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進路指導室の扉をトントンと叩く。すぐに「入れ」と低い声。失礼します、と私は部屋に踏み入った。
「次は春島か」
『だから春島じゃありませんって…』
促され、マダラ先生の目の前に座る。マダラ先生は書類を確認しながらほぉ、と声を漏らした。
「S大の法学部志望か。父親と完全に同じじゃないか」
まあ、オツムは足りていないようだが。言われてムッと顔を顰める。
『これから頑張ります』
「女で法律関係は男受けせんぞ」
『別に男受けしたいわけじゃないので…』
私の言葉に、ふぅん、とマダラ先生は怪しく笑う。
「顔は瓜二つだが母親とは大分タイプが違うな」
『当たり前です。あの母親と同じにしないでください』
母は短期大学出身である。あちらは正直、頭が良くなくても入れるし母はそこから就職もせず家庭に入っている。
否定はしないけれど私の目指すものとは程遠い。
「お前、赤砂と交際してるんだろ?」
『……はい。そうですけど』
それ関係ある?と思いながら否定するわけにもいかず私は肯定した。
マダラ先生は書類から目を離し私を見る。
「だったらやめとけ。ああいうタイプとの交際はお前が強くなったら上手くいかない」
『…どういうことですか?』
マダラ先生は答える。
「アイツは女を服従させたいタイプだ。お前を自分の支配下に置きたいと考えている。現に今はそれで保たれている関係だろう。そこからお前が自立してしまったら関係は途端に破綻するぞ」
服従、か。AVの趣味からしてもそれは間違ってはいないだろう。でも、だからこそ私はあえて自立すると決めているのである。
『私が彼と望んでいる関係は、あくまで対等です。ペットのように飼われたいわけじゃありませんから。彼の首輪なしでは生きていけないような関係にはなりたくないんです。一方的にではなく、お互いに助け合って生きていきたい。それが恋人ってものでしょう』
マダラ先生はつまらなそうにふぅん、と呟いた。
「まだ乳臭いガキのくせにずいぶん偉そうなことを言うもんだな」
『乳臭いって…』
「お前、まだ処女だろう」
『んなっ!?はっ!?』
狼狽した私を見て、マダラ先生はまた怪しく笑った。
「一度でも男を満足させてからそういう偉そうな口は叩くんだな」
『っ、それ関係あります!?』
「関係あるぞ。現にお前の母親はその頃にはもう多くの男を手名付けていた」
絶句していると、マダラ先生はまた書類に目を落とした。
「まあ、どっちにせよ今の成績のままではセンターで足切りだ。せいぜい頑張るんだな、春島」
『だから春島じゃありません!月野です!』
「…月野、か。嫌いなんだよ、その名前」
嫌いって。なんだそれ。人の名字に好きも嫌いもあるんだろうか。
マダラ先生は書類に指を滑らせ、私の名前部分をなぞりながら小さな声で美羽、と呟く。
「美羽、と呼べば良いな」
『…は?月野でいいじゃないですか』
「だからその名前は好かん。美羽、か、春島。どちらがいい?」
そう言われてしまうと選択肢は一つしかなかった。だって私春島じゃないし。
『美羽でいいです…』
「そうか。じゃ、それで」
マダラ先生は私の書類をファイルにしまった。どうやら面談は終わりのようである。
ありがとうございました、と言って私はそそくさと教室を後にした。
****
『あの担任嫌い!』
美羽は最近何やらプリプリしている。どうやら先日の面談で相当嫌なことを言われたようだ。
オレは頬杖をつきながらいいから勉強しろ、と促した。美羽はつまらなそうにシャーペンを握り直す。
『お父さんとお母さんと何があったのかは知らないけど!それは私には関係ないことじゃん!お母さんと私は違う人間なんだから』
わかってるから、とオレ。
「悔しいかもしんねーけど成績で勝負するしかねえだろ。実際今のままじゃS大なんて受からねえんだから」
『…う、確かにそうね。勉強する。ほんとに頑張る』
そういえば、とオレは顔を上げた。
「ご両親に勉強会のことは言ったのか?」
『ああ、うん。21時までに帰ってくればいいって。よろしく伝えてねってお母さんが言ってた』
今までもしていたが、2年になったことだし勉強に本腰を入れようと話し合っていた。放課後はオレの家で毎日勉強会をしたいと、ご両親に許可をお願いしていたところである。年頃の娘を男の部屋に送ることに不安もあるだろう。しかし、オレのことを信頼してくれているのだ。これからは今以上に責任のある行動を取ろうと心に決める。
「じゃあ今日から早速やろうぜ。本屋寄って帰るぞ」
『うん…あっ、ごめん!明日からでもいい?』
美羽が顔を上げた。
『バイト代貯まったからサスケくんにブレスレット買うって約束したの』
「ああ…」
そういえばそんなことあったな。
また闇市に行くつもりじゃねぇだろうな、と訝しんだオレの心情を察してか美羽は続ける。
『ミコトさんに買ったお店教えてもらったから。同じのは無理だろうけど、似たようなの買うつもり』
「…ふぅん」
それならいいか、と思いつつも面白くはない。美羽はオレの素っ気ない態度に気づいたようだ。
『なに?』
「いや、別に」
美羽はじっとオレを見ている。
『そういえば、私も少し勉強したの』
「…勉強?」
今してるじゃねぇか、と参考書に目を移すと、違くて、と美羽。
美羽がくいっとオレのネクタイを引っ張った。耳元に唇を寄せられる。
『サソリをどうしたら気持ちよくさせられるかなって』
「ぶっ」
思わず吹いてしまった。美羽がすぐさまオレのネクタイから手を離す。にやー、と怪しく笑った。
『楽しみにしててね』
「……。お前は煩悩が多すぎんだよ」
いいから勉強しろ、とオレは何十回と出した言葉をまた口にした。