39
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人魚姫は魔女に声を売って細くしなやかな脚を手に入れた。しかし喜んだのも束の間、歩くたびに足にナイフが刺さるような痛みが走る。人魚姫はそれでも、王子に会うために足を手に入れたことを後悔しなかったのだろうか。
「君は存外、嘘つきだよね」
私が視線を45度上に動かすと、早瀬くんが真顔で私を見ていた。
その端正な顔には僅かに怒りが滲んでいるようだ。
「痛くないなんて嘘でしょ。いくらアドレナリン出てても、痛み誤魔化せるレベルの傷じゃないよね」
『……大したことないよ。タンスに100回小指ぶつけたくらいかな』
「それ、かなり痛いじゃん」
私は額の上の包帯を指でなぞりながら、でも、と言った。
『あそこで何もせず諦めた方が、多分もっと痛いから』
早瀬くんは腕を組んで、心底呆れたというように「バカだな」と呟いた。
最近早瀬くんは、私の前でも時々素を出すようになってきている。
「君はそんなに女の子らしくて可愛いのに。中身は本当、びっくりするくらい勇ましいよね」
『どうかな。本当は強がってるだけかも。この傷がもし治らなかったらサソリに捨てられるかもって、本当はちょっと心配だし』
うっかり本音を話してしまい、私は慌てて口元を押さえた。早瀬くんはそれを見逃さず、真っ直ぐな瞳で私の心に触れようとする。
「じゃあ僕がもらってあげるよ」
『……。いくら早瀬くんでもいらないでしょ、こんな傷物』
「どうして?相変わらず君は凄く可愛いよ。早く僕のところに来てくれないかなってずっと思ってる」
心が弱っているせいか上手い切り返しが出てこない。早瀬くんはそんな私の様子を見てふふっと笑った。
「もしかして満更じゃない?」
『…そんなことない』
「顔真っ赤だよ」
「美羽!大丈夫なの!?」
皐月とイタチがやってきた。二人とも私の顔を見て、うわっと顔を歪めているのがわかる。
「リレー出るの?休まなくて良いのか?」
『うん。これ終わってから病院行く』
「よりにもよって顔……。これはサソリが泣くわね」
『あー……なんか凄いショック受けてたよ』
皐月はじっと私の事を見つめた。
「でもアンタは泣いてないんだ」
『……まぁね』
深妙な顔をしていた皐月が、そこでふっと表情を崩す。
「やっぱりアンタのそういうところ最高よねー。顔に似合わず男前っていうか。私が男だったら迷わず嫁にしたいわ」
『褒めてるの?それ』
「褒めてる褒めてる。大好きよ。結婚しよ、美羽」
『うーん。皐月とだったら悪くないかも。考えとくね』
私たちのやりとりを見て、七瀬さんに負けた…。と何故か早瀬くんがショックを受けている。
イタチは生暖かく笑いながら、「もう直ぐだな」と呟いた。
「うちのお姫様がこんなに頑張ってるんだから。負けられないな」
「最初から負ける気なかったけどさ。気合い入るー」
イタチと皐月がストレッチをしながらグラウンドに向かって歩いていく。立ちすくんでいる私の背中を、早瀬くんがぽんっと押した。
「いつも通りで大丈夫。バトンを繋いでくれさえすれば僕がなんとかするから」
『ごめんね。足引っ張ってばっかりで』
「全然。むしろ君のおかげで、今日は勝てる気しかしない」
泣いても笑ってもこれが最後。神様、仏様、親愛なるクラスメイトたち。私の最後の悪足掻きをどうか見ていてください。
「月野さん」
差し出された大きな拳。私はそれに、自分の拳を力の限り打ちつけた。あまりの衝撃に、早瀬くんが苦笑いしている。
「絶対勝とうね」
『……うん!』
.