苦い青春の思い出は、行き場を無くしたま…



「青峰くん」
そう言っても彼が振り向いてくれることは無い
何度も何度も夢に見て、この後の結末を知っていても、それでも呼びかけてしまうのは、当時の自分が彼から逃げてしまった罪悪感からだろうか…
そうだとしたら彼にとっては迷惑以外の何物でもないわけで


「なぁ、いい加減ウゼェ」
いつものように振り向いて告げられた言葉は、そんな自己満足の私に突き刺さるものだった


ふと目を開けるとそこには見慣れた壁がある
「……そりゃそうだよね」
そう呟けば目元からこめかみ、頬骨辺りにまでひんやりとした感覚が伝わる
この夢を見た時は必ず泣きながら目覚めるのだ


隣に置いたスマートフォンを見ればアラームよりも10分ほど早い時刻
時刻を確認すれば起きて洗面所へと向かう
冷水でタオルを濡らし、水気を絞ればそのまま再びベッドに沈み目元を覆うように置いた


しばらくすれば、枕元のスマートフォンが当初の起床時間を告げる
タオルをずらし、アラームを止めれば再び洗面所へと向かう
タオルをそのまま洗濯機に放り込み、お世辞にも広いとは言えないキッチンでパンを焼く
ケトルでお湯を沸かし、マグカップにインスタントのスープ
独身女の寂しい朝なんてこんなもんだ


食事が終わればさっさと片付け、身支度を整える
いつも通りの朝
外に出れば、冷たい冬の空気にぶるりと震えた
「いってきます」
誰もいない部屋にそれだけ言い残せばいつも通りの通勤


「おはようございます」
「おはよー」
「おはよう」
いつも通りの職場…と言いたい所だが、やはり皆浮かれているのがわかる


「はい、皆さん。今日は新任の先生がいらっしゃるので少し早いですが朝礼始めますよ」
「はい」
「…ではまず、皆様が気になってる新任の先生からご挨拶して頂きましょうか。あれ？黒子先生？」


キョロキョロと辺りを見回す園長先生
「あの、ここです」
なんて意外と近くで返ってきたものだから、皆驚いている
私も例に漏れず飛び跳ねるくらい驚いた訳だが…


「初めまして、黒子テツヤです。今日からよろしくお願いします」
みんなの前で挨拶をする見知った彼の姿に、ドクリと心臓が鳴るのが分かった