パイナップルからはじまる恋

「いやー、美味かった」
「ね。スパイス効いてるのに思ったほど辛くなくて、美味しかった」
「前回のリベンジにはなったか?」

リベンジになったと伝えれば、同級生はよっしゃ、とガッツポーズをするので笑ってしまった。
先日の間違えて酒を飲んだ日に同級生が言っていた通り、美味い飯を食いに行こうとスープカレー屋に連れて行ってもらったのだ。気になっていた店だったようで、同級生は運ばれてきた具沢山のスープカレーに感動していた。その様子に大袈裟だなと少し思ったけど、食べてみるとスープカレーはスパイスが効いているのに野菜の甘みがあって美味しかったし、ターメリックライスも本当に美味しくて、食べ始めたら私も感動してしまい同級生に笑われた。

「この辺りに新しいビルできたよな?」
「できたね。確か…あっちかな」

店を後にして同級生がスマホで新しくできたビルを調べてみると三階までには店舗が入っているのが分かった。どんな店があるのか気になるから運動がてら見に行こうと歩いていると、ビルが見えてきたところで同級生が歩みを止める。

「でか…」

同級生はある方向を見て驚いていた。どうしたのかと同じ方向を見ると、見慣れた人が私達の方へ向かってくる。

「よう」
「マルコさん」
「知り合い?」
「うん」

やっぱりマルコさんは大きい。同級生がマルコさんの大きさに驚いてじっと見てしまっている中、マルコさんから同級生のことを尋ねられる。

「大学の同級生です」
「背が高いですね」
「いやいや、貴方こそ。ちなみに身長は…?」
「二〇三センチです」
「二メートル超え…!」

私からしたらマルコさんも同級生も大きすぎる。私の頭上で身長高くて困る事あるあるが始まってしまい、しばらく二人を見上げて話を聞いていたけど、マルコさんが私の方を見て何をしていたのかと尋ねてきた。ご飯を食べ終わってぶらぶら歩いているところだと答えれば、そうか、と短い返事が返ってくる。

「マルコさんは買い物ですか?」
「あぁ、菓子を買って、オーダースーツの注文をしにねい」
「もしかして、明日のお菓子ですか?」
「くく、そうだよい」

何を買ったのか気になり見せて欲しいとお願いしたけど、さっと後ろに隠されてしまい、明日のお楽しみだとぽんと頭を撫でられる。どんなものを買ってくれたのか楽しみで笑っていれば、やりとりを不思議に思った同級生が私達の間柄を尋ねてきた。

「実家の店によく来てくれて、仲良くさせてもらってるの」
「ふーん…?」
「…どうかした?」

同級生はじっとマルコさんを見て、不思議なことを言った。

「同じ匂いがする」

突然の野生的な発言。同級生にどういう意味か聞こうとしたら、今度はマルコさんも不思議なことを言う。

「同族がそばにいるとは思っていなかった」

なんだろう。身長が高い者同士ってことかな。
よく分からない空気が二人の間に流れていて、声をかけずらい。険悪な雰囲気ではないけど、良い雰囲気でもなく、お互いを見つめあったまま動かない二人。
どうしよう、と間にいる私が何度も二人を交互に見ていると、マルコさんが先に口を開いた。

「んじゃ、また明日」
「はい」
「迎えに行くから連絡な」
「え?…あの、電車で行くって」

マルコさんの家の最寄駅で待ち合わせのはずじゃ、と言おうとしたら、ぽんと頭を撫でられ、じゃあと去って行った。

「迎えに行くって、何?」
「え?」
「あの人、独身?」
「うん、独身だよ」
「……」

マルコさんの後ろ姿をじっと見ていた同級生は、真剣な顔で私に向き合った。

「あのさ、来週空いてねぇ?」
「来週?…土曜日の夜なら「空けといて」」

同級生はビルを見に行こうと歩き出したので、慌てて着いて行った。

◇ ◇ ◇

翌日、マルコさんは本当に迎えに来てくれて、そのまま食材を買いに行ってマルコさんの家にお邪魔した。着いてすぐに鍋やまな板、包丁、食材を並べ、後ろに立ったマルコさんを見上げれば見つめ返してくるだけで反応がなかったけど、お仕事だと伝えればすんなり横に立ち、よし、とやる気を出す。
今日はマルコさんにお願いする作業が今までで一番多い。サッチさんにマルコさんの料理姿を送る為、先ずは鍋を渡した。

「水はこの辺りまで入れてください」
「ん」

マルコさんを動画に収める為にスマホを向けていると、突然、インターホンが鳴った。けどマルコさんは気づいているのかいないのか、鍋に水が入っていくのをじっと眺め続けていて出る様子がない。宅配だったら受け取った方がいいかもしれないので画面を覗いてみると、映っていたのは私の知っている人だった。

「マルコさん、イゾウさんですよ」
「イゾウ?何のようだ?…今日何かあったか?……って、あ!」

余所見をしていたから鍋から水が溢れ出てしまい、マルコさんが慌てている。

「イゾウさん、こんにちは」
『おや、お嬢さん。マルコはいるか?』
「います。すみません、今、マルコさんは手が離せなくて…」
「水はこれくらいでいいかよい?」
「あ、マルコさん床に水が…」
「……よい」
「タオルで拭けば良いですよ。鍋の水はこれくらいで大丈夫です」
『お嬢さん、すまないが開けてくれると助かる』

床に水を溢したマルコさんのことに気を取られて、オートロックの解錠を忘れていた。
やって来たイゾウさんにマルコさんが用事を聞けば、スマホを見せながら来た理由を教えてくれる。どうやらイゾウさんは、サッチさんにマルコさんが本当に料理ができるようになったのか確かめろと言われたらしい。先週送った動画をサッチさんはやらせだと信じていないようで、それを知ったマルコさんはなんでだよい…としょげてしまった。

「マルコさん、今日はイゾウさんが居ますからサッチさんも信じますよ。頑張りましょ?」
「よい」
「今日は何を作るんだ?」

マルコさんに何を作ってもらうか考えた結果、パスタにした。マルコさんはつぶす、混ぜるはできるようになったから、次は茹でる、炒めるをできるようになってもらおうと思ったからだ。
イゾウさんがスマホを構え、マルコさんに続きをお願いする。鍋をコンロに置いて火の付け方を教えてマルコさんに火をつけてもらった。

「マルコは真剣だな」
「はい、いつも真剣です」

パスタが茹で上がるのを真剣に待っているマルコさんを見て、イゾウさんにいつもあんな感じなのかと尋ねられる。材料を切りながらマルコさんはいつも真剣で教え甲斐があると伝えれば、イゾウさんは真面目な生徒だなと笑っていた。

「待て待てマルコ、ザルを出せ」
「ザル?」
「マルコさん、ここにパスタを入れてください」
「勢いよくひっくり返すなよ。ゆっくり傾けろ」
「よい」

私とイゾウさんが見守る中、マルコさんは鍋を持ってパスタをザルに上げる。けど、イゾウさんがゆっくりだと言ったから本当にゆっくりでなかなかザルにパスタが入っていかない。茹で汁だけがどんどん流れていき、遂には茹で汁が無くなってしまいパスタが鍋の中に残ってしまった。
このあとマルコさんはどうするのかと眺めていれば、鍋の中を覗いて、どうしようと私達を見て、よい…と助けを求めてくる。
か、か、「か、可愛い…」

「…お嬢さんは変わり者だな」
「喋ってないで助けてくれよい…!」

菜箸でパスタを掻き出し、無事にパスタを救出。

「次のお仕事ですよ」
「ん」

深めのフライパンを出して、オリーブオイル、トマト缶、切った玉ねぎとにんにく、コンソメと塩を準備する。マルコさんに火をつけてもらい、オリーブオイルとにんにくを入れて木べらで炒めてもらおうとしたら、フライパンに木べらを押し付け力強く動かすのでフライパンからにんにくが飛び出しそうになる。

「マルコさん、もっと軽くでいいですよ…こんな感じです」
「よい」
「玉ねぎも入れるのでそのまま炒めてくださいね」
「ん」

トマトソースと取っておいた茹で汁を加えて、マルコさんがパスタも入れて絡ませていると、動画を撮り終えたイゾウさんが人参を使っていいかと尋ねてきた。使って良いと頷けば、すごい速さで人参を千切りにしていくので圧倒されてしまった。まじまじと眺めていると、頭上からイゾウもすごいがサッチの方が上だと声がして、見上げればマルコさんもイゾウさんの包丁さばきを見ている。

「サッチさんはもっとすごいんですか?」
「あぁ。あいつの包丁さばきはすごいよい」
「ベタ褒めなんて、マルコさんはサッチさんが大好きなんですね」
「こいつはサッチの客第一号だからな」
「サッチさんの料理で一番好きなのはなんですか?」
「サッチ丼」
「即答ですね」
「あれは本当に美味いんだ」

それはどんな丼物なのだろうか想像していると、マルコさんは突然はっとした顔をして、私の酢豚も美味いと伝えてくれた。私の料理もサッチに負けてない、本当に美味いんだと力説してくれて嬉しくなる。

「前にマルコさんが話してくれたので知ってますよ。ありがとうございます」
「マルコ、人生最後の日に食べたい料理はサッチ丼かお嬢さんの酢豚か、どっちだ?」
「なっ…!!」

見上げれば決められないのか真剣に悩んでいて、視線に気付いたマルコさんはどうしようと慌てていた。

「人生最後の日ぐらい、仲の良いお友だちの料理を食べてあげてください」
「そしたらお前さんの料理が食えねぇ…!」
「でも私の料理を選んだらサッチさんの料理が食べられませんよ?」
「ゔっ…だがサッチの飯を選んだら…!」
「私の料理は食べられませんね」
「…イゾウ、どうしたらいいんだよい!」
「そうだなぁ…死ぬまで悩み続けろ」

くつくつ笑いながら人参を酢、オリーブオイル、砂糖などと混ぜていたイゾウさんが、答えが出なくて苦しんでいるマルコさんに盛り付けを頼む。マルコさんは盛り付けは得意なので全て綺麗に皿に盛り付けてくれた。
そして出来上がったものをテーブルに運ぶと、マルコさんが私にここ、と隣を指差すのでイゾウさんが何故向かい合わせじゃないのかと不思議そうに私達を見た。

「「「いただきます」」」

今日はトマト缶で作ったパスタと、イゾウさん作のキャロットラペ。
イゾウさんはマルコが作ったのか、と記念写真を撮り、マルコさんは私とイゾウさんの反応が気になるのか私達を交互に見る。あまりにじっと見てくるので感想を伝えるためにフォークでパスタをくるくる巻いて一口。

「美味いぞ」
「美味しいです」

私とイゾウさんの感想にマルコさんはほっとした顔をして、ようやく食べ始めた。美味い、ともぐもぐ食べるマルコさんを眺めていたら、ん、とフォークを差し出される。食べたかったわけじゃなくて食べている姿を眺めたかっただけなので遠慮したけど、マルコさんは、ん、と言うだけでフォークを戻さない。

「…あ、あん」
「ん」
「…ん、美味しいですよ」

私の言葉に嬉しそうに笑ったマルコさんがもう一口とまた食べさせようとする。自分の分もあるから大丈夫だと伝えても、頑ななマルコさんには全く敵わず食べさせてもらった。

「美味い?」
「はい。美味しいですよ」
「よい」
「なるほどなぁ…」

イゾウさんの声が聞こえたので視線を向ければ、イゾウさんはスマホのレンズをこちらに向けていた。

「あれだな。お嬢さんだからマルコもできるようになったということだろう」
「誰でも教えられると思いますよ」
「いや、サッチでは絶対無理だった」
「サッチも教え方を見習ってほしいねい」
「いや、お前にも原因があるからな。予想外の行動をするから、キッチンには立たせたくない」

確かに、前にジャガイモを潰してもらった時は人にナイフをぶっ刺すような勢いだった。あの時の姿が印象強く、包丁を持たせたら危ない気がして、まだ切る作業はお願いできない。けど、いつかは一品でもマルコさんが全て一人で作れるようになるといいな。

「包丁もいつか教えますからね」
「あぁ」
「くく、こいつに持たせたら死人が出るぞ」
「んなことねぇ」

本当に目を離したら死人が出そうだなぁ、とキャロットラペを掬っていると、ぐい、と肩を引き寄せられ頭に重みを感じた。視線を上げるとマルコさんの顎が頭に乗っていて、私の体をがっちりホールドしている。

「俺は、やればできる男だよい」

ふふん、と得意げのパイナップルおじさん。
突然の行動に私もイゾウさんも反応できずに固まっていれば、だろい?とマルコさんが私を見つめてくる。そのあまりにも可愛い姿に無意識にマルコさんの頬を撫でてしまい、そしたらマルコさんはとても嬉しそうに手に擦り寄ってきたので驚いてしまった。
……うん、可愛いからなんでもいっか。

「お嬢さん、意思表示はしっかりするべきだ。嫌ならはっ倒せ」
「大丈夫ですよ。…ちょっと可愛すぎて困りますけど」
「マルコもマルコだが、お嬢さんもお嬢さんだな…」

マルコさんに離れてもらい全て綺麗に完食してしばらくすると、イゾウさんは店の準備があるからと帰られ、私達は先週に話をしていた映画を見ることに。

「マルコさん、昨日のお菓子見たいです」
「ん。これな」

ソファの前に座っている私の前に置かれた袋は知っている有名なお店のものだった。袋から出すと、ネットやテレビで見たことある長方形の缶。これは、まさか…。
もしかして…と蓋を開けると、缶の中にはたくさんの宝石が…!

「ま、マルコさん!これ!私でも知ってます!!」
「お、知ってたか?」
「期間限定のクッキー缶!わぁ…!」
「くくっ、そんなに喜んで貰えるなら買った甲斐があるねい…くくく…」
「マルコさん!すごい!初めて見ました!」
「ははっ…!だめだ、お前さんっ、テンションが…!」

すごいすごい、と缶いっぱいの色んな形のクッキーを見て、マルコさんを見て、またクッキーを見て、またマルコさんを見れば、マルコさんは肩を揺らして笑いを堪えていたけど途中で吹き出して大笑い。

「金曜日にな、部下が明日は絶対買うんだと意気込んでたから、一緒に並んだんだよい」
「どのくらい並んだんですか?」
「一時間ぐらいか。部下と話してたらあっという間だったよい。気に入ったか?」
「はいっ!」
「くく、そりゃあ、よかった」
「写真撮ってもいいですか?」
「もちろん…よい、しょ」
「…え?」

私の真後ろの位置でソファに座ったマルコさんは、私の腰を両手で掴むと持ち上げた。突然の浮遊感に何が起こったのか分からずいれば、ぽすん、とマルコさんの足の間に収まる形で座らされる。そして両側から太い腕が回ってきて固定され、背中からマルコさんの体温が伝わってきた。

「ん、お前さんのスマホ」
「あ、ありがとうございます…?」

マルコさんが腕を伸ばしてテーブルにあるリモコンを取ろうとするので私も一緒に前屈みになってしまった。状況がよく分からないけど、とりあえず写真を撮って、クッキーが食べたかったので一ついただく。

「…ん、ん!マルコさん、美味しいです…!」
「くく、明日、部下に言っておくよい」
「マルコさんも」

気にはなっていたけど、並ぶのも大変だからと食べたことなかった有名店のクッキー。サクサクで本当に美味しくて、話しながらとはいえ一時間も並んでくれたなんて、マルコさんは優しいなぁ。
早く食べてほしくて、はい、と体を少し横に向けてマルコさんの口元にクッキーを持って行くとマルコさんの目が少し大きくなった。

「マルコさん、お口開けて?」
「!?」
「すごく美味しいですよ」
「…あ、あー」
「えい」

口を開けてほしくて、クッキーでマルコさんの唇をつついてみれば、しばらくマルコさんは目線をあちこちに彷徨わせていたけど口を開けてくれたのでクッキーを放り込む。

「ん、トマト味だ」
「美味しいですね」
「美味いねい」

先ずは全種類を一つずつ食べたくて、手のひらに二つずつ乗せてマルコさんに三回ほど口を開けてもらい、マルコさんはもぐもぐしながらリモコンを操作し一緒に見た推理物の映画が始まった。私もマルコさんも犯人を当てられなかったから今日は犯人の決定的なシーンを探しつつ、マルコさんと話しながら映画を観る。

「このシーンだったんですね」
「ちゃんと見てたんだがなぁ…この後のシーンで弟が犯人かと思ったんだが…」
「私は家政婦さんが裏の倉庫にいるシーンで家政婦さんかと思ったんですけど…」
「あ」
「はい、どうぞ」

マルコさんが私の肩に顎を乗せて口を開けたのでクッキーを差し出し私ももう一つ食べる。このクッキー缶は甘いのもしょっぱいのも入っているから、無限に食べていられる。このまま食べ進めると夕食が入らなくなっちゃうけど、止まらない。
困ったなぁ…と思いながら手が自然とクッキー缶に伸びていく。すると同じことをマルコさんも思ったようで、夕食をどうするかと悩んでいた。

「夜ご飯いらないくらいだねい」
「マルコさんもそう思いますか?どうしましょう?」
「これ、持って帰っていいよい」
「いえ、マルコさんが買ってきたのでマルコさんが食べてください」
「いや、可愛い反応してくれたからねい。俺はもういいよい」
「?」

十分堪能した、と言うのでありがたく貰うことにして、夕食をどうするか考える。
私は半分ほどお腹が満たされてしまい、マルコさんのお腹の空き具合を確認するとつまみ程度は食べたいと言うのでつまみだけを作ることにした。

「お前さんも軽くなら食べられるか?」
「はい。それに、今日は夜ご飯も一緒に食べる約束でしたもんね」

そう言えばマルコさんは顔を綻ばせ、その表情を見たら無意識に手がマルコさんの頬にいき撫でてしまった。マルコさんが嫌がらないのでしばらくすりすり撫でていると、そう言えば、とマルコさんがあることを尋ねてくる。

「昨日の同級生とはよく会うのか?」

四回ほど会っているけど、よく会うかと聞かれればそうでもないと思う。答えに悩んで偶に、と答えればマルコさんは私の手を掴んで真剣な顔で見つめてきた。

「来週の日曜日空いてるか?」
「はい。空けてありますよ」
「…空けて、くれているのか?」

日曜日はマルコさんの家に行く日。私は他の予定を入れたいとは思わなくなっていた。
けど、それは私が勝手にしていることだからマルコさんに用事が入っていても構わない。マルコさんにそれを伝えればマルコさんも予定を入れないようにしていると教えてくれて、なんだかすごく嬉しくなる。

「また美味い店教えてもらったんだ。そこ行かねぇかい?」
「車で行くところですか?」
「あぁ。今度は山の方」

ただ、車で二時間はかかるから無理にとは言わないと気を遣ってくれたけど、マルコさんとなら全く嫌じゃない。
一緒に行きたい、二時間でも三時間でも何時間でも、マルコさんと行けるならどんなに遠くても良い。
体をエンドロールが流れているテレビではなく、マルコさんの方にできるだけ向けながらそう伝えれば、マルコさんは微笑みながら両手で頬を撫でてくれた。

「マルコさん」
「ん?」
「…えへへ」

来週もマルコさんに会えることが嬉しくて、頬を優しく撫でてくれる大きな手が温かくて、変な笑い声が出てしまった。そんな私を見て、マルコさんはまた私の腰を掴んで、今度は向き合うように座らされる。

「あのよい」
「なんですか?」
「俺は…」

マルコさんは鼻同士がくっつきそうになる程顔を近づけてきた。近すぎてマルコさんの顔全体が見えなくなってしまいどんな表情をしているのかは分からないけど、声のトーンがいつもよりも低くて、私は喋ってはいけない気がしてじっとマルコさんの瞳を見つめる。

「いや…なんでもねぇ」

エンドロールが終わり自動で別の映画が始まった時、マルコさんは顔を遠ざけ、優しく笑いながらまた頬を撫でてくれて、私はえへへ、と声を出してしまった。
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