短編
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「多分、もうすぐ、着くはず……」
元親を案内しながら夜の山を登っていく
この前行った時はなんて事ない道だったが、少しの傾斜で息が切れる
え、これはやばくないか?
「しんどいなら乗れ」
元親もそれを察してくれたらしい
わざわざ前に屈んでおぶってくれた
「ごめん、ここまでとは……」
「いつから憑かれてんだ」
「わかんないけど、ここに来たのは、1週間くらい前のお花見。あ、ここを左」
いつもより高い視界がゆらゆらと揺れる
そして目的地に着いたところで絶句してしまった
街の桜は殆ど散ってしまったというのに、そこにはあの日と変わらない満開の桜
その異様さはすぐに分かった
「綺麗、だけど……」
「このままだとお前が死ぬまで花を咲かせてるだろうな」
さっさと処分してしまおうとする元親に慌てて声をかける
「せっかく来たしさ、少しくらい楽しもうよ。それくらいなら私も平気だから」
そう言ってカサリとコンビニ袋を見せる
お酒と適当なおつまみ
「お前なぁ……」
「だって、勿体ないじゃない。こんなに綺麗に咲いてるのに。ここは穴場だから、きっと今までも沢山の人に囲まれては来なかったと思うの。桜も、寂しかったんだよ、きっと」
最後だから、なんて言いながら相手の前にも缶ビールを置く
こんなに静かに夜桜を楽しめるとは思っていなかった
「……1杯だけだぞ」
やはり優しい元親は折れてくれて、その場に腰を下ろす
「じゃあ、乾杯」
カコン、とヘンテコな音を響かせて缶を合わせればお世辞にも冷えているとは言い難いビールを口に含む
流石に常温でしばらく経っているから仕方がない
「花も月も綺麗だし、最高でしょ?」
「お前はもう少し危機感を持て」
あはは、なんて笑いながらおつまみにも手を伸ばす
うん、最近のコンビニは流石だ
「桜ってさ、すぐ散っちゃうじゃん。それがさ寂しいなって思ってたんだけど、でもだからこそ皆が愛でたくなるのかなって、ちょっと思った」
ずっと咲き続ける花なら、きっと皆いつかは飽きてしまう
咲いている事が当たり前になってしまう
「この桜も、もうすぐなくなってしまうから、だから余計に綺麗なのかな」
「……さぁな」
「でも、こうやって元親と桜が見れてよかった。この場所で見たこの桜のこと、私一生忘れないと思う。ずっと覚えておきたい」
その瞬間、ふっと何か肩が軽くなった気がした
そしてヒラリ、と手元に花びらが落ちた
「え?」
上を見上げればハラハラと次々に花びらが落ちていく
「きれい……」
木はミシミシと音を立てて萎れていく
きっと本来の姿に戻るのだろうと何となく察した
『―ありがとう―』
何となくそんな声が聞こえた後、最後の花がポトリと落ちた
「……こちらこそ、ありがとう」
落ちてしまった花弁をそっと拾い上げれば大切にハンカチに包む
もうこの木が花を付けることはないのだろうと一目見ただけで分かってしまう
「気が済んだなら帰るぞ」
「……うん、ありがとね、元親」
「それ、どうすんだ」
「ん?あぁ、押し花にでもしようかと思って」
そんな事を言いながら来た道を下る
元親は妖で、私は人間
住む世界が違うし、元親の事が見える人は殆どいない
私の記憶の中だけの思い出だけど、ここで彼と夜桜を見ながら酒を交わした事を、この桜がこの先ずっと証明してくれるような気がした
邯鄲の夢の夢
人が桜を儚いと思うように、彼もまた、人は儚いと思うのだろうか
元親を案内しながら夜の山を登っていく
この前行った時はなんて事ない道だったが、少しの傾斜で息が切れる
え、これはやばくないか?
「しんどいなら乗れ」
元親もそれを察してくれたらしい
わざわざ前に屈んでおぶってくれた
「ごめん、ここまでとは……」
「いつから憑かれてんだ」
「わかんないけど、ここに来たのは、1週間くらい前のお花見。あ、ここを左」
いつもより高い視界がゆらゆらと揺れる
そして目的地に着いたところで絶句してしまった
街の桜は殆ど散ってしまったというのに、そこにはあの日と変わらない満開の桜
その異様さはすぐに分かった
「綺麗、だけど……」
「このままだとお前が死ぬまで花を咲かせてるだろうな」
さっさと処分してしまおうとする元親に慌てて声をかける
「せっかく来たしさ、少しくらい楽しもうよ。それくらいなら私も平気だから」
そう言ってカサリとコンビニ袋を見せる
お酒と適当なおつまみ
「お前なぁ……」
「だって、勿体ないじゃない。こんなに綺麗に咲いてるのに。ここは穴場だから、きっと今までも沢山の人に囲まれては来なかったと思うの。桜も、寂しかったんだよ、きっと」
最後だから、なんて言いながら相手の前にも缶ビールを置く
こんなに静かに夜桜を楽しめるとは思っていなかった
「……1杯だけだぞ」
やはり優しい元親は折れてくれて、その場に腰を下ろす
「じゃあ、乾杯」
カコン、とヘンテコな音を響かせて缶を合わせればお世辞にも冷えているとは言い難いビールを口に含む
流石に常温でしばらく経っているから仕方がない
「花も月も綺麗だし、最高でしょ?」
「お前はもう少し危機感を持て」
あはは、なんて笑いながらおつまみにも手を伸ばす
うん、最近のコンビニは流石だ
「桜ってさ、すぐ散っちゃうじゃん。それがさ寂しいなって思ってたんだけど、でもだからこそ皆が愛でたくなるのかなって、ちょっと思った」
ずっと咲き続ける花なら、きっと皆いつかは飽きてしまう
咲いている事が当たり前になってしまう
「この桜も、もうすぐなくなってしまうから、だから余計に綺麗なのかな」
「……さぁな」
「でも、こうやって元親と桜が見れてよかった。この場所で見たこの桜のこと、私一生忘れないと思う。ずっと覚えておきたい」
その瞬間、ふっと何か肩が軽くなった気がした
そしてヒラリ、と手元に花びらが落ちた
「え?」
上を見上げればハラハラと次々に花びらが落ちていく
「きれい……」
木はミシミシと音を立てて萎れていく
きっと本来の姿に戻るのだろうと何となく察した
『―ありがとう―』
何となくそんな声が聞こえた後、最後の花がポトリと落ちた
「……こちらこそ、ありがとう」
落ちてしまった花弁をそっと拾い上げれば大切にハンカチに包む
もうこの木が花を付けることはないのだろうと一目見ただけで分かってしまう
「気が済んだなら帰るぞ」
「……うん、ありがとね、元親」
「それ、どうすんだ」
「ん?あぁ、押し花にでもしようかと思って」
そんな事を言いながら来た道を下る
元親は妖で、私は人間
住む世界が違うし、元親の事が見える人は殆どいない
私の記憶の中だけの思い出だけど、ここで彼と夜桜を見ながら酒を交わした事を、この桜がこの先ずっと証明してくれるような気がした
邯鄲の夢の夢
人が桜を儚いと思うように、彼もまた、人は儚いと思うのだろうか