のまま、黙って景色を眺めるだけであった。
僕と一緒にいて、ルナは楽しいんだろうか。
ルナの横顔を見る。
…これで、最後か。
そう思った矢先、彼女が
「私、王国に戻ったら、結婚するんです。」
突拍子も無くそう言った。
結婚
こんな小さな少女でも、ハイラルでは十分結婚できる齢だ。
王家の娘であれば、ますます珍しい話ではないだろう。
「結婚?もう相手が決まってるんだ。」
「他国の王子です。国家間の交友の為、半ば強制的ではありますが、これも仕方の無い事です。」
最後まで、彼女は彼女だ。
家族の事、国民の事、国の事
そればかり考えている。
「君は全く自分自身のことを考えてないだろ。」
「…はい。だから、今日だけは、私の好きなように、しようと思って。」
ルナは僕の瞳をまっすぐ見つめ、うんと優しく、それでいて子供っぽく、無邪気な笑顔を向けた。
「初めて、恋を知りました。貴方の事が大好きです。」
何も考えられなくなった僕は、
気付いたらルナの手を引き、自分の胸に引き寄せ抱きしめていた。
「…どうして、今、そんなこと言うんだよ。」
「ごめんなさい。」
何もかもがどうしようも無いことは、お互いよくわかっていた。
あんなに長く一緒にいたのに、本当に僕らが繋がれたのは
結局、最後のこの時間だけだった。
考えてみれば、しっかりしているように見えてもまだまだ小さな少女であることに変わりは無い。
周りは誰も、それをわかってやろうとしなかったんだろう。
「…ルナは偉いよ、誰よりも、偉い。」
彼女の頭を優しく撫でてやる。
このまま君を連れて逃避行できたら、どんなに良いだろうね。
そんな事考えながら、
二人、ずっと
抱き合う時間は永遠に。
---Fin---