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バレンタインデー当日。戦いは朝から始まっている。
『サソリ、これ。三年の先輩から預かった』
サソリの机の上にドサっと紙袋を置く。サソリがうんざりした様子で私を見た。
「受け取るんじゃねーよ…」
『だって渡すだけでいいって言われたら断れなくて』
「美羽使って渡すのかよ。なかなかやるなァ」
何個ある?と飛段が紙袋の中身を数えている。サソリは盛大にため息をついた。
「人の彼女に渡すってどういう神経してんだよ」
『まだサソリに彼女がいるって認めたくないんじゃない?ほら、私地味だから』
派手な先輩たちだった。私のことが気に入らない様子なのはひしひしと感じ取れる。
サソリは呆れた様子で頬杖をついた。
「別に認めてもらわなくていい。オレたちの自由だろ」
『そうね。だから気にしてないよ』
「美羽ちゃーん、呼んでる」
また呼び出しがかかる。おそらくまたチョコの配送である。
行かなくていい、というサソリの静止を宥めて、私は呼び出しに答えた。
****
今年のバレンタインデーは異様だった。皆美羽にチョコを渡してくる。オレ宛だけではなく、他の奴らのものだ。皆美羽に渡す。そして彼女が運んでくる。
「なんでこんなことになってんだ…」
また呼び出されたらしく美羽はこの場に不在である。飛段がゲハハ、と笑った。
「美羽は断らないからなぁ。皆それわかってんだろ」
「つーかオレ、まだ美羽に貰ってないんだが?本命から貰えないってどういうことだよ」
「後でくれんだろ。美羽は、うん」
デイダラはもう既にチョコを食べ始めている。ちらっと皐月の姿を探すと、奴もこちらを見ていたようで目が合った。が、すぐ逸らされる。
それを見てまだ渡していないのだろうと察した。まあそんな気はしていたが。
『はーい。お届け物ですよー』
美羽が戻ってきた。また両手に大量のチョコを抱えている。
『えーっと、これがサソリ、こっちはイタチ、デイダラ、飛段…これが角都で、鬼鮫ね』
美羽は確認しながらほいほいチョコを分配していく。あれ?と飛段。
「それは?」
『これ?あー…』
美羽が青でラッピングされた箱を胸に抱えながらチラッとオレを見る。嫌な予感がした。
『…逆チョコ。2年の先輩に貰った』
「はい?逆チョコ?」
「男から好きな女にあげるチョコだよ、うん」
オレは驚愕する。そんな文化があるのかよ。
『まあ、くれると言うから一応貰っておいた。深い意味ないよきっと』
「深い意味あるに決まってんだろうが…誰だよ、誰に貰ったんだよ」
『だから2年の先輩だって。名前知らないし。後は早瀬くんにももらった』
「はあ!?早瀬ってあの早瀬かよ!?」
『美化委員のお礼だって。これも深い意味ないよ』
早瀬には特に昔年の怨みがある。オレは虚な目をしながら手を突き出した。
「寄越せ。オレが直々に捨ててやる」
『えー、やだよ。せっかく貰ったのに悪いし』
「何入れられてるかわかんねえだろ!」
『市販品だし大丈夫だって!』
「美羽ちゃーん、呼び出し!」
『はーい!』
「あっ、こら!逃げんじゃねえ!」
美羽はそそくさとその場を離れていった。オレは怒りのやり場がなく立ち尽くす。
「美羽もなかなかやるな」
「まじであいつ…戻ってきたら説教してやる」
「まあまあ…そんなに怒るなよ、うん」
オレは頭を抱えた。一刻も早く今日という日が終わって欲しい。
****
美羽は今日ほとんど教室にいなかった。何度も呼び出され、チョコを運んでくる。
時刻は放課後。やっとオレたち以外の生徒が帰り、ほっと一息ついていた。
「やっぱサソリとイタチが多いなあ」
飛段がめげずにチョコの数を数えている。スゴイねー、と美羽と皐月も感心している。
「デパートみたい」
『高級そうなチョコが沢山。羨ましい』
「欲しいならやるからいくらでも持ってけ」
オレの言葉に、失礼なんだからーと美羽。
『手紙とか入ってるんだから読みなよ』
「興味ねぇし。つーかお前はいくつ貰ったわけ?」
『大したことないよ。5個』
「5個!?」
『義理だよ、義理』
義理な訳がない。詰めようとしたところで、まじかよ!と飛段が大きな声を上げた。
「サソリとイタチ、同数だ」
「まじか、うん」
「沢山もらいましたね、イタチさん」
「ありがたい事で」
和気藹々話している奴ら。オレはフンと鼻を鳴らした。数の戦い自体には興味がないが。
「じゃあオレの勝ちだな」
ずい、と美羽に手を差し出した。美羽が頭に疑問符を浮かべる。
「お前から貰ってないんだが?」
『あー…そういえばそうね』
「忘れてたのかよ…」
なんだよその塩対応。あれだけキッチン貸してやったのに。
『皐月、ちょっと来て』
皐月に声をかけ、美羽はロッカーに向かう。二人で何やら大きな箱を持って戻ってきた。
『はい。これは皆に私と皐月から』
「えっ!?皐月!?」
またデイダラが過剰に驚く。なによ、と皐月。
「手伝っただけだから。変なことしてないし」
「お前が手伝いすること自体が事件なんだよ、うん」
『まあまあ。皆チョコばっかりで口の中甘いだろうから。お煎餅作ってきた』
「えっ!煎餅!?お前らよくわかってんなー」
すぐさま飛段が食いつく。そして一言、うま!
デイダラも感心していた。
「さすが美羽。皐月が手伝ってもちゃんと美味いもん作るなぁ、うん」
「どういう意味よ…」
『頑張ったもん。ね、皐月』
美羽がニコッと笑う。皐月はなんとなく落ち着かない雰囲気だ。
それもそのはず。チョコも作っているのだ。というかチョコがメインのはず。しかしそれはまだ渡せていない。
野郎どもは煎餅に群がっている。仕方なく、オレは皐月の肩を叩いた。
「いい加減渡せよ。もう帰っちまうぞ」
「わかってるけどさ…」
煮えきらない態度にイライラする。もうこうなったら強行突破だ。
野郎の群れにツカツカと歩み寄り、金髪のマゲを引っ張り出した。いてぇって、となにやら喚いているデイダラを無視して皐月の前に連れて行く。
「ほら」
「ほらって言われても…」
「いてて…なに?どしたん」
デイダラが首を傾げている。オレはさあ、と素っ気なく言った。
「渡したいものがあんだってよ」
「渡したいもの?」
なに?とデイダラ。皐月はそこまで言われると流石に後には引けなくなってしまったようだ。小さなピンクの箱を取り出して、無言でデイダラに差し出す。わけのわからないままそれを受け取るデイダラ。
「…え。なに?」
「……チョコ」
「えっ!?」
デイダラが驚いた様子で箱と皐月を見比べる。
「まさか手作り?」
「…そう」
「ま、まじか…うん」
引いている様子のデイダラ。そこに、遠目でオレたちのことを見守っていた美羽がすかさずフォローをいれる。
『上手にできたのよね。ちゃんと試食もしたよ。美味しいから大丈夫』
試食をさせられたのは俺なんだが…という突っ込みは勿論ここではしない。美羽の言葉を聞いて、デイダラは少し安心したようだった。どんだけ信用ないんだ皐月。
「よくわかんねーけど、サンキュー。後で食うわ、うん」
デイダラは能天気にニコニコしている。これは伝わっていない。
しかし皐月は、チョコを渡せたことだけでとりあえず満足のようだった。うん、と恥ずかしそうに、でも少し嬉しそうに頷いた。