わたしが手を伸ばしたシナリオ

 アベラは食堂に来た。道場の掃除でヘトヘトになり、体が栄養を求めている。午後は廊下掃除。これが大変。人数が少ないので、何とか終わらせられるぐらい。もう少し増やしてくれたらいいのに、とアベラは最初は思っていた。
 けれどこの掃除は良いトレーニングだった。ほうきでゴミを集め、モップ掛けをし、最後に乾拭き。人が少ない分、全力で掃除をしないと終わらない。入隊してから、掃除などの雑用だけで体力がついた。雑用なんて、なんて思ってはいけない。
 アベラは早く終わらせて情報収集と走り込みをしよう、とやる気に満ちていた。同じ場所を担当している雑用達からは、「お前のおかげでサボれる」と言われているが、気にしていない。
 今日は三〇分早く終わらせよう。お腹空いた、お腹空いた、とトレイを持ちながら昼食のメニューを眺め、アベラは、目を輝かせた。
「クリームシチュー!」
 入隊してから初めてのシチュー。アベラはシチュー好きだ。ただ、母のクリームシチューしか食べたことがないので他は知らないのだが。
「たくさん食いな!」
「ありがとうございます!」
 アベラを見て、料理を並べていたコックが嬉しそうに笑う。
 自慢の料理だ。ここの料理は美味い、と海兵達から評判が良く、料理長もコックも誇りに思っている。世界中に点在する海軍支部の料理長が視察に来るぐらい。
「美味しそう」
 見た目は母のクリームシチューと同じ。舌は母のシチューを思い出し、口の中がその味になっていた。シチューの他にも緑色の何かや茶色の何かを皿に盛り付けたが、アベラはシチューしか見ていないので何かは分かっていない。
 アベラは嬉しさのあまり鼻歌を歌っていた。たくさん食いな!、と言ったコックは、作り甲斐のある奴だ、とニコニコとアベラの様子を眺める。
 アベラは厨房に近い席に座った。背筋を伸ばし、息を吸う。
「いただきます!!」
 周りで食事をしていた海兵達がアベラの元気な声に驚き、ある海兵は危うく皿を落としそうになった。
 メシ食うだけで騒ぐな! すみません…!
 下っ端が、と見下す視線なんて気にせず、周りに二回頭を下げたアベラはもうシチューに釘付け。
 スプーンを持ち、クリームシチューを掬い、大きな口を開けて、嬉しそうに頬張った。
「……」
「どうした」
 見下していた海兵が怪訝そうにアベラを見る。
 アベラはスプーンを咥えたまま、動かなくなった。輝いていた瞳は陰りを見せ、ピンと伸びた背中はおばあちゃんのように丸まっている。
 お、おい…。大丈夫か?
 本当は優しい海兵だったのか、見下し海兵はアベラを不安そうに見る。だが、その不安はすぐにどこかへ行ってしまった。
「……美味しくない」
「はぁ!?」
「あ、いえ。美味しいんです……」
 どっちだよ! 美味しいですが、美味しくないんです……。
 アベラはもう一度クリームシチューを食べる。
 口を動かし、喉を動かし、「美味しいのに美味しくない」、と呟く。
「美味いだろ」
「貴方はもっと美味しいクリームシチューを知らないだけなんです……」
「んだと?!」
 たかが下っ端が……!、と見下し海兵がまたアベラを見下すが、アベラはもそもそとクリームシチューとサラダとパンを口に入れ続ける。
 あいつ、上級に動じてねェそ……。何者だ、あいつ。
 上級の海兵に睨まれながら、同じ雑用達から好奇な視線を浴びながら、アベラは全く気にせず、トレイを持って席を立った。
「嬢ちゃん、どうだった?」
 ニコニコ顔のコックは、自信満々にアベラに尋ねた。
 すごく美味しかったです! ここの料理は世界一です! そんな答えを期待したが、食べ始める前とは比べ物にならないほど落ち込んでいるアベラを見て、首を傾げた。
「具材は、丁寧に炒めた方が良いです……」
「へ?」
 コックは笑顔のまま、素っ頓狂な声を出した。
「けど、大人数の料理の支度は大変ですよね……」
「……」
「……ごちそうさまでした」
 食事は毎日の楽しみの一つ。それがこんな気持ちで終わるなんて……。午後の掃除、頑張れるかな。
「待て」
 廊下掃除ができるのか不安なほど背中を丸めて食堂を出て行こうとするアベラの前に、突然、一人の男が立ちはだかった。
「おい、小娘」
 アベラが顔を上げると、先ほどのコックよりも長いコック帽を被った、アベラの縦にも横にも倍はある大男が腕組みをして立っている。
「料理が不味かったと?」
 その男の手には、何かが握りしめられていた。
 アベラは、あ、と思い、それをしっかり捉えようとするが、「おい」、と上から声をかけられ顔を上げる。
「質問に答えろ」
 ここでアベラは、すごく偉い人に失礼なことをしたと理解した。慌てて、申し訳ございません!、失礼しました!、と応えるが、それは大男の求める答えではない。
「ま、ず、か、っ、た、の、か。と、聞いてんだ!!」
 誰かが落としたスプーンが床に落ち、高い音が食堂に響く。
 料理長の怒りを買ったぞ、あいつ。なんて馬鹿な奴。夜はメシなしだぞ。いや、一週間はなしだ。
「いえ、とても美味しかったです!」
「先ほどの表情は、不味かった、と言っていたが?」
 違います!、誤解です!、とアベラは否定するが、料理長の青筋がなくなる気配はない。
「料理長!何も怒鳴ること……」
 たくさん食いなコックが駆け寄って来た。彼女にも事情があると、料理長を宥めようとしたが、アベラが口走った言葉で言葉を失うはめになる。
「美味しかったです。ですが、クリームシチューの具材は、丁寧に炒めるべきなんです!!」
 母は言ってました! クリームシチューは丁寧さが大事だと! 具材を丁寧に炒めて、ルーを焦がさずに丁寧に煮込むのだと!
「クリームシチューを作るからには、もっと丁寧に料理して然るべきなんです!!」
 あいつ、料理長に口答えしたぞ。支部への移動は確実だ。
 アベラは真剣だった。それは食堂にいる全員に伝わっただろう。
「……」
「……」
 少しも間違っていない。そう言いたげな熱い眼差しを料理長は真正面から受け止める。
 そして、何故か料理長の青筋がもう一本増えていた。
 たくさん食いなコックは、この場を去ろうとしていた。
「おい」
「はいぃ!」
 料理長の鋭い視線は、アベラではなくコックへ。
「炒めなかったのか……?」
「!!」
 コックの背中に戦慄が走った。顔は青ざめ、額から嫌な汗が吹き出している。
 バレた、とコックは思った。
「手抜きしてんじゃねェ!!」
「申し訳ございません!!」
 数人のコックが同時に体調を崩し、時間に間に合わないと判断したコック達は具材を炒めることをやめてしまったのだ。少しぐらいなら海兵達は気が付かない、と踏んで。
 まさか雑用の小娘に気付かれるなんて誰が想像しただろう。これはコック達の誤算だ。
「料理は海兵の生命線を左右する。忘れてんのか!」
 この小娘のしょげた表情を見ただろ。あれで戦場に行かせることになったらどうなる!? 死に行かせてぇのかテメェらは! あぁ!?
 やべー。コック全員除隊じゃね? あいつ、コック達から恨まれるぞ……。
 いつの間にかコック全員が料理長の前に立たされ、公開説教が始まっていた。海兵達はスプーンもフォークも持たず、他の野郎にも教えてやろうと珍しい光景を目に焼き付けている。
「……」
 そんな中、アベラはずっと、料理長が持つ何かに目を凝らし続けていた。
 料理への想いはどこへいった! テメェらにプライドはないのか!? たかが数人いないだけでこの有様とは。世界一と誇る厨房に立つコックとして恥を知れ! 
 もう少し、もう少しで読めそう……、とアベラは眉間に皺を深く作り、ついに、それを捉える。
『白ひげ海賊団の一人、不死鳥マルコが街を焼き尽くす!』
「!」
 アベラの目がかっと開いた。
 全ての音が遠のいていく。近くでコック達に怒号を浴びせる料理長の姿も、何度も謝るコック達の姿もアベラの視界から姿を消す。今、この空間にあるのは、アベラと、アベラが捉えている文字だけ。
 不死鳥マルコ。アベラが心の中で唱えると、体中の血液が駆け巡り、力が湧いてきた。今なら空を飛べる気がする!、とアベラが体の変化に気付いたのと、料理長の説教が終わったのは同時だった。
「小娘。手抜きをした俺達が悪かった」
「……あ、いえ」
「次作るときはお前の舌を唸らせてやろう」
「あ、はい」
「じゃ……」
「あ、あの!」
「あぁ?」
「その新聞、いただけないでしょうか?!」
「新聞?」
 料理長は持っていた新聞に目をやる。
「構わねェよ」
「ありがとうございます!」
 料理長から新聞を受け取ったアベラは、シチューを見たときの何倍も嬉しそうに新聞を広げ、その記事を見た。
「何を見てんのかと思ったら……。新聞が読みたかったのか?」
「はい!」
「大したことは載ってねェぞ。海賊どもが暴れてるって記事ばかりだ」
 新聞には、世界中の事件が載っている。中でも海賊に関わる記事は多い。どれもこれも、海賊がいかに凶悪なのかをこれでもかと伝えてくる。それは、白ひげ海賊団も例外ではなかった。
『白ひげ海賊団、海軍を撃沈。凶悪の力を前に海軍はなす術なし!』
『白ひげ海賊団、新たな島を制圧!』
『白ひげ海賊団、ルーキーを容赦なく叩き潰す!』
 アベラの耳にも海兵達の色んな声が毎日のように入ってきていた。
 なんて恐ろしいんだ。また軍艦が沈められたぞ。帰ってきた奴らに聞いたら、白ひげだけじゃねェ、他の奴らもやばいとか。どんだけ力をつけりゃ気が済むんだ。海賊王が死んでから海賊がうじゃうじゃと…。海賊は全員死刑だ、死刑。
 関わっていなければ記事にはならないので、内容の全てが嘘、というわけではない。
 けれどアベラは、信憑性のない、でっち上げな内容があることを身を以て知っている。だから海兵達の言葉は気にしていない。
「午後も仕事頑張れよ」
「はい! お掃除頑張ります!」
「晩メシは何がいい?」
「料理長の一番得意な料理が食べたいです!」
「そうか。準備してやろう」
「ありがとうございます!」
 力いっぱいの敬礼をし、アベラは新聞を大事そうに胸に抱え、食堂を出て行く。
「あいつはまだ雑用か?」
「そのようです」
 料理長は目を細め、アベラの背中を見送る。すると、その背中から熱気が溢れ出ているのが見えた。それはアベラから離れ、食堂の中へ入ってくる。
「仕込みに気合を入れろ!」
 料理長は煽られ、声を張り上げた。
 その声はアベラにも届き、どうしたんだろう?、と後ろを見る。はい!!、と応える声が聞こえ、すでに熱かったアベラの体がさらに熱を帯びた。
「私も気合い入れよう!」
 アベラはもう一度、新聞を広げる。
 そこには翼を広げ、他の海賊と戦うマルコの姿が大々的に載っていた。
「マルコさんはやっぱりすごい!!」
 廊下の掃除なんてすぐに終わらせてやる!、とアベラは廊下を駆けて行った。


× × ×


「お掃除させてください!」
「乗せねェよい」
「乗せてください! マルコさんが過ごす大切な船のお掃除がしたいんです!」
 背中にデッキブラシ、左手には雑巾が入ったバケツ。
 アベラはエプロン姿でマルコのいるモビー・ディック号までやって来た。
「どうしてここだと分かった?」
「新聞と」
「それだけで分かるとは思えん」
「偉い人の部屋に入ってこそっと聞いた情報と」
「除隊させられるぞ……」
「マルコさんへの熱い想いです!」
 ヒュ〜! 熱いねェ!
 アベラが見上げると船縁にいるクルー達と目が合った。こんにちは!、とアベラが挨拶すると、マルコからしたら野次馬でしかない野郎どもは、よう!、海軍やめてこっち来い!、俺の代わりに掃除してくれ!、と言いたい放題。
「見せ物じゃねェよい!」
 と叫ぶマルコの声は、相変わらず誰にも届かない。
 隊長でもない奴の言葉を誰が聞くか。
 船番達にとっては良い暇つぶしができたのだ。見ないわけはない。
「今日の私は掃除屋です!」
「それ、他の海賊の前で言うなよ?」
「どうしてですか?」
 マルコは盛大な溜息をつく。
 部屋で医学書を読んでいると、シチュー嬢ちゃんが来た、と呼ばれ出てみれば、海軍に入ったというのに何故か掃除道具を持っているアベラがいたのだ。
「マルコさんみたいに飛んで行けないので、梯子をかけていただけると助かるのですが……」
「乗せねェ」
「何でですか!」
「お前は海兵だろい!」
「だから今日は掃除屋です!」
「それもやめろ!」
「あれもだめこれもだめって、マルコさんは我儘です!」
「我儘なのはお前だよい!」
 痴話喧嘩? 兄妹喧嘩? 師弟喧嘩? そんなことより掃除してくれよー。
 退屈しのぎにならないやり取りなんてやめて面白いことしてくれよ、という野次馬の視線は無視し、マルコは腕を組んだままアベラの行く手を阻む。
 しかし、裏切りが、後ろからやってきた。
「シチュー嬢ちゃん! 梯子だ!」
「マルコを突破してここまで来い! 引き上げてやる!」
「!」
「お前ら、何してんだ!」
 カララララ、と船から何かが転がり落ちてくるのをアベラはすぐに捉えた。
 目の前の、自分よりも一.四倍ほどの大きさのマルコの右を走り抜けようとしたが、マルコはすぐにアベラの前に壁を作る。
「行かせるか」
「突破してみせます」
 アベラは右へ。
 左へ。
 左、と思わせて右。
 右、右、左、右、左、左、左。
 下!、と潜り抜けようとするが、あったはずの穴が塞がれ、アベラはマルコの足に正面衝突。
「抜けられない…!」
「分かりやすすぎだろ」
 どうして?!、とアベラはマルコを見る。
 何故か? そんなの……。
「敵に教えてやらねェよい」
「……!」
 アベラは左を見る。そして左へ一歩踏み出す。
 マルコはすでに目の前。
 シチュー嬢ちゃん頑張れ! マルコに負けるなー! たかが数メートルだぞ!
 そう、たかが数メートル。なのに突破できない。
 アベラには、どうすればいいのか分からない。
「諦めろ」
「……」
 雑用のアベラは、戦いに必要なことをまだ学んでいないのだ。学んだことと言えば、海兵としての礼儀や掃除の仕方。それは、戦いには何の役にも立たない。
 目の前の壁は、まだまだ高いのだ。
「マルコさんは、」
 アベラはマルコを見上げる。
 そして、デッキブラシとバケツを置いた。瞳から闘志が消え、代わりにキラキラした何かが現れる。
「やっぱりすごいですね!」
「……え?」
「マルコさんの記事を見ましたよ!」
 突然何の話?、とマルコは目を開いてアベラを見る。そんなマルコに、アベラはポケットに仕舞っていた記事を見せた。
 新聞の見出しに載るなんて。流石マルコさん! これでまた懸賞金上がるんじゃないですか?
 アベラはニコニコとマルコを褒めちぎった。
 すごい! かっこいい! 憧れのマルコさんはやっぱり強い!
「……そ、そうかよい?」
 マルコは褒められ慣れていなかった。家族達からはいつも、まだまだ、ひよっこだなァ、と言われてばかり。これほど純粋に真っ直ぐ伝えられ、恥ずかしいやら嬉しいやら。頬を掻きながらアベラの言葉を受け止める。
「そう思うか?」
「そうです!」
 マルコが、へへ、と嬉しそうに笑ったのを見て、アベラはいける、とニコニコ顔を一瞬だけニヤリ顔に変えた。
 右を見て、そして──。
「行かせるか!」
「へぶ…っ!」
「「「「あ」」」」
 大きく右足を出し、すぐに左足を前に出そうとして、マルコの左足に引っかかり地面と正面衝突。トマトが落ちて潰れたような音がして、マルコも見ていたクルー達も、しばらく大の字で倒れるアベラを呆然と眺めていた。
「……すまん! 大丈夫かよい!?」
「シチュー嬢ちゃん大丈夫かー!」
「医療班で残ってる奴いるか!?」
 盛大に転んだ!、と慌てているマルコ達の声が聞こえているのかいないのか。アベラは地面から顔を離す様子がない。
 マルコが、まさか転んだだけで命を…!?、と顔を青くしてアベラを起こそうとした、その瞬間。
「隙やり!!」
「あ!?」
 アベラは一目散に駆け出した。
 おー! まさかの演技! やるな、シチュー嬢ちゃん!!
 クルー達が、こっちだこっち、と全力で手招きをする。
 アベラは、私の勝ちだとでも言うように、クルー達に大きく手を振りながら応える。
 梯子に手をかけた。
 右足をかけ、左足をかけ、ぐっと、誰かに掴まれた気がした。 
「ぐえぇっ!」
 登っていくはずなのに、何故かアベラは後ろに大きく引っ張られ、梯子から引き剥がされた。
「わっ、わわっ…!」
 一体何が起きているのか。
 アベラは宙に浮かんでいた。いや、正しくは、誰かの手によって持ち上げられている。
「アベラ、駄目だ」
 アベラはそろりと後ろを見る。
「ジョズさーん……」
 アベラをとっ捕まえたのは、白ひげ海賊団で唯一アベラを名前で呼ぶジョズだった。
 アベラは首根っこを掴まれた猫のようだ。両手両足がプラプラと揺れている。
 マルコは初めてアベラを見上げた。
 アベラは初めてマルコの頭を見た。
「お前は海兵。休暇中だろうが、海兵は海兵」
 ここまでだ。これ以上先へ行くのなら、手加減はしない。
「分かったか?」
 射抜くような視線に、アベラは萎縮する。
 捕えられたアベラに、もう抵抗する力はなかった。
「分かりました……」
「全く……。泥まみれじゃないか」
 マルコも、怪我してないか?、とアベラのそばに寄って体を見る。
 幸いどこも怪我はしていなかった。
「マルコさん、また来ますね」
 アベラは、マルコとジョズに背を向ける。
 掃除ができないのなら帰ろう。マルコさんのためにと思ったけど、ジョズさんの言う通り。
「アベラ」
 不意に、アベラに影が落ちた。
 見上げると、料理長やマルコよりも大きな壁が出来上がっている。
「いいか?」
「?」
「視線だ」
 ジョズはアベラと目線を合わせるためにしゃがんだ。しゃがんでもアベラの目線の高さより高いのだが、大事なことを話すのだと、アベラに伝わった。
 アベラは姿勢を正して、ジョズを見やる。
 マルコはアベラの後ろで黙っていた。
「行く方向を見るな。視線で気付かれる」
 アベラの肩をジョズが掴む。
 くるりと向きが変わると、アベラの前には挑み続けた壁が再び出来上がった。
「よし。マルコにもう一回勝負だ」
 アベラが見上げると、腕を組んだマルコと目が合った。
 高すぎる壁。今日は超えられない。
 だけれど、気合いは十分。
 アベラは息を吸った。
「マルコさん、勝負です!」
「海兵に教えんなよ」
「マルコへの熱い想いを見たらついな」
「勝負です!!」
「はいはい」
 第二ラウンドが始まったぞー!、とクルー達は雄叫びを上げたのだった。
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