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「まじかぁ。盗られたの?12万」
飛段の言葉に、生々しい値段を言うな、と角都。
「最近学生を狙った恐喝が増えてるって父が言っていた。まさか美羽が被害に遭うとは思わなかったけど」
イタチの言葉にオレはため息をついた。
「夜道は一人歩きさせないようにしてたんだけどな…店にスマホ忘れて取りに行ったみたいで」
「でも、まじで無事でよかったな。万が一危害加えられてたら洒落になんねえ、うん」
「オレもそう言ってはいるんだが。本人はなかなか折り合いがつかないみたいで」
チラッと美羽の席を確認する。すると美羽は相変わらずマイナスオーラ全開で机に突っ伏したままだ。皐月が非常に困った顔をしている。
可哀想ですね、と鬼鮫が哀れみの目を向けた。
「戻ってくる可能性あんの?実際」
「無理だろ。今頃転売されて終わりじゃないか」
「正直、物が返ってくる可能性は非常に低いって。ピンクダイヤって希少で人気だから」
「サソリの努力の結晶が…」
飛段の言葉に、そんなもんはどうでもいい。とオレ。
「金はまた稼げるから。時間はかかるけどまた買ってやるつもり」
「24万か…」
「だから生々しい値段を言うな」
角都の静止に、だってよー、と反発する飛段。
「オレたちの年齢でその値段は大きすぎるだろ」
「だから盗られたんだろ。まあそういう意味ではオレにも責任あるし」
美羽はあのネックレスを非常に気に入って、毎日身につけてくれていた。体育の時間だけ外して小箱に入れロッカーに鍵をしていると嬉しそうに話していた美羽を思い出す。
「ま、あれだけ気に入ってもらえればネックレスも本望だろ」
「大人だな」
「大人っつーか…本人あんなに落ち込んでるのに追い討ちかけらんねぇし」
それに、とオレ。
「諦めろって言っとかねぇと犯人探ししそうだから。それこそ危ないだろ」
美羽の性格上、オレが何か気にする素振りをしたら身を削って犯人探しをしそうだ。そんなこと絶対にさせられない。
可哀想だが、オレが稼ぎ直してまた同じものを買うのを待ってもらうしかなかった。
またいいバイトあったら紹介してくれ、とオレは角都に声をかける。
もうすぐ一年生が終わる。一年の幕引きは、彼女にとって悲しい思い出で終わることになってしまいそうだ。
****
春休みに入った。気持ちはどん底のままである。
毎日のように、現場近くで男の姿を探していた。サソリに言うと絶対に怒られるので、明るい時間に一人でこっそり。
正直、もう無理だろうなとは思っていた。男を見つけたところで、もうネックレスは持っていないだろう。しかしどうしても諦めがつかなかった。
サソリが体に鞭を打って稼いで、買ってくれた初めてのプレゼント。サソリはまた買ってあげるから気にするなと言ってくれたけど。
私の宝物。命にも変えられないくらい大事なものなのに。
スタバに入ってドリンクを飲みながら、ぼーっと外を眺める。暗闇の中で見た男の顔を思い出そうとするもモヤがかかっていた。人間の記憶は曖昧で、どんどん忘れていってしまう。
2時間くらいぼんやりと眺め、空になったドリンクをゴミ箱に捨てる。流石にこれ以上は店に迷惑である。軽く会釈をして、私は外に出た。
今日サソリはバイトらしい。夜勤ではなく日勤。ガソリンスタンドだと言っていた。私にまたネックレスを買ってくれるため頑張ってくれている。それも本当に申し訳なかった。
もう一周だけしたら帰ろう。そう決めて歩き出したところで、あれ?と聞き覚えのある声。
「お前…」
『あら?サスケくん』
サスケくんがいた。周りに友達が数名。まだ見たことのない子達である。
赤い髪の女の子がサスケくんの腕に絡みついていてビックリした。サクラちゃんでもいのちゃんでもない。思わず彼女?と野暮な質問をしてしまう。サスケくんは心底迷惑そうな顔をした。
「違う。中学の時の腐れ縁」
『そうなんだ。こんにちは』
「サスケェ…知り合い?」
眼鏡の奥をギラっとさせながら女の子が私を睨む。サスケくんはそっけなく答えた。
「兄貴の友達の彼女」
「随分遠いなぁ。でも可愛い子だね」
今度は水色の髪の男の子。八重歯がチラッと覗く。もう一人オレンジ髪の男の子は、穏やかにこんにちは、と挨拶してくれた。
『どうも。月野美羽と申します。サスケくんにはお世話になってます』
「別に世話した覚えはない」
赤い髪は香燐ちゃん、水色の髪は水月くん、オレンジの髪は重吾くんと教えてもらった。もう一度どうも、と挨拶する。
「こんな所で一人で何してんだ?赤髪は?」
『サソリはバイト』
「バイト?」
サスケくんが眉を寄せる。
「あいつバイトなんてすんのか?金持ちのボンボンのくせに」
『うん…まあ、色々あって』
暗い声を出してしまい、サスケくんが不審そうな顔をしている。私は誰かに聞いて欲しかったのもあり、事の経緯を話してしまった。
「それは…お気の毒に」
香燐ちゃんが至極同情的な声を出す。先程まで出ていた敵意が綺麗さっぱりなくなっていた。
「でもさぁ、流石にもう無理でしょ。金銭目的ならもう売られちゃってるんじゃない?」
「そういうことを言うなよ」
水月くんに重吾くん。私は力なく首を縦に振った。
『わかってるんだけど。どうしても諦めがつかなくて』
「いくらくらいしたんですか?」
『…サソリは、大したことないって言ってたけど。ちょっと調べてみたら10万超えてた』
「10万!?」
皆がうわ~…と声を漏らす。金額の問題ではない。ただ、高校生が稼ぐ10万は大人のそれよりとんでもなく価値があるのだ。
私は大きなため息をついた。
『もうほんと、申し訳なくて。大事にしてたのに。初めてもらったプレゼントで』
買い直してもらった所で、あの時のたくさんの感情が詰まった思い出のネックレスは返らない。犯人の数万円の利益のために、こんなに辛い思いをしなきゃいけないなんて。
「そのネックレス。見たらお前のだってわかるのか?」
今まで黙っていたサスケくんが初めて口を開いた。うん、と私。
『後ろにちっちゃく製造番号が入ってたから。それ見れば多分』
「ちなみに何番だ?」
『XR326875』
「そんなの覚えてんのかよ。キモ」
引いているサスケくんに、当然でしょ。と私。
『私の重さをなめないで。クリスマスの時に便箋20枚のラブレター書いてドン引きされたくらいだから』
「そんなんで威張るなよ」
サスケくんはスマホを取り出した。ぽちぽち弄って、チラッと私の顔を確認する。
「そういうの得意そうな知り合いがいる」
『そういうの?』
「…闇ルートで手に入れたブツの転売に詳しそうなやつ」
えっ、と私は声を上げた。一体どんな知り合いだ。
「窃盗物を転売する場合、足がつくのを恐れて質屋だとかの正規のルートを通さない可能性が高い」
『…なるほど。どこで売るの?』
「闇市だよ」
『闇市?』
ニィッと水月くんが笑う。
「楽しいよ。闇市。曰く付きな商品がズラーッと並んでてさ。どういう経緯でここに来たのかなーって妄想すると滾るよね」
「趣味悪ィな…お前」
香燐ちゃんが水月くんの発言に引いている。私は冷静に、その闇市にはどうやったら行けるの?と聞いた。
「簡単さ。君も曰く付きのものを売ればいい。表に出せない、とびきり刺激的なやつ」
『刺激的なやつ…』
いきなり言われてもそんなの思いつかない。サスケくんは一度スマホをポケットにしまった。
「紹介はできるけど、奴は変わり者で。半端なものじゃ納得してくれないと思う」
私は再び考える。正規ルートでは売れなくて、でも需要があって、刺激的なやつ。
『……』