短篇
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さあ、帰ろう
厄災と共に、ハイラル城に纏わりついていた禍々しい瘴気は去った。
明るくなっていく空が、大地を照らす。
長すぎる戦争の終わりだった。
瓦礫の山を踏み分けながら、私は走る。
半壊した建物や傷だらけの兵士たちが熾烈を極めたその戦いを物語っている。
―ヴァ・メド―が厄災ガノンに乗っ取られた時は、目の前が真っ暗になった。
不安と恐怖が心臓に絡みつき、息が出来ないほどの絶望。
避難をしようと逃げ惑う人々と真逆に歩き出していた。
『死にたいの?!早く逃げないと!!』
一人のリトの女性が、私の手を強くつかみ、必死になって連れ戻そうとしてくれる。
『だって、あそこには恋人がいるんです、リーバルが、』
『あなたまで死なせたら、リーバル様に顔向けできないよ!』
叫び声と荒々しい爆音がどんどんと遠のいていく。
力も入らないまま、ふらふらと手を引かれるまま私は彼女と一緒に避難した。
リーバルがあそこで戦っている。
想像以上の脅威。今この瞬間にも多くの命が奪われている。
彼なら大丈夫と信じたかったが、沸き起こる大叫喚にその気持ちはかき消された―
リーバル、貴方は無事でいるだろうか。
不安な気持ちが焦らせる。
何度も転んで、脚や腕に無数の切り傷を作った。
そんなことに構っていられらないほど、私の心と身体は彼に向って一直線に走り出す。
滴る汗が視界を邪魔する。
立ち止まって汗をぬぐい、息を整えた。
いくら平穏を取り戻した世界でも、
リーバルのいない世界に用はない。
風が吹いてきて、何かを思い出したかの様にハッと空を仰いだ。
青空の中央に一点、より一層深い青が浮かんでいた。
見間違うはずがない。心臓が早まるのを感じた。
「リーバル!」
リーバルは、風と共に私の元へ舞い降りた。
何かを想うより、言葉をかけるより、私は彼の身体に腕を巻き付け力強く抱きしめた。
「ただいま、ルナ。」
大きな翼が私の頭を撫でる。
私はもっと力を込めて彼の身体を抱きしめる。
骨、体温、匂い、全てをこの腕に感じていないと気が済まなかった。
リーバルがここにいる。
不安に苛まれ強張った私の気持ちはみるみると解け、同時に堪えていた涙も堰を切ったようにあふれ出した。
いつもだったら憎まれ口を叩かれるところだ。
『君は泣き虫だな。』とか『こんなことで泣いてちゃつまらないよ。』とか。
けれど、彼は何も言わなかった。
ただ黙って私を優しく抱きしめてくれた。
「リーバル、私、ずっと待ってました。」
抱きついていて顔は見えないままだったが、頭上で彼が静かに微笑むのが分かった。
小さく深呼吸をし、リーバルは私に語りかける。
「長い戦いは終わったけれど、僕たちにはまだやることが沢山ある。きっと本当の平和を取り戻すには当分時間がかかるだろうね。」
リーバルは私の両肩を掴むと、身体からそっと引き離し、私の目を見つめた。
向こう傷だらけの顔が痛々しい。それでも、いつになく真剣な眼差しに私の胸は高鳴る。
「…ルナ。
君が待っていてくれる限り、僕はどんな激戦でも掻い潜ってみせるよ。これから何があっても、僕は君の元に必ず帰る。
だから、僕と結婚してほしい。」
もう動かなくなったガーディアンの残骸と瓦礫が転がる荒野の真ん中で、たった二人きり。
惨劇の跡地と対照的に、空は青く澄み渡っている。
いつか過去に思い描いていたプロポーズのシチュエーションとは似ても似つかない。花束も指輪もない。
荒れ地の果てで結婚を申し込まれるなんて思いも寄らなかった。
だけど、リーバルがいる。
生きて帰って、こうして愛を届けてくれた。
「もちろんです。」
他には何もいらなかった。
私の返事を受けると、彼は優しい眼差しで微笑んだ。嬉しそうに。
大きな翼は私を再び抱擁する。
「一生かけて、大事にするよ。」
瞼を閉じて、この幸せがどうか消えませんようにと願った。
地には焼け焦げた草木がまばらに広がっている。
彼の言う通り、元の生活を取り戻すために私たちがやらなければならないことはまだまだ山積みだ。
「リーバルとなら大丈夫。」
穏やかな日々が戻ってきた暁には、気に入りの花だけを集めた花束と指輪を用意しよう。
リーバルがこうして帰ってきてくれた時のことを思い出して、今度は私からとびきりの愛と共にそれらを渡したい。
何年、何十年…何百年かかってもいい。
「さあ、帰ろう。」
私たちは手を取り合って歩き出した。
いつかこの地にもまた花が咲く日まで、精一杯二人で生きていこう。
---fin---
厄災と共に、ハイラル城に纏わりついていた禍々しい瘴気は去った。
明るくなっていく空が、大地を照らす。
長すぎる戦争の終わりだった。
瓦礫の山を踏み分けながら、私は走る。
半壊した建物や傷だらけの兵士たちが熾烈を極めたその戦いを物語っている。
―ヴァ・メド―が厄災ガノンに乗っ取られた時は、目の前が真っ暗になった。
不安と恐怖が心臓に絡みつき、息が出来ないほどの絶望。
避難をしようと逃げ惑う人々と真逆に歩き出していた。
『死にたいの?!早く逃げないと!!』
一人のリトの女性が、私の手を強くつかみ、必死になって連れ戻そうとしてくれる。
『だって、あそこには恋人がいるんです、リーバルが、』
『あなたまで死なせたら、リーバル様に顔向けできないよ!』
叫び声と荒々しい爆音がどんどんと遠のいていく。
力も入らないまま、ふらふらと手を引かれるまま私は彼女と一緒に避難した。
リーバルがあそこで戦っている。
想像以上の脅威。今この瞬間にも多くの命が奪われている。
彼なら大丈夫と信じたかったが、沸き起こる大叫喚にその気持ちはかき消された―
リーバル、貴方は無事でいるだろうか。
不安な気持ちが焦らせる。
何度も転んで、脚や腕に無数の切り傷を作った。
そんなことに構っていられらないほど、私の心と身体は彼に向って一直線に走り出す。
滴る汗が視界を邪魔する。
立ち止まって汗をぬぐい、息を整えた。
いくら平穏を取り戻した世界でも、
リーバルのいない世界に用はない。
風が吹いてきて、何かを思い出したかの様にハッと空を仰いだ。
青空の中央に一点、より一層深い青が浮かんでいた。
見間違うはずがない。心臓が早まるのを感じた。
「リーバル!」
リーバルは、風と共に私の元へ舞い降りた。
何かを想うより、言葉をかけるより、私は彼の身体に腕を巻き付け力強く抱きしめた。
「ただいま、ルナ。」
大きな翼が私の頭を撫でる。
私はもっと力を込めて彼の身体を抱きしめる。
骨、体温、匂い、全てをこの腕に感じていないと気が済まなかった。
リーバルがここにいる。
不安に苛まれ強張った私の気持ちはみるみると解け、同時に堪えていた涙も堰を切ったようにあふれ出した。
いつもだったら憎まれ口を叩かれるところだ。
『君は泣き虫だな。』とか『こんなことで泣いてちゃつまらないよ。』とか。
けれど、彼は何も言わなかった。
ただ黙って私を優しく抱きしめてくれた。
「リーバル、私、ずっと待ってました。」
抱きついていて顔は見えないままだったが、頭上で彼が静かに微笑むのが分かった。
小さく深呼吸をし、リーバルは私に語りかける。
「長い戦いは終わったけれど、僕たちにはまだやることが沢山ある。きっと本当の平和を取り戻すには当分時間がかかるだろうね。」
リーバルは私の両肩を掴むと、身体からそっと引き離し、私の目を見つめた。
向こう傷だらけの顔が痛々しい。それでも、いつになく真剣な眼差しに私の胸は高鳴る。
「…ルナ。
君が待っていてくれる限り、僕はどんな激戦でも掻い潜ってみせるよ。これから何があっても、僕は君の元に必ず帰る。
だから、僕と結婚してほしい。」
もう動かなくなったガーディアンの残骸と瓦礫が転がる荒野の真ん中で、たった二人きり。
惨劇の跡地と対照的に、空は青く澄み渡っている。
いつか過去に思い描いていたプロポーズのシチュエーションとは似ても似つかない。花束も指輪もない。
荒れ地の果てで結婚を申し込まれるなんて思いも寄らなかった。
だけど、リーバルがいる。
生きて帰って、こうして愛を届けてくれた。
「もちろんです。」
他には何もいらなかった。
私の返事を受けると、彼は優しい眼差しで微笑んだ。嬉しそうに。
大きな翼は私を再び抱擁する。
「一生かけて、大事にするよ。」
瞼を閉じて、この幸せがどうか消えませんようにと願った。
地には焼け焦げた草木がまばらに広がっている。
彼の言う通り、元の生活を取り戻すために私たちがやらなければならないことはまだまだ山積みだ。
「リーバルとなら大丈夫。」
穏やかな日々が戻ってきた暁には、気に入りの花だけを集めた花束と指輪を用意しよう。
リーバルがこうして帰ってきてくれた時のことを思い出して、今度は私からとびきりの愛と共にそれらを渡したい。
何年、何十年…何百年かかってもいい。
「さあ、帰ろう。」
私たちは手を取り合って歩き出した。
いつかこの地にもまた花が咲く日まで、精一杯二人で生きていこう。
---fin---