07
夢小説設定
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さっさと遊園地を抜けるサソリ。私は大人しくそれについて行った。暫く無言の時間が続く。
「気にすんなよ」
口を開いたのはサソリだった。
「どこの世界にも一定数ああいう奴らはいる。気分悪いだろうけど、無視が一番いい」
サソリは全然無視してなかったけど、と私は心の中で突っ込んだ。無言のままでいる私を、サソリは極力普通に扱おうとしてくれている。
『…何も聞かないの?』
サソリはなんでもないように答えた。
「昨日言ったろ。言って楽になるならなんでも言え。言いたくないなら言わなくていい」
『……』
「お前が言いたくないことを無理矢理聞く気は全くない」
私は足を止めた。数秒遅れて、サソリも足を止める。
『…言っていい?』
「……」
サソリは少しだけ、間を開けた。長い睫毛を伏せて、どうぞ、と呟く。その様を見て、私は思い切り息を吸い込み、言った。
『ほんっと、うっぜえええええ』
サソリは驚いたように私を見た。拳を握り締めながら続ける。
『なんでもかんでも贔屓贔屓贔屓。うっざいの。自分たちが馬鹿なだけじゃん。ほんとなんなの』
「……」
『こちとら友達いなかったから勉強するしかなかったの!ぼっちなめないで!時間有り余ってんだから』
それに、と私は言った。
『担任も担任よ。私がいつ贔屓されたってのよ。私がどんなにいじめられてもスルーだったくせに』
「……」
『不登校になった理由ね。外部進学のことで担任に言われたの。お前、オレがいなくてやっていけるのかって。こんなに贔屓してやったのに感謝もないのかって』
「……」
『知らねーよハゲって思いながら、一時間くらい自分の悪口聞かされてたの。そしたら最後になんて言ったと思う?』
すうっと息を吐いて、言った。
『身体しかいいところないから、脱げって』
サソリが首元に手を当てる。困っているようだった。でも止められなかった。
『なんでそうなるんだよ死ね!』
「……」
『馬鹿でブスだから脱ぐしかない?なんなのそれ。どういう理屈なのよ。気が弱そうだから、抵抗しなそうだから。知らないわよそんなの。まあ皆さんが期待する通り、したかったみたいよ、相手はね。してないけどね。逃げたから』
「……」
『それ以来学校には行ってません。勿論卒業式も出てません。私のクソみたいな中学校生活はこれでお終いです』
一思いに言った。心臓がバクバクしている。
今まで溜まっていた嫌悪の気持ちが一気に吹き出してしまった。今まで誰にも言っていなかったのに、よりにもよってサソリに。
サソリは無表情で私を見ている。私は足を進めた。サソリは無言でついてくる。
『引いた?いいよ。幻滅してくれても』
「いや。別に引かない」
『嘘』
「嘘じゃねぇって。驚きはしたけど」
『驚くよね。こんなクソみたいな学校生活』
サソリが私に歩調を合わせてくれていた。
「違くて。お前がそんなに怒ったの初めて見たから驚いただけだ」
『そこ?内容じゃなくて?』
「まあ…内容は、想定の範囲内って感じだな」
『どんだけ想定の範囲広いのよ…』
サソリは赤い髪を揺らしながら答える。
「お前の自己肯定感の低さが異常だから。相当嫌な事されてきたんだろうなと思ってただけだ」
『……』
「安心しろ。こんなことくらいで引かない。むしろお前の怒った顔初めて見られて、新鮮」
呑気なサソリの言葉に、肩に入っていた力が抜けていくのを感じた。サソリがぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「偉いな。あんな奴らの中でよく頑張ってきた」
『……』
「でも不謹慎だけど、感謝もあるんだよ。アイツらがお前のこといじめなかったら、こっち受験しに来なかったってことだろ」
確かに、そうとも言える。サソリは私の頭を自分の胸に抱き寄せながら言った。
「オレの一番の幸せは、美羽に出会えたことだよ」
『……』
「過去は変えられないけど未来はいくらでも変えられる。オレが変えてやるよ。お前のこれからの未来を」
心の中が、温かいものに満たされていく。必死に涙を堪えようとしているのに、サソリはやっぱりそれに気付いて。
「我慢しなくていい。全部受け止めるから」
そう言われてしまったら、耐えられなかった。道の途中で、ギュッとサソリに抱きつく。
『本当は悔しいよ。頑張ってたのに、全部、何も認めて貰えなくて』
「うん」
『贔屓なんてされてないし。担任も私のことバカにして。ほんとムカつくおっさんだった』
「うん」
よしよし、と甘やかされながら私は暫く泣きながらサソリに愚痴を吐いた。
サソリはひたすら私のことを肯定してくれる。
『でも、ちょっとスッキリした。サソリがあの子たちのことブスって言ってくれたから。散々人のこと馬鹿にしてきた罰よ。ザマーミロって感じ』
大分落ち着いて、私は笑った。その様子をサソリが安心したように見る。
「美羽は世界一可愛いからな。あんなブスの中にいたら目立ったんだろ」
『可愛いって言ってくれるのはサソリくらいだよ。褒めてくれて嬉しいけどね』
さらっと流す私に、サソリは微妙な表情を浮かべる。
「お世辞じゃねーんだけど」
『うんうん、ありがとね』
「伝わってねぇなぁ…」
ま、今はしょうがねえか、とサソリは呟いた。
私はサソリから少しだけ距離を取る。
『泣いたらお腹すいちゃった。ご飯食べに行こ』
「何にする?」
その言葉に、私は迷わず答えた。
『ラーメン』
「言うと思った。昨日のうちに調べといたから行こうぜ」
『えっ、すご!』
「愛の力だよ、愛の力」
サソリはそう言って悪戯に笑った。