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2年生の始業式。皆で集まってクラスを確認した。
大きく張り出した紙の中から各々自分の名前を探す。
「あ、オレA組だ」
最初に名前を見つけたのはイタチだった。う、なので一番上を見ていれば見つけやすいからだろう。それとは同じ理由で、次に声をあげたのはサソリである。
「オレもAだ」
「あー…あれ?オイラもAだ」
「なんだよ。代わり映えしなくね?」
飛段が不満そうな声をあげている。どうやら飛段もAのようである。
「お前は?」
『…全然見えない』
爪先立ちをしているものの、人が多すぎて全く見えない。サソリはその様を見てふっと笑った。
「お前は胸にしか成長期こなかったんだな」
『そういうこと言わないでよ…』
「やったー美羽、一緒!」
その時、皐月に思いきり抱きつかれた。どうやら一緒のクラスのようである。何組?とデイダラ。
「残念ながらあんた達と一緒のAです」
『えっ、ほんと!?』
「なんだ。全員Aかよ。誰か仕組んだんじゃねーの?」
「いいじゃないですか。皆一緒で」
「他のクラスのメンバーはかなり変わってるから、間違いではないだろうけど」
イタチもなんとなく納得がいかない様子である。しかし、何はともあれ皆と一緒なのは嬉しい。うちの学校は2年から3年はクラス替えがない。つまり、3年間一緒のクラスということになる。
「ことごとく腐れ縁だな」
サソリが失笑している。いいじゃない、と私。
『皆仲良しで』
「別に仲良くねーよ」
さっさと踵を返そうとしたサソリの制服の袖を掴んだ。サソリが私を振り返る。
私は嬉しい気持ちを隠せず、満面の笑みで言った。
『2年生もどうぞよろしくお願いします』
サソリは何も答えず、変わりに頬の筋肉を柔らかく崩して笑い返してくれた。
****
2年A組に足を踏み入れる。すると、騒がしかったクラスが静寂に包まれた。
どうやら、派手な彼らに皆ビビっている様子である。
「席どこだ?」
「前に書いてあんだろ、うん」
「げー、一番前じゃん」
皆気にせず自分の席を確認している。私も遠目から眺めていると、トントンと肩をたたかれた。
「月野さん」
『…あれ?早瀬くん。もしかして同じクラス?』
「そう。偶然だね」
早瀬くんはニッコリと笑う。色々あったけれど、早瀬くんとは委員会を通してそれなりに仲良くさせてもらっていた。普通の友達である。
早瀬くんはちらっと彼らを確認して言った。
「彼とも一緒なんだ。よかったね」
『ああ…まあ』
そうね、と曖昧に答える。なんとなくコメントしづらい。するとサソリが私たちの様子に気づいた。あからさまに嫌そうな顔をしている。
「…早瀬。お前も一緒のクラス?」
「そう。2年間よろしくね」
早瀬くんはサソリに手を差し出した。サソリは首に手を当てながらそれに答えない。
「オレ、お前みたいな爽やか男子苦手だわ」
『失礼なこと言わないの!ごめんね、早瀬くん』
「いや、いいよ。僕も君みたいな派手なイケメンは嫌いで」
『……』
結構はっきり言うな、と思った。サソリと早瀬くんは無表情ではあるけれど完全にバチバチしている。
私は早瀬くんにじゃ!と言ってサソリの背中を強く押した。
『ちょっと!喧嘩しないでよ』
「別にしてねーよ。挨拶だ挨拶」
そんな不機嫌な顔で挨拶をする人がどこにいるというのだろう。先が思いやられる、と溜息を吐いたところで教室の扉が大きな音をたてて開いた。ギロっと睨まれた気がして、心臓が跳ねる。
「なにをしている。さっさと席に着け」
皆がすぐさま席につく。特段声を荒げているわけではないのに、何やら大きな圧力のようなものを感じた。
静まり返った教室で、担任と思しき人物が口を開く。
「今日からこのクラスを担当するうちはマダラだ」
「は…?うちは?」
皆が一斉にイタチを見る。
イタチは神妙な面持ちで前を見つめたままだ。
「気づいている奴もいると思うが、ここは問題児クラスだ」
えっ、と思った。マダラ先生が私たちのメンツをジロジロ見ているのがわかる。
急速に腑に落ちた。問題児だからひとクラスにまとめられたということか。
言われてみれば、元々のクラスメイトは私たち以外誰一人としていない。問題児ではないと判断されているのだろう。ということは私も問題児なの?
私の心の疑問の声に答えるようにマダラ先生は言った。
「優等生と問題児を集めたクラス、と言った方が正しいな。バランスを取るために致し方ない措置だ。巻き込まれた奴は諦めろ」
『……』
ああ、そういうことね。皐月とイタチと早瀬くんは恐らくその括りだろう。
でも、やっぱりおかしい。自分で言うのもなんだけど、私は特に問題児ではないと思う。しかし優等生でもない。地味な普通の生徒だ。
うーん、と一人で悩んでいるとマダラ先生と目が合った。
「春島」
ビクッとしてしまう。はるしま?と皆がザワザワする。
私はマダラ先生を見つめたまま動けなくなった。にや、と先生が口角を上げて笑う。
「驚いた。本当に瓜二つだな」
『……』
遠くの席のサソリが訝しげに私を見つめている。近くのデイダラに、春島って誰?と問われる。観念して答えた。
『……母親の旧姓』
「え!?」
母ちゃん!?とデイダラが大きな声をあげてしまう。
春島真白。母親の名前である。今は勿論月野だけど。
『…私、春島じゃありません。月野です』
「ああ、月野の方か。そう言われれば」
この口ぶりだと父のことも知っているようである。気にはなるけれど、突っ込んでいいものなのだろうか。
しかしマダラ先生はあっさりと答えた。
「同窓だ。お前の父母と」
『えっ!?』
同窓!?驚愕する。
「何故自分はこのクラスなんだろう、と顔に書いてあるが、お前も完全に問題児枠だぞ。あの両親でまともなわけないから。特に母親」
『……』
ぶふっ、と皆が笑っている。それを言われると反論できない。
マダラ先生は教卓に目を落とした。出席簿を確認しているようである。
「委員会を決めなきゃいけないんだが。丁度いい。春島。お前学級委員やれ」
『はい!?』
「やらんとお前の父母のとんでもエピソード晒すぞ」
『……』
というか私春島じゃないんだけど、と反論する余地は残されていない。あの両親のことだ。何をやっているかわかったものじゃない。これ以上生き恥を晒すわけにもいかなかった。
他の委員決めはお前に任せる、と言ってマダラ先生は早々に教卓を離れて席についた。
強引にも程がある。
仕方なく前に出た。皆に一斉に見られる。クラっときたけれど、ミスコンのような晒し者にされてるわけでもなし、なんとかなるだろう。
教卓に乗っている書類に目を落とした。
『えーと、決めなきゃいけないのは…副委員長と、風紀委員、美化委員、図書委員…』
「私やるよ、副委員長」
皐月が挙手してくれる。ありがとー、と私。皐月は前に出てきて板書を担当してくれるようだ。
「次は風紀委員」
「オレがやるよ」
「えっ、イタチくんがやるなら私も!」
イタチが立候補してくれ、釣られてファンと思しき女子。その他の委員会も意外にサクサク決まっていく。
『最後。修学旅行実行委員』
しん、と静まり返る。無理もない。3年間の中でも修学旅行はスペシャルイベントである。ということは、実行委員会もなかなかハードだろう。
どうしたものかな、と思っているとマダラ先生が口を挟んだ。
「候補がいないなら女子は春島な」
『えっ!?私学級委員じゃないんですか!?ていうか春島じゃありませんから』
「重複しても別に構わん。決まらないならお前がやれ」
学級委員と修学旅行実行委員って。そんな重役ダブルでなんてとても自信がなかった。しかし、だ。唯一の女友達の皐月は副委員長をやってくれている。他の女子にも押し付けるわけにもいかないだろう。
仕方ないな、と思った。
『…じゃあ、女子は私がやるので。男子誰かやってください』
すると、す、と手が上がった。ブラウンの瞳と目が合う。
「お前がやるならオレがやるわ」
『…ごめん。サソリありがとう』
どうやらサソリがやってくれるようだ。左手で軽く拝んで、ふうっと息を吐く。
『決まりましたよ。全部』
「10分以上かかったぞ。もっと短縮しろ」
感謝されるどころかダメ出しをされる。イラッときたものの態度には出すわけにもいかず、私は大人しく席に戻った。
「ま、何はともあれ今年はこのメンツだ。まだ2年じゃない。もう2年だ。受験も近くなってくる。いっ時も気を緩める暇はないぞ」
マダラ先生がジロリと教室を見回す。目つきが悪い。とても教師とは思えないな、と思った。
「オレに緩さを求めるなよ。厳しくするから、そのつもりで」
教室は最初から最後まで、シンと静まり返っていた。