正論
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※灰原は本編と同じEND
※暗いです
乗り越えられる術師の方は先へお進み下さい
↓↓↓
「名無しちゃん、コンビニでパンと飲み物買ってきたよ!コーヒー微糖で良かったっけ?」
七海くんと灰原くんがコンビニから戻ってくる。私はその間、家入先輩に少し前任務で負った怪我を治してもらっていた
「完璧!ありがと〜。ごめんね、三人で買いに行きたかったのにパシリみたいにしちゃって」
「怪我は治りましたか?」
七海くんが灰原くんの後ろから声をかける。私は問題ないと返した
「本当は私も先輩みたいに"ひゅ〜ひょい"出来れば七海くんと灰原くんの怪我、簡単に治せちゃうのになぁ…」
「気にしなくていいよッ!七海は分からないけど、自分は結構タフな方だからちょっとやそっとじゃ死なないし!」
そう言って灰原くんが笑った。七海くんはそんな灰原くんにため息をつきながら私にパンと飲み物を渡す
「ありがと」
「前から思ったけどさ、名無しちゃんって見た目は小さいのにご飯沢山食べるよね!」
灰原くんがモグモグとパンを食べながらそういった。七海くんはそんな灰原くんに食べ終わってから話すようにと説教をする
「沢山食べる子っていいよね!凄いなーって思うッ!ね、七海もそう思うよな!」
「なんで私に……」
ピロリン
携帯が音を立てる。開いてみればそこには一件のメッセージ
「誰から?」
灰原くんがカシュッと缶を開けながらそう聞く
「……夏油先輩から。ご飯誘ったんだけど…食欲ないからって断られちゃった」
「最近元気なさそうに見えますよね。一年生の私から言ってしまえば失礼ですけれど」
七海くんが缶をゴミ箱に捨てて『あッ』と声を漏らす
「どしたの?」
「この後確か三人で任務でしたよね。そろそろ向かいましょう」
「ちょっと待って七海!置いてかないでよッ!」
廊下に私たち三人の笑い声がこだました。私たちはそのまま任務に向かって任務を終えて、報告書を書いて提出して……
いつものようにそうする予定だった
五条side
…
「傑」
ガコン
自販機が音を立てる。最近口数が減った親友が振り向いて『どうした?』と口を開いた
「どうしたってお前の方だろ。最近元気なくね?……天内の事は悔いても仕方ねぇだろ。あの時の感覚を活かして「ハハッ……」
傑が乾いた笑い声を出す。微かに汗をかいたコーラ缶を開けて普段通り涼しげに笑った
「悟のクセに、失敗した事を"活かしていこう"なんて思うことあるんだね」
「そうするしかねぇから。あれは……俺がしくった事だから、お前は気にすんなって」
最近傑と任務がすれ違うせいで心情が分からねぇ。でも、しんどそうなのは確かだろう
『ぅげッ!五条先輩…』
「そんな顔してると、可愛い後輩が心配すると思うケド?」
「……そうだね。でも確か今日は午後から任務があるとか言っていたから…今の時間は居ないと思うよ」
(連絡取ってやんの…やっぱしアイツの事好きなんじゃん)
硝子から聞いた
『名無し?ぁ〜……あの子多分夏油に惚れてるんじゃない?なに、夏油も惚れてんの?』
「ま、後で名無しに顔出してやれよ。それまでに出せる顔整えとけよ」
「君に言われなくても、そうするさ」
夏油side
…
「……」
「七海、大丈夫かい?」
一年が任務から戻って来たと聞いた。生還者"二名"、うち一名"重症"
「…土地神でした」
聞いていた。一年に務まるような案件ではないと、三人で戦った中で灰原は……
「名無しはどうした?」
「家入さんが集中治療室で見てくれています。彼女も相当のダメージを受けているので……助かるかは分かりません」
徐々に落ちていく七海の声のトーン。名無しが生死不明?そんなまさか…彼女の術式は自身、他者への強化付与だ。予め防御力を高めておけば…
「相手の動きが早かった。彼女が防御力を付与するより前に、真っ先に攻撃を受けたんです。続けて灰原も、灰原は……即死でした」
「…もういいよ。七海も休むといい」
『夏油先輩!』
呪いは人から生まれる負の感情
『呪霊操術って不思議ですよね。取り込んだ呪霊とかってどうなるんですか?』
彼女がもし
…もし、死んだら?
一般市民に、殺された事になる訳か
ピタリ
集中治療室の前で足が止まる
「……」
ガラッ
「うわ、ビックリした……なんだ夏油か。こんな所で何してんの」
言わなくてもわかっているくせに、と言う顔で黙っていれば硝子は深くため息をついた
「生きてる」
「!」
「だが欠点付きだ。左半身にダメージが強く出てた」
名無しが生きている
そう聞いて私はすぐ治療室の中へ飛び込んだ
「名無し!」
「まだ麻酔が効いてるから暫くは起きないよ。左目抉られて片腕も吹き飛んでるのに…生きてるのが奇跡ってところだね」
硝子の声が聞こえる
いや、それよりも強いのは私の耳鳴りか?頭が真っ白になりそうだ
左目は硝子が手当したであろう眼帯があてられ、掛けられていた布団の半分が歪にへこんでいた
「他に何もないのか?」
「本人が目覚ましてからじゃないとなんとも言えないけど…外部からの攻撃は目に見える部分だけだよ」
目を覚ますまで見てやっててくれ
硝子が一服してくると治療室を出た。硝子なりの優しさだろう、後でなにか奢ってやろうと思った
「呪術は……」
『もっとみんなと…一緒にいたいッ!』
「非術師を守るために……」
『夏油さん!お疲れ様ですッ…』
『夏油先輩!』
それは……
「"正論"…なのか?」
『どうする?コイツら殺すか?』
プツン
何かが切れた音がした
やるべき事が固まったような…そんな感覚
「名無し……私は君を死なせない。死なせたくない」
「……」
君が目を覚ましてしまったら…きっと私を止めるんだろうな。どんな顔をしてくれるんだろう?ひょっとして私に着いてきてくれる?
(そんなまさか)
「君は真面目でいい子だから」
きっと私の味方はしてくれない
「そうだよね」
名無しに軽く口付ける
いつもの優しい香りはしなかった
ツン…とした冷たい薬の匂いがした
名無しside
…
右の視界だけがぼやける…
頭が痛い…
(そっか……私は土地神に…七海くんは大丈夫かな?)
軽くジャケットを羽織って廊下に出る。真っ先に会ったのは五条先輩だった
「名無し、目ぇ覚めたんだ。傑がそば付いてたろ?いる?」
(え…夏油先輩?)
「たった今目を覚ました所ですけど…夏油先輩はいませんよ」
「どこ行ったんだよアイツ……」
ガシガシ頭をかいた五条先輩がフゥ…とため息をついて口を開く
「もうどこも痛くねぇの?」
「えと…まだ頭は少し痛いですけど、傷はそんなでもないです。左側だけ不自由ですけど」
「ふ〜ん」
五条先輩のくせに心配してるの?
少し嬉しいかも…と少し視線を下に落として頬が緩んだ私が馬鹿だった
「ならお前、もう術師辞めちまえよ」
ケロッと吐いたその言葉に私は言葉をなくす
「だってソレさ、左から攻撃来たって気付かねぇだろ」
「そんな事……」
ないって上を向いて言おうとした時、前に五条先輩はいなかった
「バーン」
右隣から聞こえた声にハッとして振り向くと、額に先輩の指が当てられる
「ホラ、死んだ」
「……」
「俺は別にお前が続けようが続けまいがどっちでもいいけどさ、傑が持たねぇって話」
夏油先輩が持たない?
「傑分かりやすい奴だからさ、顔に出んだよな〜。お前の事が心配だって」
「でも、それは呪術師になら誰でも構わず持ち合わせる心じゃないですか」
「鈍いねー名無し。たかが後輩たった一人にほぼ丸一日付きっきりする心理分かんねーの?」
かわいそー
五条先輩が周りを見渡して夏油先輩を探した。具合が良くなってからでいいから探すのを手伝って欲しいって
「五条先輩ならすぐに見つけられるんじゃ……」
「ん〜、まぁ…行きそうな場所ならなんとなく分かるけど。名無しが探してやった方が喜ぶと思うから」
「先輩!」
出ていこうとする五条先輩を思わず止めた
「すぐ探しに行きたいです」
「お前、ホントそういう所だよな」
深くため息をついた五条先輩が私の頭をポンと叩いて笑った
「真っ直ぐド正論パンチ。傑が惚れる訳だわ」
行くぞって夏油先輩が行きそうな場所を順に回る。でもどこを巡っても夏油先輩はいなかった
「わ……」
通りかかる人にぶつかる。一般人からは呪力を感じない。だからその分左側にばかり意識を集中させるせいで感覚が鈍ってしまうのだ
「お前少し休んだら?左腕がねぇんじゃ重心が傾いて余計疲れてんだろ。ほら、そこのベンチ座って待ってろよ。何か飲み物買ってきてやるから」
五条先輩が人混みの中に消えていく。七海くんと灰原くんに会いたかった。私がサポートを遅らせてしまったせいで…きっと二人とも……
「名無し?」
「ぁ……夏油先輩」
夏油side
…
私が非術師に対しての悩みを抱えていた時、新宿駅の前でベンチに座り込む名無しに会った。左目の眼帯と、見えはしないがジャケットの不自然なへこみが痛々しかった
「こんな所で何をしているんだい?」
「探してたんですよ。夏油先輩の事」
「……私を?」
名無しの隣に座ると彼女は俯いて呟くように言葉を紡ぐ
「七海くんと灰原くん……二人とも無事ですか?まだ会ってないので分からなくて…」
『灰原は……即死でした』
「…七海は無事だよ」
「灰原くんは…?」
「……」
「…夏油先輩?灰原くんも無事なんですよね?」
彼女の視線を直視できない。なんと伝えれば名無しは傷つかないだろうか?
「夏油先輩は優しいから…気を使ってくれるんですね。……灰原くん、死んじゃったんですか?」
「…すまない」
「いいえ……悪いのは私なんです。聞いていた呪霊の情報よりうんと強そうで…私、少し躊躇って……。付与するより前に左半身全部もっていかれたんじゃないかってくらいに何も見えなくなったんです」
怖かっただろうに、震える声で事を打ち明ける名無しが鼻をすすった
「私がしっかりしなかったから……灰原くんは…七海くんだって傷つかずに済んだことなのに……」
それは違う
「君はよく頑張ったよ。生きていてくれて良かった」
お陰で迷いが晴れた気がする
「夏油先輩、どこ行くんですか?」
「この後は集落に生まれた呪いを祓いに行く予定なんだ。悟にも体には気をつけろって言っておいてくれるかい?」
「五条先輩は今飲み物買ってきてくれているので…もうすぐ戻ってきますよ。五条先輩にも顔見せてあげてください」
名無しが立ち上がる私の服の裾を軽く引っ張った
「また今度顔を出すよ。今は先を急ぐから」
悟に言った"正論"は、あの時の私にとって確かな正論のはずだった
呪いは人間の負の感情から生まれる。見ず知らずの人間から生まれた負の感情に灰原は殺された。いつか彼女もそうなりかねない
自分の大切なものを守るためなら、それを脅かす猿を葬ればいい。そうすれば悟だって無理をしなくなるはずだ
「私が全て片付ければいい」
END
※暗いです
乗り越えられる術師の方は先へお進み下さい
↓↓↓
「名無しちゃん、コンビニでパンと飲み物買ってきたよ!コーヒー微糖で良かったっけ?」
七海くんと灰原くんがコンビニから戻ってくる。私はその間、家入先輩に少し前任務で負った怪我を治してもらっていた
「完璧!ありがと〜。ごめんね、三人で買いに行きたかったのにパシリみたいにしちゃって」
「怪我は治りましたか?」
七海くんが灰原くんの後ろから声をかける。私は問題ないと返した
「本当は私も先輩みたいに"ひゅ〜ひょい"出来れば七海くんと灰原くんの怪我、簡単に治せちゃうのになぁ…」
「気にしなくていいよッ!七海は分からないけど、自分は結構タフな方だからちょっとやそっとじゃ死なないし!」
そう言って灰原くんが笑った。七海くんはそんな灰原くんにため息をつきながら私にパンと飲み物を渡す
「ありがと」
「前から思ったけどさ、名無しちゃんって見た目は小さいのにご飯沢山食べるよね!」
灰原くんがモグモグとパンを食べながらそういった。七海くんはそんな灰原くんに食べ終わってから話すようにと説教をする
「沢山食べる子っていいよね!凄いなーって思うッ!ね、七海もそう思うよな!」
「なんで私に……」
ピロリン
携帯が音を立てる。開いてみればそこには一件のメッセージ
「誰から?」
灰原くんがカシュッと缶を開けながらそう聞く
「……夏油先輩から。ご飯誘ったんだけど…食欲ないからって断られちゃった」
「最近元気なさそうに見えますよね。一年生の私から言ってしまえば失礼ですけれど」
七海くんが缶をゴミ箱に捨てて『あッ』と声を漏らす
「どしたの?」
「この後確か三人で任務でしたよね。そろそろ向かいましょう」
「ちょっと待って七海!置いてかないでよッ!」
廊下に私たち三人の笑い声がこだました。私たちはそのまま任務に向かって任務を終えて、報告書を書いて提出して……
いつものようにそうする予定だった
五条side
…
「傑」
ガコン
自販機が音を立てる。最近口数が減った親友が振り向いて『どうした?』と口を開いた
「どうしたってお前の方だろ。最近元気なくね?……天内の事は悔いても仕方ねぇだろ。あの時の感覚を活かして「ハハッ……」
傑が乾いた笑い声を出す。微かに汗をかいたコーラ缶を開けて普段通り涼しげに笑った
「悟のクセに、失敗した事を"活かしていこう"なんて思うことあるんだね」
「そうするしかねぇから。あれは……俺がしくった事だから、お前は気にすんなって」
最近傑と任務がすれ違うせいで心情が分からねぇ。でも、しんどそうなのは確かだろう
『ぅげッ!五条先輩…』
「そんな顔してると、可愛い後輩が心配すると思うケド?」
「……そうだね。でも確か今日は午後から任務があるとか言っていたから…今の時間は居ないと思うよ」
(連絡取ってやんの…やっぱしアイツの事好きなんじゃん)
硝子から聞いた
『名無し?ぁ〜……あの子多分夏油に惚れてるんじゃない?なに、夏油も惚れてんの?』
「ま、後で名無しに顔出してやれよ。それまでに出せる顔整えとけよ」
「君に言われなくても、そうするさ」
夏油side
…
「……」
「七海、大丈夫かい?」
一年が任務から戻って来たと聞いた。生還者"二名"、うち一名"重症"
「…土地神でした」
聞いていた。一年に務まるような案件ではないと、三人で戦った中で灰原は……
「名無しはどうした?」
「家入さんが集中治療室で見てくれています。彼女も相当のダメージを受けているので……助かるかは分かりません」
徐々に落ちていく七海の声のトーン。名無しが生死不明?そんなまさか…彼女の術式は自身、他者への強化付与だ。予め防御力を高めておけば…
「相手の動きが早かった。彼女が防御力を付与するより前に、真っ先に攻撃を受けたんです。続けて灰原も、灰原は……即死でした」
「…もういいよ。七海も休むといい」
『夏油先輩!』
呪いは人から生まれる負の感情
『呪霊操術って不思議ですよね。取り込んだ呪霊とかってどうなるんですか?』
彼女がもし
…もし、死んだら?
一般市民に、殺された事になる訳か
ピタリ
集中治療室の前で足が止まる
「……」
ガラッ
「うわ、ビックリした……なんだ夏油か。こんな所で何してんの」
言わなくてもわかっているくせに、と言う顔で黙っていれば硝子は深くため息をついた
「生きてる」
「!」
「だが欠点付きだ。左半身にダメージが強く出てた」
名無しが生きている
そう聞いて私はすぐ治療室の中へ飛び込んだ
「名無し!」
「まだ麻酔が効いてるから暫くは起きないよ。左目抉られて片腕も吹き飛んでるのに…生きてるのが奇跡ってところだね」
硝子の声が聞こえる
いや、それよりも強いのは私の耳鳴りか?頭が真っ白になりそうだ
左目は硝子が手当したであろう眼帯があてられ、掛けられていた布団の半分が歪にへこんでいた
「他に何もないのか?」
「本人が目覚ましてからじゃないとなんとも言えないけど…外部からの攻撃は目に見える部分だけだよ」
目を覚ますまで見てやっててくれ
硝子が一服してくると治療室を出た。硝子なりの優しさだろう、後でなにか奢ってやろうと思った
「呪術は……」
『もっとみんなと…一緒にいたいッ!』
「非術師を守るために……」
『夏油さん!お疲れ様ですッ…』
『夏油先輩!』
それは……
「"正論"…なのか?」
『どうする?コイツら殺すか?』
プツン
何かが切れた音がした
やるべき事が固まったような…そんな感覚
「名無し……私は君を死なせない。死なせたくない」
「……」
君が目を覚ましてしまったら…きっと私を止めるんだろうな。どんな顔をしてくれるんだろう?ひょっとして私に着いてきてくれる?
(そんなまさか)
「君は真面目でいい子だから」
きっと私の味方はしてくれない
「そうだよね」
名無しに軽く口付ける
いつもの優しい香りはしなかった
ツン…とした冷たい薬の匂いがした
名無しside
…
右の視界だけがぼやける…
頭が痛い…
(そっか……私は土地神に…七海くんは大丈夫かな?)
軽くジャケットを羽織って廊下に出る。真っ先に会ったのは五条先輩だった
「名無し、目ぇ覚めたんだ。傑がそば付いてたろ?いる?」
(え…夏油先輩?)
「たった今目を覚ました所ですけど…夏油先輩はいませんよ」
「どこ行ったんだよアイツ……」
ガシガシ頭をかいた五条先輩がフゥ…とため息をついて口を開く
「もうどこも痛くねぇの?」
「えと…まだ頭は少し痛いですけど、傷はそんなでもないです。左側だけ不自由ですけど」
「ふ〜ん」
五条先輩のくせに心配してるの?
少し嬉しいかも…と少し視線を下に落として頬が緩んだ私が馬鹿だった
「ならお前、もう術師辞めちまえよ」
ケロッと吐いたその言葉に私は言葉をなくす
「だってソレさ、左から攻撃来たって気付かねぇだろ」
「そんな事……」
ないって上を向いて言おうとした時、前に五条先輩はいなかった
「バーン」
右隣から聞こえた声にハッとして振り向くと、額に先輩の指が当てられる
「ホラ、死んだ」
「……」
「俺は別にお前が続けようが続けまいがどっちでもいいけどさ、傑が持たねぇって話」
夏油先輩が持たない?
「傑分かりやすい奴だからさ、顔に出んだよな〜。お前の事が心配だって」
「でも、それは呪術師になら誰でも構わず持ち合わせる心じゃないですか」
「鈍いねー名無し。たかが後輩たった一人にほぼ丸一日付きっきりする心理分かんねーの?」
かわいそー
五条先輩が周りを見渡して夏油先輩を探した。具合が良くなってからでいいから探すのを手伝って欲しいって
「五条先輩ならすぐに見つけられるんじゃ……」
「ん〜、まぁ…行きそうな場所ならなんとなく分かるけど。名無しが探してやった方が喜ぶと思うから」
「先輩!」
出ていこうとする五条先輩を思わず止めた
「すぐ探しに行きたいです」
「お前、ホントそういう所だよな」
深くため息をついた五条先輩が私の頭をポンと叩いて笑った
「真っ直ぐド正論パンチ。傑が惚れる訳だわ」
行くぞって夏油先輩が行きそうな場所を順に回る。でもどこを巡っても夏油先輩はいなかった
「わ……」
通りかかる人にぶつかる。一般人からは呪力を感じない。だからその分左側にばかり意識を集中させるせいで感覚が鈍ってしまうのだ
「お前少し休んだら?左腕がねぇんじゃ重心が傾いて余計疲れてんだろ。ほら、そこのベンチ座って待ってろよ。何か飲み物買ってきてやるから」
五条先輩が人混みの中に消えていく。七海くんと灰原くんに会いたかった。私がサポートを遅らせてしまったせいで…きっと二人とも……
「名無し?」
「ぁ……夏油先輩」
夏油side
…
私が非術師に対しての悩みを抱えていた時、新宿駅の前でベンチに座り込む名無しに会った。左目の眼帯と、見えはしないがジャケットの不自然なへこみが痛々しかった
「こんな所で何をしているんだい?」
「探してたんですよ。夏油先輩の事」
「……私を?」
名無しの隣に座ると彼女は俯いて呟くように言葉を紡ぐ
「七海くんと灰原くん……二人とも無事ですか?まだ会ってないので分からなくて…」
『灰原は……即死でした』
「…七海は無事だよ」
「灰原くんは…?」
「……」
「…夏油先輩?灰原くんも無事なんですよね?」
彼女の視線を直視できない。なんと伝えれば名無しは傷つかないだろうか?
「夏油先輩は優しいから…気を使ってくれるんですね。……灰原くん、死んじゃったんですか?」
「…すまない」
「いいえ……悪いのは私なんです。聞いていた呪霊の情報よりうんと強そうで…私、少し躊躇って……。付与するより前に左半身全部もっていかれたんじゃないかってくらいに何も見えなくなったんです」
怖かっただろうに、震える声で事を打ち明ける名無しが鼻をすすった
「私がしっかりしなかったから……灰原くんは…七海くんだって傷つかずに済んだことなのに……」
それは違う
「君はよく頑張ったよ。生きていてくれて良かった」
お陰で迷いが晴れた気がする
「夏油先輩、どこ行くんですか?」
「この後は集落に生まれた呪いを祓いに行く予定なんだ。悟にも体には気をつけろって言っておいてくれるかい?」
「五条先輩は今飲み物買ってきてくれているので…もうすぐ戻ってきますよ。五条先輩にも顔見せてあげてください」
名無しが立ち上がる私の服の裾を軽く引っ張った
「また今度顔を出すよ。今は先を急ぐから」
悟に言った"正論"は、あの時の私にとって確かな正論のはずだった
呪いは人間の負の感情から生まれる。見ず知らずの人間から生まれた負の感情に灰原は殺された。いつか彼女もそうなりかねない
自分の大切なものを守るためなら、それを脅かす猿を葬ればいい。そうすれば悟だって無理をしなくなるはずだ
「私が全て片付ければいい」
END
1/1ページ