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お父さんと協力して、サソリを私の部屋に運んだ。ベッドに寝かせて、氷枕を用意する。熱を測ってみるとなんと39度5分。インフルエンザだと困るから、明日は病院に連れて行こうと母と話した。
「随分無理してたのね」
『うん…』
お母さんの言葉に、ため息をつく私。
『プレゼント買ってくれるために、無理してバイトしてたみたいなの』
「プレゼント?」
母にサソリからもらったネックレスを見せる。あら!と母が嬉しそうに笑った。
「随分いいの貰ったのねぇ」
『いくらしたんだろう…』
「そんなこと考えるのは野暮よ」
母はペットボトルのお茶と桶を私に渡した。どうやら持っていけということらしい。
そっと自室の扉を開けると、サソリが真っ赤な顔をしながら寝ている。起こさないように静かに動きながら、持ってきたものを枕元に置く。ふぅっとため息をついた。
この様子じゃ今日は起きないだろう。ゆっくり休んでもらって、早く回復してもらわなきゃ。
リビングに戻ると、父がスーツから着替えラフな格好で新聞を読んでいた。その様を見て、またごめんね、と私。
『お休みなのに。本当に申し訳ないです』
「いや、いいよ。食事は終わってたし。むしろ近くにいてよかった」
父はチラッと私の顔から視線を落とした。
「…それ、サソリくんに貰ったのか?」
『ああ、これ?そう』
ふぅん、と父が相槌を打つ。
「ダイヤじゃなくてピンクダイヤか。愛されてるね」
『え…そうなの?』
「美羽にはピンクダイヤの方がよく似合うから。わかってるなって感じ」
それに、と父は言った。
「あの花束も貰ったんだろう?薔薇の花束なんてキザだけど。よっぽど深い愛情がないとできないよ。ましてや高校生で」
「パパも昔くれたもんね。薔薇の花束」
母がマグカップを3つトレーの上に乗せながら会話に参加した。
「パパはもっと凄かったけど。両手に抱え切れないほどのおっきな花束」
『へー…』
「ママは花束貰い慣れてたからね。半端なことしても勝てないと思って」
ラブラブバカップルの昔話である。私は適当に相槌を打ちながらマグに口をつけた。
「美羽から見て…サソリくんってどんな男なんだ?」
父に言われ、私は考える。
『一言で言うと優しい、かな。私のことなんでも褒めてくれて、認めてくれて。自信持たせようとしてくれる』
それに、と私は続けた。
『あんな見た目だけどとても誠実。私が嫌がること絶対しないし』
「ふぅん」
自分で聞いたくせに父は興味なさそうに呟いた。興味がないと言うより、私がお父さん以外の男の人を褒めることがあまり嬉しくないのだろう。
『あと、頭良いよ。万年全国模試一位』
「えっ!」
父が顔を上げた。さすがに驚いたようだった。
「あらー、それほんと?頭良さそうだとは思ってたけど」
『ほんとほんと。T大医学部もほぼ確定って感じ』
母は頬杖をつきながらにやー、と笑った。
「じゃあ将来は美羽も医者夫人ね」
『どうかな。わからないけど』
それに、と私は続ける。
『養ってもらうことには魅力を感じないの。私はあくまでサソリと対等になりたい』
「…その口ぶりだと、美羽も大学受験するつもりかい?」
うん。と私。親に将来の話をするのはこれが初めてである。
『一応、S大の法学部目指してる』
「…S大か」
父もS大の法学部出身だったはずである。父は嬉しそうな、でも何やら複雑そうな顔をした。
「弁護士になるのか?」
『そこはまだハッキリとは。おいおい考えて行こうと思ってる』
ふぅ、と私は息を吐いた。
『お父さんにもお母さんにも、色々心配かけたから。ちゃんと自立して歩けるようにこれからは頑張りたいの。そして、そう思えるようになったのは全部サソリのおかげ』
父も母も、何も言わなかった。
何か返事が欲しかったわけでもないので、私は腰を上げる。
『心配だから、今日は私、部屋で様子見てるね』
「美羽」
踵を返そうとした私に父は言った。
「…強くなったな」
喜びの中で、でもほんの僅かな寂しさが滲んだような。父はそんな表情をしていた。