「早瀬さんはいない？ 幼馴染とか、相棒とか、親友とか」

「え……ああ、そうですね。幼馴染、はいるような、いないような？」

でも卯月さんのいう幼馴染が幼稚園や保育園からずっと一緒だという意味なら、それはいない。小学校に上がる前に転校している私には、それほど長い間一緒の人はいない気がする。……高校、離れちゃったしなあ。

「じゃあ兄弟は？ 俺は姉ちゃんがいるよ。我らが王様、始さん推しです」

Vサインを作る卯月さんは無表情だけど、どこか誇らしげに見える。
案外感情が豊かな人なのかもしれない。表情も豊かになればわかりやすいのに。

「私、一人っ子なんですよ〜。おかげで一人遊びが達者な子供でした」

なんて笑って。
気づくのがもっとはやければ未然に防げたのに。
この後言われる台詞なんて、いつも一緒なのに。


「へえ、いいな、一人っ子。大事にされてそう」


言葉は人を簡単に苦しめることができる。意図していなくても、簡単に傷つけることができる。
わかってる。ちゃんとわかってるよ。卯月さんは知らない。だから言っただけ。ただの世間話として、相手を知るために、親睦を深めるために話を振ってくれたんだ。未然に防げなかった私が悪い。だから、大丈夫、大丈夫、大丈夫____

「知った風な口聞かないで」

唱えた『大丈夫』は無意味だった。口から出た言葉はもう戻らない。

「……戻ります」

私は居た堪れずに現場へ逃げた。






…………いや、いやいやいや。でも流石におかしくない？ 言われる前に気づけよ私って反省もするけど、卯月さんもいきなり突っ込んでくるな？ 初めて会ったわけじゃないけど、撮影前に何回か会っているけど、普通聞く？ 家族のこととか聞いちゃう？ 地雷かもでしょ私は地雷ですダメです自分を制御できないんです！ 知っとけよとは言えないけど考えろ！ 年上だよね？ っあーーーイライラする！！


違う、こんなのはただの八つ当たりで、卯月さんは何も悪くない。自分の悪態を他人のせいにしてはいけない。でもイライラはする。

「あ、暦ちゃん！ そろそろ撮影再開するよー」

うん、今日の撮影もうダメだー。