07
夢小説設定
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少し探して、お土産屋さんに小さくピアスコーナーがあるのを見つけた。どれがいい?と言われて私は唸る。
『どれも綺麗ね。さっきサソリが似合うって言ってくれたやつは?』
サソリは商品を目で探し、3つ手に取った。
見せられたのは水色、ピンク、赤である。
私はほぼ迷わず赤を受け取った。
「即決だな。ルビー好き?」
『サソリの髪の色に似てるから』
サソリの髪にピアッサーを当てる。サソリは少し驚いたようだった。
『サソリの女って感じになるかなって』
「……お前、変なところで積極的だよな」
まあいいけど、とサソリ。
ルビーのピアッサーを2つ持ってレジに向かった。会計をしていると、レジの女性がじっとサソリを見ていることに気づく。その目は完全に恋をしている目だった。やっぱりモテるんだな、と思う。
『今の店員さん、凄いサソリの事見てたね』
「ああ?」
店を出たところで私はサソリに声をかけた。サソリが興味なさげに買い物袋を揺らす。
「知らねえ。見てない」
『魔性の男だね』
サソリがふんっと鼻を鳴らした。
「お前も噴水のとこで男の集団に可愛いって言われてたぞ」
『え…私じゃないでしょ』
「お前以外誰がいんだよ」
『サソリじゃない?』
「なんでオレなんだ…」
オレは可愛くねーだろ、とサソリは失笑する。
「言ってんだろ。お前は可愛いって」
『……』
よくわからない。私が黙っていると、サソリはフッと笑った。
「まあいいけど。そういう周りの評価でお前が高校まで手付かずで残ってたわけで。オレはラッキー」
サソリは近くのベンチに座るよう促した。私は大人しくその指示に従う。
ゴソゴソと袋の中を漁るサソリ。
『え…今開けるの?』
「消毒液も売ってたから」
サソリは手際良くピアッサーの封を開けた。
耳に消毒液を塗って、いくぞ、と耳元で囁かれる。私は目を瞑り、サソリの服の袖をギュッと掴んだ。
『ん…ッ!』
バチン!と音がして、体がビクッと跳ねた。数秒遅れて、ジンジンと耳たぶが痛む。
私は耳を押さえてサソリから離れた。
『いったぁ…思ったより痛い!』
「体に穴開けてるからな。これくらい普通だろ」
使用済みのピアッサーを手中で弄びながら、サソリは悪戯に笑う。
「…アレの初めての時はもっと痛いぞ」
『えっ!?そうなの?』
「らしいぜ。まあオレはわかんねえけど」
挿れられたことねえからな。とサソリ。
私は耳の痛みに耐えながらううん、と唸った。
『…なんか、思ったよりいいことなくない?』
「なにが?」
『………。せっくす』
はは、とサソリが口元を押さえる。
「まあ、女はそうかもな」
『したら、何か変わるの?』
「うん?」
私は続けた。
『お互いに、もっと好きになったりするのかな』
サソリは暫く黙っていた。ぽん、ぽん、とピアッサーを軽く上に投げる。
「…そういうのは期待しないほうがいい」
『?』
「特になんも変わんねぇから。行為自体に大した意味合いはない」
この前も言ったけど、とサソリは続けた。
「好きだと、相手のこと知りたくなるだろ。その延長ってだけ」
『じゃあ、サソリは前の彼女のこともっと知りたかったの?』
サソリが物凄くしかめっ面をした。私は首を傾げる。
「そう言われると、違うけど」
『???』
「はぁ…あんま難しく考えんなよ。いいだろ。別に今夜致すってわけでもねえんだから」
もう片方も開けるぞ、とサソリは私の耳たぶを掴んだ。大人しくそれに従う。
『男女交際は難しい…』
「お前が難しく考えすぎなんだよ。好きなんだから一緒にいる。今はそれだけでいいだろ」
バチン!と衝撃。私は小さく悲鳴を上げた。
『ちょっと!開けるって言ってよ!』
「こっちのが痛くねえだろ」
痛いよ!と私は文句を言った。サソリは無視して私の耳を確認している。
「やっぱ似合うな。ルビー」
『いたた…サソリの女って感じ?』
「それは知らんけど」
1ヶ月このままにして穴が安定するように待つから、とサソリは言った。私は首肯する。
『初めてって、なんでも怖いよね』
「ん?」
『ピアスもさ。開けたら大したことないけど。するまでは怖い』
サソリはまた少し考える仕草を見せる。
「オレは、楽しみだけどな」
『?』
「初めてはなんでも楽しみだよ。どんなことが起こるかワクワクするじゃん」
サソリは私を見ながら言った。
「実際、初めてこうして他人を好きになってみたけど、楽しい」
『……』
「お前も色々初めてだろうけど、オレもお前と一緒で初めてなんだよ。一人だと怖くても、オレと一緒なら怖くねえだろ」
私は両手で顔を覆った。
『サソリはさ…なんか、いちいちカッコいいよね』
「そうか?普通だろ」
『顔もカッコいいのに、中身もイケメンで困るよ』
サソリはふ、と柔らかく笑った。
「もっと好きになった?」
『これ以上好きにさせないで』
「何故?もっと好きになって。オレの方が美羽のこと好きなんだから」
そんなことない、と思った。きっと私の方がサソリの事を好きだ。
「…アレ、”姫”じゃない?」
その時、昔嫌というほど聞いたあだ名が耳に刺さった。私は反射で顔を上げる。
そこには、昔の同級生が5人。クラスの中でも目立つポジションにいた子達。
体温が下がるのを感じる。サソリは無表情で彼女達を見ていた。
「えっ、本当だ。姫だ」
「なんでこんなとこにいるの?」
「……」
皆が私とサソリを交互に見る。
「…やだ、凄いイケメン」
「彼氏?なわけないか」
「だって姫だよ」
皆が笑っている。一瞬で、あの日々に戻される。教室の中、独りで辛かった日々。
一人がサソリに話しかける。
「イケメンさん。姫はやめといた方がいいですよ」
「姫?」
「この子のあだ名」
サソリがふぅん、と相槌を打つ。
「随分変わったあだ名だな」
「そう?ピッタリでしょ」
「何故?」
「何もしなくても、自分が贔屓されるのが当然だと思ってるところ」
「……。そういう印象はないな」
チラッとサソリが私を見た。顔が合わせられない。
「中学の時酷かったの。男の教師に贔屓されまくり」
「……」
「大人しそうな顔してビッチだからね、姫は」
「ビッチ?こいつが?」
隠しているけれど、彼は既に話の内容に呆れているようだった。
「担任とできてたのよ」
「はぁ…?」
サソリが眉を寄せる。続けて彼女らは言った。
「本当にずっと贔屓されてて。皆おかしいって思ってたのよね」
「……」
「そしたらさ、進路指導室でヤッてんの」
『してない!』
私は思わず叫んだ。サソリが無言で私を見る。
『別になにもしてない。外部進学のことで話があって、それで』
「じゃあなんであの後不登校になったのよ」
『……』
「何もしてないなら来られるでしょ」
はは、と皆が笑う。私は唇を噛んで下を向くしかなかった。
ふー、とサソリが息を吐く気配がする。
「行こう、美羽」
『……』
動けないでいる私の手を、サソリは強引に引く。チラッと彼女らを一瞥。
「オレの可愛い彼女、いじめないでくれないか」
「別にいじめてないよ。事実をお伝えしてるだけ」
「……」
「イケメンくんが騙されて、可哀想だと思って。心配してるの」
サソリがふ、と爽やかに笑う。
「うるせーよブス」
空気が凍った。彼女たちは比較的可愛い子たちだ。性格は別として、だけど。ブスと言われたことは恐らく今までなかっただろう。
サソリは私の肩を抱いて引き寄せた。
「オレ、こいつにベタ惚れなんだよ。お前らみたいなブスと違ってめちゃくちゃ可愛くて。告ったの、オレが。んでやっとOK貰ったんだよ」
な?と言ってサソリは私の頬にチュッとキスをした。硬直している私の耳元で、また「可愛い」。サソリは再び彼女たちに目を向けた。そこで初めて、彼は少し尖った声を出す。
「人の傷を面白おかしくほじくるのは辞めろ。見苦しいんだよ、そういうの。殴って、血が出なきゃいじめじゃねーとでも思ってんのか。オレはお前らみたいなブスよりよっぽど美羽のこと知ってんだよ。ブスに教えてもらわなくて結構だ。二度と美羽に関わるなよブス」
行くぞ、とサソリは私の手を引いて歩き出した。
私はただただ、顔を上げられなかった。