「僕を助けに来た…ってさ。君は未来から来たってこと？学長との面談でも変なこと言ってたよね"失うに惜しい存在"だって。僕が死ぬって言いたいの？」

単刀直入に言えばそういう事になるだろう。"失う"つまり僕はこの先の未来で死ぬと言うこと

「…まぁそんな所」
「病気か何か？」
「うんん、宿儺との戦いで」

へぇ、僕負けるんだ
戦ったとしてどっこいだと思ってたんだけどな…

「でも相手は宿儺でしょ？君が助けに来たとしても入る隙あるかなぁ？」

今の名無しは反転術式が使えるただの術師だ。体術も呪力量も全て把握しきれていない、ゲームで言う初期設定状態

「私、たった一回でも悟の代わりになるよ。それさえ出来れば悟は死なないから」

「意味分かんないって。そもそも最初から名無しが死ぬ前提で話が進んでるのがおかしい」


僕の為にわざわざ死にに来た様なものだ。この子にはその自覚があるのだろうか？

「少なくとも"私"の中で"私"が望んだ結末を辿って欲しいだけだからさ。気にしないでよ」

名無しがほんのり頬を染めて笑った

「盾になんかならなくていいって。僕がやられるタイミングさえ分かれば十分」

「言わないよ。教えちゃったら悟は私を引き離そうとするもん。悟と宿儺の戦いは新宿で……術師はモニター越しにそれを見る設定になってる。足でまといでも良いからさ、騙されたと思って私を連れて行ってよ」


『約束』そういった名無しの携帯が着信音を鳴らした

「わ、学長だ。私に用事かな？」

「実は僕もかかって来てるんだけど、全件拒否してるんだよね〜。今は名無しとデートしてるから忙しいと言うことで！」

「なんて事を！」

焦ったように電話に出る名無しが不安そうな顔で口を開いた

「もしもし、名無しです」
『高専内の設備は教わったか？』
「大体は……まぁ？」

(自分の望んだ結末…ねぇ……)

『そうか。ならば今度は教員服を取りに来て欲しい。どうせ悟に引きずり回されているんだろう？』

「あはは……」

『まぁいい、悟も気が済めば戻るはずだ。教わるのは校舎設備と術式の使い方だけでいい。それ以外は手本にするんじゃないぞ』


スピーカーから聞こえる声に僕は思わずフスッと乾いた笑い声を漏らす。学長も何だかんだで頼りにしてくれてるのは気分が良かったからだ

「電話終わった？」

「うん。今日はゆっくりしてていいって。本格的に動くのは明日から」

よかったぁなんてホッとため息をつく名無しの前で僕はわざとらしく『あ〜忘れてた！』と声を出す

「なになに？悟に何か任務入ってたとか？」

「寄り道していい？」
「いいけど…どこに？」
「実家」
「え？」