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バレンタイン前日。
今日はサソリにはデイダラ達と外に遊びに行ってもらい、1日キッチンを借りることになっていた。何度も練習したので、皆もう私の指導がなくても手際良く作業を進めている。
「美羽先輩とサソリ先輩って、いつからお付き合いしてるんですか?」
いのちゃんが材料をシェイカーで混ぜながら言った。私も小麦粉を量りながら答える。
『星祭の時だから…去年の7月かな』
「凄いラブラブですよね。サソリ先輩が美羽先輩にゾッコンって感じで」
ゾッコンって。私は失笑する。
『そんなことないよ。多分好きな具合は同じくらいじゃないかな』
「ちなみに告白はどちらから?」
『…それは、サソリから』
えっ!とサクラちゃんが目を丸くする。
「あのサソリ先輩から告白って。美羽先輩一体なにしたんですか?」
『そんなに意外なの?』
「意外も何も。サソリ先輩が人を好きになる感情を持っていたことに驚きです」
酷い言われようである。しかしわからなくもない。
『うーん…そういえばいつから好かれてたのか知らないなあ。急に告白されて、そこからなし崩し的にって感じだったから』
「えー、今度聞いてみてくださいよ」
教えてくれるだろうか。私も興味はあるけど、なんとなくはぐらかされそうな気がする。
「美羽先輩は…サソリ先輩のどこが好きなんですか?」
今度はチョコを混ぜていたヒナタちゃんに問われる。今日は凄く踏み込んで聞かれるな、と思った。今まではサソリがいたから聞きたくても聞けなかったのだろう。
ううん、と私は頭を捻る。
『今までは優しいところって答えてたんだけど。最近はもう好きすぎて逆にどこが好きなのかわからなくなってきた』
「えー、ほんとですか?」
『逆に嫌いなところ考えた方が早いかも』
ははっと皆が笑う。大袈裟に聞こえるのかもしれないけれど、困ったことに事実なのだ。
雑談しながら作業を進めていると、不意に制服のポケットに入れていたスマホが振動し始めた。取り出して、おや、と思う。
皆に断りを入れて、スマホを耳に当てた。
『皐月?どうしたの?』
「あー…ごめんね突然」
全然大丈夫だよ、と私。皐月が無言になる。
あのさ、と弱々しい声で皐月。
「まだサソリの家でチョコ作ってる?」
『……』
今度は私が無言になる。すると皐月が慌てた声でごめん、と言った。
「もう終わってたらいいの。ちょっと聞いてみただけだから」
私は思わず笑ってしまった。皐月が電話越しでなに?と戸惑っている。
私は自分が出せる最大限に優しい声を口に集めて、言った。
『まだまだ全然終わらないよ。暇だったら遊びに来ない?』
「……」
しばしの沈黙の後、皐月は小さな声でうん、と言ってくれた。
****
皐月はすぐにサソリのマンションに現れた。多分、近くでうろうろしていたのだろう。しかし何も突っ込まず、いらっしゃい、と受け入れた。
「ほんとにごめん…こんな前日にいきなり」
『いいよいいよ。来てくれて嬉しい』
「皐月先輩。こんにちは」
「ああ、皆こんにちは」
皐月と皆はクリスマスの時に会っているけれど、更に前からも繋がりがあったようだ。
「皐月先輩も生徒会で一緒でした」
『皐月も生徒会なんだ』
「そ。私は書記。ちなみにイタチが副会長」
なかなかにしっくりくる役員である。
皐月はサクラちゃんといのちゃんの手元にあるケークサレを見て感心した声を出した。
「上手ね」
「練習しましたから。美羽先輩のおかげです」
皐月がたちまち不安そうな顔になる。私はすかさず大丈夫だよ、と言った。
「ケーキ系は難しいけど、チョコなら大丈夫だと思う。この前も言ったけど、生チョコとかどう?」
「皐月先輩は誰にあげるんですか?」
いのちゃんの悪意のない質問。皐月が息をつまらせているのがわかる。
『お父さんにあげるのよね。甘いの好きだから』
皐月が私を見た。ね?と同意を求めると静かに首肯する。
恋話ではないと聞くとそれ以上の詮索はなかった。一安心である。
皐月にエプロンをしてあげ、手を洗うように促した。私はまた気合を入れ直す。
皐月がせっかくやる気になってくれたのだから、全力で応援してあげたい。
****
2時間後。
サクラちゃんたちは各々好きな人に渡す用を作り終えたので、遅くならないうちに帰ってもらった。
時刻は19時。もうすぐサソリが帰ってくる頃である。
「美羽~…ほんとに大丈夫かな、これ」
『大丈夫大丈夫。ちゃんと美味しくできてるから自信持って』
皐月が冷蔵庫に並んでいる生チョコを不安そうに見ている。なんやかんやあったけどちゃんと形になっていた。
『固まらないと切れないから、明日の朝切ってラッピングするんだけどできるかな。自信なかったら私が明日やりにいってあげる』
「うーん…多分それは大丈夫。何とかなると思う」
皐月はまだ不安そうな表情である。私はキッチンの片付けを始めた。
「…美羽は何も、聞かないんだね」
洗い物をしていると、皐月がそんなことを言い出した。泡を丁寧に落としながら答える。
『聞いてほしいの?』
「…そういうわけじゃない」
『じゃあ聞かないよ。言いたくなったら言って』
皐月だっていつもそうである。私が言いたくなさそうなことは詮索してこない。だから私も皐月のアレコレを聞き出そうとする気は全くなかった。
皐月はキッチンに置いてあった椅子に腰掛けながら、大きなため息をついた。
「まさか美羽にもバレてるとはなあ…」
『一緒にいるからどうしてもね』
何事もないように答える。皐月がデイダラのことを好きなことは随分前から気付いていた。
洗い物をしている私を眺めながら、皐月は少しずつ話し出す。
「ちっちゃい頃からずっと一緒で、親も仲良しで、幼稚園も小学校も中学校も高校も一緒」
『……』
「側にいるのが当然で、なんとなく、いつか付き合ったりするのかなーと思ってたんだけど」
違ったみたい、と皐月は小さな声で言った。私は無言で皐月の言葉を待つ。
「中学校でデイダラに初めて彼女ができた時。凄くショックだったの」
『……』
「小柄で可愛くて、いかにも女の子!って感じの子でさ。あー、デイダラってこういう子が好きなんだ。私とは全然違うんだって」
包丁を拭きながら、私は黙って皐月の話を聞く。
「それ以来、アイツの前で女でいることが怖くなったの」
『……』
「女なのに恋愛対象で見てもらえないよりは、性別は幼なじみの方がいいなって」
性別、幼なじみか。二人の仲を見るとなんとなくしっくりきた。
「本当は美羽とサソリみたいに仲のいいカップルになりたいけど。今までの仲が崩れるのが怖くて、何もできなかった」
『……』
「彼女になれないなら、幼なじみの関係は捨てたくない。私は凄く臆病だから。今の関係が壊れるのが怖い」
ぽろ、と皐月の目から涙が溢れた。皐月が泣くのを見たのは、この時が初めてだった。
「私も本当はこんな自分が大嫌い」
『……』
「自分がこんなにカッコ悪い人間だなんて知らなかったの。今までそれなりになんでもやってこられる方だったから。でも恋愛だけは本当に上手くいかなくて」
『……』
「凄いよ。美羽もサソリも。ちゃんと素直に相手が好きだって伝えられて。私にはそんなことできない。一生、気持ちは伝えられない」
泣いている少女を、ギュッと胸に抱きしめた。彼女のことが、心から愛しいと思った。サソリに抱く感情とはまた別の、温かく柔らかい感情。
皐月はいつも、私のそばにいて支えてくれた。今度は私が、皐月を支えてあげたい。
『私にとって、皐月は太陽なの』
私は静かに口を開いた。
『大丈夫。皐月は凄く、素敵な女の子よ。そんなに怖がらなくて大丈夫。いつかきっと、デイダラに気持ちを伝えたいと思える、そんな日が来るから』
「……」
『私はずっと、皐月の味方だよ』