職場に新しい人が入社するとなれば、大半の職場がするであろう自己紹介
今の私にはそれが憂鬱で仕方がない
「では次に、咲月先生」
「はい」


お願いだから、お願いだから私なんかを忘れていてくれと、願いながら声を絞り出す


「市ノ瀬咲月です。年中の4歳児ゆり組を担当しています。よろしくお願いします」
「…お久しぶりです、市ノ瀬さん」
なるべく普通に、と頭を下げた簡素な挨拶は彼の一言に無情にも打ち砕かれた


「……お久しぶりです、黒子くん」
えっ、知り合い？なんて少しザワつく周りにこれ以上踏み込まれないようにと牽制をする


「中学生の時の同級生で…」
なんて事実ではあるが核心は隠した言い方に、察しのいい彼は気づいてしまうかもしれない
それならそれで良かった
もう私の手の届く人ではないのだ、彼は


「なんだ、そうだったのか！ならテツヤ先生のフォローは咲月先生にして貰っていいかな？」
「はい、勿論です！」
なんて頷く私は、何でずる賢い


「よろしくお願いします、テツヤ先生」
そう言って笑う私を、何もかもを見透かした瞳で見つめる
それでもあの時と今では違う


「よろしくお願いします、咲月先生」
と、あの頑固な彼を根負けさせてしまうほど、私たちは大人という皮を被ってしまっているのだ