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色めき立つ生徒たちから数メートル離れたこの場は、まるで荒れ果てた孤島のようだ。
自販機に千円札を入れる。…が、何故か吐き出される。裏返して再び千円札を入れる。…また吐き出される。
仕方なく再び財布を開き小銭を探す。百円玉を投入しやっと購入ランプが点灯したと安堵すると、すかさず隣からボタンが押された。ガタン、飲み物が落ちる音。
「相変わらず何をするにも遅いな」
そこにいたのはシーくんだった。シーくんは取り出し口から飲み物を取り出し、ほら、と私に手渡した。うっかりありがとうと言いそうになり、寸前で思い止まる。
『なんでよりによっておしるこなの…?』
「決まってるだろ。嫌がらせ」
自分は滞ることなくさらっと小銭を入れ、普通にお茶を買っている。私もお茶を買うつもりだったんだけど…。
文句を言おうとして、しかし包帯の巻かれた右手にどうしても目が行ってしまう。ギプスは取れ、大分良くなったもののそれでも勿論完治はしていないその腕。
何度感じたかわからない罪悪感が再び胸を支配した。
『…ごめんなさい』
「あ?なにが」
唐突に謝罪の言葉を口にした私に、シーくんは懐疑的な視線を送る。
しかし追求をするほどの興味もないのだろう。さっさと踵を返そうとした彼の体操服の袖をガシッと引っ張る。面倒くさそうに振り返ったシーくんに、私は真剣な眼差しで言った。
『コーチ。100円貸してください』
「は?何故」
『小銭なくてお茶買えない』
「そこにあるじゃん。甘いの好きだろう」
『好きだけど!これ運動中に飲むものじゃないでしょ』
「オレ女に金は出さない主義だから」
『じゃあそのお茶と交換して!』
「嫌に決まってるだろうが」
「そこの可愛いお二人さん。競技はもう始まってるわよ」
シーくんと二人で言い争っていると、声をかけてきたのは美女ーーー2年C組の照美メイ先生だった。
私は反射でシーくんから手を離し、シーくんはその隙にお茶を私から奪い取った。思わずチッと舌を打つ。
メイ先生は私とシーくんを見比べながら朗らかに笑った。
「随分と仲が良いカップルなのね。初々しくて、なんだか妬けちゃうわ」
は……?と一瞬言葉の理解ができなかった。仲が良い。私とシーくんが?…そんなこと初めて言われた。
「…すぐ戻ります。ほら、行くぞ」
シーくんもおそらく私と同じ心境。そして一々否定するのは面倒だという考えまでも一致していたようだ。
シーくんに背中を押されその場を去ろうとする。と、メイ先生に呼び止められた。
「あら?貴方…」
上から下へジロジロ。メイ先生は私を眺めながら考える仕草を見せる。なんですか?と私。
「……いえ。気のせいだわ。今日は頑張ってね、おしるこのお嬢さん」
メイ先生はそう言って長い髪を翻した。相変わらず色気100%、良い女全開の先生である。残香すらいい匂い。
あっけにとられている私と、左手を口に当てながら僅かに肩を揺らしているシーくん。
「おしるこちゃん、早く行くぞ」
私は数秒の間の後、『変なあだ名ばっかり付けないでくれません?』と言った。