短篇
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不器用な贈り物
リーバルが弓術大会で優勝した。
花束に花冠にトロフィーに称賛の嵐に、彼の周りが一段と派手に騒がしくなる。
群衆の中心で、涼しげな顔で佇むリーバルを、私は見ていた。
…そういえば、私は手ぶらで来てしまった。
「どうだった?」
嵐は過ぎ去り、人気の少なくなった広場でリーバルは私に向かって話しかける。
「優勝おめでとうございます。噂には聞いていたけど、凄かったな。」
リーバルは眉を上げ、自慢げに腕を組んだ。
「当然だろ。それにしても君のあの間抜けな顔!呆気に取られて口なんか半開きでさ。」
「そうだったかな。それなら、凄く感動してたんだろうね、きっと。」
私の反応に対し、リーバルは舌打ちをする。
リーバルは私のことがいちいち気に入らないのだ。
私の態度も、面白みのない返事も、彼の挑発に乗らないことも。
それなのに、何かと理由を付けては誘い出したり絡んできたりする。
今日だって、『どうせいつも暇なんだろ?この日にリトの村へ来たら良いものが見れるぜ。』と遠回りな誘いを受けてやってきたのだ。
私はリーバルのことを尊敬しているし、心の底から彼の実力を認めているのだが、彼自身がそのことを全く信じてくれないのだ。
どこかで私が彼を下に見ているとでも思っているのだろうか。そんなこと、あるはずないのに。
「それにしても君、よく大会に手ぶらでこれたね。僕が優勝するのなんて決まってるようなものなんだから、贈り物の一つくらい持ってくるだろ、普通。」
「…すみません。」
「いいや、君に普通を求めた僕が馬鹿だった。」
ひらひらと頭上で手を振る。いつもこんな調子だ。
「勝つと分かっていて、呼んでくださったんですか?」
「はあ?」
「私に、良いところを見せようと。」
眉間の皺がみるみる深く刻まれていく。
うーん、間違えた。
リーバルは距離を詰め、睨みを利かせる。全く怯まない私に、更に腹を立てながら。
「いい加減に僕の実力を素直に認めたらどうだい。」
「認めてますって言っても、いつも信じてくれないじゃないですか。
それより貴方には、トロフィーや花束の山があるじゃないですか。私の言葉なんかよりも、あれが何よりの証拠じゃないですか。」
リーバルはぐっと怒りをこらえたような、悔しそうな顔を見せ、私から離れた。
それから何も言わず、背を向け去って行ってしまった。
…やっぱり、手ぶらで来るのは、まずかったんだろう。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
あれから数日が経ったが、あの時のリーバルの顔が頭から離れず、日々の業務にも集中が出来なかった。
昔からそうなのだ。自分の感情を相手に伝えるのは得意じゃない。
態度や表情、言葉で伝わらないのなら―
思いついた途端、私は立ち上がる。準備を整えて、リトの村へ行こう。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
「…君か。一体、何しに来たん—」
数日振りに、何の連絡もなしに訪れた私を見て、リーバルは呆気に取られていた。
「口、空いてます。あの時の私みたいな顔してますよ。」
「うるさい!それよりなんだい、その大荷物。」
指さされた大荷物を、私はリーバルに差し出す。
サファイア、マックストリュフ、スタミナ薬、星のかけら、さまざまな花を取り合わせた簡易的な花束・・・
「この間の、優勝のお祝いです。」
「はあ?」
「…一応、全部、私の宝物です。」
リーバルは茫然と私の前に立ち尽くしている。
言葉でも態度でも伝えられないなら、贈り物をしようと思いついた。
私の大切にしているものや、素敵だと思うものを、ありったけかき集めて、リーバルに渡せば、不器用な私の気持ちも、きっと伝わると思ったのだ。
リーバルは大きなため息をついた。
「こんなにたくさん、どうすればいいんだよ。」
「受け取ってください。」
「…やれやれ。」
彼は私の腕からたくさんの贈り物を一挙に受け取った。
大きな翼が腕を包んだ瞬間、私ごと持っていかれるかと思って少しドキドキした。
「ありがとう、ルナ。」
そう言って、ほんの少しだけ微笑んでくれた。
「…どういたしまして。」
贈り物を贈ったのは私の方なのに、どうして私の胸がこんなに満たされているのか、不思議に思った。
「君ってホント、時間がかかるよな。」
「すみません、今度はちゃんと、大会の時に贈り物を用意します。」
「そういうことじゃないんだけど…まあいいか。説明するのも面倒くさいし。」
ともかく、と仕切り直し、リーバルは片手に荷物を抱え私の頭をポンと叩いた。
「君の気持ちは十分に伝わったよ。僕への愛、ね。」
贈り物を眺めながら、満足そうに口角を上げる。
「…へ。」
みるみる顔が熱くなる。
不器用な私の、自分でも気づいていない気持ちまで、リーバルは受け取ってしまったのだろうか。
さあ、これからこの気持ちをどうしよう。
答えを教えてくれるのは―きっと彼しかいない。
---Fin---
リーバルが弓術大会で優勝した。
花束に花冠にトロフィーに称賛の嵐に、彼の周りが一段と派手に騒がしくなる。
群衆の中心で、涼しげな顔で佇むリーバルを、私は見ていた。
…そういえば、私は手ぶらで来てしまった。
「どうだった?」
嵐は過ぎ去り、人気の少なくなった広場でリーバルは私に向かって話しかける。
「優勝おめでとうございます。噂には聞いていたけど、凄かったな。」
リーバルは眉を上げ、自慢げに腕を組んだ。
「当然だろ。それにしても君のあの間抜けな顔!呆気に取られて口なんか半開きでさ。」
「そうだったかな。それなら、凄く感動してたんだろうね、きっと。」
私の反応に対し、リーバルは舌打ちをする。
リーバルは私のことがいちいち気に入らないのだ。
私の態度も、面白みのない返事も、彼の挑発に乗らないことも。
それなのに、何かと理由を付けては誘い出したり絡んできたりする。
今日だって、『どうせいつも暇なんだろ?この日にリトの村へ来たら良いものが見れるぜ。』と遠回りな誘いを受けてやってきたのだ。
私はリーバルのことを尊敬しているし、心の底から彼の実力を認めているのだが、彼自身がそのことを全く信じてくれないのだ。
どこかで私が彼を下に見ているとでも思っているのだろうか。そんなこと、あるはずないのに。
「それにしても君、よく大会に手ぶらでこれたね。僕が優勝するのなんて決まってるようなものなんだから、贈り物の一つくらい持ってくるだろ、普通。」
「…すみません。」
「いいや、君に普通を求めた僕が馬鹿だった。」
ひらひらと頭上で手を振る。いつもこんな調子だ。
「勝つと分かっていて、呼んでくださったんですか?」
「はあ?」
「私に、良いところを見せようと。」
眉間の皺がみるみる深く刻まれていく。
うーん、間違えた。
リーバルは距離を詰め、睨みを利かせる。全く怯まない私に、更に腹を立てながら。
「いい加減に僕の実力を素直に認めたらどうだい。」
「認めてますって言っても、いつも信じてくれないじゃないですか。
それより貴方には、トロフィーや花束の山があるじゃないですか。私の言葉なんかよりも、あれが何よりの証拠じゃないですか。」
リーバルはぐっと怒りをこらえたような、悔しそうな顔を見せ、私から離れた。
それから何も言わず、背を向け去って行ってしまった。
…やっぱり、手ぶらで来るのは、まずかったんだろう。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
あれから数日が経ったが、あの時のリーバルの顔が頭から離れず、日々の業務にも集中が出来なかった。
昔からそうなのだ。自分の感情を相手に伝えるのは得意じゃない。
態度や表情、言葉で伝わらないのなら―
思いついた途端、私は立ち上がる。準備を整えて、リトの村へ行こう。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
「…君か。一体、何しに来たん—」
数日振りに、何の連絡もなしに訪れた私を見て、リーバルは呆気に取られていた。
「口、空いてます。あの時の私みたいな顔してますよ。」
「うるさい!それよりなんだい、その大荷物。」
指さされた大荷物を、私はリーバルに差し出す。
サファイア、マックストリュフ、スタミナ薬、星のかけら、さまざまな花を取り合わせた簡易的な花束・・・
「この間の、優勝のお祝いです。」
「はあ?」
「…一応、全部、私の宝物です。」
リーバルは茫然と私の前に立ち尽くしている。
言葉でも態度でも伝えられないなら、贈り物をしようと思いついた。
私の大切にしているものや、素敵だと思うものを、ありったけかき集めて、リーバルに渡せば、不器用な私の気持ちも、きっと伝わると思ったのだ。
リーバルは大きなため息をついた。
「こんなにたくさん、どうすればいいんだよ。」
「受け取ってください。」
「…やれやれ。」
彼は私の腕からたくさんの贈り物を一挙に受け取った。
大きな翼が腕を包んだ瞬間、私ごと持っていかれるかと思って少しドキドキした。
「ありがとう、ルナ。」
そう言って、ほんの少しだけ微笑んでくれた。
「…どういたしまして。」
贈り物を贈ったのは私の方なのに、どうして私の胸がこんなに満たされているのか、不思議に思った。
「君ってホント、時間がかかるよな。」
「すみません、今度はちゃんと、大会の時に贈り物を用意します。」
「そういうことじゃないんだけど…まあいいか。説明するのも面倒くさいし。」
ともかく、と仕切り直し、リーバルは片手に荷物を抱え私の頭をポンと叩いた。
「君の気持ちは十分に伝わったよ。僕への愛、ね。」
贈り物を眺めながら、満足そうに口角を上げる。
「…へ。」
みるみる顔が熱くなる。
不器用な私の、自分でも気づいていない気持ちまで、リーバルは受け取ってしまったのだろうか。
さあ、これからこの気持ちをどうしよう。
答えを教えてくれるのは―きっと彼しかいない。
---Fin---
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