短篇
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予期せぬ出来事
「リト族は一般的に、一定の年齢に到達すると決まったパートナーと結婚して家族になるんだよ。」
馬宿でたまたま居合わせたリト族の男性から、そんなことを聞いた。
「僕もねぇ、早く素敵なお嫁さんを貰いたいんだけど、こうやって気ままに旅をするのも好きだからさ。」
「…リーバルにも、いるの?結婚相手。」
ええ?と彼は驚いた様子で私を見る。
先ほどまで和気あいあいと雑談をしていたのに、急に声のトーンが低くなり顔も真剣なものに変わった私を、只事ではないように感じ取ったことだろう。
「ああ、リーバル様も年齢的にそろそろ結婚の時期だろうね。君、リーバル様のご友人だったの?」
頭を殴られたような、鈍い衝撃が脳内に響く。
あのリーバルが誰かと結婚するなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないことだった。
口を開けば嫌味と文句ばかりの、ずけずけとした物言い。
ちょっと、いや、かなりかっこいいからって、鼻につくキザな態度。
常に自信に満ち溢れているけど、努力を怠らないストイックさ。
いつもツンとして協調性のかけらもないくせに、困っていると誰よりも先に助けてくれる所。
…やっぱり何かの間違いだろう。
「…リーバルが結婚するのは、どんな女性なの。」
「そりゃあ、村一番の美人さんだよ。気立ても良くて優しくて、あんなにいい子がお嫁さんなんて本当に羨ましい、って誰もが思うようなね。英傑様のお嫁さんに相応しいリトの女性さ。」
もうほとんど私は立っていられないほど、めまいがしていた。
彼の言葉が重たい銃弾の様に私の心臓を貫く。
彼が悪いわけじゃない。
自分の気持ちにいつまでも気付かないふりをして、何も行動できなかった私が悪いのだ。
ふらふらとした足取りで、私は馬宿を後にする。
夜もすっかり更け、空には星が散らばっている。
キラキラと輝かしい夜空とは対照的に、私の心は真っ黒に塗りつぶされ空っぽになってしまった。
「結婚しないで。」
なんて、私に言う資格はない。
好きという気持ちさえも伝えられなかった。
お嫁さんになる女性は、村一番の美人さんだって言ってた。気立ても良くて優しくて。
私は美人でもなければ、優しくもない。リーバルと顔を合わせるたびにいがみ合い、憎まれ口を叩いてはすぐ喧嘩になっていた。
…リーバルが一緒にいて幸せになれる相手が誰かなんて、比べるまでもない。
何より相手は、"英傑様のお嫁さんに相応しいリトの女性 "だ。
最初から勝ち目なんてない。
橋の防柵に腕組をし顎を乗せ、水面に浮かぶ月をぼーっと眺める。
好きな人が結婚してしまうという事実に、胸が塞がって苦しかった。泣こうと思えば、この海がいっぱいになるほど涙を流すことだって出来そうだ。
「夜遊びをしてるにしては退屈そうだね。」
突然背後から聞こえてきた耳慣れた声。驚いて、ぎゃっと悲鳴を上げる。
「フッ、なんだい可愛げのない悲鳴上げて。こんな所で夜風に当たって黄昏れてても、どうせ何も考えちゃいないんだろう。」
仕方ないから家まで送り届けてやってもいいよ、という彼の言葉がだんだんと遠のいていく。
彼の嫌味も、その言葉の裏に隠された優しさも、今の私にとっては鋭い棘でしか無かった。
「…っといてよ。」
リーバルの顔を見たくなかった。
肩がこわばり、涙で声が震えている後姿に、気付かれたくなかった。
「おいおい、いつもの威勢はどうしたんだよ。何か悪いものでも食べたのか…」
「ほっといてって言ってるの!」
私の肩にかけようとしてくれていた手を振りほどき、声を荒げ私は振り向く。
涙でぐしゃぐしゃになった顔。時が止まったように、リーバルは目を見開いて驚いている。
「もうすぐ結婚するんでしょ。村で一番優しくて可愛いリトの女性と。」
「…誰からそれを?」
「どうして教えてくれなかったの。」
彼の質問を遮り、私は喋り続ける。
「そりゃ教える筋合い無いもんね。リーバルが誰と結婚しようが、私には関係ないもんね。」
「…泣いてる理由は、それかい。」
「違う、違うよ…。幸せになってほしいもん。」
私はしゃがみ込んでしまう。ぽたぽたと落とした涙が、石橋に跡をつける。
ここで自分の想いなんて伝えたらダメだ。
リーバルのことが好きなら、彼の幸せを心から望むなら、そんな迷惑なこと絶対にしてはいけない。
「なんでもない」「早くどっか行って」
そう言って、膝を抱え込んで顔を伏せた。まるで駄々をこねる子どもみたいだ。
手に入らないものを欲しいと泣き喚いて、八つ当たりして。自分がどんどん嫌になる。
頭上でため息が聞こえる。ほとほと私には呆れたことだろう。
こんな仕方ない女のことは放っておいて、素晴らしいお嫁さんの元へ帰ればいいのに。なんて、思ってもないことを考えるから、胸の中がぐちゃぐちゃにかき乱される。
「どうしてもっと早く素直にならなかったんだろうね。」
リーバルの言葉が胸に響く。
どうしてもっと早く素直にならなかったんだろうね。
彼の結婚が決まる前に素直に気持ちを伝えていれば、結末は違ったのだろうか。見たかった未来を想い煩い、また苦しくなる。後悔でしかない。
「君が遠回りなことをするから。」
リーバルは私の顔を両翼ではさみ、無理やり前を向かせた。
涙でずぶ濡れになった顔を。
「これから面倒ごとになるだろうけど、覚悟はいいかい?」
翼で私の涙を拭い取ると、にやりと笑った。
私は一瞬で、彼が何をしでかそうとしているのか理解した。
「…運命が、変わっちゃうよ。」
「上等さ。ルナを好きになるなんて、僕のシナリオには無かったよ。…でもそれでいいんだ。ラストを変えよう。」
リーバルは私の両腕を引っ張り上げ、立たせる。
その大きく力強い翼は、きっと私を遠くまでさらうに違いない。
覚悟は、出来ていた。
---fin---
「リト族は一般的に、一定の年齢に到達すると決まったパートナーと結婚して家族になるんだよ。」
馬宿でたまたま居合わせたリト族の男性から、そんなことを聞いた。
「僕もねぇ、早く素敵なお嫁さんを貰いたいんだけど、こうやって気ままに旅をするのも好きだからさ。」
「…リーバルにも、いるの?結婚相手。」
ええ?と彼は驚いた様子で私を見る。
先ほどまで和気あいあいと雑談をしていたのに、急に声のトーンが低くなり顔も真剣なものに変わった私を、只事ではないように感じ取ったことだろう。
「ああ、リーバル様も年齢的にそろそろ結婚の時期だろうね。君、リーバル様のご友人だったの?」
頭を殴られたような、鈍い衝撃が脳内に響く。
あのリーバルが誰かと結婚するなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないことだった。
口を開けば嫌味と文句ばかりの、ずけずけとした物言い。
ちょっと、いや、かなりかっこいいからって、鼻につくキザな態度。
常に自信に満ち溢れているけど、努力を怠らないストイックさ。
いつもツンとして協調性のかけらもないくせに、困っていると誰よりも先に助けてくれる所。
…やっぱり何かの間違いだろう。
「…リーバルが結婚するのは、どんな女性なの。」
「そりゃあ、村一番の美人さんだよ。気立ても良くて優しくて、あんなにいい子がお嫁さんなんて本当に羨ましい、って誰もが思うようなね。英傑様のお嫁さんに相応しいリトの女性さ。」
もうほとんど私は立っていられないほど、めまいがしていた。
彼の言葉が重たい銃弾の様に私の心臓を貫く。
彼が悪いわけじゃない。
自分の気持ちにいつまでも気付かないふりをして、何も行動できなかった私が悪いのだ。
ふらふらとした足取りで、私は馬宿を後にする。
夜もすっかり更け、空には星が散らばっている。
キラキラと輝かしい夜空とは対照的に、私の心は真っ黒に塗りつぶされ空っぽになってしまった。
「結婚しないで。」
なんて、私に言う資格はない。
好きという気持ちさえも伝えられなかった。
お嫁さんになる女性は、村一番の美人さんだって言ってた。気立ても良くて優しくて。
私は美人でもなければ、優しくもない。リーバルと顔を合わせるたびにいがみ合い、憎まれ口を叩いてはすぐ喧嘩になっていた。
…リーバルが一緒にいて幸せになれる相手が誰かなんて、比べるまでもない。
何より相手は、"英傑様のお嫁さんに相応しい
最初から勝ち目なんてない。
橋の防柵に腕組をし顎を乗せ、水面に浮かぶ月をぼーっと眺める。
好きな人が結婚してしまうという事実に、胸が塞がって苦しかった。泣こうと思えば、この海がいっぱいになるほど涙を流すことだって出来そうだ。
「夜遊びをしてるにしては退屈そうだね。」
突然背後から聞こえてきた耳慣れた声。驚いて、ぎゃっと悲鳴を上げる。
「フッ、なんだい可愛げのない悲鳴上げて。こんな所で夜風に当たって黄昏れてても、どうせ何も考えちゃいないんだろう。」
仕方ないから家まで送り届けてやってもいいよ、という彼の言葉がだんだんと遠のいていく。
彼の嫌味も、その言葉の裏に隠された優しさも、今の私にとっては鋭い棘でしか無かった。
「…っといてよ。」
リーバルの顔を見たくなかった。
肩がこわばり、涙で声が震えている後姿に、気付かれたくなかった。
「おいおい、いつもの威勢はどうしたんだよ。何か悪いものでも食べたのか…」
「ほっといてって言ってるの!」
私の肩にかけようとしてくれていた手を振りほどき、声を荒げ私は振り向く。
涙でぐしゃぐしゃになった顔。時が止まったように、リーバルは目を見開いて驚いている。
「もうすぐ結婚するんでしょ。村で一番優しくて可愛いリトの女性と。」
「…誰からそれを?」
「どうして教えてくれなかったの。」
彼の質問を遮り、私は喋り続ける。
「そりゃ教える筋合い無いもんね。リーバルが誰と結婚しようが、私には関係ないもんね。」
「…泣いてる理由は、それかい。」
「違う、違うよ…。幸せになってほしいもん。」
私はしゃがみ込んでしまう。ぽたぽたと落とした涙が、石橋に跡をつける。
ここで自分の想いなんて伝えたらダメだ。
リーバルのことが好きなら、彼の幸せを心から望むなら、そんな迷惑なこと絶対にしてはいけない。
「なんでもない」「早くどっか行って」
そう言って、膝を抱え込んで顔を伏せた。まるで駄々をこねる子どもみたいだ。
手に入らないものを欲しいと泣き喚いて、八つ当たりして。自分がどんどん嫌になる。
頭上でため息が聞こえる。ほとほと私には呆れたことだろう。
こんな仕方ない女のことは放っておいて、素晴らしいお嫁さんの元へ帰ればいいのに。なんて、思ってもないことを考えるから、胸の中がぐちゃぐちゃにかき乱される。
「どうしてもっと早く素直にならなかったんだろうね。」
リーバルの言葉が胸に響く。
どうしてもっと早く素直にならなかったんだろうね。
彼の結婚が決まる前に素直に気持ちを伝えていれば、結末は違ったのだろうか。見たかった未来を想い煩い、また苦しくなる。後悔でしかない。
「君が遠回りなことをするから。」
リーバルは私の顔を両翼ではさみ、無理やり前を向かせた。
涙でずぶ濡れになった顔を。
「これから面倒ごとになるだろうけど、覚悟はいいかい?」
翼で私の涙を拭い取ると、にやりと笑った。
私は一瞬で、彼が何をしでかそうとしているのか理解した。
「…運命が、変わっちゃうよ。」
「上等さ。ルナを好きになるなんて、僕のシナリオには無かったよ。…でもそれでいいんだ。ラストを変えよう。」
リーバルは私の両腕を引っ張り上げ、立たせる。
その大きく力強い翼は、きっと私を遠くまでさらうに違いない。
覚悟は、出来ていた。
---fin---