06
夢小説設定
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「美羽、美羽?」
目を開けると、そこには赤い髪が揺れていた。サソリくんが、目を細めて私を見ている。
「ごめんな、起こして。何かうなされてるみたいだったから」
心配になって、とサソリくんは言った。私は目を擦って夢の世界から現実に戻る準備をする。
『ううん、ありがとう。ちょっと嫌な夢見てて』
サソリくんが腕を引いて起こしてくれる。私は素直にそれに従った。
「夢?」
『うん。昔の嫌なこととか、色々』
サソリくんがじっと私を見る。私は無理やり笑った。
『ほんと、昔のことだから。気にしないで』
サソリくんはベットの縁に腰掛け、ふうっとため息をついた。
「オレも時々見るよ」
『え?』
「両親が死んだ時の夢」
息が詰まる。サソリくんはぼーっと前を見ながら言った。
「車でさ。父親が前で、母親とオレが後ろ」
『……』
「まだ小さかったから抱っこしてもらってて。そしたら、ドカンってでかい音がして」
『……』
「身体中痛くて、お母さんお母さんって泣いたな」
何も言えない私。サソリくんは相変わらず前を向いている。
「血が身体にべったりついててさ。痛いって思ってたけど」
『……』
「あれ、全部母親の血だったんだよな」
ふ、とサソリくんは寂しそうに笑った。
「病院行ったら、あんなに痛かったのにオレはほぼ無傷で」
『……』
「父親は即死。母親は病院まで頑張ったみたいだけど」
『……』
「結局目が覚めずそのまま」
サソリくんが自分の手を握ったり閉じたりする。
「辛かったな、あの時は」
『……』
「それなりに幸せな家庭だったんだ。でも一瞬で壊れた」
『……』
「デイダラん家と皐月ん家の両親がよくオレの面倒見てくれて、苦労はしなかったけど」
『……』
「寂しさは埋まらなかった」
私は黙ってサソリくんの話を聞くしかなかった。サソリくんがぽす、と私の胸に頭を埋める。
「なんであの時、オレも一緒に死ななかったのかなとずっと思ってたけど」
『……』
「お前に会って。初めてあの時生き残って良かったと思った」
私はそっと、サソリくんの頭を撫でる。
『ごめんね』
「……」
『その時そばにいてあげられればよかった』
「……」
『出会うのが少し、遅かったね』
サソリくんはいや、と呟いた。
「お前もきっと、辛い思いしてきたんだろ」
『…サソリくんの辛さに比べたら、私の辛さなんて』
大したことない、と言おうとして制される。
「辛さは人それぞれだ。それは比べるようなもんじゃない」
『……』
「自分の傷を、大したことないなんて言うな。お前の傷は、お前だけのものだ。頑張ってきたお前の勲章」
『……』
「オレはお前のこと、まだよく知らねえけど。お前が頑張ってきたことだけは、わかってるつもりだから」
ぽた、と目から涙が溢れた。サソリくんの綺麗な赤い髪を濡らす。
ごめん、と私は言った。サソリくんは無言で僅かに首を振る。
「お前は優しいから。その分傷つきやすい」
『優しくないよ…ダメなところばっかりで』
「自分を否定するのはよくない癖だ。だけど直ぐには治せないだろ」
『……』
「お前が自分を否定する分、オレがお前を肯定してやるよ」
サソリくんは笑った。
「可愛いし。優しいし、料理もうまくて、面倒見がいいし。オレは美羽が大好き」
『…なんで、サソリくんはそんなに優しいの?』
「優しくねーよ。事実を言ってるだけ」
サソリくんが上目遣いに私を見る。
私は思わず顔を逸らした。
『ブスだから見ないで…』
「ブスじゃねーって。世界一可愛いって言ってるだろ」
『ほんとサソリくんどんな趣味してんの…』
理解不能だ。中学時代どんなにブスだといじめられたことか。聞かせてあげたいくらいである。いや、聞かせたくはないけど。
「言って楽になるならなんでも言え。言いたくないなら言わなくていい」
『ブスって、いじめられたの』
「どこの誰だよ。ひとりひとりの家行ってぶん殴ってやるよ」
『いや、それはいいよ…』
私は少しだけ笑った。サソリくんが安心した様子でそれを見る。
「オレも、ごめんな。その時そばにいてやれなくて」
『何言ってるの。私が何度サソリくんに救われたことか』
「オレもだよ。お前に救われた」
私がサソリくんの何を救ったのか本気でわからない。でも、それを聞くのも野暮な気がした。
「美羽」
『うん?』
「これからは、オレがお前を守るよ。だからなんでも言って欲しい。お前が嬉しいことも、辛いこともできるだけ共有したい」
『……』
「頼ってくれ、オレを」
嬉しかった。すごくすごく。言葉で言い表せないくらい、本当に。
今まで人間が苦手だった。人を信用することが怖かった。自分の味方なんて、いないと思っていた。
それなのにサソリくんは、何度も何度も私の心に触れてくれた。怖がりな私に、何度も優しい言葉をかけてくれた。
大好きだ、と思った。私はサソリくんが、本当に大好き。
『サソリくん』
「…うん?」
『私、サソリくんに出会えてよかった』
サソリくんは数回目を瞬かせた後、オレもだよ、と笑ってくれた。