12
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日もいつも通りの放課後を迎えた。
サソリと手を繋いで帰路につき、スーパーで買い出しをして、マンションへ。少し変わったことは、今まではそのままテレビを見たりしてダラダラ過ごしていた時間が勉強タイムになったことだ。
サソリはとても丁寧にわかりやすく教えてくれる。私の頭が悪くて進みが遅いのに、嫌な顔一つせず付き合ってくれる。本当にありがたかった。心から感謝している。それは本当。
「今日はここまでにしようか」
時刻は19時。大体いつもこの時間には勉強を終えて、私が夜ご飯を作る。
『うん。今日もありがとう』
「今日は結構進んだな」
『お陰様で。じゃあ、ご飯準備するね』
キッチンに向かい、冷蔵庫から食材を取り出す。今日はチキン南蛮を作る予定である。
パタパタと準備していると、ふとサソリが机で突っ伏して居眠りしていることに気づく。最近よくある。疲れているんだろうか。
皿に盛り付けながら悩む。今日はいつにも増して疲れているように見える。できればこのまま寝かせてあげたいな、と思った。
お皿にラップをかけ、そーっとテーブルに運ぶ。毛布をサソリの肩にかけ、自分の荷物を拾い上げた。
お邪魔しました、と小さく呟いて家を後にする。鍵を閉め、そのまま玄関のポストに放り込んだ。がちゃん、と鍵の落ちる音。
12月の冷えた空気を肺に吸い込む。道を歩くと、至る所にチカチカとしたイルミネーションが散りばめられている。もうすぐクリスマスだな、と改めて思った。
いつもはサソリと歩く道を一人で歩いていく。するとあれっ、と聞き覚えのある声がした。
「美羽じゃん。今帰り?」
『デイダラ。偶然ね』
デイダラはもう私服に着替えていた。そういえばデイダラはサソリと幼なじみと聞いている。自宅が近いのだろう。
「一人?」
『うん。いつもはサソリが送ってくれるんだけど、今日寝ちゃって。疲れてたみたいだから』
デイダラは少し考える仕草を見せる。
「あぶねーから家まで送ってやるよ、うん」
『え、いいよ。悪いし』
「暇だから。漫画買いに来ただけだしな」
でも、とまだ言い淀む私にいいから、とデイダラ。
遠慮はしたものの、夜一人で歩くのには嫌な思い出しかなく、少し不安だったのだ。
『…じゃあ、悪いけど甘えちゃうね』
「おー」
デイダラはポケットに手を突っ込みながら私に歩調を合わせてくれた。サソリ以外の男の子と二人で歩くのは久しぶりである。
『サソリ、最近どう?』
「うん?」
『なんか疲れてるみたいで。何かあったのかな、と』
ああ、とデイダラは呟いた。何か知っていそうな雰囲気である。
「大丈夫だろ、旦那は。ああ見えてタフだから」
『…私の勉強見てくれてるから、それが負担なのかなって』
「あー、それはないない。旦那美羽のこと大好きだから。お前に関することで負担になることはねえよ、うん」
そう言われても、なんとなく腑に落ちない。
『支えになってあげたいのに、負担になってばかりな気がして』
「考えすぎだろ。オイラからしたら今の旦那は幸せそうにしか見えねぇよ、うん」
そうなんだろうか。手袋をしていても冷える手にはぁっと息を吹きかけて、私は考える。
『…ちょっと、冷めてきてるのかなって』
「うん?」
『サソリ。前よりなんか、あっさりしてるというか。スキンシップも減ってるし』
デイダラが微妙そうな顔をする。男子にするのはタブーな話題なのかもしれない。でも、デイダラはサソリと一番仲がいい男子だ。少しでもアドバイスが欲しかった。
『付き合って半年だからなあ…サソリからしたら少し飽きがきてるのかなと』
「ないな」
『?』
「言ったろ。旦那は美羽のこと大好きだって。冷めるとか飽きるとかねぇから。むしろ依存度は上がってるだろ」
『依存ね…』
他人から見てもそう見えるのか、と考える。
『やっぱり依存してるのかなあ』
「恋人なんて多かれ少なかれそうだろ。別に気にすることはない、うん」
『そうかもしれないけど、不安で。もしサソリが私に依存してるだけなんだったら、魔法が解けた瞬間に離れていっちゃう気がして』
魔法?とデイダラ。
『サソリね。凄く褒めてくれるの。それこそ何もしなくても。生きてるだけで褒めてくれるレベル』
「ははっ、そりゃ確かに甘やかされてんな、うん」
『でしょ?でもそれって、サソリが魔法にかかってるだけなんだと思うのよ。私のこと認めてあげなくちゃ、褒めてあげなくちゃって。私が自信がないから自信を付けさせようとして、サソリも私が素晴らしい子で、好きだと思い込んでいるっていうか』
「……」
それで?とデイダラが少し呆れたように言った。
『実際に、サソリが目が覚めたとき。大したことない人間だと気づかれて、捨てられないか不安』
デイダラが失笑した。
「よくそんなネガティブバッドエンドストーリー妄想できるな、うん」
『だってさぁ…』
「大丈夫だって。お前が思うほど旦那はお前に気遣ってないから。好きにやってるだけだと思うぜ」
デイダラがふっと笑った。
「スキンシップが少ないならお前からしたらいいじゃん。キスもハグも女からしちゃいけない決まりねぇんだし、うん」
『私からか…嫌がられないかな』
「むしろ大喜びだろ。そういえば美羽は言ってるのか?」
『?』
「好き、とかカッコいい、とか。旦那に」
むぅ、と押し黙る。
『…最近は、あんまり』
「ダメダメ。言わなきゃ。旦那は言ってくれるんだろ?」
『……』
「気持ちは伝えなきゃ伝わらない。美羽も不安かもしれないが、旦那も不安なんだよ」
『サソリも?』
「そ。ちょっかい出してくる男が増えたって。心配してた」
私には何も言ってこないけど。やはり私が知らない男子に連絡先を渡されることをよく思っていないらしい。
「好き、大好き、カッコいい。言っとけば案外単純に喜ぶぞ」
『……』
「で、そのまま裸でベッドに入れるとなお良し」
『何それ…』
「男なんてみんなそんなもんだよ、うん」
私は大きなため息をつく。
『それもなあ…サソリは冷めてるっていうか』
「うん?」
『何度かそういう機会あったけど、手出してこなかったよ。あんまり私にそういう魅力は感じないんじゃない?』
こちらからはそれとなくOKサインを出したはずだ。しかしなんとなくはぐらかされ、悪戯程度に留められている。最近はその悪戯すら全くないし。
『私に女の魅力はないのよ』
「なわけねーじゃん。色気ムンムンだぞ、お前」
『色気て』
「オイラも是非お願いしたいくらい、うん」
今度は私が失笑する番だった。
『デイダラはな~…鈍感だから嫌』
「鈍感?オイラが?」
『女の子の気持ちに鈍いもん』
どうやら心外だったようである。どこが?と不機嫌そうに問われる。
『熱狂的に好かれてもあんまり気づかないから』
「ファンにってことか?」
『ファン…それとはちょっと違うかなぁ』
煮え切らない私の態度にデイダラは納得いかなそうだ。しかしこれ以上暴露する気もなかった。
『…まあ、私がもしサソリに捨てられたら慰めて』
「その役目は回ってこなそうだけどな、うん」
『そうだといいけど…』
****
デイダラに自宅に送ってもらい、夕食を食べ、お風呂に浸かった。髪を乾かして自室に入りスマホを確認する。するとそこには不在着信の文字。時間を確認すると3分前である。それなら大丈夫かな、と私はスマホを耳に当てた。
「もしもし、本当にごめんな」
直ぐにサソリは電話に出た。申し訳なさそうにしているサソリに、私は思わず笑ってしまう。
『全然いいよ。疲れてたんでしょう?』
「ごめん。気緩んでて」
『だからいいって。全然気にしないで』
サソリはもう一度、ごめん、と言った。
「…実は最近、疲れが溜まってて」
『うん。見てわかってた。暫く勉強会お休みしようか?』
サソリが押し黙る。悩んでいるようだった。
『ほんとに、いいよ。私のことは気にしないで。暫く自主学習に切り替えるから』
「…悪い。そうしてくれると助かる」
やっぱり負担になっていたんだな、とチクリときた。
「2週間くらいで落ち着くから。それまではごめんな」
『うん。……?』
その時、私はあることに気づく。
『サソリ、今外?』
「……いや。家だけど」
時刻は23時だ。この時間に外に出るのも変な話である。それこそ、あんなに疲れていた様子なのに。
『……。そっか。じゃあ、今日はゆっくり休んで』
「ああ、ありがとう。じゃあ明日学校で」
『うん。おやすみなさい』
通話終了ボタンを押した手が、微かに震えた。スマホを額に押し付け、私はその場にへたり込む。
サソリくん、と甘く呼ぶ女の人の声が、聞こえた。