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『サソリはさ、クリスマスに欲しいものある?』
学校の帰り道、美羽に聞かれた。オレはマフラーに顔を埋めながら答える。
「特に。つーかこの前の誕生日にも貰ったしな」
ちょうど1ヶ月前にはオレの誕生日があった。皆でパーティーしてくれた上、美羽からはプラチナのピアスを貰っている。現在オレの耳で光っている代物である。
「高かったろ、これ」
『サソリには中途半端なもの似合わなそうで、妥協できなくてつい』
美羽は恥ずかしそうに笑った。昔から貯めていたお小遣いで買った、とこの前既に聞いている。
美羽の家は比較的裕福であるが、金銭感覚は一般的だ。両親の教育方針なのであろう。小遣いも月5千円で一律らしい。
「お互いバイトもしてないし。無理しなくていい」
オレの言葉に、うーん、と美羽。
『…まあ、そうね。じゃあお互いになしでいいか』
「そうしてくれ。別にプレゼントなんてなくてもオレはお前と一緒にいられればいい」
美羽は少しだけ、恥ずかしそうに笑った。
****
今日の昼は美化委員の集まりがあるから、と事前に聞いていた。だからこそ、今日やらなければならないことがある。
美羽のいない女子の群れに、オレは声をかけた。
「すまん。ちょっといいか?」
「サソリくん?どうしたの」
「美羽ちゃんなら美化委員でいないよー」
その言葉に知ってる、と答える。
「聞きたいことがあって」
「なに?」
「美羽の趣味。何か欲しがってるアクセサリーとか知らないか?」
オレの言葉に、皐月が一早く反応した。
「あー、クリスマスね。プレゼント交換しないんじゃなかったの?」
「アイツからはいらないけど。オレは渡したいから」
実は角都に紹介して貰って、既に深夜のバイトを始めていた。稼がなくても金はあるが、祖母の金で買うのと自分で稼いだ金で買うのは訳が違う。
「予算5万位で」
「5万!?結構思いきるね」
「イブまでにそれくらい稼ぐ予定」
深夜だから時給はいい。その分睡眠時間は削ることになるが、それは致し方ない。
女子の一人が鞄の中からファッション誌を取り出した。
「美羽ちゃん自分のことあんまり喋らないからなー。基本何でも喜ぶとは思うけど…」
パラパラと雑誌を捲る。
「ていうか、趣味はともかくとして女子は指輪あげとけば一発だと思うよ」
「指輪?」
「そ。薬指に通してあげれば喜ばない女はいないから」
ううん、とオレは唸る。
「指輪はな…まだ違う気がして。いざという時に取っておきたいというか…」
なんとなく、美羽の薬指はまだ空けておきたかった。
オレの言葉に、雑誌を持っていた女子が答える。
「じゃあネックレスかな。ブレスもあるけど、デザインに限りがあるから。あげるならネックレスがいいと思う」
ネックレス。それなら抵抗はなかった。オレは首肯する。
「好みはやっぱりフェミニン系じゃないかな」
「服はコンサバ系じゃない?美羽ちゃんは」
「えー、それじゃつまらない。意外にノスタルジックな感じも似合うと思うのよね」
「甘いのが好きそうだけど、少しだけ辛いのも取り入れる感じで」
「………。すまん、何言ってるかわからないんだが」
ふぇみにん?こんさば?甘いけど辛い?真白さんの料理か?
「ファッション用語よ。美羽のファッションから好みを割り出してるの」
「ああ…」
皐月のアシストで納得した。よくわからないが女子には通ずる用語らしい。
「ブランドで言うとやっぱりサマンサじゃない?」
「ティファニー4℃も鉄板」
「全くわからないので取り敢えず見せてくれ」
女子から雑誌を受け取る。クリスマス間近なこともあり「彼氏に買ってもらいたいアクセサリー特集♡」とデカデカと書いてある。なかなかエグい雑誌だ。買わせるの前提か。
「男子が選びがちなのはハートとか、星とかのデザインだけど。そういうんじゃなくてシンプルな宝石の方がいいと思う。一粒ダイヤとか」
「ダイヤか…」
想像してみる。確かに似合いそうだ。
あれやこれやアドバイスを受け、ピックアップしてもらったものを取り敢えずスマホに収める。あとは予算とすり合わせて、直接店頭で見たほうが良さそうだ。
「ありがとな。だいぶ参考になった」
「いいえー」
女子に礼を言ってその場を去ろうとすると、一人の女子に呼び止められた。
「お礼にって言ったらあれだけど。ちょっと話聞かせてくれない?」
「話?」
色々アドバイスをもらった手前断れず、なに?とオレ。
「してないんだって?美羽ちゃんと」
「何を?」
「エッチ」
「……」
皐月以外の女子4人にニヤニヤ顔で見られる。なんだ、こいつら。女子の皮かぶった男子か?
「……。よくそんなことオレに聞けるな…」
「えー?だって美羽ちゃんじゃ要領を得ないし。どうなの?実際」
「どうなのって言われても…」
オレは首筋に手を当てて答える。
「そういう雰囲気にならないから。まだしたくないのかなと」
「それはサソリくんの腕次第じゃん!そういう雰囲気に男子が持ってくんだって」
言っていることはわかるけれども。
「なんつーか…タイミングを逃したというか、なんていうか」
「タイミングなんていつでも作れるの!それを作らないのはただの怠惰!」
ビシッと効果音が入りそうな力強さで指差される。オレはたまらず反論した。
「別にオレたちのアレコレお前らに関係なくね?ヤろうがヤるまいがオレたちの自由だろ」
「そりゃそうだけど。美羽ちゃんあれ、寂しがってると思うよ」
「寂しがる?」
「最近、キスもハグもあんまりしてくれないって言ってた」
言葉に詰まり皐月の方をチラリとみる。すると皐月は興味なさそうに頬杖をつきながら、「それは本当」と言った。
タイミングがないのもあるが、変にムラムラしないように控えていたのは事実である。しかしそれを美羽が気にしていたのは気づかなかった。
「彼女を不安にさせるなんて彼氏失格です!」
「それは色々と事情があってだな…」
「どんな事情!?キスとかハグとかエッチができない事情ってなに!?」
めちゃくちゃ詰められる。なんでこんなに責められてんだ。イライラしたが、話は理にかなっていて無碍にすることもできなかった。
『…みんな、何してるの?』
その時、美羽が教室に戻ってきた。オレとそれに集う女子集団に目を白黒させている。
サッと女子たちがオレから離れた。
「なんでもなーい!」
「期末テストでわからないことがあって、ちょっと聞いてただけ」
美羽は少し納得いかない様子だったが、ふぅん、と呟いた。
正直助かった。まさかこんなことを聞かれるとは思っていなかったから。
「委員会終わったのか?」
『うん。今日は先月の活動の反省会だけだったから』
美羽はじっとオレを見ている。
寂しがってるよ、と言われた先程の言葉を思い出した。
…寂しい。彼女は、寂しいのか。