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ついに体育祭が始まった。
お決まりの校長の長い話や、校歌斉唱、選手宣誓、準備体操が次々と終わりいよいよ各種競技が始まる。
蜘蛛の子を散らすような生徒たちの中から、オレは美羽の姿を探した。クラスの女子の群れに紛れ談笑している彼女の姿にとりあえず安堵する。
「美羽」
声をかけると、美羽は少し驚いた様子で振り返った。丁寧に巻かれた赤いハチマキが、いかにも女子らしい彼女によく似合っている。
『どうしたの?』
朝と寸分変わらぬ彼女の様子に、オレは「いや」と早々に予防線を張った。
「怪我しないように気をつけろよ」
『うん。一緒に頑張ろうね』
真顔で頷いて、美羽は踵を返した。その後ろ姿を目で追いながら、オレは首筋を掻く。
「旦那ー?何やってんだよ、早く行こうぜ」
立ち尽くしているオレに声をかけてきたのはデイダラだ。オレは大きく息を吐き、朝からの胸の支えを一緒に吐き出した。
「…盲点だったな」
「うん?」
「美羽。すげー緊張してる」
朝から感じた違和感。いつもにこやかな美羽の顔が強張り、手が氷のように冷たくなっている。
オレのような人間とは無縁なプレッシャーと緊張も、繊細な彼女にとっては死活問題だ。何故ならそれは時に努力や才能をも無に帰す程厄介な代物だからである。
デイダラは深刻な形相のオレに反して、「そうか?いつも通りじゃね?」と楽観的だ。
「たかが体育祭じゃん。勝ったほうがそりゃ嬉しいけど。負けたところで別に誰も気にしなくね?」
「そうだけど。アイツ馬鹿真面目だからなぁ。まぁそこが良いところなんだけど」
「ここぞとばかりに惚気んじゃねーよ、うん」
「は?別に惚気てねぇし。事実を言ってるだけだ」
「それを世間一般では惚気てると言うんスよ、旦那」
デイダラの言うことは一理ある。元々うちの高校は進学校、体育祭のような進路に関係のない行事には無関心だ。
現に昨年の体育祭は何をやったか覚えていないくらいに盛り上がらなかった。今年もその傾向は変わらないだろう。真面目に練習してきた美羽には逆に申し訳ない話ではあるが、大トリのクラス対抗リレーもそこまで特出して重要な種目とはなり得ないはずだ。
「あ、あーー…ここで、校長の綱手様より皆様にお知らせです」
皆の視線が壇上に集まる。書類を抱えながらいつもバタバタしている教務主任のシズネと、勇ましい校長の綱手。この学校の名物コンビである。
綱手はマイクを握りしめながらわざとらしく咳払いをした。
「校長の綱手だ。いつもやる気のないお前らに吉報がある。よーく聞け」
吉報ー?と皆がざわつき始める。期待が半分、どうせ大したことではないだろうという諦めが半分といったリアクションだ。
綱手は生徒の様子を気にせず続けた。
「今年の体育祭、優勝クラスの担任には特別休暇を10日間与えるものとする」
ざわっと教師陣が沸き立つ。それに反して生徒はしらけ顔。
「それだけっスかー?」
「先生だけずるーい」
一部の生徒からは不満声、他の大多数の生徒は尚も無関心である。
綱手は変わらぬ勝気な様子で、まぁまぁと生徒を宥めた。
「そう慌てるな。お前らにも賞品を用意している」
そこで再び、生徒たちの関心が綱手に戻る。好奇の目を一斉に受けながら、綱手は焦らすことなく大きな看板を壇上に掲げた。
そして、それを見た生徒たちが一斉に歓声を上げる。
「優勝クラスには某高級焼肉食べ放題の権利を与えるものとする。どうだ?ガリ勉しか脳のないお前らでも少しはやる気になっただろう?」
ーーーー波乱の体育祭が、幕を上げる。
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