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私たちはバックヤードにつれていかれ、事情を聞かれた。男性はどうやら常習犯だったようで、今回は警察のお世話になるらしい。
解放されたのは一時間ほど経ってからのことだ。少年と私は二人同時に店を後にした。

『あのっ』

さっさと踵を返してしまった少年に声をかける。黒い瞳が至極めんどくさそうに私をじろっと見る。その瞳になんとなくデジャヴを感じた。
私は深々と頭を下げる。

『ありがとうございました。助けていただいて』
「別にお前を助けたわけじゃない。たまたまだ」

少年は興味なさそうにそう呟いた。私はいえ、と続ける。

『貴方がいなかったら多分、逃げられちゃってたから』
「…随分正義感が強いんだな」

彼はフンっと鼻を鳴らした。その様を見て、褒められているのではなく馬鹿にされているのだと気づく。

「普通に考えて、あの体格差は無理だろ。その程度の怪我で済んで良かったと思えよ」
『…おっしゃる通りです。勝手に体が動いちゃって』

思い出して、今更恐怖に震える。私より数周りも体格の良い男性だった。それこそ殴られたら、こんな打ち身程度の怪我では済まなかっただろう。
私はふぅっと息を吐いた。

『良く怒られるの。考えなしだって』
「…まあ、今回はいいんじゃねえの。丸く収まったんだから。次から気を付けろっつー話」

少年はまたスタスタと歩き出した。私は何となくその後を追う。なんだろう。なんか引っかかる。

『あの…』
「なんだよ」

本気で鬱陶しそうに眉を寄せる少年。私はうーん、と考える。

『どこかでお会いしませんでした?』
「……」

彼の目が不審者を見る目に変わる。

「ナンパかよ」
『違くて…ほんとに、見たことある気がして』
「ねーよ。お前みたいなアホ女見たことない」

なんとなく、納得がいかなかった。

『…もしかして学校同じなのかな。どこの高校?』
「中学だ。中学3年生」

中3!?驚愕した。まさか年下だったとは。

『じゃあ違うか…』
「…そういうお前は?」
『私?高校一年生。暁高校』
「暁高校?」

少年が初めて、私にほんの少しだけ興味を持った様子を見せた。

「兄貴と一緒だ。兄貴も暁高校の一年」
『そうなんだ。なんて名前?』

もしかしたらお兄さんなら知ってるかも。そう伝えると少年は答えた。

「うちはイタチ」
『…は?』

イタチ?言われて、瞬時に腑に落ちた。そうだ、彼。イタチにそっくりなんだ。なんで今まで気づかなかったの。

『まさか、イタチの弟さん?』
「…兄貴を知ってるのか?」
『知ってるも何も。クラス一緒で仲良くさせてもらってるの』

少年は驚いた様子を見せる。暫し考えた後、そういえば、と彼は言った。

「聞いたことあるな。皐月と……美羽?とか言ってたっけ」
『そうそう。私、月野美羽ね。この前別荘にも泊まらせてもらって』

少年は納得したように頷いた。どうやら不審者のレッテルは下げてもらえたようである。
先程とは違い二人で肩を並べて歩いた。

『貴方の名前は?』
「…うちはサスケ」
『そっか。じゃあサスケくんって呼ぶね』

私の言葉に、サスケくんはまたじろっと私を睨む。私は頭に疑問符を浮かべた。

「さすが男慣れしてんな」
『男慣れ…?別にしてないと思うけど』
「普通、そんなあっさり下の名前で呼ばないだろ」

言われて、まずかったのかなと冷や汗を流した。周りの男子は皆名前で呼べ呼べいうから、つい。

『ごめんね。うちはくんって呼びづらくて』
「…まあ別に構わないけど」

自分で言った割にはあっさりと受け入れてくれ拍子抜けする。顔はイタチにそっくりだけど、性格はどっちかというとサソリに近い。
イタチとサソリを足して二で割った感じだな、とこっそり思った。

二人で歩いて、目の前にスタバがあるのを見つける。この前サソリと入ったスタバだ。私はサスケくんに声をかけた。

『よかったらスタバ寄らない?お礼に奢るよ』

再びジロっとサスケくんが私を見る。断られるのかと思ったけれど、意外にもあっさり彼はいいぜ、と言った。

『何飲む?』
「アイスコーヒーのでかいやつ」

サスケくんはそれだけ言ってさっさと席を探しに行ってしまった。そして気づく。暑い中トロトロ歩かせたから、疲れたし喉が渇いたのだろう。だから私からの提案をあっさり飲んだのだ。別に気を許されたわけではない。途端に申し訳ない気持ちになる。
言われたアイスコーヒーのグランデと、自分用のアイスココア、あと数種類のホットサンドを購入した。甘いものは買おうか迷ったけれど、なんとなく好きそうじゃない気がしたので辞めておいた。

トレーを持って、サスケくんの姿を探す。サスケくんは店の奥に腰掛け、スマホをいじっていた。ゆっくりとそこに向かう。

『お待たせしました。どうぞ』

サスケくんの前にトレーを置く。彼はびっくりしたように私を見た。

『食べるかなと思って。いらないなら持って帰るから』
「……」

サスケくんは無言でアイスコーヒーに手を伸ばした。ミルクとかガムシロップいる?と聞くと小さく首を横に振る。やっぱりブラック派だったな、と思った。
私はココアに口をつけながらサスケくんに話しかける。

『サスケくん、甘いの好き?』
「いや、あまり」
『やっぱりね。なんかそんな気がした』

ふふっと笑う。サスケくんは何も言わずホットサンドに手を伸ばした。どうやら食べてくれるようである。安心した。

『中3ってことは…次受験よね。どこ受けるの?』

私の言葉に、サスケくんは口の中のものを咀嚼してから答える。

「お前と同じとこ」
『あー、やっぱりそうなんだ』
「ここら辺の進学校はあそこが一番レベル高いからな」

イタチの弟さんだ。おそらく彼も成績優秀なのだろう。オーラから優秀そうな感じがプンプンする。

「お前は暁高校っぽくないな」
『どうして?』
「なんとなく。イメージ私立の女子校」

なかなか鋭い見解である。私はははっと笑った。

『御名答。中学まで私立の女子校だよ』
「じゃあ何故わざわざこっちに?」

その質問に、動揺することはもうない。

『合わなくてね。私はこっちの公立の雰囲気のが好き』

サスケくんは興味なさそうにふぅん、とだけ呟いた。その無関心さが有難い。
冷たそうに見えて、私の言葉には律儀に返答してくれる。その様を見て素直に思った。

『サスケくんは、優しいね』

サスケくんがまた顔を上げる。その眉間には皺が寄っていた。

「どうしてそうなる」
『え、優しいじゃん。助けてくれたし、私の話聞いてくれたし。スタバにも付き合ってくれるし』
「……」

サスケくんは頬杖をつきながらコーヒーを口に含んだ。

「…そんなこと、初めて言われたな」
『えー、そうなの?カッコいいし優しいしモテるでしょ?』
「……」

サスケくんは無言である。まあ自分からオレモテます!って言う人はいないか。


「そういうお前は?」
『うん?』
「彼氏いるんだろ、どうせ」

どうせって。言われて答える。

『うん、いるよ。もしかして知ってるかな。イタチの友達』

サスケくんが少し考えるような仕草を見せる。

「兄貴の友達…ロクなのいねぇだろ」
『ははっ、酷い言われようね』
「……」
『赤砂サソリって言うんだけどね』
「げっ」

サスケくんが今日一番不快そうな声を出した。私は首を傾げる。

「よりにもよってアイツか…」
『知ってるの?』
「知ってるも何も。よく来るしな。言っちゃ悪いがめちゃくちゃ俺様で好かない」
『俺様、ね。確かに、否定できないかな』

私はケラケラと笑う。どう考えてもサソリとサスケくんは相性が悪そうである。
でもね、と私は続けた。

『サスケくんと同じで優しいよ。ああ見えて実はフェミニストなの』
「優しいねぇ…」

サスケくんがホットサンドを口にポイッと投げ入れる。

「まず顔じゃねぇんだな」
『うん?』
「いや。あの見た目だから。だいたい褒めるのは顔からかなと」

ああ、と私は呟いた。言っていることはわかる。

『凄くカッコいいと思うよ。でも、別にタイプではないの。顔はね』
「……」
『私、ほんとは派手なイケメン好きじゃないのよね。どっちかというと…』

ちらっとサスケくんを見た、

『サスケくんみたいな、真面目そうな見た目の方がタイプかな』

サスケくんは黙っている。私は続けた。

『本人に言うと気分悪いだろうから言わないけど。外見は重要視してない。仮にもし5割くらい不細工になっても全然平気』

サスケくんが初めて少しだけ笑った。

「変わってるんだな。だからアイツと付き合えんのか」
『変わってるのかな?よくわからないけど』

暫くそのまま談笑した。サスケくんがほんの少しだけ、私に気を許してくれたのがわかって嬉しい。
時間にしては30分程度だったと思う。サスケくんは私が買ったホットサンドを全て食べてくれた。片付けて、出口に向かう。

『今日は本当にありがとね。時間とらせちゃって』
「いや、こちらこそ。奢ってもらって悪かったな」

二人で自動ドアを潜る。夏の暑さがカッと私たちを照らしてげんなりしてしまう。その時だった。

「オイ」

突然腕を掴まれた。驚いて顔を上げる。
するとそこにいたのは。

『あれ…サソリ?』

サソリが眉間にシワを寄せて私を見ていた。どうやら怒っているようだとすぐに察する。
サソリは息を切らせて、額の汗を拭った。
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