マラケシュのグラス越しに
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「まず、一番にカサブランカね」
最初に行く場所はそこと決めていた。
地図を広げて見てみる距離およそ3,400km。飛行機ならまぁまぁ早くつくだろう。
「理由は?」
ふと訊ねるのは花京院。
チェリーのピアスがかすかに揺れる。
彼はまるで小さな子供の描いた絵の世界観を訊ねるよう、私に優しく微笑んでいた。
「シャウエンに行きたいの。知ってる?青の街並みがきれいなの」
モロッコには空港が2つあって、今回はその内の一つを使うのだ。
一方はシャウエンまでバスで10時間かかるのでカサブランカに行くことにした。
「映画でも有名だったな。カサブランカ。確か…」
「君の瞳に乾杯…?」
「…君も知ってたのかい?」
「…ええ。いや、言ってみただけよ」
言った後で中々恥ずかしくなった。花京院もそんな私の様子を見てか、笑いそうな口元を指で隠している。
「あれ、実はアドリブらしいよ。俳優のね。そう思うと余計にいいセリフに思えてくる」
「へえ…知らなかった」
結構映画には詳しいらしい。じゃあ…
「スタンド・バイ・ミーは見た?」
「ああ、見たさ。特に焚き木を囲った後の見張りのシーンが好きだったな」
「本当に?私もあのシーン好きなのよ。それぞれの個性が出てるというか」
気づけば離陸しようとする時まで夢中になって話していた。
こんなに話せる相手がそうそう居なかったからなのかもしれない。
「でも、私一番好きな映画は”あれ”かも」
「?…どれなんだい?」
「ロリータって映画。知ってる?」
「…知らないな。どんな映画なんだい?」
ふと、窓の外をちらりと見てから、私は静かに口を開いた。
なぜか、懺悔室で神父に罪を告白するような妙な緊張感を飲み込でから
「主人公のね…ハンバートって言うんだけど、その男が初恋の相手とよく似た少女”ロリータ”に恋してどんどん彼女に対する感情が歪んでいくの。一般的に言うとイリーガルなドロドロ映画」
花京院はやや眉をひそめていた。ロリータという単語は時として不穏な響きを孕んでいる。
けれど、私はそれを理解した上で、それでも、と口を開いた。
「私はね、あの物語は理想と現実との埋まらない差、つまりギャップを皮肉った物語だと思ってるの」
「理想との…ギャップ?」
「ええ、大人と子供、そして大人視点から見たロリータと、現実のロリータとしてのギャップ。ロリータはハンバートが思ってるような美少女じゃあない」
「でも、現実ってそんなことばっかりよね。理想も夢も簡単に裏切られる。だからあの映画が好きなのかも」
シートに深く頭を預ける。遅れて私の頭を沈み込ませ、後頭部を包み込む。
「だから、この旅ぐらいは理想っぽくしたかったのよ」
小さなため息が、耳元で揺れた。
何かを振り払うようにでも、何かを確かめるようにでもない、ただの呼吸。
そして、隣から静かな声が落ちてきた。
「…なるさ、きっと」
アメジストの瞳がじっと見据える。
その言葉には、確かな重みがあり、飛行機の離陸したのと同時にゆっくりと私の口角は上がっていた。
最初に行く場所はそこと決めていた。
地図を広げて見てみる距離およそ3,400km。飛行機ならまぁまぁ早くつくだろう。
「理由は?」
ふと訊ねるのは花京院。
チェリーのピアスがかすかに揺れる。
彼はまるで小さな子供の描いた絵の世界観を訊ねるよう、私に優しく微笑んでいた。
「シャウエンに行きたいの。知ってる?青の街並みがきれいなの」
モロッコには空港が2つあって、今回はその内の一つを使うのだ。
一方はシャウエンまでバスで10時間かかるのでカサブランカに行くことにした。
「映画でも有名だったな。カサブランカ。確か…」
「君の瞳に乾杯…?」
「…君も知ってたのかい?」
「…ええ。いや、言ってみただけよ」
言った後で中々恥ずかしくなった。花京院もそんな私の様子を見てか、笑いそうな口元を指で隠している。
「あれ、実はアドリブらしいよ。俳優のね。そう思うと余計にいいセリフに思えてくる」
「へえ…知らなかった」
結構映画には詳しいらしい。じゃあ…
「スタンド・バイ・ミーは見た?」
「ああ、見たさ。特に焚き木を囲った後の見張りのシーンが好きだったな」
「本当に?私もあのシーン好きなのよ。それぞれの個性が出てるというか」
気づけば離陸しようとする時まで夢中になって話していた。
こんなに話せる相手がそうそう居なかったからなのかもしれない。
「でも、私一番好きな映画は”あれ”かも」
「?…どれなんだい?」
「ロリータって映画。知ってる?」
「…知らないな。どんな映画なんだい?」
ふと、窓の外をちらりと見てから、私は静かに口を開いた。
なぜか、懺悔室で神父に罪を告白するような妙な緊張感を飲み込でから
「主人公のね…ハンバートって言うんだけど、その男が初恋の相手とよく似た少女”ロリータ”に恋してどんどん彼女に対する感情が歪んでいくの。一般的に言うとイリーガルなドロドロ映画」
花京院はやや眉をひそめていた。ロリータという単語は時として不穏な響きを孕んでいる。
けれど、私はそれを理解した上で、それでも、と口を開いた。
「私はね、あの物語は理想と現実との埋まらない差、つまりギャップを皮肉った物語だと思ってるの」
「理想との…ギャップ?」
「ええ、大人と子供、そして大人視点から見たロリータと、現実のロリータとしてのギャップ。ロリータはハンバートが思ってるような美少女じゃあない」
「でも、現実ってそんなことばっかりよね。理想も夢も簡単に裏切られる。だからあの映画が好きなのかも」
シートに深く頭を預ける。遅れて私の頭を沈み込ませ、後頭部を包み込む。
「だから、この旅ぐらいは理想っぽくしたかったのよ」
小さなため息が、耳元で揺れた。
何かを振り払うようにでも、何かを確かめるようにでもない、ただの呼吸。
そして、隣から静かな声が落ちてきた。
「…なるさ、きっと」
アメジストの瞳がじっと見据える。
その言葉には、確かな重みがあり、飛行機の離陸したのと同時にゆっくりと私の口角は上がっていた。
