自分の信じていた当たり前の日常が、突然足元から崩れ去る
そんな経験をした事がある人は、いったいどれ程いるだろうか？



H歴になって、世界はガラリと変わった


それでも私が信じていた日常は少し形を変えたとはいえ、ちゃんとそこにあった
父の収入は少なくなってしまったけれど、母の稼ぎが増え、私への控除対象が広がった事もあり、我が家の生活がそれほど変わることはなかった
けれど私の人生はたった1本の電話で激変してしまったのだ


「市ノ瀬咲月さんですか？」
「……はい、そうですけど……」
「シンジュク中央病院です。ご両親が事故に合い、大変危険な状況です。どなたか今すぐに病院に来れる方はいらっしゃいますか？」
「……え？」


講義中、鳴らされたスマホがあまりにもしつこいため、いたたまれなくなり途中退席して来たのだ
突然告げられた言葉に呆然としてしまう


「市ノ瀬さん……！聞こえていますか?!」
「え、はい、あの……」
「今すぐにシンジュク中央病院まで来れますか?!」
「っ、い、行きます……！すぐにっ！」


看護師なのか切羽詰まった問いかけにやっと我に帰る
真っ白な頭を必死に回転させながら教室に戻れば広げていたノートと筆箱を投げ捨てるように鞄に詰め込み退出する
隣の席に座っていたよく知らない男性からは冷たい視線を向けられてしまった


こういう時はどうしたらいいのか、とにかく病院に向かわなければ…と、それだけを思いながら必死に構内を走る
『今日はいいお天気だし、お父さんとお買い物にでも出かけようと思ってるの』
いつも通りの朝にそう告げた母の顔が過ぎる
そんな、まさか、勘違いだ……なんて在り来りな言葉が脳内を駆け巡る


やっとの事でたどり着いた大通りでタクシーを捕まえれば、行き先を告げただけで運転手は車を急発進させた