パイナップルからはじまる恋(完)
二〇二六年一〇月五日
マルコ誕生日話です。
体を沈み込ませ、ほっと息を吐けば体の緊張がほぐれていく。十月に入り、肌寒い日が多くなってきた。九月も暑い日が多かったから涼しくなってきて嬉しい。
今日はまだ週の初め、月曜日。あと四日頑張るために体をしっかりと労わらないといけない。夕食はお風呂に入る前に作った。彼の帰宅は一時間後だから時間はたっぷりある。大きな湯船でこれでもかと足を伸ばして、ゆっくり浸かろう。
今日も一品だけだけど好きな料理を用意したから喜んでもらえるといいなぁ。ふふ。……はぁ〜。……。
気持ちよさに時間を忘れていると、声がした。
「ただいま」
浴室の扉に大きな人影が映っていた。
あれ? もう一時間経っちゃった?!
「お帰りなさい! すみません。ゆっくりしすぎました!」
「いや、俺が早いんだよい。予定が変わって早く帰れた」
「そうだったんですね」
お腹が空いているなら先にご飯を食べよう、と声をかければ、先に風呂に入りたいと彼が言う。
「入っていいか?」
「はい。じゃあ、出るのでちょっと待って……」
早く交代してゆっくり入ってもらわなきゃ。
そう思って、湯船に手をついて立ち上がろうとして、扉が、開いた。
「……」
「……」
そこには裸のパイナップルおじさんが。
「ん。入ってていいよい」
「あ、はい」
パイナップルおじさんことマルコさんは、浴室に足を踏み入れ扉を閉めた。
そのままお風呂から出ることも出来たのに、私の体はそっと湯船へ戻り、またほっと息を吐く。
はぁ……。
「浴室が温かいよい」
「湯気で温まってますからね」
脱衣所の物音にも気づかなかったのかよい? 全く気づきませんでした。
気持ちよさにぼんやりしていただけだけど、マルコさんは体調が悪いのかと不安そうに私を見るから笑顔で首を振った。
体調は全く悪くない。一時間も早くマルコさんを見れたのが嬉しい。まさにサプライズ登場だ。
安心したマルコさんがシャワーのお湯を出して髪を濡らし始めたから、湯船の縁に顎を乗せて眺めてみる。
髪を後ろに撫でながら濡らす姿ってドラマとかで見るけど、マルコさんが一番絵になるなぁ。
「かっこいい」
心の声がぽろっと出てしまったけど、マルコさんには聞こえていないはず。なのにシャワーを止めたマルコさんは気まずそうな表情で私を見た。
「あのよい」
「?」
「そんなに見られると、洗いづらい」
マルコさんは頬を掻きながら照れていた。
今度は可愛い!
「サプライズ登場したゲストを見ないなんてありえません!」
「え、ゲスト……?」
マルコさんは私を喜ばせるのが本当に上手。ファンサービスもたくさんしてくれるし。可愛くてかっこよくて優しくて温かくて、体はがっしりしていて……。
「……マルコさんは罪深い人です」
「何の話なのかついていけないよい」
「マルコさんのことが大好きって話です」
洗いたいからちょっと違うところを見ててくれよい。いつも見てますよ? ……。
「そうだ。マルコさんの髪、私が洗ってもいいですか?」
「髪?」
「今日はマルコさんのお誕生日ですから!」
マルコさんはきょとんとして、すぐに嬉しそうに頷いてくれた。さっそく洗おうと、湯船から出てマルコさんの後ろへ。
「お願いします」
「お願いされました」
今日は十月五日。そう、今日は、マルコさんのお誕生日!
残念ながら平日になってしまった。だからお誕生日会は昨日開催した。毎年恒例、イゾウさんをお招きして、パイナップル料理だけのフルコースをマルコさんに楽しんでもらった。今年のメニューは厳選な抽選の結果、メインはサッチ丼、主菜はパイナップルと魚のセビーチェ、副菜はパイナップルのポテトサラダで、デザートはイゾウさん特製のパイナップルのアップサイドダウンケーキ。飲み物は今年もイゾウさんがパイナップルジュースを作って持ってきてくれた。
「はい、どうぞ」
「あ。……ん、美味い」
やっぱり今年もマルコさんがパイナップル料理を前にオロオロしていたから、私がはい、とマルコさんの口へ運んでいった。イゾウさんもいつも通りスマホのカメラをこちらに向けて、「野郎のそんな写真いらねェ」と言うサッチさんへ送って、私も写真をいただいた。私は当然、もぐもぐマルコさんを何枚も撮った。マルコさんの、口だけもぐもぐ動かす姿は本当に可愛い。
もぐもぐマルコさんの写真は、もう何千枚とある。スマホの写真はマルコさんのもぐもぐシーンでいっぱい。写真アプリを開くと、画面一面がマルコさんで埋まることもあるから外では見ないようにしていた。
だって、可愛すぎてニヤけちゃうから。へへ。
「流しますよー」
「よーい」
流し残しはないかな?
マルコさんの髪を撫でて、終わりました、と声をかけるとマルコさんがこちらを向いて、じっと見つめてくる。
……これがほしいのかな?
顔を寄せて、ふに、とおでこに唇を落とすと、マルコさんは、へへ、と笑った。
合ってたみたい。
マルコさんがじっと見つめてくるのはよくあること。頬を撫でたり、キスをしたり、抱きしめたり、触れ合ったり。私はもうマルコさんのしてほしいことを外すことはない。それはマルコさんも同じで、背中を見て分かる時もあるらしい。流石マルコさん。
「ふんふん」
マルコさんが鼻歌を歌いながら体を洗い始めたから、もう一度体を湯船の中へ。視線はもちろんマルコさん。
「ふんふん」
「ふんふん」
「?」
「へへへ。ハモってみました」
浴室はいい感じに響くから、マルコさんの鼻歌に重ねたくなってしまった。
何だか歌が上手になった気持ちになるよね。
「あ~」
「くく。何を歌うんだよい?」
「ただいま発声練習中~。お待ちください~」
「ははっ」
私の視線を気にしなくなったマルコさんはあっという間に洗い終えて、私に少し前へ行くように促すと私の後ろに足を入れた。そして、よいしょ、と体を沈み込ませ、
「あ゙ー」
おじさん特有の声を響き渡らせた。その声と一緒にお湯が湯船から溢れ出て、わー、と私の声も響いて、浴室が色んな音でいっぱいに。
なんか、国民的アニメ映画でこういうの見たことあるなぁ。
私を引き寄せ、足の間に座るよう促すマルコさんを見た。
「お疲れさまでした」
「お疲れ」
マルコさんとは、こうしてお風呂に一緒に入ることがよくある。
初めてのマルコさんとのパイナップル楽園旅行以来、マルコさんは入浴剤を使って可愛くお願いをするようになった。
「一緒に入らないか、よい?」
そう言いながら首を傾げる姿は本当に可愛すぎた。マルコさんは私が弱いことを絶対に知ってやっている。そんなお願いをされたら断れるわけはなく、全戦全敗だった。
それでもう諦めて、お願いに抵抗することをやめた。そうしたら入浴剤なしで何もしないから一緒に入りたいとお願いをされた。少し疑ったけどされても構わなかったからそのお願いを聞いたら、マルコさんは本当に何もせず、足の間に私を座らせてのんびりして終わったのだ。
それからは私からお邪魔する時もあれば、今日のようにマルコさんがお邪魔したり、二人一緒だったりと、特に決まりを作らずに一緒にお風呂に入るように。
「昨日は最高だったよい……」
「楽しかったですね」
「来年が待ち遠しい」
「もう来年のこと考えちゃうんですか?」
最高なんだから仕方がないと、マルコさんが私の手を取って指を絡めてきた。ぎゅぎゅっと握ってみると、ぎゅううう、と握り返してくれた。
「マルコさん」
マルコさんの胸に背中を預けて上を見る。ん?、と首を傾げるマルコさんと目が合った。
ほしいなー。
見つめていると、マルコさんが、ふに、とおでこに唇を寄せてくれた。
えへへ。もう一回欲しいだろい? 当たりです。
「イゾウさんの特製ケーキは美味しすぎましたね」
「お前さんのサッチ丼はサッチを超えたよい」
「プロには敵いませんよ」
「いや。あいつはもう用済み」
まるで悪役のような台詞……。
お前さんの料理があれば充分だよい、なんて嬉しいことを言ってくれるマルコさんの料理の腕もどんどん上がっていた。今年の年末もマルコさんのお父さんに料理を振舞うから、またお父さんを泣かせてしまうかもしれない。
楽しみだなぁ。
「年末に向けて、腕を鍛えておきますね」
「なんで?」
「エース君達の料理をたくさん作りますから!」
「しなくていい」
そうはいかない。マルコさんの地元での大宴会は私も楽しみだから、イゾウさんとベイさんとエース君の協力の元、たくさん仕込みをしないと。けどマルコさんは今でも私が働いているのが不満らしい。
「お前さんがやりたいならいいけどよい」
「やらせてください」
「仕方がない」
お土産をたくさん買わないと。今年は、お酒を五本用意しよう。
あと三ヶ月したら今年も終わっちゃいますね。早すぎだろい。
なんて年末の話をしていると、マルコさんの手が、そっとお腹に添えられた。
後ろを見ると、顔が近づいてきて、ふにふに、と二回キスをしてくれた。
「マルコさん」
「ん?」
後ろを見るのは疲れちゃう。
マルコさんの方に体を向けて、背中に腕を回して抱きついてみると、マルコさんも抱きしめてくれた。
「お誕生日、おめでとうございます」
「ありがとう」
マルコさんが頬にキスをしてくれた。お返しに頬にキスをしてあげると、今度は鼻先にしてくれたから同じところへ。
瞼、目尻、耳たぶ、おでこ、顎、またおでこ。マルコさんがキスをする度に、私の中にマルコさんの想いがどんどん流れてきた。
「マルコさんも」
「んー」
マルコさんはしばらく私のキスを受け取ってくれたけど、終わるまでは大人しくしてくれない。もっともっとと、顔中に落とし続ける私を強く抱きしめて、唇を甘噛みしてきた。
「んぅ」
またマルコさんの番。今度はずっと唇にしてくれた。隙を見て私からしてみるけど、マルコさんは止まらない。
そんなことされたら、私の中はすぐにマルコさんの想いでぎっしりになってしまう。
月曜日からマルコさんとこうして一緒に過ごせるなんて。
「うへへ」
幸せすぎて笑いが止まらない。
「えへへへー」
「かわいい」
「ひひひ……へへっ」
マルコさんは両手で私の頬を包んで、へら、と笑ってくれた。
マルコさんは可愛いなぁ。
毎年思うけど、マルコさんの誕生日なのに私が貰ってばかり。あげているのにすぐにお返しをされてしまうから、あげ足りない気持ちがいつもある。今もマルコさんが頬を撫でてくれて、私が嬉しくなってしまっていた。
今日はマルコさんの誕生日なのに! 料理だけでは足りないくらい貰っちゃってる!
「マルコさん!」
「よい?」
「歌をプレゼントします!」
「発声練習はそのためだったのか」
違うけどそういうことにしておこう。今日にふさわしい曲はこれしかない!
マルコさん、一緒に手拍子をお願いします。はい、分かりました。では!
「はっぴばーすでーとぅーゆー。はっぴばーすでーとぅーゆー」
はっぴばーすでーでぃあまるこさーん。はっぴばーすでーとぅーゆー。おめでとうございまーす!
拍手しているのは私だけなのに、浴室効果でたくさんの人が拍手しているみたい。
マルコさんは、ありがとよい、と満面の笑顔になってくれた。
うんうん。いいプレゼントになったかも! 歌は毎年プレゼントしよう。
なんて思っていたら、マルコさんが笑顔のままとんでもないことを言った。
「俺も一曲」
「え?」
一曲?、とマルコさんを見ていると発声練習なしで歌い始めてしまった。
「──、──」
この曲、マルコさんの好きなバンドの曲だ。……あぁ、マルコさんの声がすごく響いて、マルコさんに包まれてるみたい。いい。すごく、いい!
「──。ありがとうございました」
拍手喝采。スタンディングオーベーション。
それぐらいの気持ちで拍手を送っていた。
ここは国内で一番大きなスタジアム! もちろん満席! 七万二千人がマルコさんを見てる! マルコさーん! きゃー!
「鳥肌が立ちました!」
「そりゃよかった。リクエストあれば歌うよい?」
「え!?」
私がリクエストしちゃっていいんですか?! 俺の知っている曲なら。なら何がいいかな……。
って私がプレゼントするはずだったのに!
「私に対抗しないでください!」
「リクエストないなら勝手に歌う……」
「歌うの禁止です! 私が嬉しくなっちゃうじゃないですか!」
「嬉しくなっちゃ駄目なのかよい?」
「今日はマルコさんのお誕生日ですよ!」
私が歌いますから! 一緒に歌うよい。それも駄目です! なら勝手にハモらせてもらう。
「あ〜」
「あ〜」
「「あ〜」」
あ〜。
マルコ誕生日話です。
体を沈み込ませ、ほっと息を吐けば体の緊張がほぐれていく。十月に入り、肌寒い日が多くなってきた。九月も暑い日が多かったから涼しくなってきて嬉しい。
今日はまだ週の初め、月曜日。あと四日頑張るために体をしっかりと労わらないといけない。夕食はお風呂に入る前に作った。彼の帰宅は一時間後だから時間はたっぷりある。大きな湯船でこれでもかと足を伸ばして、ゆっくり浸かろう。
今日も一品だけだけど好きな料理を用意したから喜んでもらえるといいなぁ。ふふ。……はぁ〜。……。
気持ちよさに時間を忘れていると、声がした。
「ただいま」
浴室の扉に大きな人影が映っていた。
あれ? もう一時間経っちゃった?!
「お帰りなさい! すみません。ゆっくりしすぎました!」
「いや、俺が早いんだよい。予定が変わって早く帰れた」
「そうだったんですね」
お腹が空いているなら先にご飯を食べよう、と声をかければ、先に風呂に入りたいと彼が言う。
「入っていいか?」
「はい。じゃあ、出るのでちょっと待って……」
早く交代してゆっくり入ってもらわなきゃ。
そう思って、湯船に手をついて立ち上がろうとして、扉が、開いた。
「……」
「……」
そこには裸のパイナップルおじさんが。
「ん。入ってていいよい」
「あ、はい」
パイナップルおじさんことマルコさんは、浴室に足を踏み入れ扉を閉めた。
そのままお風呂から出ることも出来たのに、私の体はそっと湯船へ戻り、またほっと息を吐く。
はぁ……。
「浴室が温かいよい」
「湯気で温まってますからね」
脱衣所の物音にも気づかなかったのかよい? 全く気づきませんでした。
気持ちよさにぼんやりしていただけだけど、マルコさんは体調が悪いのかと不安そうに私を見るから笑顔で首を振った。
体調は全く悪くない。一時間も早くマルコさんを見れたのが嬉しい。まさにサプライズ登場だ。
安心したマルコさんがシャワーのお湯を出して髪を濡らし始めたから、湯船の縁に顎を乗せて眺めてみる。
髪を後ろに撫でながら濡らす姿ってドラマとかで見るけど、マルコさんが一番絵になるなぁ。
「かっこいい」
心の声がぽろっと出てしまったけど、マルコさんには聞こえていないはず。なのにシャワーを止めたマルコさんは気まずそうな表情で私を見た。
「あのよい」
「?」
「そんなに見られると、洗いづらい」
マルコさんは頬を掻きながら照れていた。
今度は可愛い!
「サプライズ登場したゲストを見ないなんてありえません!」
「え、ゲスト……?」
マルコさんは私を喜ばせるのが本当に上手。ファンサービスもたくさんしてくれるし。可愛くてかっこよくて優しくて温かくて、体はがっしりしていて……。
「……マルコさんは罪深い人です」
「何の話なのかついていけないよい」
「マルコさんのことが大好きって話です」
洗いたいからちょっと違うところを見ててくれよい。いつも見てますよ? ……。
「そうだ。マルコさんの髪、私が洗ってもいいですか?」
「髪?」
「今日はマルコさんのお誕生日ですから!」
マルコさんはきょとんとして、すぐに嬉しそうに頷いてくれた。さっそく洗おうと、湯船から出てマルコさんの後ろへ。
「お願いします」
「お願いされました」
今日は十月五日。そう、今日は、マルコさんのお誕生日!
残念ながら平日になってしまった。だからお誕生日会は昨日開催した。毎年恒例、イゾウさんをお招きして、パイナップル料理だけのフルコースをマルコさんに楽しんでもらった。今年のメニューは厳選な抽選の結果、メインはサッチ丼、主菜はパイナップルと魚のセビーチェ、副菜はパイナップルのポテトサラダで、デザートはイゾウさん特製のパイナップルのアップサイドダウンケーキ。飲み物は今年もイゾウさんがパイナップルジュースを作って持ってきてくれた。
「はい、どうぞ」
「あ。……ん、美味い」
やっぱり今年もマルコさんがパイナップル料理を前にオロオロしていたから、私がはい、とマルコさんの口へ運んでいった。イゾウさんもいつも通りスマホのカメラをこちらに向けて、「野郎のそんな写真いらねェ」と言うサッチさんへ送って、私も写真をいただいた。私は当然、もぐもぐマルコさんを何枚も撮った。マルコさんの、口だけもぐもぐ動かす姿は本当に可愛い。
もぐもぐマルコさんの写真は、もう何千枚とある。スマホの写真はマルコさんのもぐもぐシーンでいっぱい。写真アプリを開くと、画面一面がマルコさんで埋まることもあるから外では見ないようにしていた。
だって、可愛すぎてニヤけちゃうから。へへ。
「流しますよー」
「よーい」
流し残しはないかな?
マルコさんの髪を撫でて、終わりました、と声をかけるとマルコさんがこちらを向いて、じっと見つめてくる。
……これがほしいのかな?
顔を寄せて、ふに、とおでこに唇を落とすと、マルコさんは、へへ、と笑った。
合ってたみたい。
マルコさんがじっと見つめてくるのはよくあること。頬を撫でたり、キスをしたり、抱きしめたり、触れ合ったり。私はもうマルコさんのしてほしいことを外すことはない。それはマルコさんも同じで、背中を見て分かる時もあるらしい。流石マルコさん。
「ふんふん」
マルコさんが鼻歌を歌いながら体を洗い始めたから、もう一度体を湯船の中へ。視線はもちろんマルコさん。
「ふんふん」
「ふんふん」
「?」
「へへへ。ハモってみました」
浴室はいい感じに響くから、マルコさんの鼻歌に重ねたくなってしまった。
何だか歌が上手になった気持ちになるよね。
「あ~」
「くく。何を歌うんだよい?」
「ただいま発声練習中~。お待ちください~」
「ははっ」
私の視線を気にしなくなったマルコさんはあっという間に洗い終えて、私に少し前へ行くように促すと私の後ろに足を入れた。そして、よいしょ、と体を沈み込ませ、
「あ゙ー」
おじさん特有の声を響き渡らせた。その声と一緒にお湯が湯船から溢れ出て、わー、と私の声も響いて、浴室が色んな音でいっぱいに。
なんか、国民的アニメ映画でこういうの見たことあるなぁ。
私を引き寄せ、足の間に座るよう促すマルコさんを見た。
「お疲れさまでした」
「お疲れ」
マルコさんとは、こうしてお風呂に一緒に入ることがよくある。
初めてのマルコさんとのパイナップル楽園旅行以来、マルコさんは入浴剤を使って可愛くお願いをするようになった。
「一緒に入らないか、よい?」
そう言いながら首を傾げる姿は本当に可愛すぎた。マルコさんは私が弱いことを絶対に知ってやっている。そんなお願いをされたら断れるわけはなく、全戦全敗だった。
それでもう諦めて、お願いに抵抗することをやめた。そうしたら入浴剤なしで何もしないから一緒に入りたいとお願いをされた。少し疑ったけどされても構わなかったからそのお願いを聞いたら、マルコさんは本当に何もせず、足の間に私を座らせてのんびりして終わったのだ。
それからは私からお邪魔する時もあれば、今日のようにマルコさんがお邪魔したり、二人一緒だったりと、特に決まりを作らずに一緒にお風呂に入るように。
「昨日は最高だったよい……」
「楽しかったですね」
「来年が待ち遠しい」
「もう来年のこと考えちゃうんですか?」
最高なんだから仕方がないと、マルコさんが私の手を取って指を絡めてきた。ぎゅぎゅっと握ってみると、ぎゅううう、と握り返してくれた。
「マルコさん」
マルコさんの胸に背中を預けて上を見る。ん?、と首を傾げるマルコさんと目が合った。
ほしいなー。
見つめていると、マルコさんが、ふに、とおでこに唇を寄せてくれた。
えへへ。もう一回欲しいだろい? 当たりです。
「イゾウさんの特製ケーキは美味しすぎましたね」
「お前さんのサッチ丼はサッチを超えたよい」
「プロには敵いませんよ」
「いや。あいつはもう用済み」
まるで悪役のような台詞……。
お前さんの料理があれば充分だよい、なんて嬉しいことを言ってくれるマルコさんの料理の腕もどんどん上がっていた。今年の年末もマルコさんのお父さんに料理を振舞うから、またお父さんを泣かせてしまうかもしれない。
楽しみだなぁ。
「年末に向けて、腕を鍛えておきますね」
「なんで?」
「エース君達の料理をたくさん作りますから!」
「しなくていい」
そうはいかない。マルコさんの地元での大宴会は私も楽しみだから、イゾウさんとベイさんとエース君の協力の元、たくさん仕込みをしないと。けどマルコさんは今でも私が働いているのが不満らしい。
「お前さんがやりたいならいいけどよい」
「やらせてください」
「仕方がない」
お土産をたくさん買わないと。今年は、お酒を五本用意しよう。
あと三ヶ月したら今年も終わっちゃいますね。早すぎだろい。
なんて年末の話をしていると、マルコさんの手が、そっとお腹に添えられた。
後ろを見ると、顔が近づいてきて、ふにふに、と二回キスをしてくれた。
「マルコさん」
「ん?」
後ろを見るのは疲れちゃう。
マルコさんの方に体を向けて、背中に腕を回して抱きついてみると、マルコさんも抱きしめてくれた。
「お誕生日、おめでとうございます」
「ありがとう」
マルコさんが頬にキスをしてくれた。お返しに頬にキスをしてあげると、今度は鼻先にしてくれたから同じところへ。
瞼、目尻、耳たぶ、おでこ、顎、またおでこ。マルコさんがキスをする度に、私の中にマルコさんの想いがどんどん流れてきた。
「マルコさんも」
「んー」
マルコさんはしばらく私のキスを受け取ってくれたけど、終わるまでは大人しくしてくれない。もっともっとと、顔中に落とし続ける私を強く抱きしめて、唇を甘噛みしてきた。
「んぅ」
またマルコさんの番。今度はずっと唇にしてくれた。隙を見て私からしてみるけど、マルコさんは止まらない。
そんなことされたら、私の中はすぐにマルコさんの想いでぎっしりになってしまう。
月曜日からマルコさんとこうして一緒に過ごせるなんて。
「うへへ」
幸せすぎて笑いが止まらない。
「えへへへー」
「かわいい」
「ひひひ……へへっ」
マルコさんは両手で私の頬を包んで、へら、と笑ってくれた。
マルコさんは可愛いなぁ。
毎年思うけど、マルコさんの誕生日なのに私が貰ってばかり。あげているのにすぐにお返しをされてしまうから、あげ足りない気持ちがいつもある。今もマルコさんが頬を撫でてくれて、私が嬉しくなってしまっていた。
今日はマルコさんの誕生日なのに! 料理だけでは足りないくらい貰っちゃってる!
「マルコさん!」
「よい?」
「歌をプレゼントします!」
「発声練習はそのためだったのか」
違うけどそういうことにしておこう。今日にふさわしい曲はこれしかない!
マルコさん、一緒に手拍子をお願いします。はい、分かりました。では!
「はっぴばーすでーとぅーゆー。はっぴばーすでーとぅーゆー」
はっぴばーすでーでぃあまるこさーん。はっぴばーすでーとぅーゆー。おめでとうございまーす!
拍手しているのは私だけなのに、浴室効果でたくさんの人が拍手しているみたい。
マルコさんは、ありがとよい、と満面の笑顔になってくれた。
うんうん。いいプレゼントになったかも! 歌は毎年プレゼントしよう。
なんて思っていたら、マルコさんが笑顔のままとんでもないことを言った。
「俺も一曲」
「え?」
一曲?、とマルコさんを見ていると発声練習なしで歌い始めてしまった。
「──、──」
この曲、マルコさんの好きなバンドの曲だ。……あぁ、マルコさんの声がすごく響いて、マルコさんに包まれてるみたい。いい。すごく、いい!
「──。ありがとうございました」
拍手喝采。スタンディングオーベーション。
それぐらいの気持ちで拍手を送っていた。
ここは国内で一番大きなスタジアム! もちろん満席! 七万二千人がマルコさんを見てる! マルコさーん! きゃー!
「鳥肌が立ちました!」
「そりゃよかった。リクエストあれば歌うよい?」
「え!?」
私がリクエストしちゃっていいんですか?! 俺の知っている曲なら。なら何がいいかな……。
って私がプレゼントするはずだったのに!
「私に対抗しないでください!」
「リクエストないなら勝手に歌う……」
「歌うの禁止です! 私が嬉しくなっちゃうじゃないですか!」
「嬉しくなっちゃ駄目なのかよい?」
「今日はマルコさんのお誕生日ですよ!」
私が歌いますから! 一緒に歌うよい。それも駄目です! なら勝手にハモらせてもらう。
「あ〜」
「あ〜」
「「あ〜」」
あ〜。
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