06
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中学の時のあだ名は、『姫』だった。
勿論それは、友好的ではない。
「今日もトップは姫?」
「姫は贔屓されてるからね、担任に」
数学のテストを見ながら、隣の女子が嘯いているのが聞こえる。
数学のテスト、95点。全部記述式の問題だ。贔屓でどうやって、数学のテストを解くのだろう。
いつものことだ。考えても仕方ない。私はテストを折りたたんで鞄にしまった。
勉強は好きではない。でも、他にやることもなかった。友達と言える友達もいない。休み時間は勉強しかやることがない。
「皆も月野を見習えよ。エスカレーター式だからって油断するんじゃないぞー」
極力触れて欲しくないのに、先生は私を持ち上げる傾向にある。ははっ、あんなブス見習いたくないし、と笑われる。これもいつものことだ。気にしない。
もう、勉強するのやめようかな。成績が上がって目立ったところで何もいいことがない。
何したって文句ばっかりだ。はやく卒業したい。
先日、外部受験をしたいと親に伝えた。色々揉めたけど、今は親も納得してくれたようだった。
はやく出たい。こんなところ。
「月野」
『…はい?』
「進路指導室に来てくれるか?あのことで」
あのこと。それが外部受験のことだとすぐにわかった。私が外部受験をするのは、親と担任しか知らない。
私が素直に担任についていくと、後ろでまた陰口を叩かれるのが聞こえる。
「やばくない?アレ絶対ヤッちゃってるよね」
「姫は先生しか味方がいないからさ。脱げば優しくしてもらえるって思ってんじゃん?」
なんでそんなに低俗な妄想ができるのだろうか。担任とそんな関係になるわけないのに。
進路指導室に着くと、担任は外部受験のことだけど、と言った。予想通りの話だ。
「本当にするのか?月野なら、この学校で特待も取れる。暁高もまあまあレベルは高いが…わざわざ受験までして編入する必要があるのか?」
そこそこ成績が良かったので、引き止めたいようだった。私はもう決めたんです、と答えた。
『暁高、見学に行ったらとても雰囲気が良くて。高校はあっちに行きたいんです』
「……」
担任はふぅ、と息をついた。
「学校が変わったから何もかも変わるというのは幻想だよ。あっちに行ったところで上手くやれる保証もない」
言い方からして、現在私が上手くいっていないことはわかっているようである。あれだけ派手にやられていればそうか。助けてはくれなかったけれど。
『それでも、私は自分を変えたくて。先程も言いましたがもう決めたんです』
私の意思は固かった。担任はじっと私を見つめる。
「月野は…素直すぎるところがある。もっと狡くなりなさい。その方が人間関係は上手くいく」
狡くなれ、というアドバイスを教師から受ける事に些か違和感を感じる。というか、ズルイズルイと毎日のように女子に言われている私は、すでに十分狡い人間なのではないだろうか。
『失礼します』
私は会釈をして部屋を去ろうとした、が、呼び止められる。
もう一度後ろを向く。するとすぐそこに担任がいた。間合いが近すぎて、ドキッとしてしまう。
「こんなに気にかけて見てやったのに…感謝もなしか」
『えっ…』
「友達がいないお前が可哀想だと思って。贔屓してやったろ?」
贔屓。その言葉に反応する。
どうして。私は一人で勉強した。テストの点も毎回悪くなかった。それなのに、どこを贔屓する余地があったんだ。
『贔屓された覚えはありません』
「全部自分の実力だと思ってるのか?馬鹿な女だな」
担任が私の髪を撫でた。様子がおかしいことに段々気づき始める。
「お前は一人では何もできないダメな人間なんだよ。オレなしで、生きていけると思うな」
何もいうことができなかった。目の前の大人が、何か異様な化物のように見えた。
洗脳するように、担任は私が如何にダメな人間であるかを説き続ける。私は黙って、その言葉を聞いていた。
「お前のいいところはその身体くらいなんだよ」
腕を掴まれた。そして耳元で囁かれる。脱ぎなさい、と。
何を言われているのかわからなかった。麻痺していた。もう何も考えることができないくらい、心が死んでいた。
何をされたのかよくわからない。ただ、私は嫌だったようだ。ドンっと担任を突き飛ばし、私は進路指導室から逃げ出した。
それ以来、学校には行けなくなった。
卒業まであと3ヶ月ほど。今までずっと歯を食いしばって耐えてきたのに。
誰もが敵に見えた。もう誰も信じられなかった。価値のない私を、もう誰も、見つけないでほしかった。