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「行けーーー!!!!」
「負けるなーーー!!!!」
「頑張れー!!」
例年とは比べ物にならないほど盛り上がるグラウンド。
オレはあくびを噛み殺しながら目だけは忙しなく動かした。体育祭はいい。何故なら皆が皆ジャージを着ていないからだ。いつもより目立つボディラインや、時折透けて見える下着、揺れる胸。地味目な女子が意外に巨乳だったりすると興奮も一入である。最高のエロイベント、体育祭。競技や何やらやるのは面倒だけど。
(巨乳といえば…)
オレは更に視線を動かした。しかし目当ての対象が見つからず、オレは仕方なく重い腰を上げ悪友の元に向かう。
「なーデイダラちゃん。美羽知らねぇ?」
「美羽?知らねーけど…なんで?」
「なんでって…アレだよ、アレ」
「アレ?」
訝しんでいるデイダラにオレは続けた。
「下着何色か確認しねぇと。デイダラちゃんもう見た?」
「ばッ……!?見てねぇよ、急にとんでもないこと言うんじゃねぇよ、うん!」
相変わらず童貞リアクションのデイダラにオレはため息を吐いた。
「だってアイツいつもジャージ着てて全然見れねぇじゃん。今日確認するのは義務だろ」
「んな義務ねーよ…」
「お前だって見たいくせに」
「………」
デイダラは数秒の間の後、蚊の鳴くような声で別に見たくない、と言った。そんなバレバレの嘘をつく必要が果たしてあるのだろうか。野郎同士、恥ずかしく思う必要なんて一つもねーのに。
ふらふらと歩き出したオレに、デイダラは仕方ない程を装いながらきちんとついてくる。
オレは奴を横目に見ながらニヤッと笑った。
「やっぱり来るんじゃん。相変わらずムッツリスケベだな」
「ちげーよ。旦那が美羽の様子がおかしいって言ってたから。フォローしておこうと思って」
サソリ同様、こいつも相変わらず美羽にご執心らしい。蝶よ花よとお姫様を見守るボランティア活動。
よくわかんねーわ、ホント。
「そういえばサソリは?」
「もう次出番だって言ってた、うん」
「ふーん…そういえばオレ何に出るんだっけかな…」
「そこからかよ………お!」
デイダラの視線を追うと、そこには見覚えのある長いポニーテールが揺れていた。
そして違和感を覚えたのは、オレとデイダラ同時であろう。
「誰だ?あれ」
美羽の隣に、オレたちには馴染みのない男。
オレがアクションを起こすより先に、デイダラが一歩前に踏み出した。何やら面倒な予感しかしない。オレは数歩遅れてデイダラの後に続いた。
「美羽」
美羽が反応してまつ毛を揺らす。最初にデイダラ、次にオレ。野郎二人の姿を確認して不思議そうに瞬き。
『あれ…デイダラと飛段。どうしたのこんなところで』
次いで隣の男がこちらを向く。
金髪の男は無言のまま、鋭い目でオレたちを見つめている。……その一瞬で予想が的中していることを確信した。
異様な空気に勘付いていないはずはないのに、デイダラは美羽にだけ視線をやりいつも通りの優男全開で話しかけている。
「それはこっちのセリフ。旦那次出るってよ。応援しなくていいのか?うん」
『えっ、嘘!?行かなきゃ!ごめん皆、後で!』
「おー。転ぶなよ、うん」
全く何も察していないであろう美羽が、慌ててグラウンドに向かう。その後ろ姿はあの日と同様全く未練を残していない。
去り行く小さな背中を見ながら思う。いつの時代においても、姫という高貴な存在の周りには戦火が広がるものなのだろうか、と。
「牽制のつもりか?」
目の前の男が初めて発した言葉は誰が聞いても悪意100%。安い挑発なのに、デイダラは分かり易く眉を顰めて苛立ちの表情。
反して男は表情筋を一切動かさず涼しい顔だ。
「心配せずとも、オレはあの女に一切興味はないので」
「……。下心ありますって堂々と言いながら近づいてくる男はいねぇからな。警戒しておくに越した事はない、うん」
「警戒、ね。何故あの女の彼氏でもない他人のお前がオレを警戒するんだろうな」
「……あ゛?」
初対面のはずなのに、なかなか煽りスキルが高い。デイダラの嫌がるポイントを的確に突いてきている。
そしてオレは気づいた。嫌われているのはオレたちだと思っていたが、どうやら違うようだ。目の前の男は、先ほどからオレのことを一切見ていない。どうやら奴の嫌悪対象はオレたちではなく、デイダラ個人のようだ。
しかし、何故。オレが知る限りこの二人に面識はない。デイダラは見ず知らずの他人に嫌われるような疎放な男でもない。
となると、キーパーソンはやはり先程までここにいた姫君か。あいつ、あんなに大人しそうな顔してどこまで影響力強いんだよ。
「お前…なんか気にくわねェな、うん」
「奇遇だな。オレもだ」
一触即発な空気の二人。仕方なくオレは間に割って入った。
「まぁまぁ、デイダラちゃんは美羽にベタ惚れだから。他の男が近づくと妬いちゃうんだってよ。だから許してやって」
「なっ…お前はまた余計なこと言うんじゃねぇよ、うん!!」
「なんで?事実じゃん」
この後に及んでデイダラは美羽への恋心を必死に隠そうとしている。誰が見てもバレバレなのに。
そしてそれは、この男も知っているのであろう。
「…だから嫌いなんだよ」
辺りを憚るような声で男は言った。デイダラは聞き取れなかったらしく、なんだ?と聞き返している。しかしそれに応えることなく男は踵を返した。
意識しているのかしていないのか、オレたちの疑念を断ち切るように美羽とは全く逆方向に向かって歩いて行く。
どこの誰かは知らないが、周りの温度を一度下げるような冷たい目をした男だった。
「なんだったんだ?つーかあれ誰?」
「……”シーくん”」
「ぁン?」
「美羽の走りの面倒見ていた奴だ。右手怪我してたから間違いねェよ、うん」
美羽が体育祭の練習中に事故を起こし、庇った人間がいたという話は聞いている。それがさっきの男らしい。
突然だがオレは勘が鋭い方だ。しかしながら、奴が美羽に特別好意を持っているようには見えなかった。それより気になったのが、奴のデイダラに対する明確な敵意。
デイダラは怒りが収まらない様子で拳を握り締め、ギリっと奥歯を鳴らした。
「アイツは危ない。美羽に近づけちゃダメな奴だ、うん」
「そうか?そんなチャラい奴には見えなかったけど」
「だからだろ」
「?」
「真面目で偏屈で面倒くさい男。……美羽が一番ハマるタイプだろが、うん」
「あー…なるほどね」
言われてみれば確かにそうだ。彼女が一途に追いかけている男とシーという男は似たタイプである。…だからといって早瀬にもデイダラにも靡かない美羽が奴と浮気をする面白い展開になるとはとても思えないが。どちらにせよオレにとっては至極どうでもいい話である。
くあっと欠伸をして、オレは空を仰いだ。
雲一つない晴天。絶好の体育祭日和。体育祭といえば。
「なぁデイダラちゃん」
「んだよ…」
「美羽の下着の色見た?」
「………」
数秒の間の後、「ピンク」と細い声でデイダラ。
……あの一瞬でしっかり見たのかよ。