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『いーやーだ。絶対嫌。無理!』
「そこをなんとか!」
私はもう一度、いやだ、と言った。
目の前の瑠衣ちゃんは手を合わせながら上目遣いに私を見る。
「ミスコン。美羽ちゃんにどーしても出て欲しいの」
『だからほんとに無理!』
もうすぐ文化祭である。暁高校では毎回ミスターミセスコンテストがあり、クラスエントリーした人から頂点を決めるらしい。その打診が、何故か私にあった。
私は頑なに首を横に振る。
『無理!うちのクラス可愛い子いっぱいいるじゃん。なんで私なのよ』
「皆が美羽ちゃんしかいないって言うんだもん。ね!ちょっと写真撮るだけだから」
『絶対嫌』
つーん、と私はそっぽを向く。傍観していたサソリがふっと笑った。
「いいじゃん。出れば?」
『自分だってめんどくさいからって速攻で断ってたじゃん…』
「オレは元々モテるから、わざわざイケメンって認定してもらわなくていいんだよ」
そういうのはイタチの方が向いてる、とサソリ。男子の代表はイタチに早々に決まったようである。女子がなかなか決まらないのだ。
皆、出たい気持ちはあるのだと思う。しかし出たところで、そんなに可愛くないじゃん!と叩かれるのが嫌なのである。私だって嫌だ。ブスだと罵られるのは一生分経験した。
『じゃあもう女子は欠場でいいじゃん」
「なんでよ。せっかく美羽ちゃんがいるのに穴開けたら私が怒られる」
瑠衣ちゃんは文化祭実行委員である。しかし、だ。
今年うちのクラスはカフェの予定である。料理担当がよかったのにそれも無理矢理給仕担当に回された。そこは仕方ないと妥協したけれど、これ以上は折れられない。
『絶対無理。絶対嫌』
「なんで?やればいいのに、うん」
『じゃあデイダラが女装して出てよ』
「なんでオイラなんだよ…」
『私よりよっぽど可愛いじゃんデイダラの方が』
デイダラがムスッとする。可愛いと言われるのは嫌いなようだ。
「美羽が出るべき」
『本当に心から嫌。無理』
飛段がパックの牛乳を飲みながらゲハハ、と笑った。
「頑なだなぁ。可愛いって言われんの好きじゃねぇの?」
『容姿にはできれば触れられたくない』
「なんで?」
『トラウマがあるんです!』
瑠衣ちゃんは私の様子を見て、うーんと腕を組んだ。
「まあ当日出場もOKだから。考えといてね」
『考えても結果は変わらないよ!』
****
昼休みである。昼は美羽と一緒に食べないのが通例だ。彼女は皐月含む女子チームで食べている。女同士の付き合いも重要だろうと、オレはそこに口を挟むことはなかった。
オレたちはいつものメンバーで弁当を囲った。最近は皆学食を使わず、弁当か購買で済ませている。
「さっきのミスコンの話だけど、うん」
デイダラが言った。皆飯を食いながら耳だけを傾けている。
「なんであんな嫌がるの?可愛いって言われるの好きじゃねぇの、女子は。うん」
例のチーズで美羽が作ってくれたホットサンドを咀嚼してから、オレは答える。
「中学の時に散々ブスって言われたから嫌なんだって」
「え、まじ?あんなに可愛いのに?」
「そ。自分がブスだって思い込んでるから、オレがなに言ってもお世辞としか捉えてないな」
「だったら無理矢理にでもミスコン出したら?あいつ下手したら優勝すんじゃん」
飛段がカツサンドを齧りながら言った。
「優勝したら自信つくんじゃね?」
「どーだろな…あいつ変に頑固だから。組織票とか言い出しそう」
「あり得そうで怖いな」
イタチが笑った。オレも同意する。
「まあ嫌がってるの無理矢理出してもなって感じ。それに、他の学年やクラスの奴らに目つけられるの嫌だし。オレとしては」
美羽は可愛いがそんなに目立つタイプではない。表舞台に出てしまったらそれこそ人気が爆発しそうでオレとしては面白くない。
「美羽はクラスにいてくれた方が確実に金になるから。オレとしてもミスコンには出て欲しくないな」
「角都…お前まじで金のことばっかだな」
「当然」
皆で他愛もない話をしていると、とんとん、と肩を叩かれた。振り返るとそこには美羽が立っている。
空になった弁当箱を渡しながら、なに?とオレ。
『ちょっと話があるんだけど…いい?』
「話?」
珍しいな、と思った。昼休みは男女分かれて過ごしていることの方が多い。しかし断る理由もないのでオレは美羽について行った。
そんなに隠れてするような話でもないんだけど、と美羽。
『この前皐月とS大のオープンキャンパス行ったの』
「ああ。そういやそうだったな。どうだった?」
うーん、と美羽は腕を組む。
『凄く雰囲気良かった。先輩たちも親切で。法学部も綺麗で、教授もいい人だった』
「いいじゃねぇか。なんでそんな浮かない顔?」
いい話なのに、顔がなんとなく沈んでいる。
『……レベルが高いからだよ。J大かR大に魅力感じたらよかったのに、S大がダントツ』
美羽は更に唸る。
『一応、頑張ってみようかなって。T大にも一番近いから。距離的に』
「いいんじゃねえの。前も言ったけどオレが勉強見てやるんだから」
チラッと美羽がオレを見る。
『…本当に、めちゃくちゃ頼ることになるけど大丈夫?』
「全然構わない。人に教えるのは自分の復習にもなるし」
美羽が少しだけ安心したように笑った。
『頼りにしてます。お願いします、先生』
「……。おう。任しておけ」
合わせて笑いながら、オレは心の中で泣いた。
絶対にこれ、更にセックス遠のいたな、と。