13
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ベッドに身を沈めながら、深いため息をつく。その様を飛段がゲハハ、と笑った。
「ごめんな。童貞卒業イベント潰しちまって」
「うっせー。つーかお前らなんで来たんだよ」
「真白さんにお会いして。よかったらお見舞い行ってあげてね、って鍵お借りしたんだよ」
真白さん…娘にゴム渡すわ、こいつらに鍵渡すわ。やりたい放題である。
「つーかお前熱あんじゃねぇの。ヤッてる場合じゃねぇだろ」
「下がった。さっきのはなんつーか、美羽に絆されて」
「美羽に?」
イタチが首を傾げる。そう、とオレ。
「真白さんにふっかけられたんだろ。アイツ、母親に妙に対抗意識燃やしてるから」
美羽は母親に何か言われるとすぐにムキになる傾向がある。自分と顔は瓜二つなのに似ていない母親にコンプレックスを感じているのだろう。
オレは改めて大きくため息をついた。
「危ねぇところだった…もう少しで処女奪われるところだった」
「お前が奪われるのかよ」
飛段が爆笑している。オレはふと、その隣の人物に目を向けた。
「……」
デイダラが何やら神妙な面持ちで黙り込んでいる。普段ならこの手の話題には率先して食いついてくるのに。
「デイダラ。お前どうかしたのか?」
「…えっ、いや、オイラは別に…」
デイダラはそのまま再び黙り込む。飛段が笑いながら奴の肩を叩いた。
「デイダラちゃんは純情だから。二人のセックスシーン見て動揺しちゃったんじゃね?」
「ばっ…んなんじゃねーよ、うん!」
この慌てっぷりからして、図星のようだった。あれ?とオレ。
「…お前童貞だったっけ?」
「いや、童貞じゃねーけど…うん」
デイダラは何やら煮えきらない態度である。そしてオレは自分の察しのよさに後悔した。
こいつは恐らく、美羽とオレが、そういうことになっていることに動揺しているのだ。
皐月が、デイダラは美羽みたいな女が好き。と言っていたことを思い出す。皐月はオレより先に気づいていたのだろう。
なんてこった。こいつ美羽のことが好きなのかよ。
頭の中で状況を整理する。…なかなかに拗れているな。皐月が何もするなと言っているのも、この関係性ありきなのだろう。
「そういえばさー」
全く状況を察していない飛段が、キョロキョロと辺りを見回している。
「下着どこに仕舞ってあんだろ」
「知らねーよ…」
「えー、探してねぇのかよ」
飛段がタンスに近寄って行く。オレはジロっと睨んだ。
「ブラのサイズ知りたいんだよな。何カップか知ってる?」
「知らん。んなの知ってどうすんだよ」
「今後の参考に」
なんの参考だよ。オレはベッドに身を沈めたまま言った。
「そういうエロ本探すみたいなイベントをこの部屋で発生させんな」
「うーん、ここは服だな…じゃあこっちか?」
全く話を聞かない飛段である。イタチがチラッと辺りを見回した。
「意外に女子女子してないな。ぬいぐるみのひとつもありそうなもんだが」
「それはオレも思った」
「ぬいぐるみあんまり好きじゃないんだって。きれいに掃除できなくなる感じが嫌らしい、うん」
デイダラの言葉に、オレは首を傾げる。
「なんでそんなこと知ってるんだよ」
「別に。雑談の延長線だよ、うん」
今まで気にしたことがなかったのに、オレの知らない情報をデイダラが知っていることにイラッとする。
おっ!と嬉しそうに飛段が歓声をあげた。
「あった!パンツ!」
ピラっと飛段が白のレースを引っ張り出した。ぶふっとデイダラが吹く。
「ばっか、出すんじゃねーよ」
「でもブラがねーな。パンツと一緒に仕舞ってねーのかな」
なおも飛段がタンスを漁っている。本当にどうしようもない男である。
「白、黒、ピンク、水色、紫、赤。各種取り揃えておりますが、どれがお好みで?」
並べられたパンツを遠くから眺めた。
「…その中だったら、白だな。清純っぽい感じがイイ」
「まじかー、さすが処女好き」
「別に処女好きじゃねぇよ」
「デイダラちゃんは?」
飛段がデイダラに話を振る。デイダラは頬を赤らめながらチラチラ見ている。
「…オイラは黒か紫、うん」
「お前綺麗なお姉さん好きだもんな。イタチは?」
「オレはピンクが好き。女らしくて」
ふぅん、と飛段が浅く相槌を打つ。
「そういうお前は?」
「オレはぜってー赤。積極的な女子最高。つーか美羽のパンツまじいい匂い」
クンクン匂いを嗅いでいる飛段に、ペットボトルを投げた。バコン、といい音がしてヒットする。
「匂いを嗅ぐな変態」
「お前だって嗅いでるだろ」
「オレはいいんだよ。オメーは他の女にしろ」
「だって美羽ちゃん可愛いから。パンツもエッチだし。あー、やば!なんかムラムラして…っぶ!」
その時、部屋に戻ってきた美羽が飛段の頭の上にトレーを叩きつけるように置いた。顔を真っ赤にさせながらオレたちをじろっと睨む。
『何やってんのよ…』
「パンツ何色が好きかって話」
『それはどうでもいいけど人の出さないでよ!』
美羽がパンツを回収してタンスにしまう。飛段が頭を押さえながらトレーの上にあるジュースと菓子を見ておっ!と歓声をあげた。
「うまそー。食っていい?」
『どーぞ。飲み物オレンジジュースとお茶しかないけど。適当に飲んで』
素っ気ない態度である。どうやらご機嫌斜めのようだ。
『サソリもくだらないことやってないで寝なさいよ』
「お前が襲ってきたんじゃん」
『おそ…!?襲ってないし!変なこと言わないで!』
事実だろう。オレは美羽の手から茶を受け取りながら言った。
「お前はほんと極端なんだよ。もっと考えて行動しろ」
『考えてます!考えた結果ああなったの!』
ガルガルしている美羽に、飛段が笑う。
「男は高熱の後は勃たなかったりすんの。色々あるんだよ」
『え、そうなの?』
美羽が目をパチクリさせている。オレは同意した。
「ある意味女よりデリケートなんだよ。気を遣え、オレに」
『いつも所構わず勃ってるのにデリケートなの?』
「ぶっ」
皆が一斉に吹いた。オレは顔を顰める。
「人を変態みたいに言うなよ…」
『十分変態じゃない』
美羽は涼しい顔である。色々恥ずかしい所を見られてもう開き直っているらしい。
『知ってるんだから。旅行の時に耳掃除してあげただけで勃ってたの』
「ぶっははは!まじかよ!サソリちゃんまじ童貞!」
爆笑する飛段に反発するオレ。
「いや、童貞じゃなくても勃つだろ。ヤベェから耳掃除イベント」
「知らねー。してもらったことねぇし」
「なんつーか、内側を撫でられてる感じがやばい。全体的に内側はヤバイ」
「内側っつーのはわからなくもねえな、うん」
デイダラはなんとなくわかるらしい。飛段はえー、と不満な様子。
「そんなに気持ちいい?」
「気持ちいいっつーか…表現が難しいんだよ」
「じゃあ美羽、オレにもやって」
はぁ!?とオレは思わず大きな声を出した。
「ダメに決まってんだろうが!」
「えー、なんで?いいじゃん。なあ美羽」
『私は別に構わないけど…』
「ダメだ。絶対にダメ。まじでダメ。死んでもダメ」
「必死だなー、うん」
デイダラが笑う。そりゃ必死にもなる、とオレ。
「美羽。こいつらを信用すんな。お前のいない隙にパンツ出して匂い嗅ぐような奴らだぞ」
『サソリも同じ穴の狢だと思うけど』
さらっとあしらわれる。美羽は呆れたようにため息をついた。
『下ネタはもういいよ。男子だけの時にやって』
「えー、じゃあなんか面白いのない?」
『面白いのって?』
「女子の部屋は漫画もゲームもないからよぉ」
「じゃあ帰れよ…」
ううん、と美羽が考える仕草を見せる。そしてあっ、と何かを思い出したようだ。
クローゼットの扉を開け、何やら段ボールを引っ張り出した。イタチがすかさず手伝っている。
「なにそれ」
『私のパンドラの箱』
「パンドラの箱?」
美羽が首肯した。
『K女時代の産物』
「えっ」
オレは思わず声を上げる。美羽は気にせず箱を開けた。
『私最後の3ヶ月学校行ってないから。送ってきたのよ。卒アルとか色々』
「見ていいのかよ」
『別にいいよ。私も見てなかったから。こんな機会じゃなきゃ開けないし。面白いかは知らないけど』
えー、見たい見たい!と飛段が美羽に寄っていく。デイダラも首を伸ばして覗いた。
オレはなんとなく、その場を動けないでいる。
「お前何組?」
『A組』
「えーえー…あっ!これか!可愛いじゃん!」
早速卒アルを開いた飛段が美羽を見つけたらしく指さしている。続いてイタチ、デイダラも。
「あまり変わらないな」
「一人だけ美少女感すげーな。確かにこりゃ浮くか」
美羽はあまり興味がなさそうにチラッと見る。
『父親が凄い子たちばっかでさ。政治家とか大病院の医者とか。親の肩書がすごい子ほど地位が高いわけ』
「へー。お前の父親は?」
「一応弁護士だけど。まあ普通のリーマンだから」
ふっと美羽が笑う。
『自分の実力はなにもないのに親の肩書でマウントとかバカみたいでしょ』
「弱い犬ほどなんとやらってやつだな。…って、これ何?」
『ああ、懐かしい。これ弓道着』
美羽が白と黒の袴を引っ張り出した。
へえ、と感心したようにイタチ。
「弓道部?」
『そう。あと茶道花道もやってた』
「theお嬢様じゃん」
『部活やってる間は何もされないからね』
「女子のいじめってどんなのなん?」
飛段の言葉に美羽の動きが止まる。オレはやめろ、と小さな声で言った。
「そういうことは聞くな」
「あー…まあそうか、悪い」
素直に謝る飛段に、別にいいよ、と美羽。
少し考える仕草を見せる。
『まあ…別に大したことないよ。無視されたり持ち物捨てられたり。トイレ閉じ込められて水ぶっかけられたり』
「大したことあるだろ…」
オレの言葉に、そう?と美羽。
『それが日常だったから。大丈夫よ。毎日されてると麻痺してくるし』
「えげつねぇな…」
『ああいう子達は自分より下の子をいじめないと不安なのよ。自分が上に立ちたいから』
美羽は冷めた目をしていた。見ていられなくなってオレは目を逸らす。
「それにしても校舎がすげー豪華だな、うん」
気を遣ったであろうデイダラが話題を変え、私立だからね、と美羽が答える。
卒アルを囲ってあーだこーだ言っている奴らの横で、オレはゆっくりと瞼を落とした。