01
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あれ以来、美羽は弁当を作って来なくなった。
「あれー?またサソリ学食?オカンは?」
飛段の言葉を無視して、オレは学食に向かう。別に弁当がなくても困らない。今の時代、金を出せばなんでも手に入る。
金を入れて、唐揚げ定食のボタンを押す。食券を取りカウンターに出して、定食を受け取った。人混みをかき分け席を見つけ座る。そして一口。
「まっず」
何故唐揚げがこんなに不味くできるのか疑問である。隣のデイダラがラーメンを啜りながら苦笑した。
「オカンのおかげで舌が肥えたんじゃねーの?うん」
「揚げ物をこんなに不味くできるなんてもはや才能だろ。どう作ってるのか逆に知りたい」
デイダラは無言でオレを見た。チラッと周りの奴らを確認する。他の奴らは話に夢中でオレたちの会話は聞こえていない様子である。
デイダラはオレの肩に手を置いた。グイッと引っ張られる。
「月野さんと喧嘩でもしたのか?うん」
耳打ちされ、オレは無言でデイダラを見た。まずい唐揚げを再び口に含む。
「…なんの話だよ」
「オイラが気づかないと思った?完全に月野さんと同じ弁当だったじゃん、うん」
「……」
「気づいてる奴は気付いてるぜ。ま、気付いてない奴もいるけど、うん」
飛段とかな、と奴は続けた。オレは進まない箸を動かした。
「確かに作ってもらっていたが、お前らが期待するような関係じゃない。オレが親いねーから、アイツが同情して、それで」
同情?とデイダラ。オレは首肯する。
「言ったろ。あいつはオカンだ。世話できればオレじゃなくてもいいんだよ」
デイダラはふぅん、と呟いてまたラーメンを啜った。
「じゃあ、オイラが月野さんのこと貰っていい?」
「……。何故そういう話になるんだ」
デイダラは笑う。オレは今度はまずい米を口に入れた。
「月野さん可愛いし。優しいし。彼氏いないっていってたし。普通付き合いたいと思わねぇか?うん」
「…さあな」
オレのリアクションに、デイダラはニッと笑う。
「旦那、知ってるか?」
「?」
「旦那が否定しない時。それ即ち肯定です」
オレはじろっとデイダラを睨む。奴は怯むのとなく呑気にラーメンを啜った。
「早く仲直りしとけよ。取られちゃうぜ、まじで。あの子男に大人気なんだから」
その言葉に、オレは何も答えなかった。
****
仲直りしろ、って言ってもなぁ。
仲直りというものは、喧嘩があって成立するものだ。今回の件は喧嘩ではない。オレが勝手に彼女を追い詰めた。言うなればいじめに近い。
どのツラ下げて謝ればいいんだ。
美羽とのLINEを何度も開いては閉じる。どうしても送れない。もしかしたらブロックされているかもしれない。そしてブロックされていたら立ち直る自信がなかった。
オレは自分が思っていたよりカッコ悪い人間だったのかもしれない。
結局連絡を取ることはできず、オレはとぼとぼと帰路についた。またあの日のように雨が降っている。しかし今日は生憎傘を持っていなかった。頭にカバンを乗せ、駅までの道のりを小走りに走る。
学校から駅までは大した距離ではない。普通に歩いても10分というところ。ただ、裏道によっては人通りが少なく、時たま変質者が出たりすることもあるようだ。男のオレにはあまり関係がない話だが。
少しでも早く駅に着きたかったので、オレは裏道に入った。しばらく走っていると、淡いピンク色の傘が開いたまま小道に落ちている。不審には思ったが濡れている体が不快だったので、さっさと通り過ぎようとした。ちらっと視界の隅に影が映る。反射でそちらを見て、息を飲んだ。
そこには美羽がいた。壁に追い詰められ、男に身体を触られている。濡れた制服を捲り上げられ、白い下着が露わになっていた。
考えるより先に体が動いた。持っていた鞄で思い切り男の頭をぶん殴る。男が驚いたように美羽から離れ逃げ出した。
追おうとして、そこに蹲ってしまった美羽に目が行く。どちらを優先するか考え、結局、目の前の彼女が勝った。
「大丈夫か?」
『……』
美羽は身体を震わせながら泣いていた。大丈夫か?じゃねえよ。大丈夫じゃないに決まってるだろう。
どうしたらいいかわからず、でも彼女に動揺を悟られたくはない。びしょびしょになっている身体に自分の制服をかけてやり、傘を拾い上げた。
「…オレの家の方がお前の家より近い。来るか?」
オレの言葉に、美羽は初めてオレの顔を見た。