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高校一年生の入学式。怖くて足が震えた。
新しい一歩を踏み出そうとここに来たはずなのに。道ゆく人が皆、私を嘲笑っているように見えて。
ここに来たところで、ダメかもしれないと思った。K女から逃げたところで、ここでも、きっと上手くいかない。私の居場所はどこにもない。
「貴方、綺麗な長い髪してるね」
クラスの人の多さに萎縮して震えている私に、初めて声をかけてくれたのは皐月だった。
最初に顔を見たときの印象は、キツめの美人。どちらかというとクラスで目立って、人をいじめるようなタイプに見える。私は更に恐怖を感じた。
「地毛?綺麗な栗色ね」
『はい…すみません…』
「えっ、なんで謝るの?褒めてるんだけど」
皐月は首を傾げる。色素が薄くて茶髪なのを染髪だと散々詰られていたから、思わず謝ってしまった。すみません、とまた私。
あっ!と皐月が嬉しそうな声を出した。
「目も綺麗なブラウンだ。色白で色素が薄いからか。美人さん!」
美人に美人と言われる。新手のいじめ?ただただ困惑した。
「私七瀬皐月。貴方は?」
『……です』
「え、なに?」
『……。月野美羽、です』
「そっか。美羽って呼んでいい?」
『えっ……』
ダメ?と聞かれれば、首を横に振ることしかできない。皐月は嬉しそうに、これから仲良くしてね、美羽。と言った。
****
「帰ったぞー……あ?」
サソリが家に帰ってきた。サソリは泣きながら抱き合っている私たちを見て、瞬時に引いた様子である。
「え……なにしてんだ、お前ら」
「なんでもない…」
『ちょっとチョコが目に染みてね…』
「は…?チョコ?」
サソリは不審そうな顔をしながら、私たちを遠目から眺めている。
「…で。できたのか?遅くなる前に家に送るけど」
何事もなさそうに話しかけてくるサソリ。私と皐月はティッシュで鼻を拭いながら答える。
『一応ね。明日あげるから楽しみにしてて』
「おー…」
「やっぱ無理…絶対まずい。あげられない!」
皐月がまた暴れ出した。大丈夫だから、と私。
『混ぜて固めただけだから不味くなりようがないよ』
「でも…」
「お前も作ったの?どれ?」
サソリが冷蔵庫の中を覗く。皐月が見ないでよ!と怒っている。
「…見た目マトモじゃん。大丈夫だろ」
「じゃあサソリ食べてみてよ」
「………え」
サソリがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。ほら!だめじゃん!と皐月。
「いや…オレは甘いもの苦手だから」
「私のだから食べたくないんでしょ!サソリがそれでデイダラが食べるわけないじゃん!」
『まあまあ。食べるよね!サソリ』
サソリに思いきり睨まれるも、私は必死に両手を合わせた。ここで皐月の自信を削いだら確実にデイダラには渡せなくなる。
サソリは観念したように、少しだけな、と答えた。さすがサソリである。私のお願いは断らない。
まだ固まり切っていない生チョコの端っこをほんの少しだけ切る。サソリが神妙な面持ちでそれを眺めていた。大丈夫だよ、とまた私。
『私がちゃんと指導したから』
「…やっぱりオレ、チョコはちょっと…」
『えいや!』
サソリの口にズボッとチョコを押し込んだ。観念したように遠い目で口を動かすサソリ。暫しの沈黙。
「…チョコ」
『は?』
「だからチョコ。チョコの味する」
そりゃそうでしょう、と思った。しかし皐月は、え!ほんと!?と喜んでいる。
「まじ!?変な味しない!?」
「ん。まあ普通のチョコ。美味いかは知らんけど」
ここでお世辞にも美味しいと言わないのがサソリらしい。皐月はサソリの様子に自信がついたようだ。
「ちゃんと食べ物になってたんだ…」
「食べ物かわからねぇもんオレに食わすんじゃねぇよ」
サソリは冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いだ。どうやら本当にチョコは苦手らしい。
『じゃあ、トレーごと持って帰って家の冷蔵庫に入れてね』
「了解」
私の言葉に、皐月は目の縁を赤くしながら笑った。