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次の日からは、サソリに二つお弁当を渡した。勉強会がないということは、サソリのマンションに行くことも当分ない。昼ご飯と、夜ご飯。サソリは遠慮していたけれど、半ば無理矢理押し付けた。いらなかったら捨ててくれていいからと。
サソリは休み時間も居眠りをすることが増え、喋る機会がグッと減った。
スキンシップどころか、会話もほとんどない。
寂しかった。不安だった。サソリの心が私から離れていくのが怖かった。だけど、変に声をかけて鬱陶しがられるのはもっと嫌だった。
放課後。サソリは授業終了のチャイムと共に席を立った。声をかける暇もなく教室を後にしてしまう。最近はいつもこうだ。常に何かに急いでいる。誰かに会いに行っているのかな、と疑ってしまう気持ちに無理矢理蓋をした。
「美羽。今日買い物行かない?」
『…買い物?』
ノロノロと帰りの準備をしていると、皐月に声をかけられた。私は顔を上げる。
「新しい服欲しいっていってたじゃん。クリスマスの時に着るやつ」
『……』
クリスマス。その言葉に暗い気持ちになる。
『…ううん。やめとく』
「なんで?」
『気分じゃないというか、なんというか』
皐月がじっと私を見た。
「じゃあスタバでもいいよ。新作飲んだ?」
『…ごめん。あんまり、遊ぶ気にならなくて』
沈んだ声を出す私に、皐月は少し困っている様子である。近くにいたデイダラが私達の会話に混じった。
「なに?お前らスタバ行くのか?」
ちら、と私を見るデイダラ。
「スタバ行くならさ、新しくできたカフェ行かねえ?ケーキうまいんだって」
「ああ、そういえばそんなのあったね」
「男だけだと入りづらいから。よかったら一緒に行こうぜ」
私はパタパタと手を横に振った。
『二人で行ってきて。私はやめとく』
「えー、なんで?」
『…多分、気遣わせるから』
デイダラがふぅっとため息をついた。
「気なんて遣わねーし。なんで友達に気遣うんだよ、うん」
『……』
「とにかく行こうぜ。旨いもん食ったら嫌でも元気でるだろ」
な?とデイダラは悪戯に笑った。
****
促されるままカフェに向かう。白を基調としたお洒落なカフェ。
席に通されて辺りを見回した。すると視線の先には。
『…カップルばっかりね』
「クリスマス効果でしょ」
『クリスマス効果?』
「クリスマス前に一時的にカップルが増えるアレだよ。んで、終わったらみんな別れる」
ああ、と相槌を打った。
『そういえば、K女の時もそんなのあったな』
「まじ?」
『勿論女の子同士だけどね』
K女は男女交際を禁止されている家庭が多い。昔から許嫁が決まっているというパターンもあったけれど。その分女子同士のイチャイチャは激しかった。思春期に恋愛を止めることは実質不可能なのだろう。
3人でメニューを見ながら、それぞれ別のものを頼む。それの方が色んな種類を試せるからだ。
「そういえばクリスマス何作るの?」
『うーん。オーソドックスにメインはチキンかなぁ。後はオードブルと、サラダと、揚げ物をいくつか。あとお寿司も作る予定。ビュッフェ形式にしたら楽しいかなと」
「ビュッフェかー。いいね、旨そう」
イタチの家は広い。幾ら作ってもテーブルが埋まることはなさそうだ。当日はキッチンも貸してもらえるので、料理担当の私と鬼鮫は早くからお家に伺うことになっている。
「楽しみだね」
『…そうね』
デイダラがチラリと私を見る。素っ気ない態度に気づいたようだ。相変わらず察しがいい。皐月の気持ち以外には。
「で。なんでお前そんなにご機嫌斜めなの?」
『別にそういうわけじゃないけど』
「旦那に構ってもらえないから拗ねてんだろ」
その言葉に押し黙る。デイダラはふっと笑った。
「ちょっと色々立て込んでて余裕がねぇんだって。もう少しだから気にすんなよ」
デイダラは何か事情を知っているようなのだ。しかし教えてはくれない。
『私には何も言ってくれないの』
「うん?」
『余裕がなさそうなのは見ててわかるけど。それがどうしてなのかは教えてくれなくて』
「男には色々あんだよ」
『いっつもそればっかり』
ドリンクが運ばれてきて、それぞれ受け取った。紅茶にミルクを並々と注ぐ。
『サソリね。女に会ってるの』
「女?」
皐月はストレートの紅茶に口を付けながら眉を寄せる。私は冷静に言った。
『そ。女』
「なわけねーだろ…」
呆れた様子のデイダラに私は反論した。
『絶対会ってる』
「何を根拠に?」
『この前たまたま夜に電話した時があって。そしたら後ろでサソリくんって呼ぶ女の声が聞こえた』
「……」
『聞いても、家にいるって。なわけないだろって。それか家に女連れ込んでるかどっちか』
皐月とデイダラは顔を見合わせている。私はグビッと喉を鳴らして紅茶を飲んだ。
『…私とは何もないのに。他の女と会うってなにそれ。なにやってんの?』
「……」
『納得したの。外に浮気相手がいるから私には何もしなくて平気なんだって』
デイダラは困ったように頬を描く。皐月は呆れた様子で紅茶を啜っていた。
『クリスマスまでに別れるかもしれないから。パーティーの時険悪だったらごめんね』
「お前さ、旦那のこと信用してないの?」
『信用?』
「あの旦那が浮気なんてすると思う?仮にもし他に好きな奴できたら、お前とは速攻で別れるに決まってんじゃん、うん」
それ自体には異論はない。私もそう思う。思うけれども。
『じゃあなんで私に内緒で他の女に会うの?』
「それは…」
『信用したいよ。でも信用して裏切られるのが怖い。もう、精神的にすごい頼っちゃってるから。心の準備しておかないと、いざ別れを切り出された時対応できない』
デイダラはサソリが私に依存していると言った。でもそれ以上に私がサソリに依存しているのだ。サソリがいなくなるのが怖い。他に女がいると気づいていても、それを聞いてしまってサソリに見切りをつけられるのが怖い。
『騙されててもいいの』
「……」
『騙そうとしてくれるなら騙されたままでいい。真実は知りたくない。女が他に100人いようが気づかないフリをする』
「100人て」
『例えよ、例え』
ケーキが運ばれてきた。デイダラはチョコ、私はショートケーキ、皐月はレアチーズ。
各々適当に食べはじめる。
「あんた本当バカね」
皐月が言った。バカ?と素っ頓狂な声が出る。
「いっつもそう。目の前の事象より、目に見えない悪意の方に敏感」
『……』
「仮に女と会ってたとしてよ。サソリがその女に手出してる確証は?」
『…それは』
ないけど、と私。皐月は私のショートケーキにフォークを突き刺す。
「馬鹿馬鹿しい。たまたまオバちゃんが後ろにいただけかもしんないじゃん」
『オバちゃんて』
「真実かどうかわからないことを悩むだけ無駄。第一、サソリはあんたに何回好きだ可愛いって言ってくれたのよ」
『……』
「それは信じないで女と浮気したってバカな妄想は信じるんだ。さすがにサソリが可哀想じゃないの」
私は答えることができない。デイダラも私のケーキに手を伸ばした。
「あと少しだけ待って、って言われたんだろ。待ってやれば?ちゃんと後で話してくれるよ、うん」
『……別れ話かと思ってた』
「ないない。第一別れ話ならなんで引き伸ばす必要があんだよ」
確かに、そうだけど。
デイダラは私にビシッと指差した。
「待機」
『はい?』
「今お前にできるのは待機。お前は黙ってサソリの旦那の帰りを待ってればいいわけ、うん」
皐月も同意する。
「安心しなさいよ。万が一サソリが浮気してたら、私がサソリのことぶっ殺してあげるから」
『それ、全然安心できない』
思わず笑ってしまった。二人が安心したように私を見る。
鉛のように重かった心が本当に少しだけ、軽くなったような気がした。