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放課後。サソリと二人で一年生の教室に向かった。サスケくんは無事に高校に受かり、C組と聞いている。一年の時私たちが使っていたクラスだ。
『サスケくん!』
人がまばらになり始めている教室で、私はサスケくんに声をかけた。スマホをいじっていたサスケくんが私たちを見てあからさまに嫌そうな顔をする。
「ほんとに来たのか…」
『だから行こうって言ったじゃない』
チラッとサスケくんがサソリの顔を見た。サソリはいつもの無表情である。
「オレに何万も使わねーでコイツに使ってやれば?」
『それとこれは話が別。ブレスレット売っちゃったの私のせいなんだから』
ね?とサソリに同意を求める。サソリは曖昧に頷いた。
「諦めろ。どうせ何言ったって言うこと聞かねーんだから」
『そういうことです。ね?行こう』
「……」
サスケくんは盛大に溜息を吐き出した。
****
電車を何個か乗り継ぎ、ミコトさんに教えてもらったアクセサリーショップに向かう。さすがうちは一族御用達のお店。高級感に溢れている。
「サスケ様、ご友人様。本日はご来店ありがとうございます」
店員さんが深々とお辞儀をしてくれる。サスケくんは名前を覚えられているらしい。
「本日はどのようなものをお探しで?」
『プラチナのブレスレットを探しているんですけど』
「承りました。数点ご用意致します。少々お待ちくださいませ」
店員さんが無駄のない動きでショーウィンドウの中から3個のブレスレットを取り出した。
「ご予算にもよりますが…この辺りは如何でしょうか?」
見た限り、どれも素敵なデザインである。というかこのお店に素敵じゃないものなど存在しなそうだ。
どれがいい?とサスケくんを見る。サスケくんは浮かない表情だ。
「一体いくらすんだよ」
「こちらが8万円、こちらが10万円、こちらが13万円です」
「高い。もっとグレード落としてくれ」
サスケくんの言葉に、私は反論する。
『大丈夫だよ。ちょうど予算13万用意してきたから。どれでも平気』
「13万って…」
『ミコトさんが買った時10万円くらいって言ってたから。念のため持ってきといた』
サスケくんが呆れたように溜息をつく。
「コイツにもそんなに高いもの買ったことないだろ…」
『だからそれとこれとは別。サソリは誕生日の時にまたちゃんと用意するから。ごめんね、サソリ』
「…オレは別に構わない」
サソリは変わらず無表情だ。彼は私に言われてついてきただけで、口を出すつもりはなさそうである。
サスケくんはじっとブレスレットを見る。予想はしていたものの、この中で一番安い8万のブレスレットを指さした。
「じゃあこれ」
『えー?それ?サスケくんにはこっちのが似合うと思う』
私は10万円のものを指さした。サスケくんが少しイライラした様子を見せる。
「そんなにかわんねぇだろ」
『変わるよ。全然違う。すみません、これつけてみてもいいですか?』
店員さんに手袋を借りて、それを嵌めてから10万円のブレスレットを持ち上げた。
『はい、手出して。つけてあげる』
「……」
サスケくんがまたサソリの顔を確認している。どうやら私より、サソリに気を使っているようだった。それを無視して、左手を取る。
細かい金具を開いて、サスケくんの腕に通した。
『ほら、似合う。絶対これがいいって。これにしなよ』
予想通り、そのプラチナのブレスレットはサスケくんにとてもよく似合っていた。
店員さんに、似合いますよね?と同意を求める。
「はい。まるでサスケ様のために作られたかのようなデザインです」
『ね?これがいいって店員さんも言ってるよ』
「世辞だろ…」
サスケくんはまた溜息をついた。少し考えた仕草を見せ、サソリに向き直る。
「本当にいいのか?」
「オレに聞くなよ。オレは別に構わない」
サソリは相変わらずである。
私はもうひと押し、それにしなよと言った。サスケくんはもう、否定の言葉は出さなかった。
****
サスケは俺様に見えて意外に気遣いができる人間なのだと思った。終始オレのことを気にしていた様子である。
『とりあえずよかった、買えて』
「そうだな」
サスケと別れて電車に揺られていた。時刻は18時。微妙な時間である。
明日から本腰を入れて勉強会をするとなると、真白さんに挨拶がてらこのまま彼女を送り届けた方がよさそうだ。
「今日はこのまま帰るぞ」
『……え』
美羽があからさまに不満そうな顔をする。
何だよ、とオレ。
「明日から遅くなるんだから。今日は早めに帰っておけ」
『せっかく勉強してきたんだから。試そうよ』
彼女の言っている勉強が学校の授業ではないことは明白である。
オレは溜息をついて窓の外を眺めた。
「言っとくけど、そっちの頻度も落とすぞ。勉強優先」
『えっ!?』
美羽が大きな声を出した。乗客にジロジロ見られ、慌てて口元を押さえている。
美羽は低い声でどうして?と呟いた。
「だから、勉強優先したいから」
『それにしたって…ちゃんと勉強してそれもすればいいじゃない』
「現段階で、両立できてないだろ。学校でも言ったがお前は煩悩が多すぎる。勉強に集中しろ」
美羽が完全にジト目をしている。しかしオレは自分の意見を曲げる気は全くなかった。そして彼女もそれはわかっているだろう。
『具体的に、どれくらいの頻度ならいいの?』
「とりあえず中間テストまではなし」
『え!?』
美羽がまた大きな声を出して乗客に睨まれている。しかし今回はそれを気にする余裕がない模様。
『中間まで1ヶ月以上あるんだけど…』
「1ヶ月しかない、だろ。お前、このままだと中間の結果も悲惨だぞ」
美羽が押し黙る。
「そういうことばっかりしてて成績不振です、なんて本気で洒落にならない。親公認で勉強会するんだから。オレにもお前の成績を伸ばす責任がある」
『……』
「学生の本業は勉強だ。それを疎かにしてまですることじゃない」
主語はないが伝わってはいるだろう。美羽は納得していない表情だ。しかし反論する気もなさそうである。実際現在成績は伸び悩んでいるため、言い返せないのだろう。
わかりました、と嫌そうに呟く美羽。本当に嫌そうだった。
『…じゃあ、中間終わったらね』
「成績によっては延長するから」
『……』
美羽は絶句している。当たり前だろ、とオレ。
「成績が悪けりゃスケジュール詰めるだけだ」
『具体的な指標は?』
「そうだな。クラス10位以内でどうだ?」
うちのクラスは36人。その中でもS大レベルに入れるのは上位5人といったところだ。下手すればそれよりも少ない。現段階でそれを美羽に求めるのは厳しいだろうが、少なくとも2年のうちには10位以内に入ってもらわないと後々厳しくなる。
10位…と美羽は弱々しく呟いた。自信はなさそうな様子。
「ちなみに、オレとイタチが1位2位は確定事項だから。皐月もいつも10位以内に入る。実際残りの枠は7人しかねえな」
『もう一声』
「はい?」
『もう少し目標下げて…』
美羽の嘆願を秒で棄却する。
「目標下げたところでS大のレベルは下がらない。なんとしても10位以内に入れ。そのために明日から勉強すんの」
『……』
美羽は小さな声で、また『わかりました』。オレは窓に寄りかかりながら美羽に視線を向ける。
「中学まで成績優秀だっただけのことはあんだよ。地頭は悪くない。真面目に勉強すれば
普通に入れる順位だぞ」
『買いかぶりすぎなのよ、サソリは…』
「煩悩がなければお前は優秀。その無駄な勤勉さを勉学に向けろ」
美羽はまたムスッとした。
『わかった。絶対10位以内に入る』
「やっとやる気になったか」
『その代わり!』
美羽はオレの耳元に唇を寄せた。
『入ったら覚悟してよ』
「なにを」
『パンツ脱がせるから』
「はい?」
呆れた顔をするオレと、至って真面目な様子の美羽。
『10位に入ったら絶対パンツ脱いでね』
「なんだそれ…」
『満足させるって決めてるの』
「そんな決意表明されてもなぁ…」
だからなぜその熱意を勉強に向けられないのか。
しかし美羽は、完全にやる気スイッチをオンにしたようである。目を鋭くさせて、鞄から参考書を取り出した。
『そうと決まったら1秒も無駄にできないから。勉強する』
「……」
色々不安ではあるが、今やる気を削ぐのは得策じゃない。
真剣に参考書を読んでいる美羽を尻目に、オレはこめかみを抑えるのだった。