03
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サッカー場に来た。が、思った以上に人の数が多く、私は困惑していた。
そりゃそうだ。サッカー部である。男子だらけだし、部員数も多い。
「あのー…何か御用ですか?」
『す、すみません』
声をかけてきたのは数少ない女の子だった。恐らくマネージャーである。制服姿のままの私を訝しげに見ている。
「ここにいると危ないですよ。結構ボール飛んでくるから」
『ですよね。失礼します』
軽く会釈をした。どう考えても、この場で告白の返事をするのは無理がある。
そそくさとサッカー場を去ろうとすると、今度は二年生と思われる集団に捕まった。
「あれ?もしかして君マネージャー志望?」
「可愛い子じゃん。誰かの彼女?」
『あ、いえ…私は』
「あっ!知ってる!1年の月野美羽ちゃんだ!マネージャー志望なの!?」
だから違うんです、と言っても誰も話を聞いていない。ガッツリ腕を掴まれる。そしてマネージャー !と。
「見学来てるぞ。案内してやって」
『だからちが』
「いいからいいから!こっちね」
『……』
少しくらい話聞いて!
****
誰にも話を聞いてもらえず、ベンチに通される。なんだか面倒なことになってしまった。
「美羽ちゃん?だっけ。サッカー部に好きな人でもいるの?」
ぼーっとサッカー場を見学していると、三年生のマネージャーに声をかけられた。私は首を横に振る。
『いえ…そういうわけでは』
「結構多いよ。部内恋愛。サッカー部かっこいい人多いから」
そうなのだろうか。今まで意識したことがないからわからない。それにサソリくんよりかっこいい人はおそらくこの学校に存在しない。
「一年生だと、早瀬くんが人気かな」
『…早瀬くん?』
その名前に思わず反応する。知ってる?と聞かれ今度は首肯した。
「ダントツだよ。一年生の中では。見にくる女の子は大体早瀬くんファン」
『……』
早瀬くんめ…!堅実なサラリーマンになりそうだと思ったのに。モテる男子だったのか…と何故か裏切られた気持ちになる。
と同時に、また女の子たちに何か言われるんだろうなと思ったらげんなりした。できるなら大事にせず終わらせたい。
とりあえずマネージャー志願でもなんでもないことを伝えなければ。
『あの…今更言いづらいんですけど、私本当にマネージャー志願ではなく』
「月野さん!」
『うわっ!早瀬くん!』
そこには早瀬くんが立っていた。走ってきたのだろう。頬は紅潮し、額にはうっすら汗が滲んでいる。
早瀬くんは私の顔を見てとても嬉しそうに笑った。
「マネージャー志望なんだって?」
『いや…だから違くて』
「嬉しい!是非入ってよ!」
だからここに私の話を聞いてくれる人はいないのだろうか。いつも強引なサソリくんだってもう少し私の話を聞いてくれる。
「千秋の彼女なんだって、あの子」
「えーなんだよ、つまんねー」
遠巻きに話している男子の声が聞こえる。私はもう何も言う気にならなかった。
早瀬くんはムッとして男子集団を睨みつける。
「だから彼女じゃねーって。好きな子!」
ハッキリそう言われ、少し驚いた。男子集団がまだ冷やかしている。
「ごめんね、月野さん。気にしないで」
『ううん。あのね、早瀬くん。私今日、マネージャー志願できたわけじゃないの』
「?」
『この前の、返事をしなきゃと思って』
早瀬くんが息を呑んだ。この場で言うのは正直キツイ。でもここまで周りが盛り上がってしまった以上、ここで伝えないと収集がつかない。
早瀬くんが、不安そうな瞳で私を見ている。
私は覚悟を決め、一歩早瀬くんに近づいた。
『あのね、私…』
「そーれ!」
その時、ドンっと背中を強く押された。私はバランスを崩し、早瀬くんがそれを支えようと前へ出る。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
わあっと周りが歓声を上げる。
「チューした!」
「やるじゃん千秋!」
「っ、ごめん、月野さん!」
早瀬くんが慌てて私から離れる。私は呆然としたままその場を動けなかった。
唇に、温かいものが押しつけられる感触。サソリくんじゃない。他の男の子の唇。
キス、してしまった。
「ごめんね、わざとじゃないんだ。ほんとに。そんなことする気は…」
『……』
早瀬くんが必死に私に謝っている。私は変わらず何も言うことができない。
サソリくんと約束したのに。ちゃんと告白断るって。そうしたら、気持ち伝えるって。それなのに。
『……っ』
泣き出してしまった私を見て、早瀬くんが青い顔をしているのがわかる。
早瀬くんが悪くないのはわかっている。でも、止められなかった。サソリくん以外の男の子とキスしたくなかった。
「……」
その時。フェンスの向こうに、赤い髪が戦いでいるのが見えた。
そして私は、見られたんだ、と察する。
『…サソリくん』
「…え」
サソリくんはじっとこちらを見た後、踵を返して行ってしまった。待って、と追いかけようとして踏みとどまる。どんな顔をして、サソリくんに会ったらいいのかわからない。
『…早瀬くん、ごめんね』
「……」
『好きな人がいて。早瀬くんとは付き合えない』
私はぺこりと頭を下げ、逃げるようにサッカー場を後にする。サソリくんの背中は、もう見えなくなっていた。