五条悟だから

「私ね、来月から補助監督やめるんだ。呪術師になるの!」

「は?」


五条悟だから

「前から相談してたんだけど、私も呪術師として戦いたいと言うか…助けたいなって思ってて…」


五条は私のその言葉を聞いてるのか聞いてないのか。ただ無表情のまま話を聞いていた

「ふーん、お前呪術師になんの」

「うん!」


やっと返事はしてくれたけど…どこか塩らしいツンケンした声だ。目元が見えないから賛成してくれているのか分からなかった

「僕は反対」

「え……どうして?」


椅子に腰かけた五条がコーラ缶をカシュッと開けて私に指を指す



「だってそもそもさ、お前七海より弱いもん。自分でよくイけると思ったね」

「…私だって戦えるもん。全く戦えない訳じゃ「"僕"から見たら戦える戦えないの問題じゃないんだよ。単純に言って"弱い"」


貶しまくる五条の口元は笑みを浮かべている。いつもの挑発しているような笑い方だ

「呪術界も世が末なんじゃない?硝子は前線立つタイプじゃないし、反転を他者にかけられる。後ろから外せない人材だ。それに比べて見てみろよ、お前は別に補助監督でも多少の動きはできるワケ…人手不足なら動けるヤツ前に出してもいいだろって話が通ったようなもんだろ」


(五条にも話しておこうと思った私が馬鹿だった…)

「という訳で、[#da=1#]の呪術師繰り上げへの話は僕が取り下げとくから」

「はぁッ!?」



携帯を取り出した五条が伊地知さんに電話をかける

「ちょ「もしもし伊地知ぃ?[#da=1#]が今度から呪術師に繰り上げになったって聞いたんだけど。あ〜…うんうん。それ取り消しといてさぁ、僕の補助監督に付けてよ。そうそう!伊地知も楽になるよ〜。僕が言ったって伝えて。じゃ」


淡々と内容を伝えた後、ピッ と軽く通話を切った五条が口角を上げる

「どう言うつもり!?折角私が出世できるってのに!」

「出世もクソもないでしょ。さっきも言ったけどさ、[#da=1#]は弱いんだって。だからホラ」

「ッ゛……!?」



五条side

あー、あぁ……
本当に馬鹿だな
自分で墓穴掘るようなモノだ

呪術師になる、なぁんて


(自分のための墓を掘るようなものだ。一生懸命深く深く…)


「ほぉら…僕が後ろに回ったことも気づかないし……。反撃もできない」

[#da=1#]の真後ろに回り込んで腕を捻り上げる。悪いなんて思わなかった。そもそも呪術師になるとか言うコイツが悪い



「そ……れは、五条だから…何も「しないって思った?ざぁんねんでした♪過去には変身の術式を使われてぶっ殺された呪術師も何人かいまぁ〜す」

「……」

「ねぇさ、もしここにいる僕が変身できる呪霊だったら……お前、軽く死んでるんだよ」


こんなにも弱くて
こんなにも小さくて

「この掴んでる腕だって、ちょっと力を入れればへし折れる」

メリッ

微かに力を強めると[#da=1#]が目元をキュッと瞑る



(こんなもんかな)

手を離すと彼女は僕から離れて少し距離をとった。その目は警戒の色を含めながらしっとり濡れていた


「ま、流石に同級生だもん。注意っていうか警告というか…早い話、やめろって言いたいだけだよ」



僕だってこれ以上……
死体を積み重ねたくはないんだから



[#da=1#]side

目の前にいる五条に
私は確かな恐怖を覚えていた

昔、眩しいほど光っていた蒼は今も澄んでいるはずなのに…。まるでそこに泥水を流し込んだかのような恐ろしさが隠れているような…



「僕が怖い?」

「え……?」


私を指さした五条が軽く笑った

「脈拍の上昇と体温の低下」

「それはだって……五条が脅すから」



まるで敵みたいに、マジの声でそんな事を言うから

「警告されて私が引き下がると思う?」



逆にそういうと五条はキョトンとしたような顔でしばらく考え込む

(どんなもんだと返事を待っていたら、予想外の反応が返ってきた)





「引き下がらないなら、僕が[#da=1#]を二度と呪術師と関係を持たない遠い場所に持って行ってあげる」


眩しいほどの笑顔
マジの声

「いやならいっその事、世界丸ごと呪霊が湧かないように綺麗にしようか?……傑みたいに」

「!」

冗談に聞こえないその言葉に、私は固まった


「なんでそこまでするの?」


同級生の警告にしては度が過ぎる。硝子が前線に出るとしても五条は同じように言うのだろうか?

「ただ意地悪したいだけ?私の反応見て楽しみたいだけなんでしょ?高専の時もそうだったじゃん」


きっとそうだ。いつもの意地悪にリアルっぽい話持ち込んで脅してるだけで

「意地悪で世界は吹き飛ばないって。マジだから吹き飛ぶんだろ?呪いは人間から生まれる負の感情。だから傑は非術師を殺したんだ」

「でも……」

「僕はさ、[#da=1#]が好きなんだよ。好きなやつが死ぬくらいならその原因になるモノを消した方がいいと思うんだよね。僕なら簡単だよ」


(好き……?五条が私を?)

考えてる間に零れる微かな茈の光に私はゾッとしてその手を抑え込む

「分かった!呪術師にはならないから!その…さっきの好きって……なんなの?」

「そのまんまの意味だって。分かんない?」



五条side

目線を[#da=1#]に合わせて目隠しを外す。さっきまでヒンヤリしていた体温は熱いほどに上昇していた

(分かりやすすぎ)

「ねぇ[#da=1#]。ずっと僕の補助監督でいてよ。呪術師になるなんて言わないでさ」

「…なんで?いつからそんな……」

僕と一切顔を合わせてくれない[#da=1#]がまるで独り言のようにボヤいた


『五条〜!』


「ん〜……。ビックリするほど昔かな」

『大丈夫?五条、いつもと少し違くない?』

「いつ?」

「高専の……傑がいなくなるもう少し前から」

「え、結構昔だね」



ビックリしたように人差し指を口元に当てた[#da=1#]が急に愛らしく見えた。想いをようやく伝えられたからだろうか?

「ハハッ……実は硝子も傑も知ってたよ。僕が[#da=1#]を好きな事」

「嘘だぁ…みんな普通だったよ!」

「"俺"が中々[#da=1#]に好きだって言わねーから。言えねぇってビビってんのが面白かったんだろ」


どうしても言える空気じゃなくなった。傑がいなくなってからはずっと


「じゃあ、私がもっと驚く事言ってあげようか」


その時、ずっと俯いてた[#da=1#]が真っ直ぐ僕に目を合わせた。[#da=1#]の瞳の中には驚いた顔の僕がいる


「私は誰にも言わなかったけど、五条が入学式の時…教室に入ってきてさ」

『うわ、雑魚そ〜な顔。オ゛ッエー!』


「最悪だなって思ったけど、全部持ってかれたの。五条の眼が綺麗だったから。きっと心は凄く凄く澄んでて綺麗なんだろうなって」



だから先に好きになった私の勝ち



そう言った[#da=1#]が白状したかのように頬を染めて笑った。邪気のない子供みたいな笑顔で


「はーーーーーーぁ〜〜〜……」

「何そのため息」


何も分からないご様子で

「いやぁ…なんでもないなんでもない。取り敢えず僕らは両想いって事でいいね?」

「え、ぅん……?そうだね」


机に全体重を乗せてダラけると[#da=1#]は心配して僕を揺すった

「五条大丈夫?」

「ダメ……」

「ごじょ〜〜く〜ん」



この子は僕が好きって事をちゃんと分かっているのだろうか。いいや分かってないだろうな〜

(分かってて耳元で僕を呼ぶか?僕の理性消えちゃうよ)

「悟くん」




あ、無理だ
これは[#da=1#]が悪い

不意に名前で呼ぶ彼女の腕を掴む。軽くリップ音を残して甘く口付けてやれば[#da=1#]は有り得ないと顔を真っ赤に染めていた


「これからも名前で呼んでよ」

こじれた僕の恋心
[#da=1#]が呪術師になるなんて、世界が滅ぶことになってもやらせない

[#da=1#]が呪術師になるくらいなら、一生僕が閉じ込めておけばいい。ワガママなんてなんでも通る

「……さとるくんのバカ…」

「ハハッ」

(だって僕は"五条悟"だから)

END
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