パイナップルからはじまる恋

※2024年のマルコの誕生日に合わせて書いたものです。


十月二日 夜

『そんな贅沢、俺がしてもいいのか…?』

大丈夫か?不相応ではないか?
スピーカーから聞こえてくるのは、不安そうな声。そんな不安なマルコさんに、してもいいんです、マルコさん以外に相応しい人はいません、と全力で答える。
誰よりもパイナップルを愛するマルコさんがやらなくて、誰がやるんですか。そしてそれを、マルコさんの誕生日にやらなくて、いつやるんですか。決行の日である三日後の五日。ぜひ私と一緒に、最高の時間を過ごしましょう。
アデニウム・オベスムが置かれているサイドテーブルの前に姿勢よく正座し、コンペの時以上に熱く語る。私のあまりの熱意に、マルコさんは『よ、よい…』と圧倒されていた。けど、次第に声が明るくなり、最後には嬉しそうに楽しみだ、と笑ってくれた。その声に、色んな意味で胸を撫でおろす。
音声だけのプレゼンだったけど、無事に通った。
初めは、誕生日プレゼントをマルコさんに内緒で用意しようと考えていた。けどそうすると、料理を私のお家で作って、マルコさんをお招きするか、マルコさんのお家に持って行くことになる。問題だったのは、私のお家の場合、テーブルが大きくないから全ての料理を並べられないこと、マルコさんのお家に持って行く場合は、電車で大量の料理を持って来た私を見て、マルコさんが「嬉しいが…車、出したのに、よい…」としょんぼりし、私も悪いことをした気分になるのが想像できてしまうこと。さらに、土日はマルコさんのお願いでお泊りをしているから、一度帰って料理を作って戻る、というのが可笑しい気がして悩ましかった。
サプライズができないかと、三日間ぐらい考えたけど思いつかなくて、料理以外にしようとも考えた。
けどやっぱり、一年に一度の素敵な日に、どうしてもマルコさんに体験してもらいたい。
だから、マルコさんに一緒に作ろうと提案した。

『何を作るんだ?』
「まだ考え中です。食べたいものがあれば教えてくださいね」
『何品までいいんだ?五品?十品?』
「三人なので四品ぐらいですかね」
『四品?!』

少なくないか?本当に四品?選べられるのか?と焦る声がしたかと思えば、痛っ、と言う声と共にぶつけた音がした。それから数分間、マルコさんの声は聞こえず、代わりに天気予報士の声がしている。
マルコさん、どこをぶつけたんだろう?大丈夫かな、と一週間の天気予報を聞いていると、四品に絞れるのか…?と不安な声がした。頑張って絞ろう、と答えれば、マルコさんは、今までの仕事で一番難しいな、と嘆く。

『ん?…さっき、"三人"と言ったか?』
「はい。イゾウさんをお誘いしました」
『え!?』

マルコさんの大きな声に驚き、サイドテーブルに体をぶつけ、アデニウム・オベスムが倒れそうになる。慌てて手で支え、なんとか倒れるのを阻止。マルコさんが選んでくれた可愛い植物が大事に至らず、ほっと息を吐く。
この短い間に、不安がったり、喜んだり、驚いたり、マルコさんは忙しい。
実は今日、一人でイゾウさんのお店に伺い、お誘いをしておいた。その話をすると、マルコさんから食い気味に「酒は?飲んでないか?」と確認をされる。マルコさんと約束をしているからお酒は飲んでない、イゾウさんの試作品とパスタを食べて帰ったことを伝えれば、安心した声が聞こえた。

「せっかくの誕生日なので、人数は多い方がいいかと思ったんです」
『そこまで考えてくれていたとは、嬉しいよい』

イゾウは店の準備があるから十五時ぐらいには帰る。問題ない、と一人納得するマルコさん。何が問題ないのかは分からないけど、五日の予定を喜んでもらえたようで嬉しくなる。

『あと二日、頑張れそうだよい』
「私もです」
『金曜日は二十一時ぐらいには駅に着く』
「分かりました。夜ごはんは適当に済ませちゃいますね」
『ん』

時計を見ると、日付が変わる三十分前となっていた。そろそろ寝ないと、と思いながら、マルコさんの声が聞きたくて、電話がきれない。けど、私の寝る時間が過ぎていることに気がついたマルコさんから、そろそろ寝るか、と話を振られてしまった。
名残惜しいけど、寝不足で明日の仕事が進まなくなるのは困ってしまう。ここは素直に従おうかと思い、おやすみなさいと声を出そうとして、大事なことを思い出す。

「あの、マルコさんに一つ、お願いがあるんです」
『ん?なんでも聞くよい』

マルコさんは、俺はできる男、お前さんのお願いなら何でも叶える、と自信に満ちた声を出した。
それは本当かな。できる男のマルコさんが、唯一難しいことをこれからお願いしようとしている私の口元は、緩んでいる。きっと、今の私の表情を見たら、な、何をお願いするつもりだよい…?とマルコさんは冷や汗をかいてしまうかも。
ふふ、と一人笑っていると、どうした?とマルコさんが不思議そうに声を出す。マルコさんは前科がありすぎるから難しいかもしれない、と笑いながら言えば、『あ…』と声が聞こえた。
マルコさん、気づいたみたい。

「ふふ、五日は、つまみ食い禁止ですからね」
『……よい』


十月四日 夜

「決まらないよい…」
「困りましたね」

本当に困っているのはマルコさんだけで、私はそれほど困っていない。
マルコさんは、うんうんと悩み続けている。ソファに座り、私を膝の上に乗せたまま、紙に書かれた食べたいものリストを真剣に見ていた。
マルコさんに食べたいものを書いてもらったら、十品を超えてしまった。これも、これも食べたいと私を見るマルコさんの表情は本当に困っていて、私はというと、可愛いな、としか思っていない。

「主食、主菜、副菜、デザートに分けて、一つずつ選びましょうか」
「よい」

マルコさんは、よいしょ、と私を下ろして、ソファの下で胡坐をかき、もう一度私を膝の上に乗せた。両側から腕が伸びてきて、ペンを持ち、紙の下半分を使って、分類分けをはじめる。すらすらと書き進める大きな手を眺め、紙に現れる文字を見て、私はただただ感動していた。
マルコさんの字、綺麗だな。達筆ではないけど、癖がなくて、力強い字。男性らしくて、かっこいい。

「よし、分けたよい」
「マルコさんの字、かっこいいですね」
「字?…そうか?」
「私の字、癖があって…」

ペンを貸してもらい、紙の一番下に自分とマルコさんの名前を書く。私の字は、酷いわけではないけど、綺麗とは言えない。綺麗な方ができる大人感があっていいな。練習しようかなと、自分の字を眺めていたら、ペンを奪われた。そして、私の字の上に、マルコさんが私とマルコさんの名前を書いた。
マ、マルコさんが私の名前を書いてくれた…!
プレゼントを貰った気分になり、嬉しくなって顔を上げれば、マルコさんに何故か唇にキスをされる
相変わらず、マルコさんのキスをするタイミングは、よく分からない。けどお返しがしたいから、体の向きをマルコさんの方に向けて、唇を合わせた。

「マルコさん、これ貰ってもいいですか?」
「これが欲しいのか?」
「はい」

マルコさんは不思議そうな顔で紙をちぎり、私に差し出してくれた。
マルコさんの綺麗な字で書かれた、私の名前とマルコさんの名前。なんだか特別な紙に思えてきて、嬉しすぎて、えへへ、と笑いが止まらない。

「えへ、へへへへ」
「ははっ、そんなに嬉しいのかよい?」
「はい。ふふ」

ありがとうございます、と笑いかければ、マルコさんがまた顔を近づける。応えるように私からも近づけて、もう一度唇を重ね、見つめ合ったまま、触れている唇の感触を確かめるように押し当て合う。気持ちがよくて、もっとしたくて、マルコさんの首に腕を回していると、マルコさんの手が、私のパジャマの一番上のボタンを外していた。顔を離して様子を見ていると、もう一つ外され、マルコさんが露になった肌に顔を近づけ、唇を密着させ、吸い上げる。

「ん、ついた」

痕をつけた後のマルコさんは、いつもすごく満足気。満足できる出来栄えなのかなと気になり、印を見ようとしたけど、鏡越しでないと見えないから困ってしまう。顔を下に向けて必死で見ようとする私を優しい顔で見ていたマルコさんは、また唇にキスをしてくれて、おでこ、頬、と立て続けに想いをたくさん伝えてくれる。
って、私が幸せになってどうするの。明日はマルコさんの誕生日なのだから、私がしてあげないと。

「マルコさん、私が…っんぅ」
「ん?」
「私からキスっぅんっ」

駄目だ、マルコさんが止まらなくなってしまった。もういっぱいです、大丈夫、とキスの雨を降らし続けるマルコさんの隙をついて声をかけても、全く落ち着かない。
これは、マルコさんの好きにさせるのが正解なのかな。
唇から伝わる想いはどんどん強まるばかりで、私の体はお酒を飲んだ時みたいに熱っている。けど、全く嫌じゃないから、身を委ね続けた。

「はっ…」

どのくらい受け取り続けたか分からないけど、顔が離れた時のマルコさんは幸せそうな表情をしていた。けど、私からの想いは伝えきれていない。もっと喜んでもらいたくて、顔を近づけようとすれば、あのよい、とマルコさんが声を出す。

「お前さんからのは明日くれるか?」

明日?
マルコさんに応えたくて仕方がないのに、お預けを食らった気分になり、もどかしい。
そんな私の気持ちが伝わったのか、マルコさんは優しく私の頬を撫でながら、もう一度、お願いをする。

「今日の分も含めて、明日、たくさんしてくれるか、よい?」

首を傾げながら、そんな可愛くお願いをされたら、頷くしかない。
マルコさんは、大きく頷いた私を見て、すごく嬉しそうに笑ってくれた。
よし、明日、やるぞ。

「よし、料理を決めるよい」
「はい。決めましょう」


十月五日 朝

目を開けると、マルコさんと目が合った。
あれ、もしかして、もう九時を過ぎてしまったのか、と思って、体を少し起こし時計を見たけど、七時を過ぎたばかりだった。
え?え?、と時計とマルコさんを交互に見て、どちらが幻かを確認していると、マルコさんの手が伸びてきて、頬を撫でられた。
マルコさんは本物だ。

「おはようさん」

掠れていなくて、はっきりした声。
この時間にマルコさんが起きているなんて珍しい。しかも寝ぼけ顔でもなく、ちゃんとばっちり起きている。
何かあったのかな?
体を再びベットに横たわせ、マルコさんの頬を撫でれば、擦り寄ってきてくれた。

「こんな早くから起きてるなんて。どうかしたんですか?」
「その…楽しみで、寝られなかったよい」

マルコさんは、へへ、と照れた。
…また私が、プレゼントを貰ってしまった。
あまりの可愛さに思い切り抱きつけば、マルコさんはくつくつ笑いながら抱きしめ返してくれた。

「せっかくだから喫茶店で朝ごはん食べるか?」
「そうですね。そのままスーパーへ行きましょうか」
「なら、あと一時間はこのまま」
「マルコさん、もっとぎゅって」

お願いすれば、腕の力を強めてくれた。
今日は私の誕生日だっけ?
昨日から貰ってばかりだなぁ、とマルコさんの首筋に顔を埋め、目を閉じ、大好きな匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。


同日 昼

「えー、本日はお招きいただき…」
「こっちからも…はっ!このアングルも…!」
「…パイナップル野郎は何をしているんだ?」
「えっと…撮影会です」
「これ、パイナップルジュースだ」
「ありがとうございます」

かれこれ三十分はやっています、と教えれば、イゾウさんは苦笑い。リビングの入り口で、テーブルに並べられている料理を撮りまくるマルコさんを眺める、私とイゾウさん。
マルコさんは、テーブルの周りを忙しなく動きながら、スマホを構え、料理の写真を撮っていた。テーブルから少し離れてテーブル全体が収まるように撮ったり、一品一品をアップで撮ったり。上から、右から、左から。プロのカメラマン?と思わせるほどの動きをするので、圧倒されてしまう。

「よしっ」
「マルコさん、終わりましたか?」
「よい。なんだ、イゾウ、来てたのか」
「邪魔してるぞ」

イゾウさんがテーブルに近づいてもいいのか、とマルコさんに尋ねれば、もちろんだと大きく頷く。

「イゾウさん、今日はパイナップル料理のみです」
「初めての体験だな…言ってくれれば手伝ったが、良かったのか?」
「マルコさんと一緒に作りましたので大丈夫でしたよ」
「マルコは戦力になったのだな」
「ふふん」
「つまみ食いもしませんでしたね」
「へへっ」

今日は絶対につまみ食いはしない、と心に決めたマルコさんだったけど、山盛りのカットされたパイナップルを前に、ごくり、と喉を鳴らしていた。大丈夫かな、と豚ロースを揚げながら眺めていたら、私の視線に気づいたマルコさんが、は、と私を見て、食べないよい!、と首を横に振り、頑張ってくれたのだ。
おかげでパイナップルが不足することはなく、全ての料理にふんだんに使うことができた。
今日のテーマは"パイナップルコース"。パイナップルを使った料理しか作っていない。
主食はカウパッサパロッ。主菜は酢豚で、副菜はパイナップルサラダ。そして、デザートにはパイナップルのパウンドケーキ。パウンドケーキには食べる時に生クリームを添える。
もちろん、パイナップルをカットしただけのものも用意した。

「厳選な抽選の結果、この四品が選ばれました」
「サッチ丼は落選か?」
「はい。残念ながら」
「くっ…!」

くそ、と悔しがるマルコさんを見て、イゾウさんは二度目の苦笑い。
テーブルの真ん中には、お花代わりに可愛いパイナップルコーンを置いて、少しでも誕生日会の雰囲気になるようにしたけど、どうかな。
テーブルを一通り見渡したイゾウさんは、マルコの生誕祭に相応しいな、と私を褒めてくれた。その言葉に胸が温かくなり、えへへへへ、と笑い出してしまう。すると突然、誰かの手が私の腰を掴み、体を引き寄せられ、力強く抱きしめられた。

「マルコ、何してる?」
「いや?なにも?」
「ま、マルコさん、くるしっ」
「その表情が収まるまで我慢だよい」

え?と顔を見上げれば、マルコさんの眉間に皺が寄っていた。初めて見るマルコさんの反応についていけず、ただただマルコさんを見つめるしかなかった。けど、どれだけ待ってもマルコさんの表情は険しいままで、焦りが募り始める。
…まさか、この笑い方、気持ち悪いと思われていた?
ど、どうしよう、何度も見せてしまっているからもう手遅れかも。せっかくのマルコさんの誕生日が、私の気持ち悪い笑い声で台無しに…。

「マルコさん、ごめんなさいっ」
「え?」
「もう二度と、笑わないから…っ気持ち悪い笑い声出して、ご、ごめんなさい…ぅう」
「い、いや、違う、そうじゃなくて…!」
「マルコ…?」
「い、イゾウ!違う!俺はそういう意味で言ったわけじゃねぇよい!」

ごめんなさいごめんなさいと謝り続ける私と、またやったな?と睨むイゾウさんに、マルコさんは違う違うと首を振り続ける。

「可愛い顔をイゾウに見せたくなかっただけだよい!!」

だから笑っていいんだ、と声を上げたマルコさんの顔がすごく赤かったから、その言葉が本当だと分かり、私の中から焦りがすぐに消えてくれた。
あ、よかった。気持ち悪くはないんだ。
すまん、言葉が足りなかったよい、と謝ってくれたマルコさんに、早とちりしてごめんなさいと謝り返す。
すると、二人には伝えたはずだが…?とイゾウさんの冷たい声がした。その声に私もマルコさんも背筋が伸び、慌てて口を動かす。
い、いつもはちゃんと話し合っているよい!な?は、はい!気になることや不安なことはマルコさんにすぐに聞きます!マルコさんもちゃんと聞いてくれて、話してくれます!だから…!

「「大丈夫です!」」
「よし。なら飯だ」
「「よい!」」

これ以上イゾウさんを怒らせないように、席へご案内。すぐに私もマルコさんも席に着く。

「マルコさん、お誕生日おめでとうございます」
「マルコ、おめでとう」
「ありがとよい」

では、と手を合わせれば、自然と声は重なった。

「「「いただきます」」」

箸を持ち、何から食べようかとテーブルを眺める。
先ずは酢豚にしようかな。
豚肉とパイナップルを口の中へ入れる。うん、美味しくできたと、もぐもぐと食べながら前を向けば、イゾウさんが物珍しそうに目の前の料理を観察していた。

「これが、カウパッサパロッか。色合いが明るくていいな」
「甘めで美味しいんですよ」

どうかな、とイゾウさんを見ていれば、珍しい味だが美味い、と感想をくれた。イゾウさんからお言葉をもらったところで、マルコさんは美味しく食べてるかな、と顔を横に向けば、マルコさんは箸を持ちながらオロオロしていた。
その様子は、私の酢豚とサッチさんのサッチ丼を前にした時と同じ。
どうしたんだろう、とマルコさんに声をかけると、困った顔で私を見る。

「ど、どれから食べたらいいか…」
「あぁ、全部にパイナップルが入っているから悩んでるのか」
「ふふ、なら、はい」

パイナップルサラダをどうぞ。
マルコさんが切ったトマトと、私が切ったパイナップルを、マルコさんがオリーブオイルや塩コショウで混ぜ合わせたサラダ。
マルコさんの口元へ運べば、ぱくり。

「どうですか?」
「ん、美味い」
「砂糖を使っていないのか?」
「はい。パイナップルの甘さを活かしました」
「ん」
「あ、あむ」

マルコさんにサラダを食べさせてもらい、二人でもぐもぐしていると、イゾウさんがこちらにカメラを向けた。そして、サッチに送ってやろう、と言いながらスマホを操作していたので、もう送ったのだろう。

「はい、次はカウパッサパロッですよ」
「あ」
「どうぞ」

大きく開けた口の前に運べば、またぱくりと食べ、もぐもぐする。
マルコさんのこの姿は、何度見ても飽きず、いつも可愛い。
次は酢豚ですよ、とマルコさんに食べてもらう。口の中が空になると、あ、と口を開けてくるので、どうぞ、と順番に運ぶ。マルコさんからも、ん、と口元へ運んでくれるので、素直に口を開いて食べさせてもらった。
イゾウさんがいるぐらいでは、マルコさんの様子は変わらない。イゾウさんも特に反応することなく、パイナップル野郎がなんかしてる、ぐらいしか思わないそう。一方で、サッチさんは、このマルコさんが気持ち悪くて仕方がないらしい。
この姿、可愛いのにな…。

「酢豚、美味い…美味い」
「お嬢さんの料理はいつも温かいな」
「イゾウさんの料理もとても温かいです。サッチさんの料理も、もちろん、マルコさんの料理もです」

三人共、優しい素敵な人だから、それが料理に現れていて、食べると心まで温かくなる。特にマルコさんの料理は、温かくなるだけでなくて、満たしてもくれる特別なもの。
“あ”、”ん”、”美味い”、の三つぐらいしか言わないマルコさんがどんどん食べ進め、一時間もすれば、テーブルのお皿は空になった。残すはデザートのみ。

「パウンドケーキ、準備しますね」
「お嬢さん、俺がやろう」
「いいんですか?」
「俺は働いていないからな。それぐらいはさせてくれ」

イゾウさんは生クリームを泡立てると、お皿にパウンドケーキを二切れ乗せ、生クリームを添えて、カットしたパイナップルも乗せた。流石はイゾウさん。お店で出されるような綺麗な盛り付け。カフェに来たみたいだなと、目の前に出されたお皿を眺めていると、隣でシャッター音が聞こえた。どうやら、マルコさんがまた撮影会をはじめたようで、イゾウさんは苦笑いをしながら、その様子の写真を撮っていた。
ほんと、こいつはパイナップルのことになると…。
ふふ、マルコさんは世界で一番、パイナップルが好きな人ですからね。

「ケーキ、美味いな。果肉が大きくて食べ応えがある」
「パイナップルジュースも美味しいですね」
「それはよかった。俺が作った」
「え、すごいですね!」
「ジュースも美味い。本当、パイナップルづくし、最高だよい…!」
「ふふ、また来年もやりましょうね」
「よい」
「来年は俺も一品作ろう」
「本当ですか?楽しみです」

来年の楽しみができ、嬉しくなって笑いそうになったけど、先ほどのマルコさんのことがあるから、ぐぐ、と堪える。けど、その表情が変だったのか、向かいに座るイゾウさんに笑われてしまい、イゾウさんの様子を不思議に思ったマルコさんも私を見て、ははっ、と楽しそうに笑っていた。


同日 夜

「では、マルコさん」
「?」

ソファに座るマルコさんの膝の上に乗ってから、一時間。今日もあと三時間ぐらいで終わってしまう。
よし、昨日のお願いをする時がきた。
マルコさんに跨るように座り直して、首に腕を回して、顔を近づける。おでこと鼻をくっつければ、マルコさんは嬉しそうに目を細めた。

「最後のプレゼント、全部、受け取ってくれますか?」
「あぁ、もちろん」

顔を傾け、唇を重ねる。
お誕生日おめでとうございます、生まれてきてくれてありがとうございます、これからもずっと祝わせてください、いつも可愛い、偶にかっこいいマルコさんが大好きです。
伝えたいことはたくさんあって、その想いを乗せながらマルコさんの顔中にキスをする。時折マルコさんを見れば、昨日とは比べ物にならないほど幸せそうな、満ち足りた表情をしてくれて、その度に胸が満たされ、またプレゼントを貰った気分になり、お返しがしたくなる。
もっとしてあげたい、もっと、もっと。

「痕、つけていい?」
「いいよい」

どこなら大丈夫かと尋ねれば、好きなところでいい、と教えてくれた。

「ここ、も?」
「ん」

指で首筋や鎖骨あたりに触れながら、ここは?ここは?と確認する。マルコさんはくつくつ笑いながら、全部いいよい、と答えてくれた。
どこでもいいなら、どこがいいかな…。ここかな、この辺り?
指でなぞりながら、どこにしようと悩んでいると、マルコさんにくすぐったいと手を掴まれた。どこがいいか悩んでしまうと、正直に話せば、全部につけろ、と真面目に返され、ぽかん、とマルコさんを見つめ返す。

「全部、ですか?」
「ん。ここも、ここも、ここもここも」

つけてくれ、とお願いされれば断る理由はない。先ずはここ、と首に顔を埋め、唇を密着させ、力強く吸い付く。顔を少し離して見ると、ちゃんとついていた。
よし、次は…ここ。
次は、次は、と吸い付き続け、指で示した箇所、全てにくっきりと、私のものだという印がついた。

「ふふ、全部つけましたよ」
「綺麗にできたか?」
「はい、へへ」

印に乗せた想い、マルコさんに届くといいな。

「マルコさん、まだし足りないです」
「はは、なら、やるしかないねい」
「はい、やるしかないです」

よし、と意気込み、開始の合図だと、おでこにキスをする。
それから、マルコさんが幸せすぎて死にそうだ、と降参するまで、何度も、何度も、想いを伝え続けた。
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