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皆適当に帰路についた。オレと美羽はまだ教室に残って大量のチョコの整理をしている。
イタチは同じ量貰っていたが、車を迎えに呼んだようだった。さすがうちは家の息子である。
『ダメだねー。これは何回かに分けて持って帰らないと捌き切れないね』
「めんどくせえ…」
美羽は紙袋にチョコを詰めてなるべく嵩を減らしている。オレは適当に手伝いながらジロっと美羽を見下げていた。オレの視線に気づいた美羽が首を傾げている。
『なに?』
「別に」
素っ気ないオレの態度に、美羽は思うところがあったようだ。怒ってる?と聞かれて首を横に振る。そうだ、別に怒っているわけではない。ただ少し面白くないだけである。
ガサッと紙袋を鳴らし、乱暴にチョコを突っ込んだ。
「奴らと一緒か」
『?』
「オレの扱いは奴らと一緒かって聞いてんの」
奴らと同じ煎餅。確かに美味かったが、流石に納得のいかないオレがいる。チョコが欲しいわけではないのだが、でも何か、違うだろうと思ってしまう。
美羽は少しだけ迷ったような様子を見せた。
うーん、と唇を尖らせる。
『だってさぁ…思った以上に凄いから。私からはいらないかなって』
イラッときて答える。
「お前からは別に決まってんだろ。つーかお前からしかいらねえんだよ本来。お前が勝手に受け取ってきたんだろ」
『……』
美羽は暫しの沈黙の後、自分の鞄を取りに行った。どうやらちゃんと用意はしていたようである。というかそうでないと困る。
白い箱を取り出して、美羽は上目遣いにオレをみた。
『ガッカリしないでね』
「ガッカリ?」
『凄いチョコばっかりだったから。なんか』
箱を受け取りながら、呆れてため息を吐いた。
「馬鹿か。美羽の料理が世界一。ガッカリなんてするわけねえだろ」
『ハードル上げないで…』
許可を得て箱を開ける。すると黒と白のケーキのようなものが顔を出した。
『エスプレッソケーキなの。大分甘み抑えたから、食べられるかなって。…っあ!』
美羽の話を聞き終わる前にケーキを掴んでかぶり付いた。フォーク持ってきてるのに、と美羽。
ビターな甘さが口の中に広がった。ふわっと珈琲の香り。
「美味い」
『えっ、ほんと?』
「嘘つくわけないだろ」
もう一口。美羽は安心したように微笑んで、オレの隣に腰掛けた。
鞄の中から水筒を取り出す。
『珈琲入れてきたよ』
ダブル珈琲になっちゃうけど、と美羽。礼を言って受け取った。相変わらず気の利く女である。
暫く無言でケーキを食した。そういえば、と美羽が何か思い出したように口を開く。
『少し聞いていい?』
「うん?」
『サソリって…いつから私のこと好きなの?』
珈琲を飲みながら、美羽の発言の意図を探る。
「…なんだ?急に」
『なんとなく。そういうの聞いたことなかったから』
少し考える。オレがいつ美羽を好きになったか。
「…入学式?」
『えっ!嘘でしょ』
「入学式の時、席隣だったから。その時に、可愛いなとは思った」
美羽がなんとなく納得いかなそうな表情を浮かべる。
『でも…何も話してないじゃない』
「そうだけど。好感がなきゃあの時傘になんていれねーし。そういう意味では入学式から好きだったかなと」
ううん、と美羽が唸る。オレはもう一口ケーキを口に運んだ。
「そういうお前は?」
『うーん…』
美羽は悩んでいる。100回以上フラれた立場からすれば、いつ彼女がオレを好きになってくれたのか興味があった。
『…傘、入れてくれた時?』
「えっ」
思わずケーキを吹き出しそうになった。そんな前からかよ。
美羽は頭に指を当てながら考えている。当時のことを思い出している様子だ。
『怖そうなのに、優しいなと思って。ギャップにキュンとしたのは事実』
「じゃあなんでオレあんなにフラれたんだよ…」
それなら最初の告白でOKがでてもおかしくないはずである。しかし彼女は頑なにオレとの交際を断っていた。
『今から考えればそうなんだけど。その時はなんていうか…憧れと恋心の区別がついてなかったというか』
「処女くせぇ」
『なっ!失礼な!』
そりゃ処女だけど、と美羽がモゴモゴしている。オレはふっと笑った。
「じゃあまあ、お互いに一目惚れみたいなもんだな」
『一目惚れ…そうなのかな』
「知ってるか?一目惚れって遺伝子から相手を求めてるんだってよ。つまりオレとお前は必然的に結ばれたってことだな」
珈琲を一口飲んで、続ける。
「オレとお前は本能でお互いを求めてるってわけ。他の奴らは入ってきようがない」
『随分大袈裟な話ね』
美羽が唇に手を当ててふふっと笑う。
確かに大袈裟に聞こえるかもしれないが、言っていることは決して嘘ではない。
美羽はオレの肩にぽす、と自分の頭をのせた。
『…でも、そうだったら嬉しいな。サソリが私の運命の人だったらいいのに』
「ばーか。とっくに運命だっつの。オレの生涯で好きになる女は美羽しかいない」
美羽は小さな声で、ありがとう。と言った。
夕闇の中、ゆっくり流れ落ちるこの時間がとんでもなく愛しい。
バレンタインも悪くない。初めてそう思った。