09
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
美羽の母親は、びっくりするくらい美羽にそっくりだった。親子というより、姉妹と言われた方が納得してしまいそうなくらい若い。20歳で産んだと仮定しても36歳だよなぁ、となんとなく考える。年齢なんて聞けるわけないからわからないが。
30overには全く見えない。
『ごめんね、ほんとごめん』
美羽は先程から必死にオレに謝っている。オレはその度にいや、と返す。
『お母さん、やっぱりサソリのこと気に入っちゃったみたいで』
気に入られたのだろうか。正直全くわからない。美羽の母親は先程からキッチンに篭りきりである。オレと美羽は出された麦茶を飲みながら夕飯が出てくるのを待っていた。
『若いイケメン大好きなの。だから紹介したくなくて』
「つっても…娘の同級生だし。そういう目では見ないだろ」
美羽は甘いよ!と言った。
『気をつけないと食われるから。ほんっと気をつけて』
「食われるって…」
そんな大袈裟な、とオレ。大袈裟じゃない!と美羽。
「お待たせしましたー。なんの話?」
その時、美羽の母親がリビングにやってきた。両手で鍋を持っている。この季節に鍋…?とひっそり思った。
『お母さんがヤバイって話』
「失礼ねー。ヤバくないわよ。ね、サソリくん?」
美羽の母親はオレをみてうふふ、と笑った。なんというか、美人オーラが半端ない。美羽と顔は同じだが、母親は自分が美人だと十分に理解してそれを惜し気もなく武器にしている印象を受ける。
「キムチ鍋なの。辛いの好き?」
「はい。いただきます」
ふと、前美羽が母親が料理が苦手なのだと言っていたのを思い出した。しかし鍋に上手いも下手もないか、と思い直す。
美羽の母親が皿に取り分けてくれ、礼を言って受け取る。そして一口。
「……」
オレは無言になる。母親は変わらずニコニコしている。一口食べた美羽が、げぇっ、と遠慮なくえづいた。
『お母さん…何入れた?』
「キムチ」
『なんでキムチ入れて甘いのよ…』
「だって、辛いだけじゃ嫌かなって思って」
『まーた砂糖入れたでしょ!だから余計なことしなくていいんだって!』
美羽がオレの手から皿を回収した。ごめんね、食べなくていいから、と。
「いや…せっかく作ってもらったのに悪いし」
『いいからいいから!私が作り直すから待ってて』
美羽が問答無用で鍋をキッチンに運んで行った。母親は何故か相変わらずニコニコしている。
美羽がキッチンに消えたため、母親とオレがリビングに残された。
「ごめんね」
『はい?』
「あの子、めんどくさいでしょ」
料理の不味さを謝られたわけじゃないらしい。
オレは麦茶を一口含み、いえ、と言った。
「高校行って、友達できたって聞いてたから安心してたんだけど。まさかサソリくんみたいなイケメンだとは。美羽もなかなかやるわね」
「…いい子ですからね。クラスにも馴染んでますよ。安心してください」
母親は両手で頬杖をつきながら、そう、と呟いた。
「その口ぶりだと、昔何があったか知ってるみたいね」
「まあ、少しだけ聞いてます」
本当に少しだけですよ、とオレは言った。母親は頷く。
「あの子、学校で何があったとか全然喋ってくれなくて。上手く行ってないって全然知らなかったの」
「……」
美羽の性格だと、そうだろうなと思った。
「聞いたら、小学校からずっといじめられてたみたいで」
「……」
「私たちのエゴで、ちょっといい私立の女子校いれちゃったから。プライドが高いお嬢様ばっかりで馴染めなかったんだって」
母親はふうっと溜息をついた。
「悪いことしちゃったなって」
「……」
「最初から公立入れてあげれば、平和だったのかもね。パパが絶対女子校がいいって言うから、私もそうかなって思っちゃって。私はどこに行っても割と平気なタイプだったから。私と美羽は違う人間なのにね」
親失格よね、と母親は言った。オレはふう、と溜息をつく。
「公立だって同じですよ。変な奴らはどこにでもいます」
「……」
「ある意味、運的な意味合いが強いのかもしれません。ご両親のせいじゃないです。運で片付けるのも悪いですけど。そういう星回りだったというか」
母親はふふっと笑った。
「慰めてくれるの?」
「慰めというか、事実なんで。オレも言われましたよ、色々」
両親いないんで、とオレは続けた。母親は驚いたようにオレを見る。
「施設育ちだとか貧乏だとか。実際は祖母に引き取られてたし金には困ってなかったんですけど。周りが言うのは適当だから。それを一々否定するのもめんどくさいでしょ」
「……」
「オレはまあ…気が強かったんで。言われたらぶん殴るぐらいな感じでしたけど。娘さんは優しいからできなかったんでしょうね」
母親は無言でオレを見ている。
「人には色んな境遇があります。それを他人に理解してもらう必要はないんですよ。わかってくれる人がわかってくれればいいわけで」
「……」
「昔のことは、正直オレにはどうすることもできないです。その場にいたわけでも、ましてや当事者でもないので」
「……」
「でも娘さんは、オレのことよく理解しようとしてくれているんです。だからオレも彼女のこと過去ひっくるめて理解したいと思ってます」
美羽の母親は少し考える仕草をした後言った。
「サソリくん、聞いていい?」
「なんですか?」
「美羽のこと好きなの?」
否定するわけにはいかないな、と思った。
「はい」
「やっぱりそうなのね。美羽は?」
「まあ、一応」
「友達通り越してこんな短期間で彼氏作っちゃうなんて。やるわねえ」
「そりゃ、共学来たらそうですよ。あんなに可愛くて良い子なんですから」
お母さんとそっくりじゃないですか。すると彼女は嬉しそうに笑う。
「ねー?あんなに美人に産んであげたのに。それでパパが心配して。絶対女子校がいいって。彼氏できたなんて聞いたら卒倒しちゃうわよ」
「……」
黙っているオレに、うふふ、と母親。
「大丈夫。パパには内緒にしといてあげるから」
「ありがとうございます…」
「その代わりと言ってはなんだけど…お母さんって呼ぶのやめない?」
「?」
「真白ちゃんって呼んで」
オレは無言で母親を見た。変わらずニコニコしている。
「いや…それは」
「えー。じゃあママでもいいわよ」
一息ついて、オレは言った。
「…真白さんでいいですか?」
「うーん。ま、ギリギリいいかなあ。お母さんって呼ばれるの好きじゃないのよね」
可愛くないじゃない、と真白さん。呼び方に可愛いも可愛くないもあるんだろうか。
確かに、真白さんは美羽が言っていたようにキャラが強い。美羽とはまた違った意味で今まで会ったことのないタイプである。
「そういえばサソリくんはさー」
真白さんは変わらないニコニコ顔で言った。
「避妊ちゃんとしてる?」
一瞬、何を聞かれたのかわからなかった。はい?と素っ頓狂な声が出る。
「だから、避妊。美羽とセックスする時コンドームしてるかって聞いてるの」
いきなり何を言い出すんだこの人は。しかし、ここで濁すわけにもいかず。
「…いや、オレたちはまだそういうのしてないんで…」
「あら?そうなの?」
思春期の男女なのに?と真白さんは付に落ちない様子である。気まずすぎてまた麦茶を口に含んだ。
「付き合って1ヶ月少しなんで。まだです」
「ふぅん。意外に奥手なのね。でも、いずれはするわけでしょう?」
そう言われてしまうと。
「…まあ、そうかもしれませんけど」
「その時のための話をしてるのよ」
「……。そういうのは、しっかりするつもりです。傷つけたくないんで」
真白さんはふぅん、と頷いた。
「正直、変な男に引っかかっちゃったのかなと思ったんだけど。サソリくんってほんとに真面目みたいね」
「…特段真面目なわけじゃないです。前まではオレも、結構適当だったんで。彼女と会って色々考えるようになったというか」
にや、と真白さんが怪しく笑う。
「じゃあ、ママと練習しとく?」
「は?」
「ママ、上手いから。多分サソリくんも満足させられると思うわよ」
真白さんがオレの頬をそっと撫でる。思わずドキッとしてしまった。あまりにも美羽と顔が似ているのである。
からかわれているのがわかっていたので、オレは冷静に答えた。
「練習はもう済んでるんで。後は娘さんの気持ち次第です」
「あら、練習回数は多いに越したことないじゃない。正直、あの子としても最初は気持ち良くないと思うわよ」
失笑した。とんでもないことを言う親もいたものである。
「それがいいんじゃないですか。純情な感じに萌えるんです」
「処女厨ってやつ?」
「変なこと言わないでください…」
そういうわけじゃないです、とオレはまた麦茶を飲んだ。美羽の言っていた通りだ。とんでもなくアクの強い母親である。母親というより本当に、女!!!という感じ。
『…なにしてるの?』
すると、美羽が鍋を持って訝しげにオレたちを見ていた。真白さんが呑気に、おそーいと声を上げる。
「お腹すいちゃったー、遅いんだもの」
『元はと言えばお母さんが悪いんでしょ…ごめんねサソリ。何か変なこと言われなかった?』
変なこと。沢山言われたような気もするが。
「…いや、別に」
「仲良くなったの。ね、サソリくん」
真白さんがオレの腕にギュッと抱きつく。そしてオレは初めて知った。美羽の巨乳は遺伝であると。
美羽はあからさまにムスッとしてオレのそばに寄ってきた。どんっ!と乱暴に鍋を置く。
「熟女はお断りよね、サソリは」
にっこり笑う美羽。オレはなにも言えず押し黙る。真白さんがオレの腕を掴む力を強くした。
「そんなことないわよね、サソリくんは」
「真白さん、少し離れて…」
『真白さん!?』
名前呼び!?と美羽は驚愕している。
にやー、と笑う真白さん。
「そ。言ったでしょ仲良くなったって」
『サソリは私の彼氏なの!お母さんにはあげないんだから」
美羽が反対の腕を掴む。ムギュ、と柔らかいものが押しつけられた。まじで勘弁してほしい。
「美羽…離してくれ」
『なんで!?離すのはお母さんでしょ!』
「離しなさいよ、美羽は。サソリくんはママの方がいいのよね」
ね?と耳元で囁かれる。ゾワゾワした。声までそっくりだ。
『お母さんが離して!』
「なによー、美羽が離しなさいよ」
『サソリはどっちがいいの!?』
「どっちがいいのって…」
なんなんだこの親子は。真白さんのからかいも過剰だし、それに本気で嫉妬している美羽にも違和感を感じた。
そして、なんとなく思う。美羽の自己肯定感の低さは母親からの影響もありそうだな、と。
ぎゃあぎゃあとうるさい親子に挟まれながら、オレは深い深いため息をついたのだった。